第6章閑話 神域にて佇む者6

 マキナはその結末を見届けたところで、展開していた地上を映した空間を閉じる。


「あっという間の終結でしたね。開戦から僅か三日の終結は過去にもありませんでしたし、歴史に新たな一ページが刻まれたと言っても良いでしょう」


 これまでの歴史の中で戦争は幾度となく繰り返されて来たが、開戦から僅か三日での終結は歴史的に見ても最短だった。


「ワイバート側が開戦前から終結を見据えて動いていたということはありますが、だからと言ってそれがうまく行くとは限りませんからね。実際にそれを成功させられたことが、今回の結果をもたらしたと言っても過言ではないでしょう」


 ここまで早く終結させられたのは、開戦前から動いていたということが大きいが、実際にそれを目論見通りに成功させられたことが最大の要因だったと言える。


「ワイバート側が迅速かつ的確に動いたことが、作戦の成功の要因になったことに間違いは無いですが、レグレット側にとって想定外の出来事が多かったことも、今回の成功の要因になったようですね」


 ワイバート側の終結に向けた迅速かつ的確な動きが、今回の結果をもたらしたことに違いはないが、レグレット側が想定していなかった事態があったことも要因の一つだった。

 実際、レグレット側はエリサ達が西の山脈にいて、そこで山脈に送った部隊を監視していると思っていたし、オールドイスの動きが読まれていることも想定していなかった。


 特にワイバートがまだ攻めて来ていないと思っていたことは、致命的だったと言える。

 元々の戦力差もあるが、それぞれの戦力を適切な場所に配置して対応したワイバートと、相手が小国だと侮って戦力の見積りを誤ったレグレット。それが明暗を分けたと言っても過言ではない。


「そもそもの話をすると、オールドイスが戦争に勝つ気が無かったということが大きいですね」


 だが、今回の敗戦の最大の要因は、オールドイスが戦争に負けることを前提に動いていたことだった。

 上層部の多くの者がワイバートのことを甘く見ていた中、オールドイスだけはその戦力が脅威的であると認識していた。

 なので、彼が指揮を執っていればもう少しうまくやれた可能性は高い。


「尤も、彼が指揮を執ったところで敗戦することに変わりはなかったでしょうが」


 とは言っても、その圧倒的過ぎる戦力差は策略で覆せるようなものではなかったので、オールドイスが指揮を執っていたとしても、結果は変わらなかったと思われる。


「結局のところ、最終決定をしたのは王族の代表者ですし、その者がワイバートの戦力の脅威に気付けていなかった時点で、全ては決まっていたと言えるでしょう」


 分かっている者がどれだけそのことを主張しようが、最終決定をするのは王族の代表者だ。

 なので、他の者がどうであれその者の選択によって全てが決まってしまう。


 実際、オールドイスは戦争を仕掛けることに反対していたが、決定者を含めて他の者達は聞く耳を持たなかった。

 そして、王族の代表者が戦争することを選んでしまったことで、この結末は約束された物になってしまったと言える。


「それはそうと、遂にレーネリアを巡る騒動に決着が着きましたね」


 今回の戦争の終結と共に、レーネリアを巡る騒動にも遂に終止符が打たれた。

 長期間状況が膠着していたので、三年半越しの決着にはなったが、これで彼女達はようやく安心することができる。


「今回の戦争はその騒動の一部といった感じでしたね」


 戦争はそれ単体で大きな出来事のはずだが、今回の戦争は早々に終結したこともあり、レーネリアを巡る騒動の一部として完結していた。


「今回の一件は実力者によって大局が決まってしまうということがよく分かる出来事でしたね」


 今回の戦いは攻めて来たレグレットの部隊をルミナやエルナが単騎で全滅させるという、実力者を前に数の暴力は通用しないことを証明するような戦いになった。


「それにしても、この近くには実力者が集まっていますね。こちらの事情を知っている、精霊竜の力を継承している彼女もいますし、私達の願いがこの代に果たされる可能性は十分にありそうですね」


 ワイバートやその近くには実力者が集まっていて、かつての願いを果たすために必要な戦力は十分に集まっていた。

 なので、永きに渡ったかつての願いがこの代で決着が着く可能性は十分にあった。


「……少し様子を見てみましょうか」


 そして、地上のある場所のことが気になったマキナは、その場所を映し出して観察を始めた。

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