魔法少女ほのりは今すぐ辞めたい。~今すぐ辞めたいアルスマギカ~

氷高悠

魔法少女ほのりは今すぐ辞めたい。~今すぐ辞めたいアルスマギカ~

魔法少女ほのりは今すぐ辞めたい。~今すぐ辞めたいアルスマギカ~

 わたし、有絵田ありえだほのり。


 十七歳、高校三年生。


 ごくごく平凡な女の子だったんだけど、ひょんなことから妖精ニョロンに選ばれて……魔法少女、やってます!



 ――――八年もな!!



 八年……それは小学四年生だったわたしが、大学受験を考えはじめるくらい長い期間。



 小学生が着てて可愛かった服は、もはやただのコスプレ衣装。


 小学生が喋って可愛かったセリフは、ただの痛々しい戯れ言。



 いや、ほんと。


 こんな嫌な役回り、今すぐ辞めたいんだよ。マジで。



 だけど、わたしたちを魔法少女にした異世界――魔法連盟アルスマギカは、そんなの認めやしねぇ。


 妖精とは名ばかりの、見た目化け物なニョロンに指示されて、泣く泣く変身する日々。



 そうこうしてるうちに、倒した悪の組織は八十五。


 昔は最強の敵みたいな奴もいたんだけど、最近はほんっとうにどうしようもない奴らばっかりだ。



 たとえば――最近倒した八十五番目の悪の組織『㈱エビルランジェリー』。



『世界中の女性を辱める』――そんなどうしようもない理念を掲げて、服からタグを露出させたり、水をかけて下着を透けさせたり、スカートの中を盗撮しようとしやがった。


 ……ね? 警察の仕事でしょ、これ。



 そんな変質者集団に騙されて、わたしもちょっとばかしメンタル追い詰められそうになったんだけど。


 みんなで力を合わせて、ぶっ潰してやったってわけ。



 みんな――ってのは、わたしと同じ『南関東魔法少女』たち。


 南関東魔法少女の管轄は、東京の二十三区外と、千葉・埼玉・神奈川。


 二十三区については、東京二十三区魔法少女『TKY23』が管轄してる。

 いいよな、アイドル売りしてもらえる奴らはさぁ。



 まぁ、それは置いといて。


 わたしが所属してるのは、『魔法少女キューティクルチャーム』。

 キュートでチャームな魔法少女よ。


 ……キューティクルの意味は、「キュート」じゃなくて「毛髪」だって?


 知ってるわ、ばーか!



 それから、『三種の魔器まき』って呼ばれる勾玉・鏡・剣を模した魔器が、わたしたち三人の変身アイテム。


 ……勾玉だけダサいって?


 知ってるっての、ばーかばーか!!




 勾玉の魔法少女――チャームサーモン。


 眼鏡っ娘で、学級委員長タイプなぱっとしないわたし、有絵田ありえだほのりが変身するわ。


 魔法の洗剤スプレー『マジック☆凛々りんりん』から、火やら水やら散布しながら、今日も地球の平和のために頑張ってる。


 偉いよね。偉すぎない、マジで?




 鏡の魔法少女――チャームパウダースノウ。


 金髪ゆるふわヘアの幼なじみ、同級生の雪姫ゆきひめが変身するわ。


 魔法の白熊ぬいぐるみ『しずねちゃん』を召喚して、敵を容赦なくぶん殴らせる戦法が得意ね。本人は戦闘中でも、メイク崩れを気にするような女の子だし。


 いや、違うな――『男の』だった。



 雪姫ゆきひめ光篤みつあつって名前の性別♂は、なぜかノリノリで魔法『少女』として戦ってやがる。




 剣の魔法少女――チャーム番長。


 さらさら黒髪ロングの幼なじみ、新寺しんでら薙子なぎこが変身者。年齢的にはちょうど二十歳。


 魔法の鉄パイプ『巌流武蔵がんりゅうむさし』を振り回して、敵を容赦なくぶん殴っていくのが好きね。あれ、これさっきも似たようなこと言った気がする……。



 余談だけど、薙子の奴はサボり魔だから、半分以上は出動してこない。


 わたしだってサボりたいのに――自分ばっかサボりやがって、畜生!




 チャームサーモン。チャームパウダースノウ。チャーム番長。


 こんな愉快な名前の三人組、魔法少女キューティクルチャームは、今日も現役魔法少女としてくっだらない悪の組織と戦ってる。



 わたしたちが辞める方法は、二つ。



 ひとつは、三人の後継者となる魔法少女を見つけること。


 もうひとつは、化け蛇妖精ニョロンを蒲焼きにして食べること。



 どちらかというと蒲焼きの方が早いんだけど……取りあえずは仕方なく、後継者探しに勤しんでるってわけ。



 今のところ見つかってる後継者は、勾玉の戦士だけ。


 鈴音りんねもゆ。


 中学一年生の彼女は、わたしの弟の同級生にして、どうしようもない中二病だ。



殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェ』のリーダー、ノワールアンジェに選ばれて、わたしたちと一緒に戦ってくれてる。


 最初は、それはそれは小生意気な奴だったんだけど。


 今ではわたしたちの、可愛い後輩ちゃんよ。



 ちなみに、魔法のオッドアイ『夜光虫』は、金色の右目から様々な強力魔法を使用できるとんでもない代物。


 もう、こいつ一人でいいんじゃないかな? マジで。





 ――前置きが長くなったわね。


 とにかく、魔法少女キューティクルチャームの三人と殲滅魔天ディアブルアンジェの一人が、南関東のしょぼい敵と戦いながら、残りの後継者二人を探してるってのが、ここまでの流れ。



 次の相手は――八十六番目の敵組織『パンダさんジャイアント』。



 もう名前だけでやる気なくなるんだけど。


 まぁ仕方ないから――行くよ。雪姫、薙子、もゆ。


 殲滅魔天の残り二人を見つけるまで、涙を堪えながら、わたしは戦うんだ。




 ――ああ。


 でも、そうは言うけどさぁ。


 本当のところは……心から。マジで。




 魔法少女なんて――今すぐ辞めたい。

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