episode168 ルートライア家の現状

 他の街にいたエンドラース家の組織の護送を無事に終えた俺達は、エンドラース家の本家に集まっていた。


「みんな、お疲れ様。助かったわ」

「私達は依頼をこなしただけ。当然のことをしただけよ」


 ルミナの労いに対して、エリサは礼は不要と言わんばかりの答えを返す。


「それでも助かったことに変わりは無いわ」

「そう。まあそこまで言うのなら、素直にその言葉を受け取っておくわね。ところで、私達がいない間、そちらは大丈夫だったのかしら?」

「ええ、こちらは特に問題無かったわ。セミアス、資料を持って来なさい」


 ルミナはメイドではなくセミアスに資料を持って来るように指示する。


「何故、僕が持って来る必要があるんだ? そんなことはメイドにやらせれば良いだろう?」

「どうせあなたはすることが無いのだから、それぐらいのことはしなさい」

「何のためにメイドがいると思っているんだ?」

「お手伝いのためでしょう?」

「だったらメイドにやらせれば良いだろう!」

「資料を持って来る程度のことならあなたでもできるでしょう? メイドは忙しいのだから、あなたがするべきだとは思わないのかしら?」


 最早セミアスの扱いがメイド以下になっているが、それは今に始まったことではないので気にしないことにする。


「資料の方をお持ちしました」


 と、二人が言い争いをしている間にメイドが資料を持って来ていた。


「あら、悪いわね」

「いえ、必要になるかと思って用意していましたので」


 どうやら、必要になることを想定して、事前に用意しておいてくれたようだ。


「セミアスと違って優秀じゃない。助かるわ」

「ルミナ、それは僕が優秀ではないと言っているように聞こえるのだが?」

「あら? それが何か間違っているのかしら?」


 ルミナは悪怯れた様子も無く即答する。


「……と言うか、そもそも何故セミアスもここにいるんだ?」

「何故と言われても、僕が当主だからに決まっているだろう!」

「そうは言ってもどうせお前は何もしないし、話し合いに参加しない方が良いのではないか? 情報漏洩はできる限り防ぎたいからな」


 情報漏洩を防ぐためにも、できる限り情報を持っている者を少なくした方が良いからな。

 どう考えてもこれから話すことはセミアスには必要の無い情報なので、彼には退席してもらった方が良いように思える。


「まあそれぐらいは良いじゃない。かわいそうだから彼も参加させてあげましょう」

「……そうだな」


 ルミナの言う通りにセミアスだけを仲間外れにするのもかわいそうだし、彼に情報を教えても基本的に影響は無いだろうからな。

 仕方が無いのでセミアスの同席を許可することにした。


「それじゃあそろそろ話を始めましょうか」

「ああ。と言うことでルミナさん、説明を頼めるか?」


 無駄な話に時間を食われてしまったので、そろそろ話を始めることにした。


「ええ、良いわよ。まず、商会の護衛は『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』にリメット、スノーホワイト、フードレッド、それと地下闘技場から連れて来たあの子達にやってもらっているわ」

「そうか。うまくやれているか?」

「ええ。五つのグループに分けているけど、今のところは順調よ」


 資料を確認すると、元奴隷達を五つのグループに分けて、そこに『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人、リメット、スノーホワイト、フードレッドの六人をサポートとして振り分けているようだった。


