も~っと! 1-5「二十代半ばが『だお』って言った!!」
就任当時、二十代だったお母さんと
ちょうど今、二十代中頃になったくらいってとこかな?
魔法少女当時に比べると、少し痩せたかなって気はするけど……体型はぽっちゃりしていて、丸顔なところも変わってない。
そんな風仁火さんは――髪を黄色に染めて、ツインテールに結い上げている。
水色のカラーコンタクトを入れて、白いロリータファッションに身を包んで、意味もなく花の入ったカゴを片手に持っていて。
ちょっと……というかかなり、痛い。年齢も考えると、ヤバい。
まぁ、そういう『可愛さ』にこだわるところは昔からだから――相変わらずって感じなんだけどね。
水晶玉を取り上げられた地獄コックが撤退したので、わたしたちの今日の魔法少女活動は終了。
「もゆ、百合紗、雛舞。あとガブリコも……今日のところは、ここで解散ってことにしてもらえる?」
「えー、なんで? これからうちの、魔法少女の設定をやるんじゃないの? うち、早く魔法少女になって、トップに立ちたいんだけど!」
ぶーぶーと文句を言う雛舞ちゃん。
まぁその気持ちは嬉しいんだけど……ごめんね。
今日のところは申し訳ないんだけど、わたしたちだけにしてほしいんだ。
なんたって今日は――風仁火さんとの、再会記念日なんだから。
「まぁまぁ。慌てなくても、いずれ魔法少女の設定は行うにょろよ。もーゆとゆりーさも、そんな顔しないで、今日のところは帰るにょろ」
「もゆは絶対、リーダーを譲ったりなんかしないのです! 近いうちにきっと、もゆの実力の違いを分からせてやるのです!!」
「そうっすよ。ディアブルアンジェのリーダーは、もゆしかいないっす。
「ふん! そっちこそ、うちのことを甘く見ないでほしいよね。うちが魔法少女のトップに燦然と輝く姿を、絶対見せてやるんだから!!」
「ほら、ガブリコ。きちんと三人をまとめるにょろよ。妖精たるユーが、そんなことでどうするにょろか!」
「は、はいがぶ!!」
相変わらず後輩には強気だな、この化け蛇。
そんなこんなで、わーわーと騒がしかった三人は、ガブリコに急かされる形で帰路についた。
残されたのは、わたしと
「じゃあ、ミーもここで失礼するにょろよ」
風仁火さんのことをちらっと見ながら、ニョロンは言った。
「先代と現役で、積もる話もあるだろうにょろからね。ゆっくりしてくるといいにょろ」
ニョロン……。
空気読めるじゃん。ついてこようとしたら、ぶん投げて気絶させてでも置いていこうと思ってたんだけど……ありがとう、気を遣ってくれて。
「ほのり。雪姫。薙子」
そうして、わたしがニョロンを少しだけ見直していると。
風仁火さんがにっこり笑って、曲がり角の向こうを指差した。
「じゃあ、お話はお店に入ってから……ってことで!」
そうして風仁火さんに連れてこられたのは、まさかの居酒屋だった。
居酒屋! 高校生を連れて居酒屋!!
「あ。すみません、生ビールください」
ちょっと戸惑ってるわたしと雪姫を尻目に、当たり前のようにお酒を注文する薙子。
いや。まぁ成人してるんだし、好きにしていいけどさ。
「ふーちゃんはぁ。カルーアミルクでお願いしますぅ」
その隣でぶりっ子ポーズを決めながら、首をかしげつつ注文をする風仁火さん。
ふーちゃんて。
二十代半ばにもなって、自分のことを愛称で呼ぶとか……相変わらずだなぁ、この人は。
まぁ、それはそれとして。
わたしと雪姫のソフトドリンク、薙子と風仁火さんのお酒が揃ったところで……乾杯!
「それにしても風仁火さん、久しぶりですねっ★」
「本当に……あたしも、会えて嬉しいです」
「就職して以来、初じゃないですか?」
「うん、そーだね! 仕事が思ったより忙しかったからね……みんなのことは気になってたんだけど、顔を出せずじまいだったんだお!!」
あ、「だお」って言った! 二十代半ばが「だお」って言った!!
それは魔法少女時代からの、風仁火さんの口癖。
てっきり一過性の中二病的な感覚で使ってるんだとばかり思ってたけど……どうも骨の髄まで、風仁火さんのキャラクターとして染みついてるみたいだ。
「あ。すみません、生のおかわりを」
早々と薙子が、追加注文をしはじめた。
「呑むペース速いな、あんた。また酔っ払って、甘え上戸になっても知らないわよ」
「うるさいな。風仁火さんと久しぶりに会えたんだから、たまにはいいだろ。なんたって風仁火さんは、あたしの師匠なんだから」
「あはー。そう言われると照れちゃうけど……どうせなら師匠より、『お姉様』とかにしてほしいお?」
頬に指を当てながら、きゅるんとした瞳で風仁火さんが言う。
年甲斐もないポーズだとは思うけれど……薙子はそんな変わらない風仁火さんを見て、なんだか嬉しそう。
そうだよね。なんたって風仁火さんは、薙子の直属の先輩――『三種の魔器』の剣を引き継いだ人なんだもん。
キャラ的にはどちらかというと、雪姫の方が近い気がしないでもないけど。
薙子に戦い方とか、魔法少女のなんたるかを教えたのは、他ならぬ風仁火さんだ。
というか正確には……適当なお母さんや、殺気バリバリの塔上先生から教わるのは容易じゃなかったんだよね。
だから三人とも、風仁火さんには相当お世話になったっけな。
キューティクルチャーム全体にとっての、師匠みたいな存在。
「にしても、キューティクルチャームの現役期間は、随分長いお。もう九年目だお? ふーちゃんたちの倍近く働いてるんだもん。本当に、偉いおー」
「あはは……別に好きでやってるわけじゃないんですけどね」
わたしが笑いながら返事をすると、風仁火さんの顔がさっと曇った。
あ、やばっ。わたしは自分の失言に気付いて、ちょっと肩を縮こまらせる。
風仁火さんは魔法少女に対して、誰よりも真剣な人なんだった。
だからこそ産休・育休でチームに穴を開けたお母さんや、バイオレンスかつやる気皆無な塔上先生を許せなくって。それでケンカに明け暮れていたわけで。
「……ねぇ、ほのり。魔法少女は、楽しい?」
風仁火さんが、表情を曇らせたまま、尋ねてくる。
「ふーちゃんの分まで……熱意を持って取り組んでくれてる?」
もちろんです――なんて、嘘をつきかけて。
わたしはグッと、言葉を呑み込んだ。
嘘を伝えて風仁火さんを喜ばせることは、簡単だけど。
それじゃああまりにも、わたしたちを一生懸命導いてくれた先輩に対して、不誠実だと思ったから。
だから、わたしは――風仁火さんのことをまっすぐに見据えて、はっきりと言う。
「……いいえ。熱意なんて、とっくの昔に消え去りました。魔法少女なんて、今すぐ辞めたいです」
「…………そっか」
そう呟く風仁火さんの顔は、なんだか寂しそうで。
かつて希望に満ち溢れながら、エターナル∞トライアングルのバトンを受け取った自分が頭をよぎり――なんだか胸が、ズキリと痛かった。
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