ヒップホップ青年
駄伝 平
ヒップホップ青年
これは知り合いのサトウさんから聞いた話です。
サトウさんはバンドマン。ジャンルはロックで楽器はキーボード、それにギターも弾く事もできるそうです。バンドを始めて10年。デビュー出来るわけでもなく、収入どころかライブに出るのにお金は取られるは、チケットノルマはあるはでバンドでは食っていけない。
なのでサトウさんアルバイトをしていました。
そのアルバイトというのは、倉庫の夜勤のお仕事で労働時間は10時間、休憩を挟むと拘束時間は12時間位になる。大変な仕事で初日の昼休みに辞めた人もいるらしいです。最低時給だが夜勤手当がつくし、シフトもゆるくて休みやすい。それに夜型だったからあんまり気にならなかったそうです。
それにサトウさんこの仕事の事は好きじゃなかったけど、単純作業なので難しいこともなくそんなにキツイと思わなかった。気づくと5年そのバイトしていたそうです。
そんなある日、倉庫の喫煙室でタバコを吸っていると向かいの壁に寄りかかった若者が目についた。背が高くガッチリとした身体。いかつい顔でショートのドレッドヘア。
ああ、新人か。と思ったら彼が「2パック」のTシャツを着ているのに気付いた。
「ラップ好きか?」サトウさん、やっているジャンルはロックでもいろんな音楽が好きで「ヒップホップ」も大好きだそうです。
この職場、夜勤のせいか、若者が少ない。30歳のサトウが一番若いくらいだから。若者が入ってきてもつまらない単純作業のせいか、或いは夜勤が辛いせいか、他にいいバイトが決まるせいか、どうせスグに辞めていくのでなかなか若者に話しかけなかったそうなんです。
自分より若くておそらく音楽好きの青年が気になった。サトウさん試しにその青年に話しかけたそうです。
「2パック好きなんですか?」
すると若者、いかつい表情が一変してニコッとして「2パック知っているんですか?」て答えたそうです
この若者をナカタくん。
ナカタくんは22歳。出身は神戸。地元の大学を卒業して就職の為に上京。しかし、その会社がいわいるブラック企業。営業をしていたのですが毎日怒鳴られるは上司にはいじめに合うはで体調が悪くなり半年で退職したそうです。昔から彼はラッパーになりたかった。大学時代の時はヒップホップサークルに入ってラップをしていたこともあり心機一転ラッパーを目指す事にしたらしいです。
二人はスグに仲良くなった。
家も歩いて5分と離れていないので、お互いの家を行き来しては音楽の話しや、自分たちの夢について話したりした。
二人はまるで兄弟のようになっていった。ラーメン屋に行ったり、映画を観に行ったり、飲み歩いたり、海に行ったり、お互いのライブに行ったり、お互いの曲を褒め合ったり、アドバイスしあったり、ナカタくんのトラック(伴奏)制作を手伝ったり、時にはお互いの曲を貶しあったりしても大丈夫な程の仲良くなったそうです。
ナカタくんと知り合って1年後の事。
サトウさんは職場に行くと上司から呼び出された。なんだろう?なにか大きなミスでもしたかな?と思っていると上司が言った。
「ナカタに何かあったのか?昨日無断欠席して連絡がないだけど、どうした?」
ナカタくん、ドレッドのショートで金と赤のメッシュ、ピアスも複数つけて、ラップの内容も過激で言葉遣いも粗い。見た目は怖い方で初めて会う人には怖がられていたが、でも、普段は真面目で繊細で人に優しく怒鳴る所など見たことないし、喧嘩なんてもってのほか、とても穏やかな人で、ステージ上のMCバトルでも人と争うのは嫌だと漏らしていたくらい。社会問題にも関心があり、この職場に労働組合が無かったから労働組合を作って労働環境を変えようと呼びかけていたような若者だった。
そんな人物だからみんなに慕われていたし好かれていた。それにナカタくんは仕事が良く出来たうえに優秀だった。
この職場、夜勤と長時間労働ということもあって寝坊、当日欠勤が無断欠勤は日常茶飯事にも関わらず、ナカタくん絶対に遅刻しないし、どんなに体調が悪くても休むことなく出勤していた。ある日体調が悪くなって早退したこと一回あったきり。
だから上司は心配になったらしい。
「何か思い当たるフシはないか?」
「わからないです」とサトウさんは嘘をついた。
サトウさんには思い当たるフシがあった。というのもナカタくん3日後にライブがあった。
このライブ、ある大物ラッパーが主催する新人ラッパーが沢山出るライブに出演になったそうです。しかも観客にレーベル関係者も沢山来るそうです。
ナカタ君それは喜んだそうです。「もし、この大物ラッパーに気にいられたり、レコード会社の人の目に留まったら、僕デビューできるかも!」て。それは張り切っていた。
サトウさんも驚きました。その大物ラッパーていうヒップホップを詳しくなくても知っている有名な、みんなが知っている大物ラッパーだったからです。
サトウさんも喜びました「ナカタちゃん、売れたらお前のマネージャーになってやるよ」て冗談を言ったそうです。
ナカタくん、繊細だからな。晴れ舞台が近いとあって緊張して眠れなくて、そのまま寝坊したんだろうと考えたそうです。
連絡でもしようかと思ったけど、なにか大変な目にあっているのであれば向こうから連絡がくるだろうと、そのままにしておいた。
それから3日後の夜勤明けの朝6時、サトウさんロッカーに行ってカバンをとり中からiPhoneを取り出し確認した。すると、ビックリした20件近く着信がある。相手の名前はフカダ。フカダて誰だ?
