episode167 ルートライア家の組織への襲撃
それから三日が経過して、ルートライア家の組織への襲撃予定日になった。
「さて、いよいよ今日が実行日だが……そちらは問題無いか?」
「ええ。ルミナがうまく動かしてくれたから、予定通りに集まることができたみたいよ」
「こちらも同様だ」
ルミナがうまく指示して動かしてくれたおかげで、リグノートやリグサイドに移動するエンドラース家の組織は無事に四つのグループになるように集まることができた。
さらに、それを監視していたルートライア家の組織の者もうまく集めることができていた。
「準備は良いか?」
できるだけ同時に仕掛けたいので、準備が整っているか確認する。
「ええ」
「こちらも構わんぞ」
「では、この通信の一分後に動いてくれ。切るぞ」
そして、全員の準備が整っていることを確認したところで、通信を切った。
「さて、向こうにも連絡するか」
エリサとシオン、アデュークとヴァルトの二組には連絡したが、盗賊団側への連絡がまだだ。
なので、まずは盗賊団側にいるエンドラース家の組織の者に連絡することにする。
「聞こえるか?」
「はい、聞こえています」
「そろそろ襲撃を開始する。いつでも動けるように備えてくれ」
「分かりました」
「では、もう切るぞ」
そして、必要最低限のことだけを伝えてから通信を切った。
「後は盗賊団への連絡だが……三十秒待つか」
襲撃開始に指定した時間までは四十秒あるが、それよりも少し早めに連絡を送ることにした。
俺は普段使っている端末とは別に用意しておいた連絡用の魔法道具を取り出す。
「確かそれって盗賊団の奴らに襲撃のタイミングを知らせるための物だったよね?」
「ああ」
この道具は二つで一組の道具で、使うことでもう一方の道具で音が鳴る道具だ。
「いつもの端末で連絡しないの?」
「通信機能を持った道具を作るのは面倒だしコストも掛かるからな。会話の必要は無いし、これで十分だ」
通信機能を持った道具を作るにはそれなりに技術が必要で、その分手間とコストが掛かるからな。わざわざ作るのも面倒だったので、簡単な物を作ったのだ。
「さて、そろそろ時間だし連絡するか」
それから少し待ったところで時間になったので、予定通りに連絡することにした。道具を使って盗賊団に連絡する。
「これで良いな。では、行くか」
そして、盗賊団に連絡したところで、早速、襲撃を始めることにした。
「このまま突っ込むぞ」
「分かったよ」
できれば不意打ちを仕掛けたいところだったが、障害物の無い平原ではそれはできそうにないので、真っ直ぐと突っ込むことにした。
俺達は風魔法を使ってルートライア家の組織の者が集まっている場所に高速で接近する。
「っ! 敵襲――」
「遅い」
「遅いよ!」
敵は俺達の存在に気が付いて構えようとしたが遅かった。
俺は闇魔法による範囲攻撃で、アーミラは拳に魔力を込めた突きで魔力の衝撃波を発生させて、先制攻撃を仕掛ける。
「ぐわあぁぁーー!」
「ぎゃあぁぁーー!」
それに対応できなかった敵が攻撃を受けて吹き飛んでいく。
「アーミラは中央で暴れてくれ。俺がサポートする」
「分かったよ」
アーミラは敵陣の中央に突っ込んで地面に拳を突き立てると、周囲に血で形成した針を地面から突き出して攻撃した。
その一撃で十人近くの敵が貫かれて、その身体から血が噴き出す。
「……貫け」
それを見て怯んだ敵に向けて光魔法によるビームを放って追撃を仕掛ける。
「一旦退いて立て直せ!」
「させるかよ」
この部隊のリーダーらしき男は一度退いて態勢を立て直すよう指示を出すが、そう簡単に思い通りにさせてやるつもりは無い。
俺はすぐにそこに接近して、居合斬りで攻撃を仕掛ける。
(この部隊は大したことが無さそうだな)
全体の動きを見てみるが、この部隊は比較的弱い部隊のようだった。
見たところ、この部隊の実力はCランククラスと言ったところだ。
「……さっさと終わらせてもらう」
これであれば慎重に動く必要も無さそうなので、一気に片付けることにした。
速度を上げて、倒せそうな敵から順に斬り捨てていく。
「アタシも行くよ!」
それに合わせてアーミラも一気に終わらせようと速度を上げた。
高速で跳び回りながら爪で敵を次々と斬り裂き、血で脚に刃を形成して蹴りで敵を真っ二つにしていく。
そして、気付けば全ての敵が片付いていた。
「ふぅ……案外、簡単に片付いたな」
「だね」
「とりあえず、近くの川で返り血を洗い流すか」
敵が片付いたは良いが、派手に動いたのでかなり返り血が付いてしまっている。
特にアーミラは装備した爪での攻撃や蹴りによる直接攻撃をしていたので、体中に返り血が付いて真っ赤になっている。
「そうだね。じゃあアタシが先に行くね」
「ああ」
「……覗いたらどうなるか分かってるよね?」
「分かっているし、そもそも覗く気も無い。分かったら早く行け」
「そうさせてもらうよ。それじゃあ後処理は任せたからねー」
そして、アーミラは後処理を俺に押し付けると、水浴びをしに足早に川に向かった。
「先に水浴びをすると言ったのは、俺に後処理を押し付けるためか……」
面倒事はできるだけ避けたいと思っている彼女らしいと言えばそうなのだが、たまには率先してやってくれても良いと思うのは俺だけだろうか?
「まあ期待するだけ無駄か」
とは言え、今更文句を言っても仕方が無いので、そのまま後処理を始めた。
エリュからの連絡を受けた盗賊団は
「お前ら、準備は良いな?」
「「「へい!」」」
「行くぞ!」
盗賊団は全員で一斉に
「敵襲! 全員構えろ!」
だが、真正面から全員で突撃したので、すぐに気付かれて陣形を組まれてしまった。
「てめえらに恨みはねえが、死んでもらうぜ! がっ……」
先頭にいた盗賊団のメンバーの男が剣を振り被って仕掛けるが、そのがら空きの腹に一文字に斬撃を叩き込まれて真っ二つにされた。
「人数は五十人ぐらいか」
「お? 倍近い人数にビビったか?」
「……前衛から順に片付ける。俺に続け」
考え無しに動いている盗賊団とは違って、ルートライア家の組織の者達は冷静に状況を見て動く。
「お前ら、一気に押し込むぞ!」
「「「へい!」」」
動かない敵を見てチャンスだと思ったのか、盗賊団は一斉に攻撃を仕掛ける。
「おらよ!」
「遅い!」
「ぐはっ……」
盗賊団のメンバーはそれぞれの武器で攻撃を放つが、練度が低いのであっさりと迎撃されていく。
「合わせろ!」
ここでルートライア家の組織の前衛は、リーダーの指示に合わせて大きく後方に跳んで距離を取った。
「行きます!」
そして、それに合わせて後衛の魔法使いが一斉に魔法を放った。
「こんなの避けれな――ぐわああぁぁーー!」
「ぎゃああぁぁーー!」
盗賊団はその魔法攻撃に直撃して、壊滅的な被害を受ける。
「一気に終わらせる! 行くぞ!」
「「「はい!」」」
さらに、一度引いた前衛は魔法の着弾に合わせて接近して、一気に畳み掛けた。
「こうなったら逃げ――がっ……」
「ぐはっ……」
ただでさえ戦力に大きな差がある盗賊団だったが、ここまで崩されると最早抵抗することすらできなかった。
そして、そのまま盗賊団は一方的に蹂躙されて、ルートライア家の組織の者達に何一つ損害を与えることもできずに、あっさりと全滅した。
「数が多いだけで、大したことは無かったな」
ルートライア家の組織の者の実力からすると盗賊団は取るに足らない存在で、エリュの懸念通りまともな戦いにすらならなかった。
「……報告よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「エンドラース家の者達がいなくなっています」
ここで監視対象であるエンドラース家の者が集まっていたところを確認してみると、彼らがいつの間にかいなくなっていた。
「こいつらを使ったのは時間稼ぎのためか」
ルートライア家の組織のリーダーの男は、敵が盗賊団を使って来たのは時間稼ぎのためだとすぐに悟った。
「どうしますか?」
「とりあえず、本家に連絡する。話はそれからだ」
だが、勝手に動くわけにもいかないので、本家に連絡をするのだった。
水浴びを終えた俺とアーミラは盗賊団のアジトだった洞窟に来ていた。
「結構あるね」
「そうだな」
宝物庫らしき部屋に行くと、そこにはそれなりの量の金品が置かれていた。
「それじゃあ全部いただいちゃおっか」
「ああ」
早速、空間魔法でそこにあった金品を収納していく。
「……む、ヴァルトからか」
と、ここで端末にヴァルトから連絡が入った。
ひとまず、端末を操作して通信を繋ぐ。
「どうした?」
「こちらは全て片付いたぞ」
「そうか」
ヴァルトには余裕があれば盗賊団が相手していたルートライア家の組織の一団を片付けてもらうよう頼んでいたが、どうやらそちらももう片付けてくれたようだ。
「思っていたよりも早いな」
「アデュークは置いて行ったからな」
「そうだったのか」
まあ最初の一団もヴァルト一人で片付けたようだしな。戦力的に問題無いと判断して、一人で倒しに行っていたようだ。
「では、この後は予定通りにエンドラース家の奴らを見守ってくれるか?」
「良かろう。ではな」
そして、報告が済んだところで、通信を切った。
「エリュ、収納終わったよ」
と、ヴァルトと話をしている間に収納が終わっていた。
「そのようだな」
「他の部屋の物はどうする?」
「そうだな……持てるだけ持って行くか」
「分かったよ」
まだ容量には余裕があるので、他の部屋にある物も持てるだけ持って行くことにした。
そして、その後は全ての部屋を回って、そこにあった物を全て空間魔法で収納して持ち帰った。
その夜、ルートライア家では各組織の代表が集まって会議が行われようとしていた。
「集まったか」
いつものように最後にオールドイスが席に着いたところで会議が始まる。
「マーチャット商会の方はどうだ?」
「はい。エンドラース家が抱える三つの商会が併合したことにより、マーチャット商会の勢力は落ちています」
エンドラース家が抱える三つの商会が併合してできた新たな商会の勢力は伸びていて、それに伴ってマーチャット商会の勢力は落ちていた。
「何とか盛り返せないのか?」
「尽力していますが、残念ながらうまく行っていません」
もちろん、何とかして盛り返そうとはしているが、残念ながらその成果は上げられていなかった。
「そうか。裏マーチャット商会の商品が倉庫から盗まれた件については何か分かったか?」
「いえ、今のところは何も分かっていません。ですが、ルミナの手下の仕業である可能性が高いと思われます」
その犯人はまだ分かっていないが、盗むメリットが大きいのはエンドラース家なので、ルミナの手下による犯行の可能性が高かった。
「分かった。その件の調査はもう良い。切り上げて他のところに人員を回せ」
「分かりました」
勢力争いにルミナが加わったことで余裕が無いのと、犯人に目星は付いているので、調査はここで切り上げることにした。
「ところで、こちらに向かっているエンドラース家の組織の奴らを監視していた部隊からの連絡が途絶えたらしいが、その後はどうなった?」
「はい。連絡は途絶えたままで、恐らく全滅したものだと思われます」
昼過ぎに部隊の一つから襲撃を受けたという連絡はあったが、その時点で他の部隊とは連絡が取れなくなっていた。
さらに、その襲撃の報告のあった部隊もそれ以降は連絡が取れていない。
「……このまま行くとエンドラース家に立て直されるのは確実か」
無能なセミアスが指揮しているならともかく、今は有能なルミナが指揮しているので、このままだとエンドラース家に立て直されてしまうのは確実だった。
「どう致しますか?」
「そうだな……今更、奴らの合流は止められん。こちらも戦力を整えるぞ」
「畏まりました。どの組織をどう動かしましょう?」
「それはこれから決める。ひとまず、今の状況を纏めた資料を持って来い」
「畏まりました」
そして、『
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