第12話 【三学期】俺の許嫁と悪友が、すれ違いコントをはじめた件について 2/2

 氷のように冷え切った目で、俺を睨んでいる学校結花ゆうか

 その隣で、「修羅場じゃん……」って顔をして、目に見えて動揺してる二原にはらさん。

 教室で紛らわしいことを言って、場を混乱させやがった元凶のマサ。

 なんか意識が遠のいてきた俺。


 ――以上、イカれたメンバーを紹介したぜ。



「それじゃあ倉井くらいくん。まずは簡単に、事情を話してくれる?」

「ああ……大前提として。遊一ゆういちにはな、中学の頃から付き合っている、一人の美少女がいるんだ」



 お前、ちゃんと前提で『二次元の』って、付けて説明しろよ!?

 そんな言い方されたら、結花も二原さんも――。



「ちゅ、中学から!? 佐方さかた、嘘っしょ? え、そんなはず……」

「へ、へぇ? そう、だったの……」



 ほら見ろ!

 絶対これ、来夢らいむのことだって、勘違いされたパターンじゃん!!



「だけどクリスマスの日、こいつとバッタリ道端で会ったとき。こいつの隣には――俺の知ってる『彼女』じゃない、違う女子が立ってたんだ!」


「お前、さっきからなんで中途半端に濁して喋るんだよ!? だから、お前の知ってる『彼女』って――」


「佐方くん、一度黙って」


「佐方、うっさい。言い訳なら、後で聞くから」



 え、なんで俺のターンが来ないの?

 いつ釈明するの? 今だよ?



「え。ちょい頭が追いつかないんだけど……倉井。まずさ、いつから遊一と『あいつ』は、付き合ってたわけ?」


「中三の冬、だな」


「え、うそ!? そのときは佐方、確実にフラれたはずっしょ!!」


「あー……確かにその時期は、シリアスなイベントもあったっけな。でもな? 遊一はそれでも『彼女』を愛し続けて、見事に結ばれたんだ……っ!!」



 二原さん → 来夢にフラれた現実の出来事

 マサ   → 『アリステ』のイベント(当時はシリアスな話もいくつかあった)



「倉井くん。佐方くんに、か、彼女がいるって――他には誰か知ってたのかしらっ!?」

「あれ? 二原は『彼女』のこと、知ってんだろ? 前に三人で、一緒に会ったし」



 それ、『ゆらゆら★革命』のステージの話だろ!? 紛らわしいんだよ、お前は!



「は、はぁ!? 『あいつ』は知ってっけど、付き合ってるなんて知らなかったっての!!」


「ん? 遊一の片思いって思ってたのか? ……まぁ確かに、遊一が毎日スマホで、愛を囁いてもらってるなんて思わないか」


「毎日!? 愛を!?」



 だから、『アリステ』でゆうなちゃんのボイスを繰り返し聞いてるって話だろ!!

 もう、わざとやってないかこいつ……よくここまで、すれ違ったまま会話できるな。


 とはいえ、マサの中途半端な説明のせいで。


 結花と二原さんは、「俺と来夢が隠れて電話して、今でも付き合ってる」という、とんでもない解釈に行き着いてる感じ。



「そ……そそそそ……そっか。佐方くん、そ、そうなんだね……うにゅ」


 勘違いのせいで半泣きになった結花は、家結花が漏れ出る直前になってるし。



「佐方――うち、マジで許さないかんね? 那由なゆちゃんと勇海いさみくんにも、言いつける」


 勘違いのせいで怒りに燃えた二原さんは、結花のことを思うあまり、さらなる二次災害を巻き起こしそうになってるし。


 このままじゃ、いくらなんでもヤバすぎる。

 さっきは俺のターンを防がれたけど、これ以上黙ってるわけにはいかない。


 俺だって、生き残りたいし。



「ちょっと待とう、二人とも? あのね、マサが言ってる『彼女』ってのは――」

「き……聞きたくないわ!」



 ここに来て結花、まさかの耳塞ぎ。

 こちらに背を向けてしゃがみ込んで、両耳をがっちり自分の手で覆い隠してる。



「いい加減にしなって、佐方。綿苗わたなえさんが、そんなの……聞きたいわけないっしょ」


 そんな結花の悲しい背中を見て、二原さんは厳しい口調で言ってきた。



「わざわざ、佐方の口から聞かなくても分かってんだっての。『彼女』が――来夢だってことくらい!!」


「…………ん? 来夢? ゆうなちゃんだぞ、二原」


「…………は? ゆうなちゃん? え、倉井……え?」



 一瞬、時が止まったように。


 マサと二原さんは呆気に取られた顔をしたまま、見つめ合う。



 そして、すべての符号が一致したらしい二原さんは――顔を真っ赤にして、叫んだ。



「ま、紛らわしいんだっての倉井! 許さないかんね、ガチで!!」



          ◆



 ――――そんなこんなで。


 事情を理解した二原さんの助けもあり、結花の誤解はどうにか解くことができた。



「はぁ……ま、そうだよね。来夢がそんなんするはず、ないもんね……」



 ちなみに、すれ違いコントを発生させた張本人のマサには、取りあえず角度をつけたチョップをお見舞いしておいた。



「いってぇ……いや、確かにな? 勘違いさせる言い方をした俺も、悪いとは思うぜ?」

「『も』じゃねーよ! 九割以上、お前のせいだろマサ!!」



 この期に及んで何を言い出すかと思えば……がっつり反省しろっての。


 だけどマサは、首を傾げながら――当たり前のように、尋ねてきた。



「いや、でもよ。中学の違う綿苗さんが、来夢と勘違いして聞いてるとか、普通は思わねーだろ? っていうか、本当に――なんで綿苗さん、来夢のことを知ってんの?」



 ……ああ。マサからしたら、そりゃあそう思うか。


 うん。やっぱり放課後になったら、マサにはちゃんと説明しないとだな。



 こういう、とんでも勘違いトラブルが――二度と起こらないようにするためにも。

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