急に思い出した。それは半年前、ナカタくんのライブの時に紹介されたナカタくんの友人だったで彼もまたラッパーだった。
それから3回ほど合って話したけど、連絡先の交換とフェイスブックの相互フォローはしていたが、電話番号を交換していた事すら忘れていたし、電話なんてしたことがなかった。なんだろうな?でも朝の6時に電話を折り返すのも気が引けたが20件近くも着信が有るのは異常だ。
サトウさんフカダさんに電話をした。すると着信音が2回鳴るとスグにフカダさんが出た。
「もしもし、なんですか?」
「ああ、やっとつながった。なんですか、じゃありませんよ。大変ですよ!」
フカダさんがいうには、ナカタくん当日のリハーサルに来ない。連絡のないのでみんな探し回っていると、本番が始まりナカタくんが出演時間の10分前に会場に現れた。
フカダさん怒鳴りつけてやろうと思ったそうなんですが、ナカタくんを見た瞬間ビックリしたそうです。頬は痩せこけ、身だしなみは汚く、臭いも臭かった。たぶんお風呂もしばらく入っていない。フカダさんは「もしかしてクスリに手を出したのか?」と思ったらしいです。
リハーサルも来なかったし、明らかにナカタくんは変だ。クスリをやっていようが、やっていないにせよ、明らかに狂ってる。そんなヤツをステージに出すわけにわ行けないと思った瞬間、ステージ上にいる他のラッパーがラップ中にナカタくん飛び出していって急に即興でラップを始めたそうだ。
会場に居たみんな何が起こったか分からなかった。
しかもナカタくんのラップはというか、ラップでもないリズムにも乗っていない全く意味の不明な言葉を言っているんだな。
それでフカダさんナカタくんを羽交い締めにしてステージから引きずり出した。
「おい、どうしちゃったんだよ!」
するとナカタくん「気付いちゃったんです。きづいちゃったんです」と繰り返すばかり。
これはマズイと思って救急車を呼ぼうとスマフォ出したその時にフカダさんを突き飛ばしナカタくんどこかに逃げたそうです。
サトウさんその話聞いてびっくりした。
それに心配になった。ナカタくんが重圧やプレッシャーで心が壊れたのか?知らない内に麻薬に手を出したのか?
「わかった。これからナカタの家に行って確かめる」とフカダさんに言ってスグに自転車乗って力いっぱい漕いだそうです。普通職場からナカタくんの家まで自転車で30分かかるそうですが、その時は急いで走って15分で着いた。
彼の部屋の前に行きチャイムを鳴らした。何度も何度も。でも、返事がない。
サトウさん焦り始めた。もしかしたら死んでるかも知れないとすら思った。
チャイムに加え、ノックもした。どん、どん、どん。力強くドアが凹むかも知れないほど強くノックした。
そうだ、もしかしたら家に居ないかも知れない。iPhoneを取り出しナカタくんに電話をかけた。すると、ナカタくんの部屋から着信音が聞こえる。中にいるのか?もしかして寝ているのか?いや、死んでたら?いや、病気で倒れていたら?と不安になった。最悪な想像がサトウさんの脳裏にへばり付いて離れない。
これは警察に電話するしかないと電話を切ろうとした時、電話がつながった。
「もしもし」ナカタくんの声だ。
少し安心した。少なくても生きているからだ。
「外でチャイムを鳴らしているのはサトウさんですか?」
「そうだよ」
すると、鍵が空いた音がしてドアが開いた。顔がの頬がやつれて、焦点が定まらない虚ろな目、そして物凄い体臭がした。びっくりした。こんなナカタくんを見たことが無かったからだ。
「良かった。本当にサトウさんだ」ナカタくんはサトウさんを家の中に迎い入れた。
いつもはキレイで塵一つなく整頓された部屋なのに、とても散らかっている。
「どうしたの?精神的な病気なのか?もしかして麻薬やってるのか?誰にも言わないから俺に言えよ。今は匿名で麻薬の治療が出来る所もあるらしいから今からでもいいから行こう」とサトウさん。
「俺、きづいちゃったんです」とナカタくん言ったそうです。
フカダさんが言っていた通りの事を言った。
「何に気付いたの?」
「きずいちゃったんです。でも、そのことについてはいえません」
「だから何に気付いたの?」
「言えません」
こんな会話が30分、いや1時間続いた。サトウさん困った。どうしていいか?
