★たとえ、私らしくないとしても★

『――分かったわ。らんむと遊一ゆういちくんの関係とか。「カマガミ」の件とか。とんでもなく混乱してるけど――ここで踏ん張らないと、マネージャー失格だからね』


「……ごめんなさい、鉢川はちかわさん。ご迷惑をお掛けして」


『いいのよ。わたしはマネージャーなんだから、困ったときはいつでも頼って。らんむはいつも、一人で抱え込む癖があるでしょ? だから、不謹慎だけど……こうして頼ってくれて、嬉しいわよ』



 ――そうして、鉢川さんとの電話を終えると。

 電気をつけていない薄暗い部屋の中で、私はベッドに腰掛けた。


 仰ぎ見た天井は、途中から闇に消えていて……なんだか物寂しかった。



 和泉いずみゆうなは――綿苗わたなえ結花ゆうかは、私が思っていた以上に、強い女の子だった。


 無邪気で天然で、突拍子もないことばかりするけれど。

 その根底にある心は……誰よりも芯が強い。


『アリステ』のゆうなにそっくりだな、なんて――そんな風に思う。



遊一ゆういち……結花さんと出逢えて、良かったね」



 言葉として吐き出したら、少しだけ……ちくりと胸が痛んだ。


 ごめんね。遊一、結花さん。もう『秘密』はなしって言ったけど。

 この痛みだけは、どうか――私の中で、眠らせてほしい。



「…………落ち込んでいる暇なんて、ないものね」



 深く息を吸い込んで、胸の痛みを紛らわすと。

 私は目を瞑り――心の中に、火を宿すイメージをする。



『カマガミ』との出来事の顛末は、すべて鉢川さんに報告した。


 事態が事態だけに、おそらくそれは――六条ろくじょう社長や真伽まとぎさんの耳にも、届くだろう。


 私の問題ではなく、和泉ゆうなの問題として。



 罪悪感に押し潰されそうだ。

 けれど、今はまだ、潰れるわけにはいかない。



「……『それぞれの信念があって、それぞれの光がある。正解はひとつじゃないから』……真伽さん、新しい道しるべを、ありがとうございます」



 芝居や歌で幸せを届けたい――そんな夢を追い掛けて。


 かつて野々花ののはな来夢らいむは、自分のすべてを捧げてでも、頂点を目指して輝き続けると誓った。


 ひとつの夢に向かって、がむしゃらに頑張るやり方じゃないと……野々花来夢は、自分を保つことができなかったから。



 だけど、正解は――それだけじゃないって。

 ……結花さんのおかげで、そう思えたから。



 紫ノ宮しのみやらんむらしくないかもしれない。

 野々花来夢らしくないかもしれない。


 それでも私は――遊一のために、結花さんのために。


 最後まで『カマガミ』と戦ってみせる。そして絶対に、二人を助けてみせるわ。

 だって、それが――――。




 今、私がやりたいこと……だから。

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