私が友人の家で百合本を見つけた時の話をします。

齋藤 俊 (キュウミリ)

【プロローグ】一緒のクラスになれる確率は何%なのだろう。


 私、遠近月望とおちか つきのと戸矢京華とや きょうかが一緒のクラスになれる確率は何%なのだろう。


 その計算は春休み中に何度も私の頭の中をぐるぐると回り続けて、空中分解した。


 計算の仕方が分からないとかじゃなく。最後まで計算しようとすれば、正確な答えは出せたけれど、その数字を導き出すのが怖かった。もし一緒のクラスじゃなかったら、これから始まる高校生活に希望を見いだせそうになかったから。


 これから三年間お世話になる明影めいえい高校の入学式。受験以来に入った校舎と、若干丈の合わない制服が新しい環境に来たのだと実感させる。成長期を過ぎたであろう私が、この制服の丈に合うのか、ちょっと心配だ。


 適当な下駄箱に靴を入れ下駄箱の番号を頭に刻むと、すぐさまクラス分け表に群がる人だかりを掻き分け、名前を探す。


「えーと、遠近……戸矢……遠近……戸矢……」


 私、遠近月望と友人である戸矢京華。二人の名前はお互い『と』から始まる名字。一緒のクラスならすぐに分かるはず。期待からか不安からか手汗が半端じゃない。名前を見付けた時に、変な声を出してしまわないよう気を付けなくては。


「月望ちゃん、名前見つかった?」


「うひゃぁ」


 不意に両肩を掴まれ、ビクッと体が揺れて変な声が漏れた。もしかしたら小ジャンプぐらいしちゃったかも。変に思われたかな。


「うわ、ちょっと驚きすぎ」


「急に京華がくっつくから……」


 私を惑わす女、戸矢京華。唯一無二の親友というか、私には他に友達と呼べるものがいない。一方、京華には平均的な女子高生並みの友達がいる。私が親友だと思っているだけで京華にとって私は、たくさんいる友達の一人に過ぎないのかもしれない。


「月望ちゃん、それで名前は見つかった?」


「うーん。まだ……」


「じゃあ、あたしはあっちから見るから、月望はここから見ていって!」


 そう言うと京華は掲示板の右端を指差し駆けて行った。離れていく京華を見ていると、やっぱり同じクラスは無理なんじゃないかって思えてきた。


 明影高校の新一年生は八クラス。確率的に云えば、この三年間で一回も一緒にならないのだって普通だ。そもそもこの学校が毎年クラス替えをするのかも私は知らない。


 考え事してないで探さないと。私がここであーだこーだ考えたり、願ったとしても結果は変わらないのだから。


「うーん。中々見つからない」


 八クラスもあるのだから、そうそう見つからない。京華も見つかっていないようだ。掲示板とにらめっこしながら、徐々にこちらに近づいてきていた。


「このまま、名前は見つからないで……」


 私と京華の距離は次第に縮まっていく。後もう少しで京華と私は同じ四組に視線を移す。


「あれ、もしかして月望ちゃんとあたしって同じクラス?」


「そう……かも……」


 ちょっと信じられなかった。八クラスもあって同じクラスになるなんて。


 だけど、私と京華の名前は同じ四組に確かに書いてあった。しかも並んで、お互いの名前の間には誰もいない。それだけでちょっと嬉しかった。


「最初の席順はやっぱり名前順かな?」


 先程までの落ち込んでいた声からの嬉々とした声。テンションの落差で京華に気取られたかもしれない。だけど、もしそうだとしたら私の後ろの席は京華ということに、えへへ。


「そうかもねー。そうだとしたらあたしは今年も月望ちゃんのお世話をしなくてはいけないのかー」


「お世話って、私だって中学の時から成長したんだからね! 京華は私と一緒のクラスになって嬉しくないの?」


 質問に少し気恥ずかしくなって、たまらなくなって、こっそり京華の顔色を窺った。


「…………そりゃあ、嬉しいに決まってるじゃん」


 顔を赤らげ恥ずかしそうに下を向く京華の眼差しに少し心が踊った。


 今年も二人一緒に居られると思うと、私の高校生活は一生忘れられない大切な三年間になるのだろうと心が浮ついた。


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