面白い部屋

駄伝 平 

面白い部屋

面白い部屋



 これは私の大学時代の先輩、フナキさんから聞いた話です。


 フナキさんアパートやマンションの管理会社に勤めていて、主に不動産屋の下請けでアパートやマンションの管理をし、バンに乗って東京の3区分を担当しています。例えば電気配線がおかしい時や給湯器が壊れたときや換気扇が壊れた時に修理したり、修理できない場合は交換をしたりする仕事です。

 私はフナキさんと半年に一回のペースで彼の家に行く仲で、遊びに行くと奥さんの美味しい手料理を振る舞ってくれて、長男も私に懐いてくれてとても居心地のいい場所なんです。だけど一番の楽しみはフナキさんの仕事で体験した話が面白い。この事を私とフナキさんで「おもしろい部屋」と言っていました。


 例えば、リビングの電気が蛍光灯を変えてもつかない。壊れてる。と呼ばれて行くとそこには40代の奥様。配線がおかしいのかなと調べていると、奥さんがトイレに行ってきますと言ってトイレへ。フナキさんは色々調べたら電気配線も蛍光灯も問題なかった。種火が壊れていただけ。「奥さん、種火が壊れているだけで問題ありませんよ」と振り返ったらその奥さん素っ裸だったそうです。

「もちろんなにもしてないよ。軽く挨拶して直ぐに帰った。本当だよ!」

 フナキさんの奥さんが隣にいたから嘘をついているのかもしれないと私は思いました。

 他にも、浴室の換気扇が壊れたので呼ばれドアをノックすると30代の背の高く色黒でいかにもヤンチャそうな青年が出てきて修理するために部屋に入ると壁一面隙間なく某アイドルの全て同じの顔真が貼られていたり。

 お湯が出ないと呼ばれた高級マンションでは、モデルのようなキレイな女性だったんですがね、部屋に入るとゴミが散乱し悪臭を放つ部屋だったりと。


 いい趣味とは言えませんがフナキさん人の家に行き他人の生活を覗き見をするのが大好きみたいで、それはもう好きな映画や好きな漫画を語るように、しかも楽しく話れます。

 いつも話が始まると奥さんはいつも呆れた表情をして座っていました。

 私はというとフナキさんに似ているようで。とても楽しく話しを聞いているのでフナキさんも喜んで話れた。

 それから特に理由は無いが2年ほどフナキさんと疎遠になりました。別に喧嘩したわけでもないし、年賀状は毎年届くし。


 そんなある日の事、偶然、街でフナキさんと再会しました。

「ひさしぶり!元気してたか? 少し痩せたな。ちゃんと食ってるか? これから飯でも食おう」

 私とフナキさんは居酒屋に行きました。2年ぶりとの事でお互いの近況を話し合ったんです。

 フナキさんは2年前に第二子が生まれたそうで、iPhoneでカワイイ女の子の写真を見せてくれました。

 フナキさんが元気そうで良かったと思う半面、なんだかいつもと違うんです。

いつもなら開口一番に訪問した変わった部屋の事を楽しそうに話すのですが、まあ2年ぶりですから募る話も多いのであまり気にしませんでした。

 でも私としてはいつもの「おもしろい部屋」の事が聞きたくてうずうずしていました。


 2時間ほど経った頃そろそろ話のネタも無くなり、このままだとお開きになるだろうと思った私は「おもしろい部屋」の事をフナキさんに聞きました。


フナキさんの顔が強張りました。

何拍かの沈黙の後、フナキさんが口を開きました。


 あれは2年前のクリスマスイブの事です。

 フナキさんは毎年有給を使いクリスマスイブから年始の仕事始めまで休んで、クリスマスイブには子供とその友人たちとクリスマスパーティーをして、それが終わると奥さんの実家がある群馬で過ごすそうです。

 パーティー準備の最中携帯が鳴った。画面を観ると社長からだ。嫌な予感がした。というのもこの社長はとてもいい人で社員にもパートにも腰が低く人望も厚く皆に好かれるタイプの人間なんだが有給を取っているにも関わらず忙し時には、平気で仕事に出てくれていう人らしいです。

 有給中なんだから断りたいのだが、社長がいい人過ぎて断るとこちら側が悪い事をしたような気になるので厄介だ。無視するのが一番だと考えてiPhoneを放ったらかしにしていたのだが2回目3回目5回目としつこい。電話に出るだけ出て断ろうと思って電話に出たそうです。

