おにぎり・コロコロ

渋谷かな

第1話 おにぎり・コロコロ

「待て! イース! フレッド!」

 いつものように孤児院ではシンディがイースとフレッドを追いかけている。

「止まったら殺される!? 僕は死にたくない!」

「同じ意見だ! 逃げなければ命はない!」

 イースとフレッドは命がけで逃げている。

「そんなに私の作ったカレーが食べたくないの!?」

 二人が逃げている理由。それはシンディの愛情のこもった手料理だった。

「僕は、この前の闇鍋で3日間も下痢になったぞ!?」

「俺は闇ラーメンで1週間も生死の境を彷徨ったぞ!?」

 二人ともシンディの手料理の犠牲者である。

「今回は大丈夫よ! 毒消し草も入れてあるから!」

 シンディの手料理の隠し味は毒消し草。

「前の料理も毒消し草が入っていたよな?」

「毒意外にも何かが入っているんだ!? 万能役のエリクサーも入れてくれ!」

 こうして逃げ足を鍛えるイースとフレッドであった。

「ああ~、こんなことでこいつらは国家騎士になれるのだろうか?」

 ミッキー神父は二人の将来を心配する。

「国家騎士になってもらわないと孤児院に寄付が入らないではないか!?」

 ミッキー神父はお金の亡者です。アハッ!


