首チョンパの女

駄伝 平 

首チョンパの女

 これは知り合いのナルミさんから聞いた話です。


 ナルミさん27歳、調布在住で小学校の教師をしています。

 マンションは管理人が3交代で24時間、常にいる場所で、もちろんオートロック付き、しかも外の廊下も格子の付いている警備が厳重な場所で人が忍び込む隙間もない場所だった。

 なので、とても家賃も高かった。でも、ナルミさんは一人っ子。ナルミさんはあまり気にしていないが、両親は東京を治安が悪い所だと思いこんでいるらしく「警備が厳重なマンションじゃなきゃ駄目」というので、大学時代は家賃をすべて払ってくれたし、小学校で働き始めたからも家賃の半分を払ってもらっていた。


 小学校で、小学3年生のクラスの担任をしていました。

 特に問題児もいなかったし、みんな生徒たちも仲が良い。ナルミさんは本当に自分は運がいい。良かったと思った。中には酷いクラス。学級崩壊寸したクラスを見た事が何度もあるからです。

 でもナルミさんは今まで担任になったクラスは平和そのもの。自分は恵まれている。彼女はは子どもたちが大好きだし、勉強を教えるもの大好きなので教師は天職だと思っていた。


 そんな5月頃後半のある頃、生徒たちの間で、奇妙な噂が広まりだした。

 それは「首チョンパ女」というものでした。その首チョンパ女を見てしまった女性は、その首のない女に1週間後、首をしめられて殺されるとの事。


 こういった噂は昔からあります。例えば口裂け女の事です。それの現代版だとナルミさんは考えていました。


 それに最近、近隣の杉並、世田谷、三鷹、武蔵野、若い女性を狙った連続絞殺魔事件が起きていて、連日報道されている影響だろうと思っていました。しかも、何年前にこの近所で通称「成仏師」という男が人を幽霊と勘違いして成仏させる名目殺人を繰り返していた「16人連続通り魔殺人事件」の現場が近くに在る事も関係あるのでしょう。

 ある生徒は放課後、ナルミさんの所に来て怖がった表情をしながら「ねえ、首チョンパ女に狙われたらどうすればいいの?」と聞く生徒まで出てきた。その時はナルミさんは「首チョンパ女なんていないよ」と笑いながら答えたそうです。

 ある日などは保護者から電話が着て「首のない女の噂を聞いて娘が怖がっている。この噂をどうにかしろ」とクレームを入れる親まで出てきた。

 ナルミさんはそんな事言われても困ります。子どもたちの噂なんて止めようがありません。そのうち時間が解決してくれると思っていました。


 それから1ヶ月後、ナルミさんの思っていた通り、子どもたちの間から「首チョンパ女」の噂を忘れ去られ、いつも通りアニメや漫画やテレビやゲームの話ばかりするようになった。それに絞殺魔事件も最近は起きていない。平和そのものだった。


 そして梅雨の時期になった。

 ナルミさんはいつもは自転車で10分かけて学校に通勤するのだが、雨の日は、レインコートを着ていても、服は少し濡れるし、それに雨の日の自転車を乗ると視界が悪くなるし、ブレーキも効きが悪い。なのでいつも雨の日は歩いて通勤するのが習慣だった。梅雨の時期は毎日歩いてレインコートと傘と長靴のカッコで30分かけて通勤していた。


 そんなある日のこと、同僚から近所に美味しい家系ラーメン屋が新しく開店したと聞いて、ナルミさんは行ってみようと思った。

 ナルミさんはラーメンが大好きで特に家系ラーメンが大好きだ。家系ラーメンにはニンニクを大量に入れて食べるのが好きなので金曜日の夜に仕事終わりに行こうと思った。というのも次の日、平日だと生徒たちや同僚にニンニク臭いと思われるのが嫌だったからだ。


 そして待ちに待った金曜日の夜。その日も朝からずっと雨だった。なので徒歩で通勤した。同僚が教えてくれたラーメン屋はナルミさんの通勤路から外れた場所にあった。iPhoneで場所を探してお目当てのラーメン屋に入り家系ラーメンにニンニクを大量に入れた食べた。同僚が言っていた通りに美味しかった。満足して店内を出ると、雨はやんでいた。

 iPhoneで家までの経路を確認する。一番近いのは住宅街を通り抜けるのが一番早いのでその通りに道を歩いた。

 人気の無い住宅街の細い車が一台通れるかくらいの幅の路地を突き進む。路面が濡れて、照明が反射していた。

 ナルミさんはiPhoneで音楽を聴きながら歩いていると、突然、強い光がナルミさんを照射した。一瞬ビックリした。なんだ?