「フナキちゃんごめん。有給中に本当にごめん」

「なんですか?いま有給中です。仕事なら今日はお断りします」

「いや、フナキちゃん頼むよ。年末だから仕事が多くて手が回らない。それに現場は会社から車で5分程度で近いし、換気扇が壊れたらしい。換気扇の交換なんてスグに終わるでしょ?それに今日の日給分を全額は払うし、今回の有給も消化しないで残すから」


 さすがのフナキさんも迷った。フナキさんの奥さんのお腹には第二子がいる。

金銭的に苦しんでいないが、余裕があるとは言えない。それに現場は近いし社長には日頃お世話になっている。

「わかりました。この一件だけですよ」

 フナキさんは奥さんに事情を説明し、コートを着込み自転車にまたがり会社に向かった。家から会社まで自転車で10分。作業用に使うバンに新しい換気扇をいれて現場へ向かった。社長の言う通り車で普通に行けば5分だが渋滞していたため15分で現場についた。

 そこは目視では何階建てなのか分からないほど背の高いタワーマンション。

オートロックで部屋番号を押すと「管理会社の人ですね」というとドアのロックが解除された。どことなく高く若い声だった。


 部屋は最上階の20階にあった。フナキさんは小脇に新しい換気扇を抱えながらドアをノックすると男が出てきた。年の功は40代後半から50代中頃、中肉中背、白髪染めをしているらしく生え際は少し白かった。ジョン・レノンがかけてそうな小ぶりの丸メガネにグレーのカーディガンその下に黒いTシャツ、下はチノパン。会社で言ったら管理職ではないかと思ったそうです。

「どうも、忙しい中すみません。どうぞお入りください」

 とても丁寧な言葉づかいだ。フナキさんの経験上、予定より遅れて来た場合、しかも中年男性は苛立ったり、中には怒鳴る客もいる。

 それになんか変だ。ドアホン越しに聞こえた声はもっと高く若く感じの声だったが、この男性はどちらかといえば低く柔らかい声だった。きっと、少しドアホンが壊れているのかもしれない。

 部屋に入るとダイニングキッチ、リビング、その奥に寝室がある。それと薄っすらと香水の臭いがした。家具の感じから一人暮らしであることが容易に想像がつく。

 フナキさんは寝室に目をやった。ぞっとした。というのも電気はついていなくて暗いのだが壁に大きな女の顔がへばり付いている。

「なんだ?」と思ったがよくよく見るとその女はアンジェリーナ・ジョリーだ。そうか、プロジェクターに投影して映画を観ていたのだ。


 幽霊を信じていないが怖がりのフナキさんはホッとした。

「なんの映画を観ているんですか?」

「ああ、ミスタ&ミセススミスですよ」

「ブラピが出てるやつですよね。私も観ました。あれが見えて一瞬ですが幽霊かとおもいましたよ」

「すみません、ビックリさせて。一時停止にしていたから余計幽霊に見えたのですね」

「いいですねプロジェクターで映画を観るのって。羨ましいです」


軽い会話も終わってフナキさんはダイニング・キッチンにある換気扇をチェックしました。

「これは完璧に壊れてますね。交換です」

「どのくらいかかりますか?」と男。

「そうですね10分あれば終わるでしょう」

「そうですか、では私は映画の続きを観たいので終わったら言ってください」

そういうと男は奥の寝室へ行き戸を閉めた。


 フナキさんが壊れた換気扇を取り外し、新しい換気扇を取り付けた。

その間ずっと奥の部屋から映画の音が聞こえていた。


 交換作業は10分もかからなかった。終わったので「終わりましたよ!」と大きな声で言ったが映画の音が、おそらく今は銃撃戦の最中なんだろう。このまま邪魔せずに帰ろうかとも思ったが受領書にサインをしてもらわなくてはいけない。

フナキさんは寝室に向かって戸をノックし少し大きな声で終わりましたよ!と言いた。

 すると男が引き戸を開けて出てきた。

「すみません。こちらの書類にサインをください」

「わかりました。ご苦労様でした。」

男がサインしれいる間、プロジェクターに映し出されている映画は銃撃戦の嵐。

 フナキさんは映画をちら見した。映画の中で銃を撃つたびに光が強くなっり、部屋の輪郭が、家具が薄っすら見える。それで不思議な事に気付いた。映画上で銃を発砲するたびにちらちら、部屋の奥の左の隅になにかある。観葉植物かと思ったがちがう。

 いや、違う。女だ。

フナキさんの視線の先に裸の若い女性がいる。しかも、手首がロープで縛られている。

「はい、サイン書きましたよ」と男言った。

「ああ、ありがとうございます」

 フナキさんは急いで部屋を出て車を会社に止めて急いで自転車をこいだ。

あれは一体何だったんだ?もしかすると、そうゆう性的なプレイなのか、それともラブドール。最近のラブドールはとても精巧にできているとネットの記事を読んだし写真も見たことがある。それに薄暗かった。見間違えかもしれない。でも、監禁された女性だったらどうする?