「さあ! 食べてもらうわよ!」

 遂に二人を捕まえたシンディ。

「僕たちが捕まるということは、僕たちよりシンディの方が強いのか?」

「それよりも、この目の前にあるカレーだ!? 具のレベルが上がっている!? シンディはこの材料をどこで手に入れているんだ!?」

 シンディのカレーは、スライムカレーでも、ウルフの骨付きカレーでもない。まるごとゴブリンカレーでもない。

「今日はシンディ特製、愛情たっぷりダークアイの視力回復カレーよ! アハッ!」

 禍々しいカレーにダークアイの目玉が浮いている。

「グ、グロテスク・・・・・・オエー!? 気持ち悪い。」

「闇カレーだ!? これを食べたら俺たちは天に召されるのでは!?」

 イースとフレッドは死を覚悟した。

「さあ~、召し上がれ。イッヒッヒッヒー!」

 シンディという魔女が食卓で笑っている。

「僕たちに神の御加護がありますように。」

「明日に会いたかったぜ。」

 二人は覚悟を決めてカレーを食べるのだった。

「ギャアアアアー!?」

「ウワアアアアー!?」

 そして二人の断末魔の叫びが孤児院に響き渡るのであった。

 つづく。


「大変だー!?」

 いつも事件が起こる。

「魔王ダーロが世界征服を始めると宣言したぞ!?」

「なんだって!?」

 魔王が動き出したと孤児院にまで噂が広まった。村人たちは動揺しまくった。

「魔王がどうした。魔王が。」

「そうだ。こっちは毎日、魔女の手料理の毒見役をやらされているんだぞ。」

 イースとフレッドは魔王如きではビクともしなかった。

「ただいま!」

 そこにシンディが戻って来る。今日の獲物を狩って持って帰ってきた。

「ゲッ!? その巨体は!?」

「オーガよ。石に躓いて頭を打って倒れちゃったので、拾得物としてもらってきちゃった。アハッ!」

 恐るべし、シンディ。

「この物語は僕たちが国家騎士になる話だよね?」

「なんだかシンディのグルメ異世界漫遊記に変わりそうで怖いな。」

 戦々恐々としているイースとフレッドであった。

「神父様。討伐リストのオーガを倒したから、教会に多額の寄付が入りますよ。アハッ!」

「おお! よくぞ! オーガを倒してくれた! シンディこそ、この孤児院の希望の星だ! アハッ!」

「こいつら本当は親子なんじゃ!?」

 ミッキー神父はお金をくれる方に着く。

「それに比べ役に立たない男共だ。」

「悪かったな!?」

「シンディに戦い方でも教えてもらったらどうだ?」

 ピキン! っと閃いた二人。

「おお! その手があったか!」

「俺も一度シンディの戦っている所を見たかったんだ! いったいどんな方法で大物を釣り上げているのか!」

 イースとフレッドはシンディの戦い方に興味津々であった。

「しょうがないな。私の雄姿をお見せしましょう。オッホッホッホー!」

 お嬢様気取りのシンディの決意であった。

 つづく。


「いけ! 助手A! 助手B!」

 シンディ小隊長が指揮する小隊。助手はイースとフレッド。

「ええー!? 僕たちが戦うの!?」

「無理無理無理無理無理!? 俺たちの実力で一つ目巨人なんかと戦える訳ないじゃないか!? 向こうのレベルは低く見ても俺たちの10倍はあるぞ!?」

 イースとフレッドのレベルを3とした場合、一つ目巨人のレベルは30を超えていた。

「ガオー!」

 一つ目巨人ギガンテス。またの名をギガースは助手に巨大な棍棒を振り下ろす。

「ギャアアアアー!? 死ぬ!?」

「ウワアアアアー!? 助けて!? お母さん!?」

 完全に良い所なしの助さん格さん状態の二人は吹き飛ばされる。

「もう仕方がないな。私が包帯を巻いてあげよう。」

