第17話 声優ユニットの打ち合わせが、思った以上に白熱してるんだけど 1/2
「こんにちは、
日曜の朝、我が家にやってきたのは――
毛先に緩くパーマの掛かった、茶髪のショートボブ。
しかもスレンダーで高身長という、マネージャーっていうよりかは、モデルみたいに見える風貌。
上まぶたにオレンジ色のアイシャドウ、唇にピンクのルージュという大人っぽい化粧も、それを引き立てているのかもしれない。
白いシャツの上に羽織った黒いジャケットを整えて、タイトスカートから覗くほっそりとした脚を揃えると――鉢川さんは、深々とおじぎをした。
「あ、えっと……いつもお世話になってます」
いかにも社会人らしい丁寧な挨拶をする鉢川さんに対して、俺はしどろもどろになりながら、取りあえずおじぎで返す。
社交性の低さに、我ながら落ち込む……。
「おはようございます、久留実さん!」
そんな俺の後ろから、はつらつとした挨拶が聞こえてきた。
雲ひとつない青空以上に透き通った、伸びやかで美しい声色。
宇宙の美を具現化した存在、ゆうなちゃん。
振り返った先にいたのは、そんなゆうなちゃんと見紛うかのような格好をした――和泉ゆうなだった。
頭頂部でツインテールに結った茶髪。
その頬のあたりで、いわゆる触覚がひょこひょこと揺れている。
着ているのは、ピンクのチュニックに、チェックのミニスカート。
スカートと黒いニーハイソックスの間にできた絶対領域は、もはや天国なんじゃないかとすら思う。
そんな可愛いしかない格好をした、
「今日はよろしくお願いしますっ! 緊張しますけど、私――頑張りますっ!!」
「おはよう、ゆうな。今日はよろしくね。わたしも全力で、フォローするから」
声優とそのマネージャーが、なんだか盛り上がっている。
一ファンである俺は――そんな貴重な場面に立ち会っているという奇跡に感動を覚えていた。
今日はこれから、新ユニットの打ち合わせがある。
マネージャーである鉢川さんが立ち会う中で。
和泉ゆうなと、
カリスマ性に溢れた先輩との打ち合わせを控えた昨日の結花は、とにかくそわそわと落ち着かなかった。
そして今は、緊張がピークに達したのか……逆にハイテンションになってる。
「遊一くんも、準備は大丈夫かな?」
「……一応着替えましたけど。えっと、本当に俺も行くんですか……?」
「もちろんだよっ!
「ごめんね。ゆうながどうしても……って言うからね。わたしの方ではひとまず、打ち合わせ場所の近くに、遊一くんが控えられるようセッティングするつもり」
「すみません……なんか色々と、ご迷惑をお掛けして」
自分の担当声優に、実は隠れ許嫁がいた!
――ってだけでも、相当な心労を掛けてると思うから。
打ち合わせの場面まで配慮してもらって、さすがに申し訳なくなる。
そんな俺の気持ちを察したのか、鉢川さんは明るい口調で言った。
「いいの、気にしなくって。これがマネージャーってものだからさ」
「久留実さん、いつもありがとうございます。迷惑ばっかりで、ごめんなさい。だからその分、本当に全力で――らんむ先輩と、話しますね!」
「だけど、ゆうな……『弟』さんの件は、どうするつもりなの? 昨日、電話でらんむと話したら、あの子――今日はゆうなの『弟』さんと会うつもり、満々だったけど」
鉢川さんがちらっと、俺の方を見てくる。
え、ひょっとして結花――俺と紫ノ宮らんむを、対面させるつもりなの?
どう考えても、血の雨が降る未来しか見えないけど……。
「あ、違うよ! あくまでも遊くんには、私の心の支えとしてそばにいてもらうだけ!!」
そんな俺の不安を感じ取ったのか、結花はにっこり笑ってフォローしてきた。
「えっと、じゃあ『弟』の件は、どう処理するつもりなの?」
「それについてはね、私なりに『作戦』があるからっ!!」
「作戦って?」
「ふふふ……」
いやいやいや、ふふふ……じゃないよ!?
なんで「見てのお楽しみ」のテンションでいるの!?
結花の考えた『作戦』とか――申し訳ないけど天然さんな結花だから、何をしでかすのかって、不安の方が大きいんですが。
だけど結花は、なんだか張り切ったテンションで、右手を大きく伸ばして。
「よーし、じゃあ遊くん、久留実さん……頑張っていきましょー!!」
こうして。
結花は黒いキャップを目深にかぶり、薄手のロングコートを羽織って、人目につかないような変装をすると。
決戦の地――紫ノ宮らんむとの打ち合わせ場所に向かって、意気揚々と歩き出した。
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