episode188 王族の誘拐

 翌日、予定通りに起床した俺達は計画の確認をしていた。


「さて、最終確認をしましょうか」

「そうだな」

「認証用の魔法道具への対策は必要無いから、姿だけ変えて城に潜入するわ。城に行くまでの馬車は手配済みだから、そこも気にしなくて良いわ」


 城に行くまでの馬車をどうしようかと考えていたが、どうやら昨晩の内に馬車を手配してくれていたらしい。


「そうか。舞踏会の内容は分かるか?」

「舞踏会の内容自体は一般的なものと変わらないらしいわ。これが予定表よ」


 ここでエリサはそう言って一枚の資料を渡して来る。


「ふむ……確かに、そのようだな。この資料はどこで手に入れたんだ?」

「当主の部屋を探したらあったわ」

「そうか」


 まあ舞踏会に招待されているわけだからな。当然、予定表は配られているか。


「そう言えば、エリサとアーミラにはこれを渡していなかったな。忘れない内に渡しておこう」


 ここでエリサとアーミラにハンドガン型の魔法銃を渡す。


「アタシはこんな弱い武器要らないよ。素手で殴った方が強いし」

「いや、そういうつもりでそれを渡したわけではない。それは捕獲用だ」


 この魔法銃は武器として渡したわけではない。

 アーミラの言うように彼女達に武器として魔法銃は必要無いからな。


「捕獲用?」

「ああ。この魔法銃はスタンガンとして使えるようになっている」


 この魔法銃はトリガーを引くと一定の出力の雷魔法が一直線上に放たれて、対象者を気絶させるスタンガンとして使うことができるようになっている。

 ただ、これは一般人を対象にすることを想定しているので、兵士などのDランククラス以上の実力を持つ戦闘員には通用しない。

 と言うか、Dランククラス以上の実力を持つ相手を雷撃で気絶させることは難しいからな。初めからそれは想定していない。


「そうなんだ。じゃあ、ありがたく受け取っておくね」

「ああ、そうしてくれ。さて、予定表を見た感じだと、狙い目はスピーチか?」


 予定表によると王族によるスピーチがあるようなので、それを狙うのが良さそうだった。


「それか、舞踏会を抜けて誘拐しに行くかね」

「そうだな」


 マルセイカー家は話を聞くために呼び出されることになっているからな。

 うまくやれば、そこで抜け出して誘拐しに行くことも可能だ。


「状況を見て臨機応変に対応するのが良さそうだな」

「そうね。二人もそれで良いかしら?」

「うん」

「それで良いよ」

「それじゃあ時間になるまでは各自自由に過ごすと良いわ」


 そして、方針が決まったところで、解散となった。


「あの……少しよろしいでしょうか?」


 と、ちょうど話が終わったところで、奴隷だった少女達が部屋に入って来た。


「何だ?」

「私達の今後についてを決めましたので、その報告をと思いまして」


 その件は今日の昼までに決まるように言っておいたが、もう決まったらしい。


「そうか。聞かせてくれるか?」

「はい。私達は全員あなた方の保護下に入ることに決めました」


 どうやら、全員で俺達の保護下に入ることにしたようだ。


「分かった。では、お前達はここで待機してくれるか?」


 ここで年長の少女に街の地図を渡して待機場所を指定する。


「ここの広場ですか?」

「ああ、その広場のベンチで待っていてくれ」


 回収の際には目立つ場所で待ってもらう必要があるからな。

 彼女達には城に近い場所にある広場で待ってもらうことにする。


「それと、これが昼食代だ。好きに使ってくれ」


 回収時刻は午後になるからな。俺達と別れた後は彼女達だけで行動することになるので、昼食代を渡しておく。


「予定時刻近くになるまでは自由に行動して良いが、時間になったら必ずその場所で待っていてくれ。その場所で待っていれば必ず回収してやる。逆にそこで待っていてもらわないと回収は保証できないので、気を付けてくれ」

「分かりました」

「では、お前達は準備ができ次第、裏口から行ってくれ。また後で会おう」

「はいっ!」


 そして、年長の少女は元気良く返事をすると、準備をしに部屋に戻って行った。


「さて、適当に時間を潰すか」


 こちらは準備万端でいつでも行ける状態なので、適当に時間になるまで待つことにした。






 時間になって馬車で家を出発した俺達は城に来ていた。


「着いたな。一応、言っておくが、シオンは極力喋るなよ?」

「分かってるよ」


 全員アーミラに姿を変えてもらっているが、俺は当主、シオンは長男、エリサは母、アーミラは娘に化けている。

 なので、シオンは喋ると違和感があるので、できるだけ喋らせないようにする。


「舞踏会への参加者ですか?」


 馬車を降りると、二人の兵士がこちらに駆け寄って来て、舞踏会への参加者なのかどうかを確認して来た。


「そうだ」


 代表して俺が当主の身分証を兵士達に見せる。


「マルセイカー家の方ですね。お待ちしておりました。馬車はこちらでお預かりいたしますので、このまま城の方へどうぞ」

「ああ」


 ひとまず、怪しまれてはいないようなので、そのまま兵士に言われた通りに城に向かう。


「これが検問か」


 城の入口の前には検問所が設置されていて、魔力紋を読み取る魔法道具を使った検問が行われていた。


「舞踏会への参加者ですね? 身分証の方を確認させていただけますか?」

「ああ」


 受付の女性に身分証を渡すと、彼女はそれを認証用の魔法道具にかざしてデータを確認する。


「それでは、ここに手をかざしていただけますか?」

「ああ」


 そして、言われた通りに認証用の装置に手をかざした。


「問題ありませんね。他の方もどうぞ」


 すると、認証に問題は無かったらしく、あっさりと通してくれた。

 そのまま他の三人も順々に認証を行っていく。


「全員、無事に通過できたな」


 装置への細工は成功していたらしく、全員が問題無く検問を突破することができた。


「そうね。それじゃあこのまま城内に向かいましょうか」

「ああ」


 そして、検問を無事に突破した俺達はそのまま城内に入った。






 城内に入ると、俺達は会場である左手側の部屋に案内された。


「ここが会場か。豪勢だな」


 会場には豪勢な装飾が施されていて、テーブルの上には豪華な料理が並んでいた。


「予定では昼食、スピーチ、舞踏会の順だったよね?」

「ああ。ひとまず、スピーチまでは適当に様子を見ながら過ごすぞ」


 誘拐対象ターゲットである王族が現れるのはスピーチの時間だからな。それまでは適当に待つことにする。


「料理は食べ放題だよね?」

「ああ。ただ、食べ過ぎるなよ?」


 食べ過ぎた結果動きが鈍って、作戦に支障をきたすと困るからな。

 大丈夫だとは思うが、念のために注意しておく。


「分かってるよ」

「……本当か?」


 アーミラはそう言うものの、テーブルに並んでいる料理を次々と口に放り込んで、がつがつと食べていた。


「まあ元々食べる量は多いし、あのぐらいなら大丈夫よ」

「言われてみれば、あの体の割にはかなり食べる量が多いよな」


 いつも思っていたが、アーミラはその小柄な体型――と言うより、そもそもの見た目が十三歳ぐらいと言うのが正しいが――とは思えないほどに食べる量が多い。


半魔デモンハーフは普通に人間よりもエネルギーの消費量が多いから、その分食べる量が多いわ。そもそもの話をすると、半魔デモンハーフは見た目と年齢が一致しないから、見た目で判断するのは違うと思うわよ?」

「確かに、それもそうだな」


 半魔デモンハーフはその特性上、見た目と実年齢が一致しないからな。

 エリサの言うように、見た目で判断するのは間違いだろう。


「まあ折角だし、私達も食事を楽しみましょうか」

「そうだな」


 折角の高級料理食べ放題だからな。俺達もこのまま時間になるまで食事を楽しむことにした。






「ふむ、そろそろか」


 それからしばらくしてスピーチの予定時刻に近付くと、ステージの方では兵士達が慌ただしく動いていた。

 どうやら、これからスピーチが始まるらしい。


「向こうの状態は分かるかしら?」

「少し待ってくれ。確認してみる」


 ひとまず、言われた通りに聞き耳を立ててステージ側の様子を探ってみる。


「準備をしているところのようだな。王族は……王を含めて三人はいるな」


 話し声を聞いた感じだと、ステージ裏には王を含めて王族は三人いるようだった。


「それなら、その三人を誘拐する?」

「それが良さそうだな。エリサはどう思う?」

「私もそれで良いと思うわ」

「分かった。いつ仕掛ける?」


 とりあえず、あの三人を誘拐対象ターゲットにすることは決まったが、問題は仕掛けるタイミングだった。


「そうね……出て来た直後を狙うわ」

「それが良さそうだな」


 王族達がステージに出て来た直後であれば、そこに注目が集まるからな。

 こちらからの注目が外れるそのタイミングは絶好のタイミングと言える。


「とりあえず、机の下に発煙筒でも仕掛けるか?」


 色々と小道具は持っているが、その中には麻痺毒入りの煙を発生させる発煙筒もある。

 なので、まずはそれを使うかどうかの判断を仰ぐ。


「ええ、お願いするわ」

「分かった」


 エリサの許可が下りたところで、周りの者に気付かれないようにしながら机の下に発煙筒を仕掛ける。


「そろそろだな。準備は良いな?」

「ええ」

「うん」

「いつでも行けるよ」

「分かった。では、俺の合図で仕掛けてくれ。発煙筒には俺が火を点ける」


 準備が整ったところで、いつでも発煙筒に火を点けられるようにしながらタイミングを見計らう。


「……行くぞ」


 まずは王族の者が出て来たタイミングで発煙筒に火を点けながら指示を出して、魔法銃で王族の三人を気絶させる。

 そして、気絶させたところで、一斉にステージに向けて飛び出した。


「何だこの煙は!?」

「襲撃だ! ぐわっ!?」

「ぐはっ……」


 護衛の兵士達はすぐに王族の者達を守ろうとするが、あっさりと吹き飛ばされる。


「はっ!」

「させるか!」

「っと……」


 しかし、兵士の中には当然、実力者もいるので、襲撃に対応できている者もいた。


「俺達で足止めする。その間にアーミラは誘拐対象ターゲットを拘束してくれ」


 だが、それならば俺達で足止めすれば良いだけなので問題は無い。

 アーミラに誘拐対象ターゲットの拘束を任せて、他の三人で実力者を足止めする。


「分かったよ」


 指示を受けたアーミラはすぐに血で形成した鎖で誘拐対象ターゲットを拘束する。


「捕まえたよ」

「では、さっさと脱出するか」

「そうね。私が道を切り開くわ」


 エリサはそう言って三つの連なる魔法陣を展開すると、そこから形成した炎の槍を飛ばして壁を破壊した。


「退くぞ」


 目的は達成したので、さっさと街を脱出することにした。


「アーミラは殿を頼む」


 追っ手を退ける殿が必要だが、それは戦闘能力の高いアーミラに任せることにする。


「分かったよ。じゃあこれは邪魔だから渡しておくね」


 そう言うと、アーミラは拘束した三人をこちらに投げて来た。

 俺達はそれを一人一つずつ受け取って、そのまま外を目指す。


「道を開けなさい」

「ぐわっ!」

「ぐはっ!」


 脱出を阻止しようと兵士達が駆け付けて来るが、エリサがそれを魔法で次々と吹き飛ばしていく。


(やはり、向こうは下手には手を出せないようだな)


 こちらには人質となる王族の者を担ぎ上げている状態だからな。

 その者達を傷付けるわけにはいかないので、兵士達は手出しができない状態になっているようだった。


「ひとまず、外には出られたな」


 下手に手出しができない状態だったこともあって、俺達は簡単に外に出ることができた。


「それじゃあ呼び出すわね」


 外に出たところで、エリサはすぐにザッハートを呼び出す。


「グルル……」

「何だ!?」

「ドラゴンを呼び出したぞ!」


 突然呼び出されたザッハートを見て、兵士達は戸惑いを見せる。


「乗り込むわよ!」

「ああ!」


 兵士達が戸惑っている隙に俺達はザッハートに飛び乗る。


「全員あのドラゴンを攻撃しろ! 奴らを逃がすな!」

「「「はっ!」」」


 戸惑っていた兵士達はリーダーらしき男の指示ですぐに隊列を組む。


(城の警備を担当しているとだけあって、それなりに優秀なようだな)


 想定外の事態ではあるが、指示一つで全員が的確に動けているようだからな。

 城の警備を任されているとだけあって、それなりに優秀な人物ばかりのようだった。


「後衛組は仕掛けろ!」

「「「はっ!」」」


 そして、後衛達はリーダーらしき男の指示で魔法や魔法弓での攻撃を一斉に放った。


「……グル?」


 だが、それらの攻撃はザッハートには全く効いていなかった。

 ザッハートは何かしたかと言わんばかりに首を傾げている。


「効いていないぞ!」

「どうしますか?」

「精鋭で何とかする。精鋭以外は舞踏会の参加者を避難させろ」

「「「はっ!」」」


 そして、指示を受けて精鋭以外は退いて行った。


「ザッハート、行くわよ」

「グルッ……!」


 エリサが指示すると、ザッハートは翼をはためかせて飛び立つ。


「翼を狙え! 撃ち落とせ!」

「「「はっ!」」」


 精鋭達は翼を狙って魔法で攻撃するが、それも効いていなかった。

 それなりに高威力の攻撃のはずだが、全く効いていない。


「これだけ攻撃されても無傷か」

「まあかなり丈夫だから、この子のことは気にしなくて大丈夫よ」

「そうか」


 リトルバハムートであるザッハートはどの程度なのかは知らないが、かなり強力な魔物だからな。

 あの程度の攻撃であれば効かないようなので、気にする必要は無さそうだ。


「ザッハート、軽く一発かましてやりなさい」

「グル……!」


 エリサが指示すると、ザッハートは口に魔力を集約させ始める。


「何か来るぞ!」


 兵士達は強力な攻撃が来ることを察知して、すぐに警戒して備え始めた。


「ザッハート、そのぐらいで良いわよ」

「グルルォッ!」


 そして、ザッハートは魔力の充填が済んだところでその口を開いて、魔力のブレスで城壁や城の周囲を薙ぎ払った。

 魔力の込められたブレスによって連続で大爆発が起こって、城や城壁が破壊されていく。


「……とんでもない威力だな」


 ザッハートのブレスによって城は半壊して、城壁はほぼ全壊してしまっていた。


「まあこれでもかなり抑えているし、人的被害はあまり出ないようにしたから大丈夫よ」

「……そうか」


 まあこれを直接、城に放ったら城は全壊して、下手したら全滅していただろうしな。一応の配慮は見られる。


「と言うか、これでも抑えているのか……」


 また、ブレスはかなりの威力だったが、これでも抑えていたらしい。


「ええ。本気を出したら被害は相当なものになったでしょうから、抑えておいてあげたわ」

「そのようだな」

「それじゃあこのまま回収に向かうわよ」

「ああ」


 先程の攻撃によって統率が崩れて兵士達は動けていないようなので、このまま五人の回収に向かうことにした。

 待機場所に指定した広場に向かって低空飛行で移動する。


「……いたな」


 探してみると、五人は揃ってベンチに座って待機していた。


「アーミラ、変身を解いてくれ。俺とシオンで回収に向かう」


 もう姿を変えておく必要は無いし、変身した状態だと回収に当たって面倒なことになりかねないからな。変身は解いてもらうことにする。


「分かったよ」


 俺が指示すると、アーミラはすぐに全員の変身を解いてくれた。


「では、行くぞ」


 そして、変身が解かれたところで、シオンと共に広場に向かって飛び降りた。


「お前達、行くぞ」

「えっ!? ちょっ!?」


 五人は状況を理解できていないようだが、説明している暇は無い。

 すぐに俺は三人を、シオンは二人を担ぎ上げて、風魔法を使って高く跳んでザッハートの元へ戻る。


「回収したぞ」

「それじゃあこのまま上空に向かうわね。私が人質を落ちないように抑えておくから、あなた達はその子達を落ちないように支えてくれるかしら?」

「分かった」

「分かったよ」

「はーい」


 そして、俺、シオン、アーミラの三人で五人をしっかりと支えると、ザッハートは一気に急上昇した。


「このぐらいの高さならもう大丈夫ね。ザッハート、一旦止まってくれるかしら?」

「グル……!」


 攻撃が届かない高さにまで来たところで、一度止まって態勢を整えることにした。


「アーミラ、人質達を落ちないようにするために、ザッハートに巻き付けてくれるかしら?」

「分かったよ。じゃあエリサはそっちを持ってくれる?」

「分かったわ」


 エリサは取り出したロープの端を持つと、反対側の端を持ったアーミラはザッハートから飛び降りた。

 そして、遠心力でぐるぐるとザッハートの周りを回って、人質達をザッハートに巻き付けた。


「ええっと……どうなっているのですか?」


 と、ここで年長の少女が状況を尋ねて来る。


「それは後で説明する。ひとまず、準備をしてくれ」


 五人はまだ状況を飲み込めていないようだが、説明は後でもできるからな。

 まずは上空に向かうための準備を整えてもらうことにする。


「分かりました。何をすれば良いですか?」

「上空は寒いからな。暖かい格好をしてもらう。エリサ、防寒具を出してくれ」

「分かったわ」


 俺が頼むと、エリサはすぐにもこもことしたロングパンツとコートを取り出した。


「全員、上からこれを着てくれ」

「分かりました」


 そして、俺がそれらを全員に配ると、それぞれで渡した服を着始めた。


「……? どうした?」


 だが、五人ともコートだけを着ていて、何故かロングパンツを穿いていなかった。


「いえ、足場が不安定なので、手を離すのは危ないと言うか……」

「ああ、そういうことか」


 止まっているとは言え、足場が不安定なことに変わりは無いからな。

 下手に手を離すのは危険なので、動けずにいたらしい。


「なので、穿かせていただけませんか?」

「分かった」


 なので、俺が穿かせてやることにした。

 俺が体を支えておいて自分で穿いてもらった方が楽な気がするが、そこは気にしないことにする。


「では、脚を真っ直ぐ伸ばしてくれ。膝を曲げていると穿かせにくいし、その……スカートの中が見えるしな」


 彼女は膝を曲げているので、スカートの中が見えてしまっていた。


「ちょっと! 嫌らしいことを考えてるでしょ。変態!」

「痛っ!」


 だが、その様子を見たアーミラが後方から殴って来た。


「何だよいきなり……」

「立場を良いことに手を出そうとしたでしょ!」

「いや、していないが? そんなに気になるのであれば、アーミラが穿かせてやったらどうだ?」


 それならばアーミラが穿かせてやれば良いだけの話だからな。ここは彼女に任せることにする。


「そうさせてもらうよ」

「シオンも手伝ってやれ」

「はーい」


 そして、シオンとアーミラの二人でロングパンツを穿かせていった。


「さて、準備はできたな? では、安全用の固定器具を着けてくれ。やり方が分からなければ説明するぞ」

「分かりました」


 指示を受けた五人は自分で器具を取り付けていく。


「準備はできたようね。それじゃあこのまま上空まで行くわよ」


 そして、準備が整ったところで、雲よりも高い高度にまで上昇してから移動を始めた。


「それで、何をして来たのですか?」

「あまり詳しく言うつもりは無いが、任務を終えて帰還するところだ」

「そうなのですね」


 ざっくりとした説明しかしなかったが、あまり話したくないことを察してくれたのか、それ以上は何も聞いて来なかった。


「この後はどこに向かうつもりだ?」

「以前使った洞穴に向かうわ」

「ふむ……確かに、そこが一番良いか」


 あそこであれば安全に待機できるからな。そうするのが良さそうだ。


「一応、聞くが、向こうは大丈夫なのか?」

「西にはルミナが、南東にはエルナが待機しているから大丈夫よ。今はオールドイスと交戦している頃だと思うわ」

「そうか」

「まあ向こうのことは向こうに任せておけば良いわ。因縁への決着もあるでしょうし、私達が手を出すことじゃないわ」

「それもそうだな」


 オールドイスとルミナ達には三年半前からの因縁があるからな。

 俺達が手を出すべきことではないので、その結末を外部から見届けることにした。


「では、俺はルミナさんに任務が完了したことを報告しておこう」

「ええ、お願いするわ。ザッハート、日没までには到着したいから、少し急いでくれるかしら?」

「グル……!」


 そして、ルミナ達からの吉報に期待しながら目的地である洞穴に急いだ。

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