 優しいシンディは二人に包帯を巻いていく。

「ゴキ!? ボキ!?」

「ブクブクブク!?」

 不器用なシンディの包帯巻きはイースとフレッドの骨を折っていき絶命寸前に追いやられる。

「こいつは私が倒すから、そこで静かに見ていなさい。」

「はい・・・・・・。」

 遂にシンディが動き出す。

「良かったら残り物ですけど、どうぞ。」

 シンディは残り物のカレーをギガンテスに差し出す。

「ガオー!」

 素直にカレーを食べるギガンテス。

「ガオー!?」

 しかしギガンテスの様子が少し変だ。

「ガオー・・・・・・。」

 ギガンテスは地面にうずくまった。

「・・・・・・。」

 そして動かなくなった。

「はい。一丁上がり。アハッ!」

 シンディは一つ目巨人ギガンテスを倒した。

「シンディは、こうやってモンスターをやっつけていたのか!?」

「俺たちは、巨人を一撃で倒すカレーを食わさせられていたというのか!?」

「僕たち、よく生き残っているね。」

「不思議だ!? 奇跡としか言いようがない!?」

「シンディに歯向かうのはやめよう。」

「そうだね。」

 衝撃の真実を知ったイースとフレッド。

「う~ん。体は大きすぎて持って帰れないから、巨人さんの角をもらって帰ろうっと。助手AB、ギガンテスさんの角を斬って。」

「はい。博士。」

「直ぐに斬り落とします。」

 イースとフレッドはシンディを博士と呼び、殺されたくないので忠実に言うことに従うと誓ったのだった。

 つづく。


「そもそも、ここはどこなんだ!?」

「魔界だよ。」

「魔界!?」

「そうだよ。アハッ!」

 シンディたちが一つ目巨人ギガンテスと戦った場所は魔界だった。

「どうやって魔界に入り込んだんだよ!?」

「私たちの孤児院は王都の東京から離れた辺境にあるのね。だから王都の逆に進めば魔界にたどり着くのは自然な流れだと思うのですが? 何か文句ありますか?」

「いいえ!? ありません!」

「シンディ博士! 万歳! 万歳! 万々歳!」

 絶対服従のイースとフレッド。

「ギガンテスを倒せるということは、シンディの闇料理のレベルは40以上だ!?」

「ただ国家騎士を目指してチビチビ雑魚モンスターを倒していた俺たちとはレベルに差があり過ぎる!? 逆らったら殺されるぞ!?」

 シンディ博士の怖さを実感しているのだ。

「さあ、帰るわよ。」

「はい。博士。」

 こうしてギガンテスの角を手に入れたシンディたちは人間界に帰る。


「大変です!? 魔王様!?」

「騒がしい。どうした?」

「一つ目巨人ギガンテスが倒されました!?」

「なんだと!? ギガンテスが!?」

 使い魔が魔王にダーロに報告する。

「バカな!? ギガンテスだぞ!? あのギガンテスが負けたというのか!?」

「はい。」

「やったのは誰だ!? 国家騎士が魔界に攻め込んできたというのか!?」

 魔王ダーロはギガンテス殺人事件の犯人は国家騎士だと思った。

「いいえ。それが・・・・・・。」

 言うのをためらう使い魔。

「どうした!? 早く言え!?」

「小娘です。ギガンテスをやったのは、人間の小娘です。」

「なにー!? 人間の小娘だと!?」

 魔王は一つ目巨人を倒したのが人間の小娘だと知らされた。

「ワッハッハー! 冗談はやめろ! ギガンテスを倒せる、そんな小娘おらんやろう?」

「これを見てください。」

 使い魔は監視カメラの映像を魔王に見せる。

「ゲゲゲッ!? なんだ!? こいつらは!?」

 カメラに映し出されたシンディたちは、一つ目巨人の角を運んでいた。

「ほ、本当に!? こんな人間の子供たちがギガンテスと倒したというのか!?」

 映像に衝撃を受ける魔王ダーロ。

