も~っと! 2-3「……本当に、学級委員タイプだな」

 再雇用魔法少女ミッドナイトリバイバルとの邂逅から、数時間後。


 わたしたちはいつもどおり、百合紗ゆりさの部屋に集まっていた。



 キューティクルチャーム三人と、ディアブルアンジェ三人。それに妖精二人。


 そこでわたしたちは、いまいち状況の呑み込めていないディアブルアンジェ勢に、これまでの経緯を説明する。



 魔法乙女隊エターナル∞トライアングルのこと。


 そのときの活動が、風仁火ふにかさんたちにとって不本意だったこと。


 だからこそ、風仁火さんは再び魔法少女になったこと。


 そして――彼女たちが、魔法連盟アルスマギカと敵対するつもりだってこと。



「ミッドナイトリバイバルカンパニー……キューティクルチャームの、第八十九番目の敵組織ってことだよね」



 雪姫ゆきひめがごくりと喉を鳴らしながら、その言葉を告げた。


 第八十九番目の敵組織――風仁火さんとパオンが、か。



「……雪。敵認定はもう少し、保留できないか?」



 缶ビールをグビッと呑みながら、薙子なぎこがいつになく弱気な口調で言う。


 っていうかあんた、真っ昼間からお酒呑んでんじゃないわよ。



「薙ちゃん。気持ちは分かるけど……相手は魔法少女システムを破壊しようとしてるんだよ? さすがに現役魔法少女として、それは看過できないでしょ?」


「お前の言いたいことは、分かる。だけど、あたしは……どうしても、風仁火さんを『敵』だと思えない。思いたく、ないんだ」



 ググッと、空になった缶ビールを握り締めて。


 薙子は俯き気味に、辛そうな声を上げた。



「……直属の先輩だもんね。薙子にとっては」



 風仁火さんは、あんなぶりっ子キャラだけど、誰よりも面倒見のいい人だった。


 わたしや雪姫だって、『引き継ぎ』を受けるときにどれだけお世話になったか、考えはじめるとキリがない。



 同じ『剣』の魔法少女である薙子なら――なおさらだ。



「ほのりは……風仁火さんの言ってること、間違いだと思うか?」


「思わないわよ。聞けば聞くほど、魔法連盟アルスマギカの方がクソだと思い知ったし……どちらか選べって言われれば、ミッドナイトリバイバルカンパニー側だって即答できるほどだね」


「な、なんてこと言うにょろか、ほのーり! 魔法連盟アルスマギカは清廉潔白。いつだって世界の平和のためにミーたちをサポートしてくれる、まさに神のような存ざ――」



 話の途中でニョロンの尻尾を掴むと、わたしは思いきりよくジャイアントスイングを決めて、窓の外目掛けてぶん投げた!



「うわああああ!? 自分ちの窓ガラスがぁぁ!? 何してくれてんすか、ほのりさん!」


「ごめんね、百合紗。ちょっと発作が起きたっていうか……」



 わたしはため息をつきながら、再び薙子の方へと視線を向けた。



「ま、こんな感じ。ニョロンはムカつくし、魔法連盟アルスマギカも信用してない。これが有絵田ありえだほのりの、正真正銘マジな気持ちよ」


「……じゃあ、お前は風仁火さんの方につくのか?」


「ううん。わたしは、風仁火さんを止めるよ」



 きっぱりと。

 わたしは全員に聞こえるような声で、告げた。


 薙子が顔をしかめて、「……どうして?」って小声で尋ねてくる。



「それはきっと……わたしが学級委員タイプだからだよ」



 薙子がよく、わたしのことをそう表現するけど。


 マジでそうなんだよなって、今すっごく感じてる。



「どんなに不満があったってさ。どんなに理不尽だってさ。規則は規則だって、考えちゃうんだよねわたしって。だから……非合法なやり方は、見過ごすことができない。もしも魔法連盟アルスマギカを変えたいって思うんだったら、まずは話し合って少しずつ規則を変えていくとか、そういうんじゃないとさ」


「ほのりん……」



 雪姫が呆れたように、だけどなんだか楽しそうに、わたしの顔を見てくる。


 薙子もまた、深いため息をついて苦笑した。



「……本当に、学級委員タイプだな。お前は」


「できればこんな損な性格、変えちゃたいんだけどね」


「もう、無理だろ。お前は一生、そのままだよ」


「放っといてよ、ばーか」



 そう言って、わたしと薙子は笑い合う。雪姫もつられて、一緒に笑う。


 そんなわたしたちを見て、もゆと百合紗も顔を見合わせて笑った。



「正直、先代の大先輩と戦うのは、心苦しいのですが……ほのり先輩の言うとおり、もゆたちは正義の戦士として、正しい道を示して差し上げなければいけないのですね」


「ま。自分はもゆと一緒なら、どんな相手だって戦ってやるっすよ。直射日光を浴びすぎない範囲でなら」



 わたしたち五人の心が、ひとつになる。


 ガブリコも、うんうんと頷く。ニョロンは、窓から落ちたから不在。



 ……まったくもって、損な役回りだとは思うよ。


 魔法連盟アルスマギカのためっていうのも、なんか癪だしさ。



 だけど、わたしは――自分の正義を貫くため、戦うしかないんだ。



「――ねぇ。キューティクルチャームやディアブルアンジェと、ミッドナイトリバイバル。どっちが強いわけ?」



 急に別な角度から、予期しない質問が飛んできた。


 質問の主は、先ほどから腕を組んだまま難しい顔をしている、カチューシャ姿の娘――雛舞ひなむ



「真っ向勝負で戦ったとき、どっちが勝つ可能性が高いのか。うちはそれが気になってるんだよね」


「そりゃあ、こっちの方が数も多いし。いくら相手が風仁火さんとはいえ、さすがになんとか勝てるとは思うけど……?」


「じゃあ、あなたがリバイバルイーターと、一騎打ちしたとしたら?」



 風仁火さんとわたしが、一騎打ち?


 何その、考えただけでもぞっとしちゃうシチュエーション。



「風仁火さんはブランクがあるし、わたしは現役だから、昔よりはマシな勝負になるんじゃないかとは思うけど……結構厳しいかもね」


「ブランクがあっても、そんなに強いわけ? あの人」


「当たり前だ。なんたって風仁火さんは、最強の魔法少女チーム・エターナル∞トライアングルの一人。そう易々と、勝てる相手じゃない」



 ぐいぐい食い下がってくる雛舞に向かって、薙子がちょっと苛立たしげに答えた。



「ふーん。そう。そっか……」


「ヒナリア。そんなことを聞いて、一体どうしたというのですか?」


「べっつにー。おちびちゃんには、関係ないことだよ」



 そう言って、再び黙り込んでしまう雛舞。


 うーん。ミッドナイトリバイバルカンパニーの出現でちょっと陰を潜めてたけど、この子への引き継ぎも、かなりの難題なんだよなぁ。



 まったく、この頂点娘は――何を考えてんだか。

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