第2話 バカ野郎はチートと出会う②

 一夜明け、目覚めてから昨日の事は夢だったのでは?と財布を確認。喜ばしいことに夢ではなく、財布の中身は昨日のパチンコ後のままだった。


「こ、これが本当に【豪運】の力だったら・・・・。」


 ずっとパチンコだけで暮らしていけるんじゃないだろうか?


 悪い考えが頭に出てくる。


「い、いやダメだ!父ちゃんと母ちゃん、姉ちゃんに顔向け出来ない!」


 母ちゃんはずっと言ってた。

『誰かに後ろ指指されるような事はするな』と。

 小さい頃は意味がわからなかったけど、ある程度成長してからは言いたいことが何となくわかった。つまり、誰かに後ろから指を指され、悪い噂をされないような振る舞いをしなさい。と言うことだ。


 父ちゃんもずっと言ってたことがある。

『小さい事でも良い。誰かを助けれる男になれ。』と。

 これは小さい頃からちゃんとわかってた。つまり、ヒーローになれってことだ。

 そんな父ちゃんの言うヒーローを夢見てはいたけど、頭の悪さと皆が死んじゃってからの状況の悪さ、それになにより俺の不甲斐なさで全然誰かを助ける余裕がなかった。


 余裕が出来るなら俺はヒーローならなきゃ!いや、俺は、ヒーローになりたい!


 姉ちゃんとも約束した。

『ヒーローになって、誰かを、皆を、幸せにする。』って。


 でも、頭の悪い俺じゃ、この【豪運】を使ってどう行動すればヒーローになれるのか、想像も出来ない。


 もっと分かりやすい、スゴく強くなるような力だったら誰かを守れたり出来るかもしれない。


 ・・・・今日の夜にはまたあそこにあの大男さんが居る。のか?建物ごと消えたのにまた来れるのだろうか?

 もし本当に来れるのならもう少しあのくじを引きたい。そして、世のため人のため、ヒーローになるための力がほしい。


 ・・・・・その為にももっとおカネがほしい。


 ・・・・・嫌な気もする。結局何をするにしてもお金が必要。それは人間の社会ではごく当たり前の事だけど・・・・。


 悩んでても仕方ない。お金をどうにか用意しないと!


 でも、どうやって?

 俺にあるのは【豪運】だけだ。じゃあまたパチンコ?他には・・・確かあの大男さんは『スクラッチ』とか言ってた。だけど、スクラッチって宝くじだよね?何処に行けば買えるのか全然わからない。


 こう言うときパソコンとかスマホがあればって思うけど・・・・仕方ない。またパチンコで少しでも多く稼がせてもらおう。・・・・遊んでいる事に変わりはないから、心苦しくはあるけど。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「す、すごいことになってしまった!?」


 パチンコ店に行くと昨日のおじさんが居て、昨日のお礼に食事でもと誘った。のだけど、いらないと言われてしまった。

 せめて何かお礼を受け取ってほしいと話し、何とか説得、納得してもらったまでは良かったのだが、受け取ってもらえたのは缶コーヒ1本。

「気にするな」と言われ、それ以上は受け取って貰えず、仕方なく引き下がった。


 そんなおじさんに昨日遊んだ『1円』と同じパチンコ店に設置されている『4円』の違いを教えてもらった。


 パチンコ玉1個で1円なのが『1円パチンコ』。パチンコ玉1個で4円になるのが昔からある『4円パチンコ』だそうだ。

 それを聞いて昨日の事を考えると、昨日は7万個パチンコ玉があったために7万円になった。もし、これが『4円パチンコ』だったなら、4かける7万で14万円にもなることが判明。


 俺はすぐさま『4円パチンコ』へと脚を向けた。


 結果。


 たった500円しか使っていないにも関わらず、朝から夜まで休むことなくパチンコをやり続け、40万円もの大金を手にすることになった。


「こ、これでヒーローに・・・・!!「ぐぅ~~」・・・・。腹減った。」


 取り敢えずの腹拵えにスーパーで菓子パンを買い(また値引きシールを張ってくれた)、夕飯の材料を買い込む。


 贅沢にパックのご飯を大盛り!しかも、おかずは牛肉!ここ数年は食べていない贅沢なメニューだ!


 テンションがやたらとハイになりつつ、菓子パンをムシャリながら帰り道を歩く。





「おぉ~。本当にまたあった。」


 昨日確かに消えたはずの木造の建家が同じ場所にあった。


「ご、ごめんくださ~い。」


 恐る恐るではあるが、今日は自分から中に入る。だけど、誰もいない。

 昨日と同じで真っ暗だけど何故か見える室内には何もない。昨日大男さんが座っていた椅子もない。


「あ、あれ?」


 見渡しても何もない。誰もいない。どうすれば良いのだろうか?


「今日ははえーじゃねぇか?気に入ったか?【豪運】はよ?」


 え?いや、なんでそんな堂々と真ん中に?さっきは明らかに誰もいなかったよね?


「どうした?呆けた面してよ」

「い、いえ。なんでも・・・・」


 気にしてもしょうがないか。【豪運】なんて明らかにおかしい物を渡せるんだから。『運』なんて簡単に計れるものじゃないけど、昨日と今日の運の良さはおかしい。それはつまり、『ものすごく運が良くなる』と言う【豪運】を貰ったからだ。だから、信じる。もっとすごい。それこそどうしようもないバカな俺が誰かを助け、幸せに出来るかもしれない。そんなヒーローになれる力が貰えるかも。


「さて、随分と稼いできた見てぇだが、残念ながらおめぇのチャンスは後2回だ」

「えぇ!?」


 またしても何処からともなく出したくじ引きを床に置き、確かに何もなかったはずの場所にいつの間にか椅子がある。それに座りながら残念なお知らせを口にした。


「ったりめぇだ、バカ野郎。本来ならここに来れるのは人生に1度と決まってんだ。それを俺様の気まぐれでもう一回来てやったんだ。許したのは考える時間であって、金を稼ぐ為の時間じゃねぇよ。まぁ、だが、金を稼げたんだ。心置き無く昨日持ってた金は使えるだろぉ?」

「確かにその通りですね」


 言われてみれば、こんな圧倒的とも言える何かを手に入れるチャンスが早々何回も訪れるはずもなく。それを曲げてもらった上にチャンスの回数まで増やすのは甘い考えだった。


「さぁ、話がわかったら払うもん払ってさっさとくじを引け」


 どこのヤーサンですか?


「じゃ、じゃあ、これで」

「あいよ、確かに」


 予定していた回数よりも少なくなってしまったが、くじを引く事は変わらない。随分とぶ厚くなった財布から1万円札を10枚数えて、大男さんに渡す。


 くじを見れば相変わらず数えるのもバカらしい数の紐が天板から伸びている。


 これと・・・・・・これだ!


「んじゃまた昨日みたいに引っ張れ」

「は、はい!」


 気合いを入れたところで紐を選んだ時点で結果は決まっていて、変わることはないけど、どうしても紐を掴む手に力が入る。


 願いながら上に引っ張っていけば、昨日と同じように小袋に入った飴玉が2つ・・・・ん?3つ??


 色は1つが黒色。後の2つは同じ紐に付いていて、それぞれ緑と赤だった。


 うっ。昨日のが金色で大当たりだと大男さんは言ってた。じゃ、じゃあこれは?そもそもなんで2つはくっついてるの?


「おぉ!!すげぇじゃねぇか!こいつを引いたヤツは初めてだ!」


 えっと、どっちが?黒色が?それとも2つ付いてる方?


「お楽しみは最後だ。ってことで、先にこっちだ。こいつらはちょっとだけ効果が弱いんでな。2つ一緒にくっつけてんだよ。」


 口を動かしながら手に取ったのは緑と赤の飴玉。

 先に緑の飴玉をまた、光もないのに光に翳すように見る。


「こいつは【治癒】だな。てめぇ自身にも、お他人様にも使える・・・回復魔法みてぇなもんだ。効果はそれほど強くねえ。けどな、どんな怪我だろうが時間かければ治せるぜ。」


「ほら」っと、相も変わらず投げ渡してきた飴玉をキャッチ。「食え」とまたもやぶっきらぼうに言われた後に口に入れる。


 ものの数秒後、もう1つの赤い飴玉を翳している間に口の中から消えていった。


「こいつは【察知】だな。効果としては同じくよえぇが、使い勝手はピカイチだ。

 てめぇが『察知』したいと思ったことを察知出来る。」


「思ったことを?」


 投げ渡された飴玉をキャッチしつつ、わからないことを問い返す。


「あ~。例えばおめぇさんが『自分に迫る危機』と思ったら、それを察知する。他にも『自然災害』やら、誰か特定のおめぇ以外の『他人の危機』も察知できる。変わったもんで言えば『絶世の美女』やらなんなら『儲け話』なんかも察知可能だ。範囲はこの地球上全体。残念ながら場所は方向でしかわからんがな。たが、何を察知するかは自分の意思で何度も変えることが出来る。注意点は察知するものの内容は何時も1つだけだ。」


 なにそれスゴい。


 説明を聞き、感動した時には赤の飴玉は口の中から消えていた。


「さぁて!お楽しみの時間だ!」


 意気揚々と黒色の飴玉を手に持ち、変わらずに光のない光に翳す。


「おうおうおうおう!こいつぁすげぇ!!」


 メチャクチャ興奮している大男さんを少しばかり怖く思いながら、説明を話してくれるのをおとなしく待つ。


「いやはや、流石は【豪運】。えれぇもん見せてもらったぜ。」


 厳めし顔がやたらとにやついていて、余計に怖さを感じる。


「先に言っとくぞ。こいつの使い方を間違えんじゃねぇぞ?地球なんぞ簡単に吹き飛ばせるからな?」


 え?いや、それ、いらないです!