「ゆ、ゆ、許さんぞ! こいつらを生かして魔界から出すな!」

 魔王の一言で苦境に立たされるシンディたちであった。

 つづく。


「いけ! 毒ムカデ!」

「毒ムカデ隊! 行きます!」

 カタパルトから毒ムカデの群れが発進する。

「ドラゴンは出れないの!? 魔王様がカンカンだよ!?」

「まだだ!? ドラゴンの牙がついてないんだ!?」

「なに!? 牙なんて、ただの飾りだろ!? 早く発進準備に入れ!」

 魔界では魔王の命令で慌ただしかった。

「この物語はロボットモノか?」

「人間、魔物をロボット扱いすると面白いかもしれないな。」

「勘弁してくださいよ!? 整備悪魔やメカニック悪魔は大忙しなんですから!?」

「すまない。だが私が行けばいいだろう。人間の小娘など一瞬で消し去って見せよう。」

 整備悪魔たちと会話する指揮官らしき魔物がいる。

「行ってくれるんですか!? アークさん!?」

 通称アークさん。上級悪魔である。

「当たり前だ。魔王様の命令なんだから。」

「なら早くカタパルトに乗れや!」

「ええー!? いきなり!?」

 強制的に発射口に乗せられる上級悪魔アーク。

「ちょっと待て!? まだトイレにも言ってないんだぞ!?」

「問答無用! アークさんを強制発進させろ!」

「はい!」

 ポチッと発射ボタンが押される。

「ウワアアアアー!? ション弁漏れる!?」

 こうしてお漏らしをしたかは定かではないが、アークさんはシンディたちに向けて打ち上げられた。

「メカニックがそんなもん知るか。」

 次々と支援の悪魔を発進させるのであった。

 つづく。


「追手が来る? こんなのは初めてよ。」

 シンディたちに悪魔の追手が次々と襲い掛かる。

「でやああああー!? 死にたくない!? 死にたくない!?」

「うりゃあああー!? 神様!? どうかお助け下さい!?」

 イースとフレッドは迫りくる追手と命がけの死闘を繰り広げている。

「二人ともがんばって! アハッ!」

 高みの見物をしているシンディ。

「シンディ!? おまえも戦えよ!?」

「そうだそうだ!」

「私はおにぎりを作るので精一杯なの。美味しいランチを作るからね。アハッ!」

 戦闘に参加しないシンディはおにぎりを作っていた。

「やめろ!? 毒おにぎり作り!?」

「俺たちは魔物に殺されるのか!? それとも博士の毒おにぎりで殺されるのか!?」

 イースとフレッドの悪夢は終わらない。

「でも雑魚モンスターと戦って少ない経験値をダラダラ集めるより、レベルの高い魔界のモンスターと戦っている方が強くなるのが早いでしょ?」

「そ、そう言われてみれば!? 最初みたいに敵に全く歯が立たないということが無くなってきたような!?」

「確かに!? 確実に昨日の俺より今の俺の方が強いのが分かる!?」

 確実にイースとフレッドは強くなっていた。

「僕たちは強くなっている。」

「あいつも俺たちで倒せるかな?」

 二人の前にガイコツの騎士が現れる。

「無理とは思えない。僕とフレッドの二人なら。」

「一人なら負けるかもしれない。でも俺にはイースがいる。」

 二人の心に炎が灯ろうとしている。

「点火!」

「着火!」

「ハートに火をつけろ!」

 急成長したイースとフレッドの心の炎が燃え上がる。

 つづく。


「うおおおおおー! 燃えろ! 僕の心よ!」

「でやああああー! 吠えろ! 俺のハートよ!」

 イースとフレッドの心が燃えている。

「ガオー!」

 ガイコツ騎士が突進してくる。

「友を守るために! 燃えろ! 僕の友情のハート! 我流剣技! 四連斬り!」

「友との約束を守るために! 吠えろ! 俺の絆のハート! 我流剣技! 大大強振!」

