第24話 陽キャたちと遊びに行くとき、なにか気を付けることある? 2/2

 ボウリング大会が終わると、俺たちは打ち上げの第二会場――カラオケにやってきた。


 パーティールームみたいなところに通されたんだけど……人数、減ってない?

 結花ゆうか二原にはらさんも見当たらないし。



「……遊一ゆういち。ついに来るぞ。待ちに待ったイベントがよ……ここで焼きつけた光景を思い出しながら、俺は年越しを迎えるぜ。いい初夢になりそうだ……っ!」


「お前って、本能と煩悩の赴くままに生きてるよな……」



 イベントってあれか。打ち上げの前に、マサが言ってたやつ。

 確か女子たちが、サンタコスをするとかなんとかって――。



「へいへーい! ジェントルメン&ジェントルメーン!! ちょっと早い、メリークリスマース! あ……ちなみに、写真撮影とお触りはNGだかんね?」



 カラオケルームの扉を開けて入ってきたのは――膝上までしかないミニスカートタイプの、サンタコスチュームを纏った二原さんだった。


 その豊満すぎる胸は、中からぐっとコスチュームを押し上げてて、とんでもない谷間を生み出している。


 良い子には刺激が強すぎるぞ、このサンタ……。



「うおおおおおおお! 遊一ぃぃぃぃ!! 良い子の俺たちに、ご褒美だぞぉぉぉぉ!!」



 お前は悪い子だろ。めちゃくちゃ下心だらけじゃねーか。


 ――なんて、マサだけを責められた立場でもないけどな。


 他の男子みんなも、サンタ女子たちの登場に、めっちゃ沸き立ってるし。

 クールを装って黙ってるけど……俺も実際、テンション上がってるし。


 コスプレが嫌いな男子なんていません。



 そんなことを考えてたら――ブルブルッと、ポケットに入れてたスマホが振動した。


 誰かから、RINEでもきたかな……?



ゆうくん、たすけて』



 簡素なその文面を見た瞬間、俺はガタッと席から立ち上がった。


 そして、TV画面の前に並んでわいわいしている、サンタ女子たちを尻目に――カラオケルームを飛び出る。



 その途端――ぐいっと。


 俺は何者かに手を引かれて、隣の個室へと連れ込まれた。



 そこにいたのは――。



「えへへっ、遊くんだー♪」



 膝上丈のミニスカサンタの格好で、生脚と肩を艶やかに露出して。

 サンタ帽とポニーテールという、魅惑のアンサンブルを奏でつつ。


 眼鏡の下のつり目がちな瞳を、恥ずかしそうに潤ませてる――綿苗わたなえ結花だった。



「え、えっと……い、一体どうしたの? 助けてって……」

「遊くんだけを呼び出すには、この文面がいいよって、ももちゃんが教えてくれたの」



 二原さんの入れ知恵だった。


 っていうか、みんなが隣の部屋でわいわい盛り上がってる中――サンタコスの結花と二人っきりの空間にいるのって、なんか凄まじく淫靡な感じがするんですけど?



 胸がバクバクする俺の前で、結花はもじもじしつつ、上目遣いにこちらを見てくる。



「んっとね……桃ちゃんが、この格好は遊くんだけに見せた方が、遊くんは喜ぶよって……言ってたんだけど。どう、かな……?」



 ――なるほど。


 そう言われて、改めて結花の格好を見ると……確かに普段はお堅い綿苗さんが、こんなミニスカ&肩出しのサンタ服を着てるって思うと、すごくイケナイもの感がしてくる。



「ゆ、遊くん……?」


「いや。えっと、まぁ……確かにあんまり、他の男子の前には出ないでほしいかな……」



 ただの焼きもちだけど。


 でもやっぱり……自分の許嫁をいやらしい目で見られるのは、なんか嫌だから。



「……ふへっ、嬉しい♪」



 言い淀んでいる俺を見て、結花はなんか嬉しそうに笑った。


 そして、ゆっくりと――サンタの格好のまま、耳元に顔を近づけると。



「心配しなくても、私は……遊くんだけの、結花だよ?」



          ◆



 そして、俺は一足先にみんなのいる部屋に戻って。

 少ししてから――結花がドアを開けて、入ってくる。



「お、綿苗さーん! サンタ帽、めっちゃ似合ってんねー!!」

「……そ、そう? ありがとう、二原さん……」



 照れたように前髪をいじりながら、サンタ帽をかぶった学校モードの綿苗結花が、みんなの前に立つ。


 その服装はサンタ――ではなく、普段着ている制服。



「あ、ほんとだー。似合う似合うー、なんかキリッとしたサンタって感じー」


「ってか、綿苗さん肌白いねぇ。いいなぁ、うらやましいー」


「あ、え、えっと……ありがとう、ございます」



 女性陣からわいわいと話し掛けられて、結花は困ったように下を向いた。


 だけど、心なしかその表情は――にこっと笑っているように見える。



「あれ? 綿苗さんは、サンタ服着ないのか?」



 そんな、和やかな空気の中――マサがぽつりと呟いた。


 それは本当に他意のない、素朴な疑問だったんだと思う。


 だけど結花は、俺以外の前ではサンタ帽しかつけないって、さっき決めたから。

 強い語調で――言い放った。



倉井くらいくん。着ませんけど……何か問題でも?」


「……ひぃぃぃぃ……ごめんなさいぃぃ……」




 ――とまぁ。


 そんな感じで、ちょっとだけお堅いところも出ちゃったけど。



 少しずつ綿苗結花というキャラが、クラスメートに受け入れられてきてるなって感じる、そんな打ち上げだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る