第29話 【沖縄】水族館も海も、最高しかなくて困る【2日目】 1/2

 修学旅行、二日目。


 初めて迎えた沖縄の朝は……十一月にもかかわらず、まだ少し暖かさが残っている。



 ちなみにこの部屋は、うちの班ともう一班の男子五人で使ってる。


 もう一班の男子三人は、正直ほとんど絡んだことがないメンバーだけど――確か天文部に入ってる三人だったはず。



 会話はそこまでしないけど、お互い文化系なので……居心地としては、セーフな部類だと思う。


 これが運動部のメンバーとか、チャラ男の集まりとかだったら、即死だった。



 昨日は国際通りで昼食を食べて、神社を巡った。


 今日も楽しい一日を過ごせたらいいな――なんて、思っていると。



「うぉぉぉ……遊一ゆういちぃぃぃ……腹が痛いぃぃぃ……」



 同じ班のメンバーにして悪友――マサが、布団にくるまった状態のまま、悲痛な声を上げはじめた。



「……どうしたの、お前?」


「だから、腹が痛いんだって……死ぬ? 俺は、死ぬのか? ちくしょう、こんなところで……生き残りたい、生き残りたいぃぃぃ……」



 尋常じゃなく騒いでるんで、急いで先生たちを呼びに行く。


 そしてマサは――病院に運ばれていった。




倉井くらいくん、どうしたの?」


「多分、食あたりだろうって。四人とも、同じもの食べた気がするんだけど……なんであいつだけ、食あたりになってんだか」


「倉井だけで食べたの、あったっしょ? 生っぽくてやばくね? みたいに、うちがドン引きしたやつ」


「ああ……あったな、そういや」



 ってなわけで。

 修学旅行二日目は、マサ……無念のダウン。



 まずは学年全体で、講演会のようなものを聴いて。


 その後は、班行動なんだけど――マサがいないから、俺と結花ゆうか二原にはらさん、三人で回ることになる。



 いや、これ……たいして親しくないメンバーと班組んでたら、俺が死んでたわ。


 マサが不在で、話を長時間持たせられる自信とか、ないもの。



 ……マサ。お前がいなくなって、お前の存在が大事だったんだってこと、すげぇ実感したよ。


 いつもありがとうな、マサ。絶対、生きて帰ってこいよ。



 絶対に――死ぬなよ。



「――どしたの、佐方さかた? ぼんやりして」


「ああ。ごめん。脳内でマサの死亡フラグを立ててた」


「どゆこと?」



 俺が適当な発言をすると、小首をかしげる二原さん。


 だけどすぐに、「ま、いっか!」なんて、あっけらかんと言うと。



 にんまりした笑みを浮かべながら――結花の腕に、ギューッと抱きついた。


 そんな二原さんの顔を無表情に見る、塩対応な結花。



「……いきなり何? 近すぎるんだけど、二原さん」


「ちょいちょいー。ゆうちゃん、周りをよく見て? ここにはうちらと、佐方しかいないよん? はい、テイク2ー」


「……い、いきなり、どうしたの!? 近すぎて、なんか照れちゃうよぉ……ももちゃん」



 テイク1とテイク2の差が、尋常じゃない。


 状況に応じた切り替え、早すぎない? ゲームじゃないんだから、そんな素早くキャラチェンジするとか、普通はできないって……。



「しっかし、倉井ってば運がないよねー。今日は修学旅行の中でも、とびっきり盛り上がる日になるだろうってのにさぁ」


「で、でもね? 倉井くんには、ごめんねだけどね? 倉井くんがいたら、ちょっと恥ずかしすぎたかも……」


「あははっ! 結ちゃん、可愛いなぁ。でもさ、それ、佐方も同じじゃん? 今日に関しては正直、倉井がいなくてよかったって、ちょっとは思ってるっしょ?」


「冗談じゃないよ、二原さん。俺が一番の友達のマサに向かって……いない方がよかったなんて、思うわけないだろ?」


「結ちゃんの水着姿を、じろじろ見られたかもしんないのに?」


「…………い、いない方がよかったなんて、思うわけないだろ!」


「舐めるように、見られたかもしんないのに?」


「…………ぐぬぬ」



 その攻め口は卑怯だって。


 そんな言い方されたら、「ぐぬぬ」ってなるわ、さすがに。


 っていうか、舐めるように見るって。


 マサのこと、なんだと思ってんだ。多分、見ると思うけど。




 ――と、そんな軽口を叩き合いながら。

 俺たち三人が向かうのは、沖縄旅行の最大の目玉。



 サファイアのように青く澄み渡る……海での一日だ。

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