 二人はハートに火をつけてガイコツ騎士に攻撃を加える。

「ガオー!?」

 二人の連続攻撃がガイコツ騎士を粉砕した。

「やったー! ガイコツ騎士を倒せた!」

「俺たちは強い! 強くなっているんだ!」

 自分たちの自己認識が変わる転換期を迎えた二人。

「まだ戦えるか? フレンド。」

「大丈夫だ。ハートは中火で燃やしたから半分はエネルギーは残っている。」

「一緒だな。まだ弱火で戦うには僕たちは弱い。」

「何としても生き残るんだ! 俺たちは!」

 生きるために戦う。何もしなければ死を待つだけ。生き抜くために強くなる。二人が戦うことは必然であった。

「なら俺たちを倒せるかな?」

 そこに毒ムカデの群れが現れる。

「なんだ!? こいつらは!?」

「足がたくさんある!? 気持ち悪い!? オエー!?」

 ムカデなので見た目がグロテスク。

「くらえ! ポイズン・ブレス!」

 毒ムカデが毒を吐いた。

「なんだ!? これは・・・・・・毒だ!?」

「なんだと!? 後退しろ!?」

 イースとフレッドは毒ムカデと距離を取る。

「俺たちに攻撃すれば、傷口からも毒が噴射する。どうだ? おまえたちは攻撃すらできないのだ! ワッハッハー!」

「クソッ!? ここまでだというのか!?」

「もう少しで人間界だというのに!?」

「ジワジワなぶり殺しにしてやる! 人間の分際で魔界に来たおまえたちが悪いのだ!」

 毒ムカデの魔の手が二人に忍び寄る。

 つづく。


「ワッハッハー! 我が毒の前に死ぬがいい! 人間ども!」

 毒ムカデは突進しながら毒を吐き出す。

「避けるのにも限界が!?」

「だといって、こちらが攻撃すれば毒が増える!?」

「いったいどうすればいいんだ!?」

 毒という試練がイースとフレッドを襲う。

「何!?」

 イースの体がフラっとした。

「まさか!? 毒に侵されたのか!?」

「なんだと!? 大丈夫か!? イース!?」

 イースは毒に侵された。

「このままではやられるのを待つだけだ!?」

「最後の攻撃を仕掛けよう! 毒ムカデを倒すんだ!」

「おお!」

 二人は毒で死ぬ前に毒ムカデを倒す気だ。

「かかってこい。動けば動くほど毒の周りは早くなるぞ。」

「いくぞ! 毒ムカデ! でやああああ!」

「うりゃあああー!」

 二人は毒ムカデに攻撃を仕掛ける。

「くらえ! ポイズン・ブレス!」

「我流剣技! 四連斬り!」

「我流剣技! 大大強振!」

 毒ムカデと二人の戦いが始まる。しかし戦いが長引けば長引くほど毒は二人の体を蝕んでいく。

「ゲホッ!? 吐血!?」

「ダメだ!? 俺も体に毒が回ってきやがった!?」

 もう二人の体は毒に侵されて動くこともできない。

「どうやら毒が効いてきたようだな。お腹も空いてきたし、おまえたちが死んだら美味しく食べてやるぜ。ワッハッハー!」

 勝利を確信した毒ムカデ。

「僕たちはここで終わるのかな?」

「短い人生だったけど楽しかったな。イース、おまえと友達になれて本当に楽しかったぜ。ありがとうよ。」

「どういたしまして。フレッド、おまえは僕の大切な最後の友達だ。」

 イースとフレッドは親友同士の最後の言葉を交わす。今まで一緒に孤児院で育ってきた長い月日が走馬灯のように思い出されてくる。

「悔いはあるが、満足な人生だ。」

「ミー、チュウ。」

 これから毒で死のうというのにイースとフレッドは満足な表情をしていた。

 つづく。


「あ、美味しそうなおにぎり。」

 道におにぎりが転がってきた。

「いただきます!」

 パクッと毒ムカデは食べました。

「・・・・・・。」

 毒ムカデは天に召されました。

