第13話 【速報】俺の許嫁になった地味子を、悪友に紹介したんだ 1/2

「なんか遊一ゆういちの家、久しぶりに行く気がすんな」


「そうか?」


「そうだろ。だってお前、高二になってから、明らかに家に入れたがらなくなったじゃねぇか。ひょっとして……それもあの、クリスマスの美少女に関係してんのか!?」



 そんな感じで、俺とマサは軽口を叩き合いながら。

 始業式と短めのホームルームを終えて、我が家に向かって歩いていた。


 初日の学校を終えたその足で、マサには我が家に来てもらって。

 先に帰って準備してる結花ゆうかと二人で、マサに――ちゃんと伝えるんだ。



 実は、俺と綿苗わたなえ結花が付き合ってる……もとい、婚約してるんだってことを。



「つーかよ。なんでそんな、緊張してんだ遊一?」


「え。いや、別にそんなことは……」


「ったく。馬鹿じゃねーの、お前」



 バシンッと、マサが勢いをつけて俺の背中を叩いてきた。

 不意打ちの攻撃を食らって、俺はつんのめりそうになる。



「何をそんなもったいぶってんだか、知らねーけどよ……どんな事情があったって、俺がそう簡単に引くわけ、ねーだろうが。遠慮して喋んなかったら、承知しねーからな」

「……マサ」



 ぶっきらぼうに振る舞いつつ、俺の緊張を解いてくれてるんだなって思うと――つい目頭が熱くなる。


 ありがとうな。

 それから、ごめん……今日まで伝えられてなくって。


 マサの言うとおりだよな。腐れ縁な関係を、ずっと続けてきた俺たちなんだから。

 ちょっとやそっとの衝撃の事実を聞いたくらいで、マサが動じるわけが――。



「俺に火がつくのは、『アリステ』が絡んでるときだけ! それとは別の話だってんなら――俺はいつだって、冷静だぜ?」



 …………あー。

 そういうことなら、非常に残念だけど。


 話の流れによっては――冷静でいて、もらえなくなるかもしんない。



          ◆



「やっほ! お邪魔してるよん、佐方さかたぁ」


 マサと一緒にリビングに入ったら、そこでは一人のギャルがくつろいでいました。


 制服姿のまま、家人みたいなテンションでソファに座って、コーヒーを啜ってる――陽キャなギャルこと、二原にはらさん。



「……おい、遊一。なんで二原が、ここにいるんだよ?」


「俺が聞きたいわ……マジで二原さん、なんでここにいるの?」


「えー。冷たくね、佐方? だってうちはぁ……おっぱい恋しいとき担当の、佐方の第二夫人じゃんよ♪ じゃんじゃんよ♪ そんなうちが、佐方が第一夫人を紹介するターンで……同席しないわけないっしょ?」


「遊一ぃぃぃぃてめぇぇぇぇ!! 見損なったぞ、そんな羨ましいことしてやがんのかぁぁぁぁ!!」



 もう冷静じゃないじゃん。


 なんか血涙でも出しそうな勢いのマサを見ながら、俺は深くため息を吐く。


 おおかた、結花が助け船として二原さんを呼んだんだろうけど――このギャルは、毒にも薬にもなるタイプだからなぁ。

 どっちに転ぶんだか、今から不安になってきた……。



「こ、こんにちは! お待たせしました、倉井くらいくん!!」



 そんな空気を切り裂くように――思いきりよく、リビングのドアを開けて。

 マサが言うところの『クリスマスの美少女』が、おずおずと入ってきた。


 肩甲骨のあたりで揺れている、さらさらの黒髪。

 大きくてぱっちりとした、ちょっと垂れ目っぽい瞳。

 そして制服ではなく、冬用の私服を身に纏っている。



 それは紛れもなく、綿苗結花だけど――学校での綿苗結花とはまるで違うから、マサもまだピンと来てないだろう。



「――クリスマスの、美少女」


 マサが呆けたように、そんな風に呟く。



「……えへへっ。美少女だなんて、照れちゃうじゃんよー」


 結花がマサの言葉に反応して、もじもじしはじめた。


「ちらっ」とか言いながら、俺の方にアピールしてきてるけど……結花、少しは場面に合わせて自重しよう?



「えへへー。ももちゃんも、待っててくれてありがとうねっ!」


「いいってことさ。今まで正体を隠してた変身者が、真実を明かすシーンとか、めっちゃ燃えるシーンだかんね! そりゃあ見届けるよ、うちは!!」


「は? 二原、この美少女と知り合いなのかよ!?」



 二原さんはいい加減、なんでもヒーローに置き換えて物事を考えるの、やめた方がいいと思う。


 まぁ……何はともあれ。


 俺、家仕様の結花、マサ、そして二原さん。


 役者は揃った。



 マサ、待たせて悪かったな……今から『彼女』のこと、説明するから。



「えっと。これまでの経緯を話すと長くなるんだけど……まずは『彼女』が誰かってことから話すよ。『彼女』は――」



「――ひょっとして。君はゆうなちゃん……なのか?」

「え? あ、はい! そうです、ゆうなです!! よく分かりましたね!?」



 そのとき……我が家に電流走る……!


 唐突にマサが呟いた『ゆうなちゃん』発言に対して、反射的に結花が肯定してしまったことによって。


 場の流れは、文字どおり一変した。



「え? ゆうなちゃん……ゆうなちゃんなのか!? 遊一が愛する、あの『アリステ』のゆうな姫が――実体化したってのか!?」


「お前、どういう発想してんだよ!? 友達がいきなり『俺の彼女、二次元から実体化したんだ』って言ったら、ただのホラーじゃねぇか!」



 そもそも今は、家仕様の結花。


 ウィッグもかぶってないし、全然ゆうなちゃんって見た目なんかじゃない。


 なのにマサときたら……俺に三次元の彼女ができた事実に理屈付けしようとして、二次元が実体化したんじゃないかなんて、非科学的極まりないことを言い出した。

 どこまで本気なんだか、分かんないけど。



「それじゃあ、三次元ゆうなちゃんってわけじゃ……ないのか?」

「あ、え。そ、そうですね。正確には二.五次元っていうか……」



 そして――。

 一度テンパっちゃった結花は、止まらない。



「二.五次元!? じゃあ、和泉いずみゆうなちゃんってことじゃねぇか!!」


「あ、あれ? 和泉ゆうなって、バレて……あれ? 私が和泉ゆうなだって、無意識に言っちゃってた桃ちゃん?」


「言ってなかった! 言ってなかったけど、今まさに墓穴掘ったってゆうちゃん!!」


「え、和泉ゆうなちゃん!? 遊一の彼女が!? マジなのか遊一!? それとも俺が――『アリステ』の世界に、入っちまったのか!?」




 ――――こうして。


『アリステ』ヘビーユーザーのマサによる、ぶっ飛んだ発言と。

 素でも声優としても天然な結花による、テンパり墓穴発言によって。


 俺の『彼女』の正体が『和泉ゆうな』だってことが、初手でバレました。



 まさかの――『綿苗結花』だって、説明するよりも先に。

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