第14話 バカはヒーローへ至る道をひた走る②
「遠野さんのお薦めって、ここ、ですか?」
「そっ!結構大きいやろ?ここやったら何でも揃うねん!」
見上げるほど大きく、見渡すとギリギリ端が見える大きな建物。
ショッピングモールと言われる分類になる建物らしい。遠野さん情報。
「ここやったら途中で欲しい
・・・・・果たして今日一回で回りきれるのかもわからない大きさなんですけど?
遠野さんの早い早い決断によって、俺は買い物へとやって来た。買い物する場所も即決で、移動も車で運転してくれた。それなりにかかったけれど、お昼までまだまだ余裕のある時間。
つまり、閉店まで結構な時間がある。
だけど、そこまで見てられる程の時間があるのかわからない。
「ほな早速行ってみよう!なに見る?」
「え?え~っと。適当に?」
目的があって『買い物』と口にしたわけじゃない。
ただなんとなく出てきた言葉だから、当たり前だけど見たい物も買いたい物もない。
でも・・・・
「遠野さんが見たい物はないかな?そのついでに俺も色々と見てみるよ。」
折角遠野さんが居ることだし、俺の目的だけじゃなくて、遠野さんの目的を目指してもいいんじゃないかな?楽しんでくれたら、尚嬉しい。
「ウチ?ウチは・・・・ンフ。ほな行こ!」
既に楽しそうで何よりです。
◇◆◇◆◇◆◇◆
づ、づがれだぁ~~~。
「何か気になるもんあった?」
笑顔が絶えない遠野さんの質問に返すために考えるけれど、特にこれといった物は出てこない。と言うか疲れが酷くて普段から働いていない頭が働かない。
「特には、ない、かな?」
「そっか!でもまぁまだ2階が終わっただけだし!まだまだぁ!!」
ですよね。
1階は食品関係の物しか無いから無視できるけど、全6階建ての内まだ4階分も残ってる。
――――俺、大丈夫かな?
「先ずは腹拵え!や!腹が減ってはなんとやら。」
確かにお腹減った。
時間もそんな感じに時間になったし、休憩の意味でもお昼ごはんにしましょう。
「了解。」
まったりとお昼ごはんタイム。
ここは色んな食事が用意されていて、何を食べようか迷いに迷った。遠野さんが。
「手軽なハンバーガーも捨てがたく。和食に洋食、中華も食べたい気もする。むむ!ピザ―――パスタ!くぅ!!どないしよぅ!?善さま!?どうする!?」
いや、正直どれでも良いです。
外食なんて久しぶりすぎてどれを食べても満足できそう。としか言えません。
「遠野さんに任せるよ。」
「くぅ!一番困る答え!」
そう言われると困るけれど、本当にどれでも良い。
散々悩んで、出た答えはガッツリと食べたい男の人が選びそうな肉料理専門店。
一品一品がそこそこに量があって、俺としても気分が上がる!どれもこれもが美味しそうで目移りしてしまうけれど、店の入り口にドンと置かれた看板?に書かれていた『特盛国産牛ステーキ』に決めている。
「えっとな。これとこれと・・・・あとこれ!ライスは大盛りで!善さまは?」
この人は何人分食べるつもりなのでしょうか?
「これをライスは大盛りで。」
「あとは?」
「いりませんよ?」
「またまたぁ」
「――――――」
「え?ホンマに?」
「ホンマに」
「信じられへん!?」
いやいやいやいや!
その反応こそ信じられないんですけど!?
「男の子ならもっと食べへんと!」
「男とか女とか関係ないと思うんだけど・・・・。逆に遠野さんは何でそんなに細いのにそんな食べるのか・・・。不思議でなら無い。」
「・・・・・冗談?」
冗談を言ってる感じではなかったと思うんだけど・・・・。
「御馳走様でした!」
「マジで食っちゃたよ・・・・」
どうなってるの?
この人の胃袋はリアルブラックホールか何かなのかな?
「うん。こう言ったら失礼やろうけど、こういうテナントのお店やのにすごく美味しかったわ~。」
確かに失礼。
なんだけど、気持ちはわかる。
こう言う買い物出来る場所にあるお店は何となく理由はないけれど、『質が悪い』と思ってしまう。気のせいなのはわかっては居るけれど、そんな雰囲気をどうしても感じてしまう。
ごめんなさい。
「さて、次は3階から見て回ろうな。何やあったらええねんけどなぁ。」
「まぁ、そもそもただの暇潰しみたいな感じだし、何もなくても問題は『お客様へご連絡いたします』――――?」
『急な事で誠に申し訳ありませんが、只今より本店は閉店いたします。
お客様には大変ご迷惑をおかけしますが、店内スタッフの案内の元、お帰りいただきます様、お願い申し上げます。
繰り返します。
――――――』
「これは」
「何だろう?」
急な事でって、急すぎやしないですかね?
「善さま!すぐに
「え?」
「はよぅ!」
ちょっ!?え?なに!?
遠野さんまで急にどうしたの!?
「と、遠野さん!わかった、わかったから手は話してください!」
手を女性に引っ張られるなんて憧れるシチュエーション。
なん、だけ、ど!
グイグイ!と言うかゴイゴイ!って言うか、無理矢理力で引っ張られる。更に言うなら引き摺られるのはちょっと違うと思います!
って言うか、女の人である遠野さんに力で敵わない俺って・・・・。
いくら仕事柄体を鍛えているのは当たり前であるとしても――――ちょっと情けない。
「会計ここ置いとくで!釣りはいらん!!」
カッコいい!!・・・・・じゃなくて!
「いったいどうしたんですか!?」
引き摺るのはやっと止めてくれたけど、まだ手は放してくれない。ガッチリと俺の肘辺りを掴んでいて、ちょっと痛いくらいです。
歩くスピードは速くて、渋々と案内に従っている他のお客さんを置き去りにして行く。人と人との間をスルスルと歩いて抜き去っていくのは何故か少しだけ楽しい。
「あん放送はちょっと問題やねん。何かしらの事件か事故か、そんなんがあったんちゃうかと思う。せやからな、はようここを出んねん。何かに巻き込まれる前に。」
なるほど。
遠野さんは『護衛』って仕事をしてる訳ですね。
何かしらの危険があるから俺を守ろうとしてる。って事。で合ってる?
「正解。せやから大人しゅう付いてきてな。」
「でも、遠野さん。今のこの瞬間だからこそ俺の出番じゃないですか?」
「阿保言わんといて!善さまが危ない目に遭うんは許容出来ひん!例え善さまが手を出すにしても状況が全部わかって、対策たてて、善さまの身の安全を確保できてからや。頼むからそれまでは大人しゅうしててや。」
ん~。
遠野さんの言うことは正しいんだろうけど――――。
「安全な事しかしない【ヒーロー】ってどうなんでしょう?」
「安全を意識して行動するんは、何も考えんと突っ込む阿保とはちゃうんよ。」
「―――――」
バカだからそういう『安全』って言うのは今まで考えてこなかった。俺が考えるまでもなく、話を聞いた時にはもう俺が何をするのか、どう動くのかは決まっていた。つまり、俺ではない誰かが、多分仁さんや奥様、葵さんと春野くん、それから花斗夏さんや榊さんに遠野さん。
多分今まで俺がやってきたことは皆がその『安全』を考えてくれたから、俺はただ力を使うだけでよかった。
だけど、今は、今回は、そんな準備の時間が無かった。だから取り敢えずは撤退。安全を確保する。
それが遠野さんからの説明だった。
わかった。
理解できた。
遠野さんは頭の悪い俺に対して解りやすく、理解しやすいように話してくれた。
だから、ちゃんとわかってる。
でも――――――。
「何かがあったら助けたい。それは俺のたった1つの願い。
色んな人に助けられて何とか出来てるのはわかってるけど――――今助けたい。動きたい。
誰かのために。何かのために。
【ヒーロー】になりたい。」
「善さま・・・・・。はぁ――――。」
深い溜め息を吐いて足を止め、少しだけ掴んでいる手の力を抜いてから俺を見る遠野さんは苦笑いしている。
『仕方ない奴だ』と口を開かなくても伝わってきた。
「これだけは約束して下さい。私からは絶対に離れないこと。でないとお守りできません。宜しいですね?善吉様。」
真面目モードの遠野さんからの圧力?みたいなのはいつも強い。
危ないことをしようとすると光の速さ並みに素早くツッコミが飛んでくる。その時は決まって俺が悪くて、今みたいに圧を与えながら注意してくる。
これをやられたときは本当に危ないときだ。
「解りました」
「はぁ――――。ほな、行こかぁ。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「これ――――いつも持ち歩いてるの?」
「まぁ、せやね。一応、ね。」
広げてみれば何時も【ヒーロー】活動をするときの服、と言うかコスプレだとわかった。
今まで知らなかったことが2つ。
実は遠野さん以外にもう一人護衛がいたこと。
そして、その護衛は基本的にはただの荷物持ちで、俺の『ヒーロー用衣装』を持ち歩いていたこと。
「なんか、すいません。」
思わず初めて顔を見る護衛の人に頭を下げてしまう。「仕事ですので」なんて、さらりと流す姿はカッコ良かったけど、ちょっとだけ目が潤んでいた気がする・・・・。
なんだか、ホント、すいません。
ちゃっちゃと着替えて、顔がバレないように仮面も着用。
うん。何時見ても恥ずかしい!
だけど、嫌いじゃない!!
THE・ヒーローって感じの格好で男心が擽られる!
着替えが終わればいざ出陣。
護衛役が一人増えて二人を引き連れ、何処かのお偉いさんの様に歩く。
だけど、遠野さんともう一人の男の人。二人共黒い覆面を着けていて、強盗と言われても可笑しくない。そんな二人を連れて歩いている俺も黒っぽい覆面。でも俺はヒーローに見えるような格好のはず!
・・・・『犯人』じゃないよ?
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