「引いちまったもんはしょうがねぇ。わりぃが受け取り拒否は拒否だ。

 んじゃ、サクッと説明すっぞ、

 これは【変幻自在】ってぇもんだ。

 その名の通りあらゆるものに変わることが出来る。おめぇ自身が空気に変わることも出来るし、なんならこの地球にそっくりそのまま成り変わっちまう事も可能だ。細かいことを言ったらおめぇさんの腕だけをなにか別のものに変えることも出来る。その際に起こり得る全ての身体的リスクは発生しねぇから安心しな。

 さて、ここからが要注意だ。

 最初は無理かもしれんが、なれてくれば自分以外もその力で変えることが出来る。

 ムカつく奴を誰も気づくことができねぇ空気に変えたり、全く動くことができねぇ石像に変えたりも出来る。更に更に、ただの空気を猛毒のガスや、未知のおめぇが想像しただけのウィルスに変えちまう事も出来る。

 ただの石ころを純金にもダイヤモンドにも変えれるし、男を女に変えれるし、不細工を絶世の美男美女に変えることだって出来る。


 ハッキリ言ってだ。出来ねぇことはほぼ無いと言って良い。おめぇが想像して力を使えばあら不思議。みぃーんなおめぇが想うままで、思うままだ。」


 えっと、いや、え?怖いんですが・・・。確かに力を求めはしたけど、それはちょっと・・・


「何顔色変えてんだよ。先に言ったろうがってな!まぁ精々調子にのって人類滅亡とか地球破壊とかやらねぇようにな!ダッハハハハハハハ!」


 全っ然、笑えません。

 受け取っても口の中に入れなければ俺はこの力を使えないだろう。絶対に口にしないぞ!


「わりぃが身に付けてもらう。まかり間違っておめぇ以外に力をつけられたら色々困るんでな。現物は今ここでおめえに確実に渡すし、確実に身に付けてもらう。なんなら身に付けて貰うまでここから外には出さねぇからな。そのつもりでいろ。」


 足りない頭ではこれを引っくり返す事は出来そうにない。こういう状況を・・・四面楚歌?・・・・なんか違う。・・・・手詰まり!そう手詰まりで、絶体絶命?これもなんか違う気がする・・・・うん。手詰まり!


「わ、わかりました。」

「さて、んじゃまぁサイナラだ。もう会うこともねぇだろ。」


 呆気なく、あっけらかんと良い放ち、「パンッ」と手を叩けば、昨日と同じく建物ごと消えてしまった。


 ・・・・・・・・あ、お肉ダメになっちゃう。早く帰ろ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「美味い!」


 久しぶりのまともなお肉だ。しかも牛!

 やっぱり美味しい。





 さて、ご飯も食べたし、色々と準備しないと。


 先ずは何と言っても力の使い方だよね。

 大男さんは結局力の説明はしてくれたけど、使い方は教えてくれなかった。そもそも名前すら教えてくれてないし、なんなら俺も自己紹介もしていない。


 さて、どうやって使えば良いのだろうか?


「【察知】」


 言葉にするが特別何も起きない。


「【治癒】」


 これも何も起きない。


「【変幻自在】」


 んん??これもダメ。

 口にする以外に何か方法は・・・・・?


【豪運】は何も考えてないのに発動してるみたいだし・・・・。どうすれば?


 使いたいのに使えない。





 ぐぬぅ!出来ない!





 諦める?いやいや、それはない。また、今までみたいな生活を?

 それはダメ。何としてもヒーローに!






 ん?

 お、おぉ!!


 なるほど!

 使おうとする気持ちとイメージ?か。


 これはスゴい!


【治癒】も【察知】も上手くいかなかったのは使う気持ちはあったけど、こうしたいって言うイメージが無かったからみたいだ。


 そうすると・・・・「【察知】」と声に出しながら、えっと何を察知すれば・・・?


 ・・・・・・・・・あ!そうだ。


『助けを求める声を察知する』。「【察知】」


 っ!!!???


 か、解除!解除!!


「ハァハァハァハァ・・・・・・」


 な、なに。今の・・・・・あっちこっちから反応が・・・・。


「あれが全部『助けを求める声』。多すぎる・・・・!」


 どんな感じに察知できるのかもわからなかったから、お試しって思って軽い気持ちでやったけど・・・・。こんなにも多いのか・・・・。


 ヨシ!この『助けを求める声』を全部無くす!これが俺の目標だ!

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