脈があると思って告白した後輩に拒絶されたんだけど、理由がわからない

久野真一

第1話 自信の無い彼女

「ありがとうございます、まる先輩。私も、あなたの事が好きです」


 今は放課後、場所は校舎裏。。

 後輩である吉村佳子よしむらかこを呼び出して告白したところだ。

 何度かのデートを経て、彼女も僕を想ってくれていると判断してのことだ。

 彼女の返事に、一瞬、飛び上がりそうな気持ちになる僕。

 でも、彼女があんまり嬉しそうじゃないのが気になる。


「でも、丸先輩とは付き合えません。ごめんなさい……」

「え?」


 続いた言葉は予想外のもので、頭まで下げられてしまう。

 

「ど、どういうこと?佳子は、僕の事が好きなんじゃないの?」


 もちろん、佳子が好いてくれていると踏んで告白した。

 そして、振られる可能性を想定しない程、傲慢じゃない。

 しかし、好きなのに、応えられないってどういうことだろうか。


「釣り合いが取れないんです。なんでも出来る丸先輩と、平凡以下な私とじゃ。それに、菜摘なつみ先輩の方がお似合いです」


 そんな、よくわからない拒絶の言葉。


「釣り合いってなんだよ。僕は佳子の事が好きで、佳子は僕の事が好きなんだろ?そんなよくわからない事考えなくたって。それに、なんで、菜摘が出てくるんだよ?」


 納得の行かない返事をされたので、僕の語調も自然と荒くなっていた。

 菜摘は佳子とは別の、僕のもうひとりの幼馴染だ。


「……ひどい、ですよ。丸、先輩……」


 返ってきたのは、佳子の涙声での言葉。


「なんで泣いてるの?僕が何かひどいこと言った?」


 突然泣き出した気持ちがわからなくて、僕も当惑する。


「私は、真剣に、釣り合いが取れていないって悩んでるのに。そんな、よくわからないとかひどいこと言わなくていいじゃないですか!もう、知りません!」


 泣きながら、走り去る佳子。

 去られた僕はといえば、呆然とするばかり。


「何が起こったのか、さっぱりなんだけど」


 振られたのがショックだったというより、釣り合いが取れないとか、菜摘の事を引き合いに出されて拒絶されたのがショックだ。


「好きでいてくれるのなら、付き合ってくれていいんじゃないの?」


 もちろん、付き合うか付き合わないか決めるのは佳子だ。

 でも、好きなのに、付き合えないというのがよくわからない。


「あのさあ、丸。もうちょっと、佳子ちゃんの気持ち、考えてあげなさいよ……」


 呆れたような声に振り向けば、そこに居たのは菜摘。

 長身で、陸上部所属の彼女は、鍛え上げられた肉体を持っている。

 ボーイッシュな外見もあって、女の子から特に慕われている。


「人の告白を覗き見るなんて、ちょっと悪趣味じゃない?」


 気持ちがささくれだってたので、少しきつい言い方になってしまう。


「たまたまだから許してよ。それより、あの子の、「釣り合いが取れない」って言葉の意味だけど、本当にわからないの?」


 また、呆れた様子で言われてしまう。


「いや、意味くらいはわかるよ。でも、身分差がある社会じゃあるまいし。それに、僕がたとえ、ちょっと運動とか勉強が出来るとしても、大したことじゃないでしょ」


 お互いが好きかどうかが重要であって、そんなのに意味があるんだろうか。


「はあ。これだから、大して苦労せずに、何でも出来ちゃう人は……」


 ため息をつく菜摘。


「僕だって、何の苦労もせずに出来たわけじゃないんだけど?」


 そりゃ、確かに、人よりコツを掴むのが上手いんだろうと思うことはある。

 でも、勉強にせよ運動にせよ、努力を怠ったことはない。


「そういうことじゃなくてね……あの子が、人付き合いにせよ、運動にせよ、勉強にせよ、色々不器用な事は、他ならぬあなたがよく知ってるでしょうに」


 言い聞かせるような声。


「それは、確かにね。佳子は、要領はあんまりよくないと思うよ」


 彼女はとても頑張りやだけど、それが空回ってしまう事が昔から多かった。僕は、そんな彼女をフォローする事が多かったから、そういう面はよく知っている。


「だったら、釣り合いが取れないって言葉も、もう少し真剣に考えてあげなさいよ。私も、正直、釣り合いとかどうでもいいってタイプだけど、あの子なりに真剣なのよ?」


 真面目な顔をして言われる。

 真剣に、か。確かに、僕の視点で、「釣り合いなんかどうでもいい」と言っただけで、その言葉を発した彼女の気持ちは考えていなかった。


「ショックが大きくて、冷静じゃなかったみたいだ。考えてみるよ。ありがと」


 こういう所で時折感情的になるのは、僕の悪い癖だ。


「お礼はいいから、ちゃんと考えてあげなさい。あの子も、本当は付き合いたいと思ってるから」


 それだけ言って、菜摘は去っていた。


(釣り合いが取れない、か……)


 その言葉の意味を考えながら、これまでの僕と彼女の関係を振り返る-

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