そうだ、以前ナカタくんのお兄さんに会ったことがあった。3人で何度か飲み屋でどんちゃん騒ぎした事を。その時に名刺を貰ったのを思い出した。
財布を確認するとちょうど奥の方に名刺が入っていた。スグにお兄さんに電話した。
お兄さんに事情を説明するとスグにこちらに来るとのこと。ナカタくんのお兄さん横浜に住んでいる。
お兄さんが来る間サトウさんナカタくんに何かが遭ってはイケないので一緒に部屋に居た。ナカタくんずっと天井をうつろな目で見ていたそうです。
それから2時間、車でお兄さんがやってきた。
「すみません。心配かけまして。後は私がどうにかします」と言って財布から3万円ほど出してサトウさんに渡したそうだ。
もちろんサトウさんは断ったんですがね。あまりにしつこくお金を渡そうとするのでお金を受け取ったそうです。
気付いてみたらもうお昼の時間。夜勤明けだったしナカタくんの事もあって大変疲れていた。ヘトヘトだった。それにお兄さんが来たからとりあえず大丈夫だろうとサトウさん家に帰る事にした。
お兄さんとナカタくんに挨拶して帰ろうとした時「サトウさんも気おつけて」てナカタくんボソッと言ったそうです。
それからしばらくして、ナカタくんのお兄さんから連絡がありアルバイトを退職。そして、ナカタくん実家のある神戸に帰ったそうです。
1ヶ月してサトウさんもう落ち着いているかなと思って、ナカタくんにメールをしてみた。するとスグに返信が返ってきた。「このアドレスは使われていません」と心配になってナカタくんのお兄さんに連絡した。すると、彼いま病院に入院しているらしい。詳しい事は教えてくれなかったが心の病気と診断されて入院したそうだ。大変な事になったな。とサトウさん思った。
自分の弟のように可愛がっていたナカタくんがそんなに追い詰められていたなんて、なんで一番仲良くしていた自分が彼の病気の事を気づけなかったのだろうと。
それからサトウさんのバンドは解散した。挫折し就職を選んだりドラマー、恋人が妊娠してバンドを辞め就職し結婚する事になったボーカル。4人内2人居なくなった。それにサトウさんもそろそろ音楽に対しての情熱が冷めてきたせいもあって音楽活動もやめてバイト先だった倉庫会社の正社員になって事務職をするようになった。
4年後の1月1日、夕方に目を覚ました。前日は友達とカウントダウンパーティーがあったもので寝すぎてしまった。
玄関を見ると手紙がある。珍しいな年賀状か?ていうのもサトウさん年賀状は送らない返さない主義で、もし年賀状が届いてもメールで返信するような人だったのでここ10年は年賀状は届かなかったからだ。
もしかして何かの請求書かな?それとも間違えで投函された年賀状か?とおもってその手紙をみると宛名が達筆で自分の名前が書いてある。後ろを見ると顔写真3人の親子、左側に若い女性に真ん中に赤ちゃんそして右側にナカタくん。
驚いた。この4年一度も連絡を取っていなかったし、この年賀状の写真の感じだと結婚しているからだ。
なんだナカタくん立ち直ったのか!と思うとすごく嬉しくなった。年賀状の右下に携帯の電話番号が書いてあるので、いきよいでナカタくんに電話をかけた。
「もしもし、サトウです」
「サトウさん!お久しぶりです!」
ナカタくん電話口からもわかるようにすごく元気で明るく言ったそうです。
「結婚したの?」
「はい、そうなんです」
「なんで結婚式に呼んでくれなかったんだよ」て冗談ぽく言ったそうです。
「いや、神戸は遠いし。それに親戚だけの小さな結婚式だったんで」
サトウさんナカタくんが元気そうでとても嬉しかった。久しぶりに話すもので話が止まらなくなった。
ナカタさん実家の神戸に帰っても症状が収まらなくなって病院に行くと心の病だと診断され病院に入院したんだそうだ。それから1ヶ月ほどして病状も良くなり退院。
その後は完治して、父親が務める会社に就職し、そこで奥さんと出会い結婚。そして去年かわいい女の子が生まれたそうです。
「もし男の子だったらサトウさんからの名前を取ってユウジてつけるつもりでしたよ」
