第26話 【緊迫】死神を巡って、俺の許嫁と昔の友達が…… 2/2

「……和泉いずみ、ゆうな……だと? いや、まさか……」

「……ちょっとぉ。なんでらんむ先輩と違って、私は疑うんですかっ! 自分で名乗ったし、ちゃんとゆうなの声も出したのにー!!」



 いやいや、そうじゃない。

 むしろ、その自分からバラしていくスタイルが、怪しまれてる原因だって。


 だけど、なぜだか結花ゆうかは――『カマガミ』に対して、自分の存在をアピールし続ける。



「とにかく、私は和泉ゆうな! らんむ先輩と同じ事務所の、後輩です!! 『カマガミ』さんのスキャンダルが間違ってたので、訂正したいですっ」


「……なんだよ、間違いって?」


「まずはですねぇ――らんむ先輩の、熱愛疑惑について! もぉー……ぜーんっぜん、違いますっ! 訂正です、訂正っ!!」


「ゆうな! 貴方、さっきから何をしているの!?」



 来夢らいむが慌てたように声を上げた。

 だけど結花は、ニコニコしながら続ける。



「らんむ先輩はですね……ファンの皆さんの前だけじゃなく、普段からめちゃくちゃストイックなんです。演技一筋で、恋愛に気が逸れたりとか、絶対しません。もぉー、普段のらんむ先輩を、見てほしいくらいですよ。すーっごく厳しいんですからねっ!?」


「……んだよ、くだらねぇ」



 結花の熱弁を、苦しい言い訳くらいに捉えてるんだろう。

『カマガミ』は苛立たしげに、言葉を返す。



「そんな適当な嘘で、誤魔化されるかよ。じゃあなんで、らんむちゃんは『恋する死神』といるんだ? オフの格好でファンと密会してんだぞ? これが彼氏じゃねぇってんなら、なんだって――」


「『恋する死神』さんは――私のファンで、私の彼氏ですっ!!」



 ――――とんでもない発言が。

 二月の寒空の下に、響き渡った。



「……は? あんた、今……なんて言った?」


「だーかーらっ! 『恋する死神』さんは、私の彼氏なんですってば! 『恋する死神』さんは、私の一番のファンですよ? それなのに、らんむ先輩の彼氏だなんて……そんなガセネタ、失礼すぎるじゃんよ、もぉ!! 訂正ですよ、訂正ー!!」


「馬鹿なの、ゆうな!? 黙りなさ――」


「らんむ先輩こそ、静かにしてくださーいっ! あ、ちなみにですね、告白は私からしました! 私が『恋する死神』さんを大好きすぎたので!! だから……」



 それから結花は。

 いつもの笑顔のまま――告げた。



「――『恋する死神』さんも、らんむ先輩も、悪くありません。私が勝手に『恋する死神』さんを好きになって――らんむ先輩には、そのことを打ち明けてました。なので、らんむ先輩と『恋する死神』さんも面識があった……それだけです。『カマガミ』さん、ちゃーんとこの動画、使ってくださいね? いえーい、ぴーす」


「結……ゆうなちゃん!!」



 俺は飛び掛かるようにして、結花の口元を押さえた。


 結花は「もごーもごー!!」とか言いながら、じたばたしてるけど。

 泣きそうになるのを堪えながら……俺は結花を、自分の方にギュッと抱き寄せた。



「……なんであんた、自分から声優人生を終わらせに来たわけ?」


 そんな結花に対して、『カマガミ』は怒りを露わにする。


「彼氏アピールして、ファンを馬鹿にしたかった? らんむちゃんと彼氏が映ってて、嫉妬した? 分かんねぇけど――ファンへの裏切りだ。ぜってぇ許さねぇ……っ!」



 そして、回していたビデオカメラを、鞄に仕舞うと。

『カマガミ』は俺たちに背を向けつつ――大きく舌打ちをした。



「ご希望どおりにしてやるよ。今回のターゲットは、らんむちゃんじゃねぇ……和泉ゆうな、あんただ。ファンを裏切った、あんたの声優人生を――この『カマガミ』が、刈り取ってやる」




 ――『カマガミ』が立ち去った路地裏で。

 どっと疲れが出た俺は、結花から手を離して、地べたに座り込んだ。


 結花もまた、「ぷはぁー」なんて言いながら、その場にしゃがみ込む。



「……なんのつもりなの、ゆうな?」


 そんな結花を、見下ろしたまま。

 野々花ののはな来夢は、瞳を潤ませながら問い掛ける。


 そんな来夢を見上げて、結花はにへーっと笑った。



「……えへへっ。来夢さんが、らんむ先輩だったんですね? ぜーんっぜん、気付かなかったなぁ……やっぱり演技が上手ですよね、らんむ先輩って」


「そんなことは、どうでもいい! 馬鹿なの、貴方は!? 奴は貴方が、和泉ゆうなだという情報は持ってなかったのよ!? それなのに、自分から教えるだなんて……」


「だって、ゆうくんと付き合ってるのは、私ですもん。嘘を言いふらされたら、みんな嫌じゃないですか。っていうか……私がなんか、やですもん。らんむ先輩が来夢さんなんだから、なおさら複雑ですしっ!」


「時と場合を考えなさいよ! 私への不満なら、あの悪党が帰った後に言えばよかったでしょう!? 貴方が黙っていれば……貴方だけでも、被害に遭わずに済んだのに……っ!!」


「でも、そうしたら――遊くんとらんむ先輩が、嫌な目に遭うでしょ?」



 すこぶる冷静に、そう返すと。

 結花はおもむろに立ち上がって。

 儚くて、優しくて、綺麗な笑顔で――言ったんだ。



「ごめんなさい。だけど私は――大好きな二人が傷つくところを、見たくなかったから」

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