 光の方を見ると民家だった。そうか防犯用の人感センサーか。人が家の前に通るとセンサーが反応して強烈な光を放つ防犯用の機械の事です。なんだ、ビックリしたじゃないか。人騒がせなと内心思いながら、そのまま歩いた。その時、また後ろでピカと強烈な光がしてつい振り向いた。

 ナルミさんは動けなくなった。彼女の視線の先に、目測でだいたい10メートル所に女が立っている。白地ので胸の当たりが赤いデザインのパーティードレスを着ていて、足元は赤いピンヒール。しかも、この女、頭がない。首の部分がキレイに切断されていると言うよりは、何かに引きちぎられたようで、断面が右上が高く左側へと傾斜しているようだ。しかも首の切断面の中央に骨が白い骨まで見えている。

 ナルミさんはパニックを起こして叫んだ。すると光が消えた。

 気づくと、その叫び声を聞いた住民がドアを開けて50代の女性がナルミさんの様子を見ていた。「ねえ、大丈夫?痴漢?窃盗?」

 ナルミさん我に返った。きっと私勘違いでそう見えただけだと言い聞かせた。その50代の女性に何も言わずに、その場を立ち去った。

 逃げるようにして走った。時折、後ろを振り返ってはあの首なし女がいないか確認した。だが追いかけては来ていないようだ。

 少し遠回りになるが人気のある大通りへと出た。安心するためだ。

 あれが、子どもたちが噂していた「首チョンパ女」か?

 いろいろ考えながらマンションに付いた。自分の部屋に入り、ベッドの上での転がりテレビでバラエティー番組を見た。

 ただ疲れているだけ。幽霊なんて今まで見たこと無いし、ナルミさんは幽霊を信じていない。きっと、知らず知らずの間に疲れていたのだろう。それに、初めて通った道。それと、無意識に自分が連続絞殺魔事件に巻き込まれるのではないかと思っていて、しかも子どもたちの「首チョンパ女」の噂が無意識の中で混ざりあって、意識の中に流れ込んできて、それが見えたと勘違いしたに違いない。そう自分に言い聞かせた。

 翌日、ナルミさんはあの出来事は完璧な幻覚だと思いこむようにしたおかげで、元気を取り戻し、いつも通りの普通の生活を始めた。 


 それから1週間後。仕事を終えて家についた。今日はパスタを作るつもりだ。アラビアータを作る為に帰路の途中で、トマト缶とクレイジーソルト、オリーブオイル、ニンニク、唐辛子を買ってきたのだ。

 それは防弾少年団の音楽を流しながら、フライパンでソースを作っているときだった。急にチャイムが鳴った。前日にAmazonで新しい時計を注文していた。あれ?もう届いたのかしらとインターフォンの画面を見る。何も写っていない。おかしい、このマンションは外のオートロックのインターフォン所にしかカメラが付いていない。

 と、言うことはマンション内の廊下の部屋の外からドアのチャイムを鳴らしている事になる。もう一度チャイムが鳴った。音楽の音量が大きすぎたの?料理中だったこともあり、いつもより音量を上げていた。それでクレーム隣人がクレームを言いに来たのかも知れない。

 ナルミさんは、ドアのぞき穴から外を見た。

 あの、女だ。首の切断面がちぎれたようにギザギザ、ピンク色の肉が露出し、その中央に白い骨も見える。それに、パーティドレスの白地で上部が赤のデザインだと思っいたが違った。それは恐らく血で染まり赤くなっていたのだ。

 やばい、あの女来ちゃった。そうだ、管理人を呼ぼう。常駐している管理人に電話した。「女がいる。しかも、相当ヤバそうだ来てくれ」と。

 すると3分もしない内にチャイムが鳴った。恐る恐るのドアののぞき穴を見ると、そこには夜勤の担当の黒縁メガネをかけて横分けの背の小さいガリガリの青年が立っていた。

 ナルミさんはドアを開けた。そして事情を説明した。もちろん首が無かったことは言わなかった。自分が狂っていると思われうかも知れないからだ。

 事情を聞いた青年は不思議そうな顔をしていた。「僕が外玄関の管理人室で見ていた限り、ナルミさんが門を通ってから、誰も来ませんでしたけどね」

 この青年は、よく管理室で本を読んだり、時には居眠りをするような青年だったので彼が言うことは信用できなかった。

「いちよう、ナルミさんから連絡を受けた時に警備会社に連絡しました。間もなく来ると思います」

 とても頼りなさそうな印象しか無くて不安だったが、ナルミさん怖かったのでとりあえず青年と管理人室に行くことにした。10分後に警備会社の人が来た。

 警備会社のからは二人の警備員が来てマンション中を調べたが、誰も隠れている様子は無かった。それに管理人の青年が防犯カメラの映像を見せてくれたが、オートロック部分に設置したあったカメラの映像にも、ナルミさんの部屋の廊下に設置したあったカメラの映像にも、女なんて写っていなかった。

「ナルミさん。こんな事をいうのは失礼かもしれませんが疲れているのではないですか?」

「確かに、最近、三鷹とかで変な事件が有りましたからね。なにか勘違いしたのかもしれません。お騒がせして申し訳ありませんでした」

「いえいえ、これが僕の仕事ですから」それまで、この管理人の青年はタダのボンクラだと思っていたが、親身にカメラを一緒に観てくれたり、優しく接してくれた事もあり、彼の高感度が少し上がった。

 ナルミさんは部屋に戻り、作りかけだったアラビアータのソース作りを再開し、アラビアータを食べて寝た。

 

 深夜三時頃だろうかチャイムがの音が聞こえて目が覚めた。かなり遠い所から音が聞こえる。自分の部屋の物ではない。なんだろう。少し過敏になりすぎているんだ。それに寝起きだ寝ぼけていても不思議ではない。チャイムの音に聞こえているだけかもしれない?隣人が映画でも、いや、音楽でも聴いているのだろう。そしてまた睡魔に襲われ寝た。


 次の日の、昼間で寝てしまった。ナルミさんは休日であっても、いつも通り朝の6時に起きるように心がけていたのに。窓から外を見る。パトカーが5台は灯っている。なんだろう?事件か?

 チャイムが鳴った。しかもインターフォンの画面には何も写っていない。

 ナルミさんはのぞき窓から外をみるとスーツ姿の若い男と初老の男が立っていた。

「すみません、警察の者です」とドアの向こうから聞こえる。警察?なんで?

 ナルミさんがドアを開けた。スーツの2人組は警察手帳を見せた。

「何でしょうか?」

「あの、今日お隣の、オオツカ・ジュリさんが死体で発見されましてね。あなた、前日に変な女を目撃したと聴きましてね」と初老の刑事が言った。


 初老刑事は話し始めた。

 オオツカさんの恋人が遊びに来た時にオオツカさんの死体を発見したようだ。

 しかも、首を切断して頭部が無い死体だったそうだ。

「その、アナタが観た女性の特徴を教えてください」若い刑事と威圧的に聞いてきた。

「白いパーティドレスを着ていました、顔は、、、、」

 ナルミさんはどう言っていいか困った。頭が無かったなんて言ったら狂ってると思われるに違いない。しかも、警官にだ。もしかした自分が犯人に疑われるかもしれない。しばらく、言葉をつまらせていると初老の刑事が言った。

「やっぱりアイツか」

「え?犯人の目星がついてるんですか?」

「それが、ここだけの話しなんですがね、あの絞殺魔の事件知ってますよね? みんな被害者の人が口をそろえて、殺される前に首がないパーティードレスを着た女を目撃したていっていたそうなんですよ。まあ、こっちも困っていてね」

「監視カメラには何も写ってなかったんですか?」

「なにも写っていませんでした」

「でも、本当に絞殺魔なんですか?だって今回は首が切断されていたんですよね?」

「そうなんですよ。まだ絞殺魔とは限らないですがね。手口が非常に似ている。もう私達もお手上げです。まるでXファイルみたいですよ」


 刑事たちが帰った後に、私じゃなくて、なんで隣の人が被害にあったのかナルミさんは考えた。

 急に思い出した。それは1年前の事だった。隣の部屋にオオツカさんが引っ越してきて、ナルミさんに引っ越しの挨拶に来た事があった。オオツカさんはとても、いや、段違いに美人だった。まるで芸能人みたいに。それで、ナルミさんにが芸能人なんですか?と聞いたら彼女はモデルをやっていると言ったのを思い出した。


 あの「首チョンパ」の女はきっと自分が成りたい顔、つまり美人な顔をを探していたのかもしれない。と、ナルミさんは言っていました。

 


 

 

 

  



 


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