 フナキさんは家につくと毎年の恒例行事でサンタの格好をして長男とその友達にプレゼントを配りみんなでケーキとバーレルで買ったケンタッキー・フライド・チキンを食べた。いつもなら楽しいクリスマスパーティーだがあの事が脳裏にへばり付いて上の空だった。パーティーも終わりベットで寝そべっても眠れない。もし、あれが監禁された女性だったら。見て見ぬふりをするのも同罪だ。


 結局その日はフナキさんは眠れなかったそうです。奥さんに話そうか迷ったけど、彼女は妊娠中。余計な心配をかけたくない。


どうしていいのか分からなかったフナキさんは社長に昨日あった事を報告することにした。

 社長も困った様子だった。もしフナキさんが言っていることが見間違えや勘違いだった場合そのマンションからNGが入り顧客を一つ失うことになるからだ。

でも、フナキさんが言うことが本当であればそちらの方が顧客を失うより問題だ。


 その日のお昼、フナキさんと社長で警察署に出向き、マンションでの一件を話した。担当の制服警官は年末のせいなのか、もともとなのかやる気が感じられなかった。

「もしかしたら、勘違いかもしれないんですね?」

「はい、部屋が薄暗かったから。でもロープで腕を縛られた裸の女性はいました」

「そうですか。まあ、一応調べます。何かあったら連絡します」


 それから10日後、年始の仕事始め。フナキさんが出社すると社長がやってきた。「フナキくん、あれね。君の勘違いだったみたいだよ」

話を聞くと2人で警察署に行った次の日に警官が男の部屋に行き調べたんだけどなにもなかったそうだ。

「マンションの人に怒られちゃったよ。それで俺が正月に菓子折りもってその男の人に謝りに行ってさ。まあでも相手の男は別に怒こってなかったし良かった」

「社長、すみませんでした」

「いいよ、気にするなよ。大事件じゃなくてよかった。でも、フナキくん客先の部屋を観察するの好きでしょ?もう止めなね。仕事中は仕事にだけ集中して」


 その日から同僚たちからからかわれ、「俺がさっき行った現場で白塗りの子供がいた」とか「部屋にビックフットがいた」とかくだらない冗談でフナキさんをイジるのが職場内で流行ったそうだ。

 そんな内輪の冗談に同僚たちも飽きて、フナキさんもあの事を忘れた時、そう二ヶ月後の事でした。

 仕事が終わり現場から会社に帰って報告書を書こうとしたその時、社長がビックリした顔でフナキさんに飛んできた。

え、なんだろう?クレームでも入ったのか?

「フナキくん、ちょっと来て。早く」と社長

 社長はフナキさんのシャツの袖をひっぱり応接室へ。

 応接室の扉を開くとそこにはソファーにスーツを着た中年の女性と青年が座っていた。

 フナキさんを見ると立ち上がり二人共同じタイミングで内ポケットから手帳を出して見せた。

警察手帳だ。

「世田谷署から来ましたタナカです」若い青年の方はマキハラと名乗った。

「いくつか聞きたいことがあるのですが」と女性警官が言った。

「なんですか?」

 刑事が言う話には、この前フナキが通報した同質のマンションで死体が見つかったそうだ。

「殺人ですか?」とフナキさんは驚いたそうだ。

「いえ、まだわかりません。まだ解剖中でしかも腐乱しているので詳しいことはわかりませんが、ロープで首をつっていました。おそらく自殺だと思うんですが、他殺の可能性もありまして」

「そうなんですか」

「お聞きしたいのはあなたが見たという裸の女性の事なんですが」

はい、薄暗かったので確信が持てませんが」

「実はですね。ここだけの話しなんですが、使用済みの生理用ナプキンと使用済みの避妊具が見つかりました。しかも大量に誰か他に女性がいたと考えています」

「恋人とかではないんですか?」

「調べた結果、ここ十年は恋人はいなかったようです」

「そうですか」

「それでですね。その女性の似顔絵を作りたいと思うんですが、協力してくれますよね?」と女性刑事。

 そして、フナキさん警察署に行ってその女性の似顔絵を作るのに協力したそうです。今でもこの事件未解決らしく。自殺と他殺で調査しているようです。

それをきっかけにフナキさん現場に行っても部屋を観察するのをやめたそうです。




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