第13話 【2月14日】学校の地味な結花が、一世一代の告白を【バレンタイン】 1/2

 ――カーテンの隙間から射し込む日の光で、目を覚ますと。

 隣で寝ていたはずの結花ゆうかは、既に姿がなかった。


 今日はやけに早起きだな、結花。


 そんなことを思いつつ、廊下に出ると……仕度を済ませた結花が、ちょうど階段をのぼってくるところだった。



「おはよう、結花」

「あ。おはよう、ゆうくんっ!」



 眼鏡&ポニーテールという、学校仕様な結花だけど。

 家の中では、学校と違ってお堅い感じではなく――ニコニコと、いつもどおりの笑みを浮かべている。


 ああ。でも、最近は……学校でもそこまで、お堅い感じじゃないかもな。


 昔は「怖そう」「冷たそう」なんて思われがちだった結花だけど、最近はどっちかというと――無口だけど天然、って扱いな気がする。


 結花が少しずつ、素の部分を出せるようになったことで。

 結花の周りには、多くの人が集まるようになってきた。


 そんな変化が、自分のことのように……嬉しいなって、思うんだ。



「結花。お誕生日おめでとう」

「ふへへー……生まれました、ありがとうっ! 遊くんにお祝いしてもらうと、なんだか照れちゃうなぁ……えへへっ」



 そう――今日は二月十四日。


 世間がそわそわする、バレンタインデーであるのと同時に。

 結花の十七歳の、誕生日だ。



「朝一番に言われちゃったら、今日はずーっと、にやにやしちゃいそうだなぁ……もー、遊くんってば」


「言わない方がよかった?」


「んーん。幸せっ。大好き。ありがとう……すーきっ」



 ……こっちまで照れさせないでよ、結花ってば。

 朝っぱらから、頬が熱くて仕方ない。



「と、とにかく……学校から帰ってきたら、予定通りに誕生日パーティーをするからさ。楽しみに待っててね、結花」

「うんっ! すっごく楽しみっ!! ……あ、そうだ。遊くん、今日なんだけどね?」



 弾んだ声で、そう言うと。

 結花は上目遣いに、じーっとこちらを見てきた。



「私、先に出掛けちゃうから! 遊くんは後から、学校に来てね?」

「え? いいけど……なんで?」

「…………ひみつ」



 べーっと小さく舌を出して、不敵に笑うと。

 結花は頬を真っ赤に染めたまま、ご機嫌に言った。



「今日はいっぱい……素敵な日にしようね、遊くんっ」



          ◆



 結花が先に家を出たので、ひとまず未読のRINEを消化することにした。

 まずは――那由なゆからのRINE。



『チョコ食べてるなう』



 投げやりにもほどがある文面。

 それとあわせて送られてきたのは、高級そうなチョコを食べる那由と親父の写真。


 朝っぱらから、チョコテロすんなよ……。

 あと親父は、中二の娘にチョコをもらえたからって、でれーっとした顔してんじゃねぇよ。だらしないから。



 次は――勇海いさみからのRINE。



『ハッピーバレンタイン、遊にいさん。本来でしたら、日頃の感謝の思いをチョコに込めてお渡ししたいところですが……あいにく遠方ですので。代わりに、僕の格好いい写真で――甘い気持ちになってくださいね?』



 なんだこの怪文書。

 それとあわせて送られてきたのは、男装姿で流し目をしている勇海の写真。


 どっちかっていうと、ビターな気持ちになったんだけど。

 チョコテロも困るけど、これはもはやバレンタインとか、一切関係ねぇ。


 まったく――我が家の妹二人組は、今日も自由奔放だわ。



「さーて。そろそろ出掛けるとするか」



 スマホをポケットに入れて、鞄を手にすると。

 俺はいつもの通学路を、一人歩き出した。


 普段と同じ道のはずなのに、なんだか今日は、地面がふわふわしてる感じがする。



 ……バレンタイン当日に、いつもより早く出掛けていった許嫁。


 これって、あれだよな――下駄箱にチョコが入ってるとか。机にチョコが入ってるとか。そういうサプライズ的なやつ。


 …………やばい。テンション上がるな、これ。



 この場で踊りたくなってしまうくらい、気分は盛り上がってきたけど。

 はやる気持ちを抑えつつ、俺は学校に到着した。



 そして。


 下駄箱まで来たところで。


 俺は――難しい顔で立ち尽くしている結花と、鉢合わせた。



「――っ! さ、佐方さかたくん!?」



 眼鏡の下の瞳を丸くして、変な声を出した学校結花。


 それから結花は、開けっぱなしになってた俺の下駄箱の扉を閉めると。

 ギリッと――俺のことを睨みつけてきた。



「……なにかしら? こんな公衆の面前で、私のことを舐め回すように見て……佐方くんって、アブノーマルな変態なのね」


「何その、いわれのない罵倒!? 人の下駄箱の扉を開けて、そわそわしている女子生徒の方が、よっぽど怪しいでしょ!!」


「……勘違いしないで。佐方くんの下駄箱だから、ここを開けたわけじゃないわ」



 結花はギュッと唇を噛み締めると。

 いつもより少し低めの声色で――言ったんだ。



「私はただ――ここがゴミ箱だって、勘違いしただけだから!」


「ないだろ、そんな勘違い!? 下駄箱にゴミを入れられてたら、まず最初にいじめを疑うからね俺は!!」



 ……おそらくだけど。


 サプライズを仕掛けようとしたものの、いざとなったら緊張しちゃったんだろう。



 チョコを置けないどころか、とんでもいじめ発言だけを残して――結花のバレンタイン作戦in下駄箱は、失敗に終わった。



 そして……バレンタイン作戦in机に、続く。

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