「やったー! 私の勝ちね! アハッ!」

 シンディは毒ムカデを倒した。

「んんな、アホな・・・・・・。」

「毒に強い毒ムカデを倒す、おにぎりってどんなおにぎりだよ・・・・・・。」

 イースとフレッドが倒せなかった毒ムカデをシンディは毒おにぎりで倒した。

「私、ポイズン・ドラゴンを倒したことあるよ。その時にポイズン・ドラゴンの最強に強い毒を手に入れたんだな。毒ムカデなんて目じゃないぜ! アハッ!」

 大きなおにぎりを作ってポイズン・ドラゴンの喉を詰まらせて呼吸困難で倒したのだった。

「はい。毒消し草を飲ましてあげよう。」

 シンディはイースとフレッドに毒消し草を飲ませた。

「い、生き返る・・・・・・。」

「助かった・・・・・・って、毒ムカデにも毒消し草をやれよ。」

「ワッハッハー!」

 イースとフレッドはかろうじて生き返り危機を乗り切った。

「さあ、みんなで帰ろう。」

「ああ。人間界へ。」

「助手のみなさん、ギガンテスの角を持って帰るの忘れないでね。」

「重い・・・・・・。」

 瀕死の重傷の二人だが博士の命令では従わない訳にはいかなかった。

「ガオー!」

「ドラゴンだ!?」

 そこに凶悪そうなドラゴンが現れる。

「終わった・・・・・・僕の人生はここで終わる。」

「ドラゴンなんかに勝てるわけがない!?」

 イースとフレッドは絶望した。

「コロコロ。」

 その時、おにぎりが道端に転がって来る。

「美味しそうなおにぎり。パクッ。」

 ドラゴンはおにぎりを食べた。

「グワア!?」

 ドラゴンは苦しみだした。

「・・・・・・。」

 そして天に召された。

「諦めなければ何とかなるもんよ! アハッ! アハッ! アハッ!」

 シンディは得意の引き笑いを魔界に響き渡らせる。

「マジか!? これでいいのか!?」

「おいおい!? おにぎり最強伝説の始まりかよ!?」

 二人は剣でも魔法でもない、おにぎりに恐怖した。

 つづく。


「おにぎり~、コロコロ~。アハッ!」

 シンディは無傷で人間界に戻ってきた。

「おにぎり~コロコロ~。・・・・・・。」

 イースとフレッドはおにぎり・コロコロの掛け声を歌の様に歌わされながら、重たい一つ目巨人のギガンテスの角を運びながら帰ってきた。

「重い!? こんな角何に使うんだよ!?」

「削ってお味噌汁に入れるの! アハッ!」

「はあっ!?」

「鰹節かよ!?」

 何のための苦労なのかと、力が抜ける二人。

「おいー! 神父様!」

「おお! シンディ!」

 シンディたちはミッキー神父のいる孤児院まで帰ってきた。

「それとお供の二人も、良く帰ってきたな。」

「ただいま・・・・・・。」

「どうせ俺たちはお供ですよ・・・・・・。」

 二人に元主役の輝きはなかった。

「神父様、イースとフレッドは情けないんですよ。何回も死にかけて。おかげで私の毒消し草が無くなっちゃいました。私、疲れたので休んできますね。」

「ああ、ゆっくりしといで。」

 シンディは自分の部屋に帰った。

「まったく情けない。それでもおまえたちは男か?」

「女に見えますか?」

「シンディが強すぎるんだよ!?」

「文句ばかりで本当に情けない。シンディは今まで一人で魔界に貴重な食材を収穫しに行っていたんだから、おまえたちと経験値が違うわい!」

 イースとフレッドは二人で一人なので、得た経験値は山分けの半分こ。逆にシンディは一人旅のソロプレイヤーなので得た経験値は一人勝ち。レベルアップが早いのも当然である。

「当たり前だ。おまえたちがチャンバラごっこしている間に、あの子は一人で魔界に行って戦っていたんだからな。おまえたちとは過ごした時間の過酷さが違うのだよ! おまえたちとは!」

