第21話 【北海道】俺と許嫁、夜更けに……【Part3】 1/2

 灯りの消えた、シャンデリアの下。

 ベッドの上で横になり、抱き合った状態のまま。


 俺と結花ゆうかは――しばし無言の時間を過ごしていた。



「…………」

「…………」



 こうなったのは、色んなことが重なっての事故みたいなものだけど。

 ラブホなんてピンク色の空間にいるもんだから――めちゃくちゃ気まずい。


 心臓がバクバク鳴ってるのが、自分でも分かるくらい。

 このまま心臓が爆発しても、全然驚かないわ。マジで。



「…………」

「…………」



 で、でも?


 パッと見て、ゴムのことが分かんなかった結花だしね!


 許嫁同士がラブホで夜を過ごすなんていう、同人誌みたいなシチュエーションだとしても、きっと何も起こんないはず――。



「……那由なゆちゃんがね? いっつも……子作りとか、言ってるじゃん?」



 静寂に包まれた暗闇の中。


 結花ゆうかが凄まじい角度から口火を切った。



「い、言ってるけど……それが、どうかしたの?」


「えっと……勇海いさみの言うとおりみたいで、ちょっと悔しいけどね。私ってゆうくん以外と付き合ったことないから、こういうときにどうしたら遊くんが喜んでくれるのか、分かんなくって――子どもっぽくて、ごめんね?」



 か細い声でそう言って、ぺこりと頭を下げる結花。


 そんなの……全然気にしなくていいのに。


 今のままの結花と一緒にいるだけで、毎日楽しく過ごせてるんだから。



「結花、そんな顔しないでよ。どんな結花だって、俺は――」

「――だ、だからねっ! 合ってるか分かんないけど、私……頑張るから!!」



 なんか突然、流れが変わったなって、思った途端。


 結花は俺を抱き締めたまま、体勢を変えはじめた。



 ――――その結果。



 結花がごろんと、ベッドに仰向けになり。

 俺が結花の上で、四つん這いになってるという。


 …………誰がどう見てもアウトな状況が、完成した。



「ゆ、ゆゆゆゆ……結花!?」

「あ、あれ? 喜んでない? まだ足りないのかな……よしっ!」



 まともに頭が回んない俺の下で、結花はなんか気合いを入れたかと思うと。


 バスローブから覗くほっそりした脚を、ゆっくりと俺の背中に回して。



 ――――最終的に、俺を両脚でホールドした体勢になった。



「こ、こーだっけ? ち、違ってたらごめんね? えっと……だ、だいしゅき……?」


「やめて!? どこでそんな悪い知識を学んだの!?」


「ふぇ!? お、怒られた!? じゃ、じゃあ……こうかな!?」



 両脚をおろすと、今度はぐるんと上下入れ替わり、結花が俺に馬乗りした体勢になる。


 そして、結花は耳元に顔を寄せて――。



「……だーいすき。えへへっ……好き」


「待って、待ってお願い! おかしくなっちゃうから!! なんでどうして、こんな精神攻撃を繰り出してきてんの!?」


「……遊くんに、好きって言いたかったんだもん」



 殺し文句とは、まさにこのこと。

 今ので多分、俺の脳細胞の何割かは壊死してるからね?



「私ね……遊くんのことが、本当に大好きなの。初めて好きになった人と、いっつも一緒にいられて――本当に、幸せなんだぁ」



 脳がぶっ壊れつつある俺に向かって。


 結花はまるで、ハンマーで頭をかち割るかのごとく――とどめの言葉を放った。



「だから……マンガとかでしか知らないし、初めてだからちょっと怖いけど……もしも遊くんが、私とそういうこと、したいって思ってくれてるんなら…………いいよ?」



 ――――いいよ、だと?



 え? それって……そういうこと?


 熱くなってきた自分の頬に触れる。


 なんかくらくらしてきた……何これ、現実?

 ひょっとして猛吹雪で死にそうになって、幻を見てるとかじゃない?



「えいっ」

「ひぃっ!?」



 勢いよく上体を起こす結花。


 そして俺の手を取ると――バスローブ越しにむにゅっと、自分の胸に押し当てた。

 この世のものとは思えないほど、柔らかい。


 そんな大胆なことをしでかした結花は……そのまま俺の手を操って、自分の胸をむにゅむにゅさせはじめる。



 手が溶けそうなんですけど。

 あと、シナプスが焼き切れそう。



「……ちっちゃくって、ごめんね?」


 むにゅーん。


「で、でも……それなりには、あるでしょ? ゆうなとか桃ちゃんほどは、大きくないけど……」


 むにゅむにゅーん。


「……だめ、ですか?」



 ――――プツンって。

 確かに頭の奥で、何かが切れる音が聞こえた。



「うにゃ!?」



 その音に導かれるように、俺は……結花の背中に手を回して、ベッドに押し倒した。


 強く強く、結花を抱き締める。


 頬と頬が触れ合う。

 柔らかくて、温かくて、なんだか心地良い。


 そして俺は、少しだけ力を緩めると――結花の顔を見た。



「……ふにゅ。み、見ないでよぉ、遊くん……」




 真っ赤に頬を染めて、瞳を潤ませてる、俺の許嫁は。


 いつも以上に――可愛いしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る