「本当かよ!バカにしやがって」て照れたりして会話がはずんだ。
二人は気づけば1時間近く話していた。遠くで赤ちゃんの鳴き声も聞こえる。そろそろサトウさんは電話を切り上げようと思った。
「そうだ、今度さお前の家に遊びに行っていいか?」
「いや、今は子供も小さいですし、、、、」ナカタさん急に歯切れが悪くなった。
それで急にに思い出した
「そういえば、最後の日、おれに気おつけて、て言っただろ?あれなんだったの?」
「ああ、あれですか。今の所サトウさんにはなにもないようなので、きっと大丈夫ですよ。子供がぐずり始めましたので今日は失礼します」と急に電話を切られた。
サトウさん、電話した事によってナカタさんの悪い記憶がフラッシュバックしたんじゃないかと不安になった。だとすると悪いことをしたなと思った。とはいえ彼にとってはいい思い出。元日なのでやることがない。近所でやっているお店なんてコンビニくらいしかない。
なので酒でも飲みながら久しぶりにナカタくんと一緒に撮った写真を見て思い出に浸かろう思ったそうです。MacBookProを起動して、クラウドにアクセスしてナカタくんと一緒に映っている写真を見たそうです。
飲み会でベロベロになっている写真や、酔ったイキヨイでナカタくんが素っ裸になってる写真や無邪気にフザケているん写真を見てとても楽しくなったそうです。
「ああ、この頃は本当に楽しかったな」と思って見ていると変なことに気付いた。
一緒に、ナカタくんとある湘南の海水浴場に行った時の写真なんですが、ナカタくんが映っている写真なんですがね、その右奥に色白でワンピースを着て髪が濡れた女が映っていた。一枚だけに映っていたら別に気にならない。でもそのとき海で撮った写真50枚近く撮った。その写真全てにそのワンピースの女が小さく写り込んでいたそうです。サトウさんゾッとした。
それで最初から最後まで写真を確認するとどうやら海水浴場以降のに撮られた写真全てにワンピースの女が映っている。
その次の写真は一緒に公園へ行った時に撮らっれたもの。写真は10枚程度ですか、ナカタくんの端っこにワンピースの女が映っている。
しかも海水浴場の時より近づいている。
それで最後の写真は、彼が体調を崩す1ヶ月前のライブの写真。
この時サトウさん20枚ほど撮っているんですがね。ナカタくんはライブ中で暗がりでやるのが好きだったせいも見えづらかった。何か白くてぼんやりしたものがナカタくんの後ろに映っている。画像編集ソフトで画面を明るくするとナカタくんの背中から5メートル程の所にワンピースの女がいる。その20枚の写真全てに。サトウさん流石に怖くなった。
そういえば、あの時の音源を持っている。ていうのもサトウさんナカタくんがライブする際に録音技師が居ない時はよく録音を頼まれていたです。
その日もナカタくんに録音を頼まれたことを思い出した。それで、音源が保存してある外付けのハードディスクをMacBookProに挿して音源のファイルを開いて高音質のヘッドフォンで聞いた。
ナカタくんのラップが始まった。最初は特に変な所は無かったそうです。雑音といえばよくある観客の叫び声や観客が飛び跳ねてどんどんとリズムを刻む音。特におかしい所は無かったんですが、終わりに差し掛かった時、なんだか変な声というか唸り声のようなものが聴こえた。元々はバンドマンだった事もありプロが使うような音楽編集ソフトがMacBookProに入っている。それを駆使して何を言っているのか確かめようとした。色々とイコライザーなどをいじった。すると何を言っているかわかった。
何か喉の奥に詰まったようなギザギザした声で「私と来て、私と来て」と言っていた。
サトウさんは背筋が冷たいモノを感じて怖くなって、その外付けハードディスクをMacBookProから引き抜くと窓の外から投げ捨てた。路上で外付けハードディスクが大きな音を立ててバラバラになるのが見えた。そしてクラウド上に有る写真をすべて消して、酒を飲みまくった意識が無くなるまで飲みまくった。
気づくと次の日のお昼でした。
