第40話 アクセル全開
翌日。
ミゼの護衛をすることになった俺は、まず、彼女の基本的なスケジュールを調べることにした。
俺はミゼの友人だが、彼女の生活サイクルまでは知らない。
朝は何時に起きるのか。何時に学園へ登校するのか。放課後は必ず直帰しているのか。寮に戻った後、外出することはあるのか。……護衛をする以上、最低でもこのくらいの情報は把握しておく必要がある。
午前六時。
俺は腕を組みながら、目の前にある女子寮を観察していた。
「……思ったよりも、警備は整っているな」
流石は王立ビルダーズ学園の学生寮と言ったところだろう。貴族の子息令嬢が通うこともあるこの学園の警備は万全だ。学生寮の周辺では、常に二人以上の警備員が巡回している。
――俺が敵なら、どう動く?
ミゼがこの女子寮に住んでいることを知っている前提で、考える。
自室というのは、セキュリティが強いようにも思えるが、実は狙われやすい場所である。部屋の中にさえ入ってしまえば、第三者の目を完全に避けることができるからだ。外の警戒さえ潜り抜ければ、最も確実に対象へ接触できる場所である。
変装して侵入するか、寮に住む人間を脅迫して操るか――。
方法は色々ある。女子寮も安全とは言い難い。
勿論、そういう事態を未然に防ぐために俺という護衛がいるわけだが……敵が女子寮に侵入した場合の対処法も、今のうちに考えておくべきだろう。行動のパターンは事前に決めておくに越したことはない。そうなってからでは遅いのだ。
既に敵が寮の内部に侵入している場合、時間との勝負となる。
変装している暇はない。窓から入るか? それとも正面突破するか?
「よお、トゥエイト」
顎に指を添え、考え込んでいると、背後から声を掛けられた。
振り向くと、そこには汗だくの学友が立っていた。
「グランか」
「今日は走ってねぇのか?」
「ああ、少し考え事があってな」
ビルダーズ学園の生徒には、日課で早朝ランニングをしている生徒が結構いる。中でも俺とグランは本格的に走り込むタイプとして、一部のランナーたちの間では有名になったりしているのだが……護衛の任務を受けた以上、暫くランニングはできそうにない。
今日も長い距離を走ってきたのだろう。
立ち止まり、息を整えるグランに対し、俺は疑問を口にした。
「グラン。ここの女子寮って、男子禁制なんだよな」
「ん? まあそうだな」
「どうにかして、男が入る方法って無いか?」
「お前……朝からアクセル全開かよ…………っ!!」
グランが尊敬の眼差しを俺に注いだ。
何か誤解されているような気がする。
「だが、駄目だ。ここは止めとけ。うちの学園のセキュリティは鉄壁だ。おかげで、既に何人の勇士が散ったか……くそっ」
グランが悔し涙を零しながら言う。
何故かその声音には実感が込められていた。
「うちの女子寮な、見えない結界が張ってるらしいぜ」
「結界?」
「ああ。許可のない人間が入ろうとすると、電流が走る」
「電流って……」
随分と物騒な結界のようだ。
「その許可というのは、どうやって認識しているんだ?」
「さぁ。俺も調べてみたけど、よく分からなかった。……見えないっていうのが嫌らしいよな。こいつは立派なトラップだぜ。……トゥエイトも気をつけろよ! あと中に入れたら俺にも方法教えてくれ!」
そう言って、グランは再びランニングを再開した。
学生寮は、学園の敷地内ではなく、少し離れたところに建てられている。グランのランニングはもうすぐ終わるだろう。校舎まで走った後、シャワー浴びて終わりといったところだ。
学生寮と学園は、どちらも高度なセキュリティで守られている。
なら、敵が動くタイミングは限られている筈だ。
例えば――二つの施設を行き来するために必ず通る、通学路。
「……さて」
今のうちに、倒しておくか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます