episode177 飛空船への潜入で得られた情報

 翌日、ワイバートではエリュ達からの報告を受けて、会議が開かれようとしていた。


「集まったわね。それじゃあ始めましょうか」


 普段とは違って今回はルミナが仕切っていく。


「それで、早速、情報が得られたらしいが、どんな情報を得られたんだ?」

「それは資料に纏めてあるわ」

「そうか。ひとまず、確認してみよう」


 そして、参加者はルミナの纏めた資料を確認していく。


「ふむ、かなりの情報が集まったようだな」

「ええ、飛空船に潜入して情報を集めてくれたそうよ。それらの資料は船内の会議室にあった資料をそのまま写した物ね」

「飛空船に潜入しただと? 大丈夫なのか?」


 潜入に気付かれると、こちらがその存在を認知していることに気付かれたということになるので、何かと都合が悪い。


「ええ。うまく見付からないように資料のコピーを取って来てくれたみたいだから大丈夫よ」

「気付かれずに潜入してコピーを取っただと? そんなことが可能なのか?」

「彼らであればそれも可能だったということよ。まあその話は置いておいて、今回得られた情報についての話をしましょうか」

「そうだな」


 その方法はともかくとして、情報が得られたことに変わりは無いので、得られた情報についての話をすることにした。


「こちらがエリュ達が作ってくれた情報を纏めた資料よ」


 そう言って、ルミナはエリュとエリサが作った情報を纏めた資料のコピーを全員に配る。


「今回、送り込まれたのは王族の直属の部隊か」


 資料によると、今回西の山脈に送り込まれた部隊は王族の直属の部隊で、この部隊は先遣隊のようだった。


「どうやら、制圧しやすい西側の村を制圧して、それを足掛かりに侵略を進めるつもりのようですな」


 資料には侵略計画の情報もあり、それによると西側から侵略する計画のようだった。


「私が西に向かった方が良いかしら?」

「エルナがいるし、それは大丈夫なのではないかしら?」

「いえ、やりすぎないか心配なだけよ。街や村に大きな被害を出すことは無いでしょうけど、外だと遠慮無く暴れるでしょうし、街道や地形が滅茶苦茶になると整備が面倒だと思っただけよ」

「なるほどね」


 ルミナの心配というのは戦力的な問題では無く、エルナが暴れた後の後始末についてのことだった。

 長年の付き合いであるルミナやレイルーンはエルナの性格を分かっていて、実際エルナは今まで問題を多々起こしているので、その心配は尤もなものだった。


「でも、まだエルナに任せておいたので良いのではないかしら?」

「そうね。被害が出た際は私が何とかするわ」


 とは言え、それもいつものことなので、あまり気にせずにエルナに任せることにした。


「レグレットや諜報員についての情報は流石に無いようですな」


 レグレット国内の情報やワイバート内にいる諜報員の情報も欲しいところだったが、飛空船にあった資料は作戦に関する物ばかりだったので、それらの情報は無かった。


「まあ先遣隊の目的や情報が分かっただけでも十分だろう」

「それもそうですな」


 だが、先遣隊の情報が分かっただけでも十分な収穫だった。


「それで、今回の報告を受けてどうするつもりだ? すぐに拠点を潰しに行けるように準備しておくか?」


 今回、得られた資料の情報によると、先遣隊の目的は西の山脈に拠点を設立することのようだった。

 なので、それに対策するようにどう先手を打つかを考えることにした。


「そうね……向こうが動くまでこちらは動かないし、西の山脈の近くにエルナの部隊を送っておくのが良さそうね」

「それが良さそうですな」


 レグレット側の宣戦布告がされるまでこちらは動かないので、物資の運搬など何かと都合が悪い山脈内で構える必要も無い。

 最初に狙われる可能性の高い西にある村にエルナの部隊を送るという選択肢もあるが、そこには既に他の部隊を送っているし、ここは山脈の前にエルナの部隊を送って敵が動き次第、即座に対応してもらうということにした。


「敵の本隊が到着するのは三日後、十分に準備の時間はありますな」

「そうね。資料を元に各所に指示を出して、それまでに備えましょうか」


 資料によると、レグレットの本隊が到着するのは三日後だ。

 なので、それを元に今後の計画を立てることにした。


「ただ、向こうの計画が少々雑なのは気になるところだな」


 だが、計画が安直で雑なのは懸念すべき点だった。

 これだけ適当だと、何か裏がある可能性も疑ってしまう。


「計画が雑なのはオールドイスが計画者だからじゃないかしら?」

「オールドイスが計画者? 何故そんなことが分かる?」

「これまでの情報からの推測よ。前回の会議でも言ったけど、彼は敗戦を前提に動いて来る可能性は十分に考えられるわ」

「つまり、何が言いたいんだ?」

「さっさと戦争を終わらせて、被害を減らそうとしているということよ」


 当然のことではあるが、長引くほど兵糧などの消耗品の消費も兵への被害も増える。

 なので、敗戦を前提に被害を減らすように動くのであれば、さっさと負けてしまうのが良い。


「ここでちょっと西の山脈に送られる本隊の情報を見てくれるかしら?」

「本隊の情報?」


 ルミナにそう言われて会議の参加者達は資料の本隊の情報を確認する。


「明らかにルートライア家の戦力が少ないと思わない?」

「確かに、あからさまにルートライア家の戦力が少ないな」


 資料を確認してみると、本隊の部隊には明らかにルートライア家の戦力が少なかった。


「恐らく、ルートライア家の勢力への被害を減らすつもりなのでしょうね」


 その目的はルートライア家の勢力への被害を減らすことだと思われた。

 さらに、これであれば他の勢力の戦力を削ることもできるので、戦争後に自分が優位に立つという目的も果たすことができる。


「だが、これだと戦争への貢献が少なかったとして、戦争後に問題になるのではないか?」


 しかし、それだと戦争後に貢献が少なかったとして問題にされて、地位を落とされてしまう可能性があった。


「初動は防衛に戦力を割いているか、別働隊がいてそちらに戦力を割いているかだと思うわ」


 レグレットの国内の状況が詳しく分かっていないので断言はできないが、何かしらの方法で戦争に参加していることは間違い無いので、ルミナはそのどちらかだと見ていた。


「なるほどな」

「それで、一つ提案があるのだけど、私がエルナと隊長を代わって、彼女を国の南東に送らない?」

「何故そんなことをする必要がある?」

「別働隊が来る可能性があるのが国の南東か南西だからよ」


 ルミナは別働隊が来るとしたら国の南東か南西からだと見ていた。

 と言うのも、アールカイドが非協力的な以上、国内を通してもらうことはできないので、別働隊を送るとしたら西の山脈を通すか、霧の領域とアールカイドの境界付近を通すかの二択になるからだ。


「それならば、ルミナ殿が南東に向かえば良いのでは?」


 だが、それならばわざわざエルナと隊長を交代して彼女を南東に送らずとも、ルミナが直接行けば良いだけの話なので、その必要は無い。


「エルナは加減を知らないからよ」

「それが何か問題になるのですか?」

「ええ。できればルートライア家の戦力だけを削りたいから、他の勢力の兵士は捕虜にしたいのよ。だけど、エルナだと問答無用で殲滅しかねないから、ルートライア家の戦力が少ないことが分かっている西の本隊を私が担当したいのよ」


 ルミナの目的はルートライア家の戦力を削って、その力を削ることだった。

 戦争には十分に勝てる見込みがあり、ある程度不測の事態にも対応もできるので、それをするだけの余裕はある。


「それは、エンドラース家が優位に立つためか?」

「もちろん、私的な理由で提案しているわけじゃないわ。エンドラース家であれば動かしやすいし、今後のことも考えるとそうした方が良いと思っただけよ」


 エンドラース家であればルミナの意思で動かすことができるので、何かと都合が良い。

 それに、リグノートでの小競り合いでエンドラース家が優勢になりつつあるので、ルミナはこの機会に覇権と取らせたいと思っていた。


「……そうか。分かった。そちらのことは任せよう」

「ええ。向こうのことは私に任せて」

「それにしても、僅か一日でここまでの情報を集めて来るとはな」

「あら、期待していなかったのかしら?」

「飛空船が停まっている場所を特定できれば上出来だとは思っていたからな」


 ワイバートの上層部はルミナと違ってあまりエリュ達に期待していなかったし、そもそも彼らを雇ったのはルミナの強い推薦があったからだ。

 ここまでの成果を上げるとは思っていなかったので、彼らにとって思いがけない朗報だった。


「だから、言ったでしょう? 彼らはかなり優秀よ」


 ここぞと言わんばかりにルミナは自慢気になる。


「諜報が得意なだけじゃなくて、戦闘能力も高いから少人数の行動に適しているわ。だから、どう? 彼らをリグノートに潜入させてみない?」


 そして、ルミナはエリュ達をリグノートに潜入させることを提案した。


「ふむ……確かに、それは良いかもしれんな」

「それじゃあその方針で行くということで良いかしら?」

「「「…………」」」


 ルミナが確認するが、それに反対する者はいなかった。


「エルナとエリュ達には私が連絡して指示を出しておくわ。あなた達は他の部隊への指示をお願いするわね。他に何か話すことはあるかしら?」

「いや、特にありませんな」

「それじゃあこれで解散にしましょうか」


 そして、今後の方針が決まったところで、会議は解散となった。






「うーん……暇だねー……」


 レグレットの飛空船を監視しているアーミラが、クッキーを齧りながらそんなことを呟く。


「ねえエリュ、代わらない?」

「……こういうときにだけ都合良く使おうとするのは止めてくれるか?」

「えー……別に良いじゃん」

「全然良くないのだが? まだ三十分しか経っていないだろう。もう少し続けろ……む?」


 と、アーミラを軽く注意していると、長距離通信用の魔法道具に連絡が入った。


「俺が取る」


 俺はすぐに魔法道具を手に取って、通信を繋ぐ。


「こちらルミナ、聞こえているかしら?」

「ああ、聞こえているぞ」


 その連絡はルミナからの連絡だった。


「それで、何の用だ?」


 向こうから連絡して来たということは、取り急ぎ伝えることがあるようなので、ひとまずその用件を尋ねてみる。


「あなた達の送ってくれた情報を基にして会議が行われたから、その会議で決まったことを伝えるわね」


 どうやら、今朝送った資料を基にして会議が行われたらしく、その会議での決定事項についての連絡のようだ。


「ああ、頼んだ」

「とりあえず、あなた達にはリグノートに行ってもらうことになったわ」


 このレグレットの部隊から得られる情報は十分に得られたからなのか、この部隊の偵察はここで切り上げらしい。

 まあこうなれば俺達が監視する意味も無いからな。それも当然か。


「偵察か?」

「ええ、そうよ。お願いできるかしら?」

「ああ、任せろ」

「優先して欲しい調査項目については後で纏めて連絡するわね」

「分かった。ところで、この部隊の監視はどうするんだ?」


 この部隊から得られる情報はもうあまり無いだろうが、動きを見るためにも監視は必要だ。


「代わりの者を送るから大丈夫よ」

「そうか」

「ただ、その代わりの者のために監視ができて拠点にできそうな場所を確保しておいて欲しいのだけど、良いかしら?」

「ああ。と言うか、今使っているこの洞穴がそれに適しているぞ」


 今朝、報告をした後はより良い場所を探して移動したが、今いる洞穴はそこそこ広さがあるので、十人ぐらいであれば問題無く生活できる。

 さらに、ここであれば木々の隙間からレグレットの飛空船を一方的に監視できるので、ルミナの提示した条件も満たしている。


「そうなのね。それじゃあその場所についての情報を教えてくれるかしら?」

「ああ」


 そして、この洞穴についての情報を口頭で軽く説明した。


「一応、後で場所のデータも送っておく」

「ええ、お願いするわね」

「それで、俺達は代わりの者が合流してから出発したので良いか?」

「ええ。それまでは引き続き監視をお願いするわ。ところで、何か動きは見られたかしら?」

「いや、特に動きは見られないな」


 監視はずっと交代で行っているが、今のところは特に動きは見られない。


「分かったわ。それじゃあもう切るわね」

「ああ」


 そして、連絡が済んだところで、通信を切った。


「……ということだそうだ。全員分かったな?」


 全員、聞いていただろうが、念のために確認を取る。


「ええ」

「うん」

「もちろんだよ」

「では、このまま代わりの者が来るまで予定通りに監視を続けるぞ」


 そして、その後も予定通りにレグレットの飛空船の監視を続けた。

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