昨日は飲みすぎたせいでおかしな夢を見たかも知れないと思ったそうです。窓から外を見るとバラバラになった外付けのハードディスクがバラバラになっていた。
あれは夢じゃなかったんだ。と思うと急にナカタくんの言った言葉が気になり始めた「サトウさんも気おつけて」て。
サトウさん自撮りはしないほうで、しかも昨日クラウド上の写真を全て消してしまった。なので、試しにiPhoneで自撮りしてみた。カシャッとシャッター音が鳴る。画面を確認する。自分の以外になにも背景にも映っていなかったそうです。
それでも怖かったサトウさん色んな所に行っては定期的に自撮りして確認したそうです。でもなにも映っていいなかった。
俺の考え過ぎか。あの時強い酒を大量に飲んでいたし。ただの勘違いか寝ぼけていただけだと思ったそうです。
そんな事も忘れかけた9月の出来事、新宿に映画を観に行ったサトウさん。映画を観終わって買い物でも行こうと歩いていたら、ナカタさんのお兄さんとばったり遭遇したそうです。
「この節は色々と弟がお世話になりました」
何度か一緒に飲んだ仲。立ち話も何なんで一緒に飲むことにした。
居酒屋に入るなりナカタくんの近況を聞いた。「彼なら元気ですよ。年賀状届いたでしょ?」それで姪の写真を見せてきてかわいいでしょ?て自慢してくるんです。
元日の電話のやり取り以来どうも連絡するのが怖くなっていたサトウさんは幸せそうに映るナカタ夫婦と子供の写真を見た。画面を舐め回すように見る。
というのもワンピースの女が写り込んでいるんじゃないかと半信半疑だったからだ。でも、とても幸せそうな家族写真で、ワンピースの女も映っていなかったからとても安心した。なんだ、良かった。
ナカタくんが心の病気を発症し、自分はその影響で勘違いをしただけだったんだ。と思ったそうです。
そう考えるとナカタくんには才能があったのにチャンスを逃したのは可哀想だが、今は幸せな家族がいて幸せな生活を送っている事を知り嬉しくなって酒が進んだ。
話は変わって趣味の音楽の話になった。ナカタくんのお兄さんも相当な音楽好きなので楽しくなって喋りまくった。
「そういえば、フカダくんて覚えている?」とお兄さんきいてきた。
「覚えてますよ。え、もしかしてメジャーデビューでもしたんですか?」
「俺は直接フカダくんの事を知らないんだけど、俺の友達でフカダくんと仲が良かった奴がいるんだけど。そいつが言っていたことなんだけどさ、これは特に弟には絶対に言わないでほしいんだけどね。彼、死んだんだよ」お兄さんの話によるとフカダさんの湘南の砂浜で水死体として見つかったそうです。死体が腐乱していて両親が出した失踪届と歯型の照合でやっと特定できたとか。
死因は溺死。
フカダさん死ぬ前奇行が目立ったそうで、遺書はないが自殺かも知れないとの事だった。ちょうど、ナカタくんが病院を退院する前の事だったので伏せていたそうです。それに、いくら元気そうでもソレが原因で病気になるのは困ると考えたのでしょうね。
飲み終り、家に帰りいち早く寝ようと強い酒を何杯も飲むが怖くて気になって眠れない。そういえばフカダさんとフェイスブックで相互フォローしていることを思い出した
サトウさんはMacBookProの電源をつけてネットブラウザを立ち上げた。フェイスブックはもうバンドを辞めてからだから4年は開いてなかった。
フカダさんを調べるとまだアカウントがまだ存在していた。最後の日付の更新日時は3年半前。
彼の自撮りの写真を確認すると複数の写真にフカダさんの後ろにワンピースの女が映っていたそうです。時系列ごとに並べて整理するとナカタくんのラストライブの時を境にワンピースの女が映っていたそうです。
フカダさんYouTubuに亡くなる少し前に自作のラップを上げていたらしいんですが、サトウさん流石に怖くてこれ以上深入りすると危ないんじゃないかと思ってそのラップを聴けなかったそうです。
ヒップホップ青年 駄伝 平 @ian_curtis_mayfield
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます