第25話 【アリラジ特番】『ゆらゆら★革命』の活躍、止まらない問題 1/2

「しっかし……倉井くらいの部屋、もうちょい片付けらんないわけ?」



 俺の隣に座ってる二原にはらさんが、顔をしかめつつ、ぼやくように言った。

 TVを操作してたマサが、それに対して反論する。



「馬鹿言え! この部屋にあるグッズには、すべて愛と情熱が詰まってんだよ!! そんなもん……溜まっていくに決まってんじゃねーか」


「や。そーじゃなくって。うちだって、特撮グッズが山ほどあるわけ。ベルトもあるし、ロボットもあるし、フィギュアとかムックとか……けどね? こんな汚くないわけよ」


「確かに。俺の部屋も『アリステ』グッズで溢れてるけど、マサよりは片付けてるよな」


「文句言うんなら、お前ら帰れよ! お前らが一緒に『アリラジ特番』観ようっつーから、こうして準備してんのによぉ!!」



 そう。俺と二原さんは現在、マサの家に遊びに来ている。


 俺は何度も来たことあるけど、なにげに二原さんがマサの家に来るのは初めてなので……こうして、きょろきょろ見回してはツッコミを入れてるってわけ。


 そんなこんなしてる間に、マサは自分のスマホをTVにミラーリングし終えて、俺の隣に座った。



「んじゃ、つけるぞ」

「おっけ! ゆうちゃんの活躍、めっちゃ楽しみ!!」



 マサがTV画面上で、動画サイトを操作していく。


 そして生配信のチャンネルに飛ぶと、『はじまるまで、もう少し待ってね!』という画面が映し出された。



 何を隠そう、今からはじまるのは『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』の大人気ラジオ『アリラジ』の生配信。


 そして、今回のタイトルは、そう――『アリラジ:第二回 八人のアリス投票 開始記念特別生配信☆』だ。



 今回の特番の主題になっているとおり、『アリステ』では――つい先日から『第二回 八人のアリス投票』が開始されている。


 ちなみに俺は、投票開始から数秒の間に、ゆうなちゃんへの投票を終えた。

 マサも数秒の間に、らんむちゃんへの投票を済ませたって言ってたな。


 というわけで俺たちは、投票期間終了まで待ちのターンなわけだけど……運営側としては、この投票企画をさらに盛り上げたいんだろう。



 第一回で選ばれた『八人のアリス』の声優がメインで。

 その他、数人のアリスアイドルの声優がゲスト出演するっていう形で。


 今日の特番の生配信が、決定したってわけだ。



「ねぇ。らんむちゃんも、前回の『八人のアリス』の一人なんっしょ?」


「お、『アリステ』に詳しくなってきたな二原……そうだよ。俺のらんむ様は、前回の投票で――『六番目のアリス』に選ばれた! そして、今回も当然――らんむ様は、『八人のアリス』に燦然と輝くんだ!!」



 紫ノ宮しのみやらんむ演じる、クールビューティなアリスアイドル・らんむちゃんは、『アリステ』リリース当時から高い人気を博していた。


 ――クールでストイックという格好良さと、私生活のポンコツっぷりのギャップ。

 妖艶な魅力を備えたビジュアル。紫ノ宮らんむの圧倒的な歌唱力。


 それらすべてが合わさった結果、らんむちゃんは人気投票六位――『六番目のアリス』に選ばれた。



「らんむちゃんも格好いいけどさぁ。ゆうなちゃんが『八人のアリス』に選ばれてないとか……まだまだすぎんね、世間の見る目は」

「二原さん、それは違うよ」



 ゆうなちゃんが好きすぎるあまり、二原さんがぼやいたのを聞いて。

 俺は反対に、純粋な気持ちでゆうなちゃんへの想いを伝えた。



「本当の順位は、『アリステ』を推す一人一人の心の中にあるんだ。だから、数字なんて関係ないんだよ。ゆうなちゃんは――俺や二原さんの心の中では、いつだって『トップアリス』なんだ!!」


「……や。いいこと言ってるし、その気持ちはめっちゃ分かるけどさ。今日の特番の主旨、全否定すぎない、それ?」



 ドヤ顔で言ったセリフにマジレスは、よくないよ?

 結構それ、羞恥心にエグいほど火をつけるやつだからね?



「――おい、二人とも! はじまったぞ!!」



 マサが叫んだ瞬間に、俺と二原さんはパッと、TVの方に向き直った。


 こうして俺たち三人は――マサの家に集まって、生配信の視聴を開始したわけだ。




「……こんな感じで『第二回 八人のアリス投票』も盛り上がってるわけで・す・が! なーんと今日は、他にも新しいプロジェクトが発表になるんだって!!」


「そうみたいですね。ただ、どんなプロジェクトがはじまろうと――私は常に、輝き続けるだけですが」



 紫ノ宮らんむを含む『八人のアリス』声優がトークを進めていると……『新しいプロジェクト』というフレーズが唐突に出てきた。


 これは前情報にないぞ……要チェックだな!!



「新プロジェクトに関わる、三人のアリスアイドルに来てもらったよぉ! どーぞぉ!!」


 そんな合図とともに、ステージに出てきた三人の声優……って、結花ゆうか!?



「こんにちアリスー! ゆうな役、和泉いずみゆうなでーすっ!!」



 三人が順々に挨拶をする中、ひときわ光を放っている和泉ゆうな。

 それにしても……新プロジェクトと和泉ゆうなに、一体どんな関係が?


 ――そんなことを、ぐるぐると考えていたら。

 スタジオの後ろのモニターに、新プロジェクトの名称が映し出された。



 ――――『ニューアリスアイドルオーディション☆』。



「現在も既に百人以上のアリスアイドルが活躍している『アリステ』ですが。この秋、新たなアリスアイドルたちのデビューが決定しました! それに先駆けて、新たなアリスアイドルの声優を選ぶオーディションが……夏に開催決定でーす!!」


「そのうち三人は、なんと! この三人の『妹』に当たるキャラクターなんだよね?」



 ――!! なん……だと……?



「まさか……ななみちゃんに、ボイスがつくっていうのか?」


「みたいだな、遊一ゆういち……こいつは、熱い夏になりそうだぜ」


「え? どーいう盛り上がり? 新参のうちにも、分かるように説明してくんない!?」



 二原さんが事態を把握できてないらしく、わたわたと騒いでるけど。

 俺とマサは、ごくりと生唾を呑んで――マイクを渡された和泉ゆうなの発言を待つ。



「はいっ! 私が演じるゆうなが、妹のななみちゃんに誘われて、一緒にアリスアイドルとしてデビューした……っていうのは、昔からのファンの方はよく知ってると思いますが! なんと!! ついにななみちゃんが――ゲーム内に登場しますっ!」



「マジかよ……ついに、ななみちゃんが……」


「あ、そっか。ゆうなちゃん、妹のななみちゃんとデビューしたって設定だっけね」


「そのとおりだ、二原。だけど、色んな事情があったらしく――ななみちゃんはこれまで、キャラとしては登場していなかった。それがついに、デビューってことは……ゆうな姫の新たな展開が期待できるってことだな、遊一!」



 マサの言うとおりだ。ななみちゃんが本格参戦すれば、その絡みでゆうなちゃんの出番も、必然的に増えるはず。


 つまり、ななみちゃんが追加されるってこと自体が。

 和泉ゆうなの努力が、ファンや運営に届いたっていう……何よりの証明なんだ。



 ――よかったね、結花。



 いつも笑顔を振りまいて、いつだって頑張ってる結花の姿を思い浮かべて……俺はなんだか、胸が熱くなるのを感じた。

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