「チャンバラごっこ・・・・・・。」

「ガーン・・・・・・なんも言えねえ。」

 成長の糸口を初めて知ったイースとフレッドであった。

 つづく。


「やっとたどり着いた。」

 孤児院に上級悪魔のアークが現れる。

「誰だ!? おまえは!?」

「私はアーク。魔界からの追手の上級悪魔だよ。」

「なに!? 上級悪魔!?」

 イースとフレッドは上級悪魔と聞いて戦慄を覚える。

「ああー!? あなた様は!?」

 アークはミッキー神父を見て驚愕する。

「言うでない。アークよ。私はここではただの神父だ。」

 ミッキー神父は上級悪魔に釘を刺す。

「ははあ!」

 緊張した面持ちで素直に従うアーク。

「どうして人間界なんぞに居られるのですか!? あなた様が!?」

「私は孫を育てているだけのただの隠居したおじいちゃんだ。」

「孫? まさか!? あなた様のご子息家族は交通事故でお亡くなりになったはずではありませんか!?」

「違う。あれは当時、大臣をやっていたダーロに謀られたのだ。」

「なんですって!?」

 初めて知る事実に衝撃を受けるアーク。

「私は間一髪の所で孫を救い出し、孫を守りながら、強い娘に育てることに成功したのだ。さっきもギガンテスを一口で葬り去ってきたぞ。」

「ええー!? ギガンテスを倒したのは、あなた様のお孫様でしたか!?」

 ミッキー神父と上級悪魔アークのミステリアスなトークが繰り広げられる。

「話がよく分からん。神父は上級悪魔とお友達なのか?」

「孫って、シンディのことか? って、やっぱり実の親子じゃねえか!?」

 ちんぷんかんぷんな二人。

「おい、イース、フレッド。」

「なんだよ? 神父様。」

「こらー!? おまえたち!? 神父様に何という口の利き方だ!? 殺されるぞ!?」

 血相を変える上級悪魔。

「良いのだ。こいつらも私の孫みたいなものだ。無礼な口の利き方はいつもどおりだ。」

「ははあ! 失礼しました!」

「そうだ。アークよ。こいつらは孫の盾となる国家騎士になるべく育て上げた。試しに戦ってくれないか?」

「はい? 私がですか? いいんですか? 極限上級悪魔魔法で一撃で吹き飛びますが?」

「構わない。その時はその時だ。死んだら暗黒騎士にでも育てよう。」

「こらー! 勝手に殺すな!」

「俺たちに人権はないのか!?」

「分かりました。戦いましょう。」

 こうしてイースとフレッドは上級悪魔アークと対決することになった。

 つづく。


「フレッド、僕たちはあいつに勝てるかな?」

「何事もやってみないと分からない。負けたら暗黒騎士になって化けて出てやる。」

 イースとフレッドは上級悪魔アークと戦う覚悟を決めた。

「イース、フレンド。おまえたちは強い。そのことにまだ自分自身が気づいていないだけだ。自信を持ちなさい。自分を信じるだ。」

「はい。神父様。」

 二人はミッキー神父から心強い言葉をもらう。

「自分を信じろか。」

「俺たちは強い。」

「いくぞ! フレンド!」

「おお! 俺たちは強い! 信じる者は救われるだ!」

「点火!」

「着火!」

 二人は自分たちは強いと心に火をつける。

「グサッ!」

 その時、二本の剣が地面に突き刺さる。

「剣!?」

「これは!?」

「ギガンテスの角から作った、ギガンテスの剣よ。」

「シンディ!?」

 そこにシンディが現れる。彼女は部屋に閉じこもって魔界から持ち帰ったギガンテスの角でイースとフレッドのために剣を作っていたのだった。もちろんシンディの部屋は誰も立ち入り禁止である。見た者には死を。

「さすが我が孫だ。鍛冶屋の才能もあるとは。アハッ!」

「だって神父様の孫だもの。アハッ!」

 似たもの血族。

「すごい!? 力が漲ってくるようだ!?」

「ギガンテスの角の剣なんて、伝説の剣みたいなもんだろう!?」

 仮に二人の攻撃力が50としても、ギガンテスの剣を装備すると攻撃力はプラス200はされる。

「これなら上級悪魔に勝てるかもしれない!?」

「いや! 必ず勝てる! 絶対に勝つんだ!」

 二人のハートの炎が燃え盛る。

「なめるなよ! 人間! 食らうがいい! 上級悪魔の放つ魔界の稲妻を! アークデビル・サンダー!」

 極大の稲妻が二人を襲う。

「ギャアアアアー!?」

 稲妻が二人を直撃した。

「んん!? 無事だ!? 生きてる!? なんともないぞ!?」

「剣だ!? ギガンテスの剣が避雷針の役割を果たしてくれたんだ!?」

 恐るべしギガンテスの剣の特殊能力。上級悪魔の稲妻に充電させた。

「そんなバカな!? 私の稲妻が防がれたというのか!? 信じられん!?」

 上級悪魔は今起こっている現実が理解できなかった。

「いける! これなら! あいつを倒せるぞ!」

「やるぞ! イース!」

 戦況が二人に自信を与えてくれる。

「ギャアアアアー!?」

 上級悪魔はイースとフレッドの反撃を受けた。

 つづく。


「はあ・・・・・・はあ・・・・・・危なかった!? こいつらがギガンテスの剣を操ることができなかったので直撃がなかったのが幸いだった。」

 上級悪魔アークはかろうじて生き延びた。

「コロコロ。」

 その時、おにぎりが転がって来る。このおにぎりは二人には見えていない。

「あ、美味しそうなおにぎりだ。パクッ。モグモグ。」

 アークはおにぎりを食べた。

「ウッ!? 毒が!? バタッ。・・・・・・。」

 返事がない。ただの屍のようだ。 

「や、やったー! 僕たちが上級悪魔を倒したぞ!」

「やればできる! やればできる! やれば俺たちなんかでも上級悪魔を倒せるんだ! わーい!」

 イースとフレッドは大満足であった。

「みんな! ご飯ができたわよ! 今日のおかずはすき焼きよ!」

 そこにシンディが満面の笑顔でやって来る。

「嫌だ!? 死にたくない!? 毒すき焼きに違いない!?」

「悪魔だ!? シンディは悪魔に違いない!?」

 二人は大急ぎで逃げだした。

「どこにそんな力が残っていたんじゃ。」

 思わずミッキー神父は二人に呆れる。

「安心して! 毒消し草入りよ! 美味しいすき焼きよ! アハッ!」

 いつもの平和な日常が戻ってきた。

「これのどこが平和だ!?」

「ミー・チュウ!」

 イースとフレッドが国家騎士になる日は来るのだろうか?

 終わる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

おにぎり・コロコロ 渋谷かな @yahoogle

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る