「ふむ、優秀な五人をそれぞれのリーダーにしたといったところか」


 資料を見た感じだと、元奴隷達の中でも優秀なルピア、アルフ、レビット、ガレット、レウンドの五人をリーダーにしてグループ分けを行っていたようだった。

 ちなみに、ガレットは十五歳前後の人間の少年、レウンドは十八歳前後の犬系の獣人ビーストの青年で、どちらも近接戦闘を得意としている。


「まあそんなところね」

「俺達も護衛に加わった方が良いか?」

「あなた達は緊急時にいつでも動けるように待機しておいてくれるかしら?」

「分かった」


 俺達も護衛に加わった方が安全だが、ここはルミナの指示に従って待機することにする。


「そう言えば、元奴隷達に装備は作ってやってくれたか?」


 街を出る前にルミナには元奴隷達の装備を作るよう頼んでおいたので、忘れない内にそのことを聞いておく。


「ええ、作っておいたわよ。そんなに性能は高くないけど、今の彼らには十分な性能はあるから大丈夫よ」

「そうか」


 どうやら、頼んだ通りに作っておいてくれたようだ。


「ところで、ルートライア家に動きはあったのか?」

「マーチャット商会の立て直しに力を注いでいたみたいだから、大きな動きは無かったわ」

「ふむ、そうか」


 まあ地下闘技場に続いてマーチャット商会までもが潰されると、収入に影響が出て来るだろうからな。何とかして立て直そうとするのも当然か。


「ただ、こちらが立て直したのを見て向こうも戦力を集めているわ」

「つまり、仕掛けて来る可能性があるということか?」

「そうね。だから、それを警戒してあなた達には待機していてもらうわ」


 それで先程は俺達に待機するように指示したのか。


「ああ、任せろ。それで、今後のルートライア家の動きに予想は付いているのか?」

「そうね……このまま膠着状態になるか、一気に仕掛けて来るかのどちらかだと思うわ」

「何故そう思う?」

「地道な削り合いをしても、いたずらに戦力を減らすだけになるからよ」

「なるほどな」


 確かに、互いに突き合っても決定打にはならないし、無駄に戦力を減らすだけになる可能性は高いからな。

 こちらの戦力も削れるだろうが、今後のことも考えると自身の勢力の戦力を減らすのは避けたいので、地道な攻撃を仕掛けて来るとは考えにくい。


「と言うことで、しばらくはこのまま様子見になると思うから、備えておくと良いわ」

「分かった。では、これで解散ということで良いか?」

「ええ。それじゃあ部屋に戻ると良いわ」

「ああ」


 そして、話し合いが終わったところで、俺達は部屋に戻った。






 話し合いが終わったところで、俺達は一つの部屋に集まっていた。


「少し暇になりそうね」

「そうだな」


 仕掛けて来るにしても、態勢が整ってからになるだろうからな。それまでの間は暇になる。


「それじゃあ盗賊団の拠点で手に入れた物を出してくれるかしら?」

「ああ」


 俺達がここに集まったのは盗賊団の拠点で手に入れた物をアデュークに鑑定してもらうためだ。

 早速、空間魔法で収納しておいた価値のありそうな小物を取り出していく。


「これで全部か?」

「他には家具なんかがあるが、部屋のスペース的に全部は出せないな」

「そうか。では、出せるだけ出しておけ」

「分かった」

「分かったよ」


 アデュークに言われた通りに家具も取り出していく。


「ふむ……高級な家具も混ざっているようだな」

「そうなのか?」

「見て分からんか? 材質が違うだろう?」

「ふむ……言われてみればそんな気がするな」


 少し古くなっているので分かりにくいが、言われてみれば材質が違うような気がする。


「だが、このままでは売れんな。錬成魔法で軽く修繕しておけ」

「分かった」


 この状態でも使う分には問題無いが、売るとなると売値が下がるだろうからな。後で軽く修繕しておくことにする。


「安物はどうする?」

「地下闘技場から連れて来た元奴隷が住んでいるアパートに置いたらどうだ?」

「それが良さそうだな」


 アパートにはまだ必要最低限の物しか置かれていないようだからな。売っても大した値段にはならないので、彼らのいるアパートに設置することにした。


「どれが高級品なのかは俺が見極めてやる。とりあえず、鑑定が終わった物から分別して収納していけ」

「分かった」


 こういう物に詳しいのはアデュークなので、鑑定は彼に任せることにした。

 鑑定が終わった物から分別して、次々と収納していく。


「入るわよ」


 だが、作業を進めていると、途中でルミナが部屋に入って来た。


「あら、ルミナじゃない。何か用かしら?」

「あなた達が集まっていたから、何をしているのか気になっただけよ」

「そう」

「それで、何をしているのかしら?」

「荷物の整理よ」


 荷物と言うよりも奪った物の整理をしているのだが、それを正直に言うわけにはいかないので、エリサは適当な理由を付けた。


「荷物、ね……」


 それを聞いたルミナはちょうど隣にあったタンスを細かく見て回す。


「……ここにある物はどう見ても盗品よね?」

「それが何か問題かしら?」

「あら、否定はしないのね」

「あなたには分かるのだから、否定しても仕方が無いでしょう?」


 まあルミナには盗品であることが分かっているようだからな。否定しても仕方が無いと言えばそうか。


「高価な宝石に流通に制限のある滅毒竜の毒液まであるじゃない。どこで手に入れて来たのよ」

「聞かれて言うと思う?」

「……分かったわ。これ以上それらの出所でどころについては聞かないわ。とりあえず、これはあなた達が持っていても仕方が無さそうだから、私が持っておくわね」


 ここでルミナはそう言って滅毒竜の毒液を回収する。


「あら、それが欲しかったのかしら? それならいくらでも手に入るから、必要なら売ってあげるのに」

「いえ、特別これが欲しかったわけじゃないわ。この液体からはまだ薬効成分が取り出されていないから、成分を分離しておこうと思っただけよ」

「そうなのね。それなら好きに持って行くと良いわ」

「ええ。それじゃあ忙しいから私はもう行くわね」


 ルミナは滅毒竜の毒液を回収したところで、そのまま部屋を出て行く。


「それじゃあ私達は分別を続けましょうか」

「そうだな」


 そして、俺達はその後も手に入れた物の分別を続けた。






 その夜、オールドイスは王族の者に呼ばれて城に来ていた。


「……来たぞ。私を呼び出すとは何用だ?」

「オールドイス様ですね。用件に関しては直接お伝えするとのことで、私は伺っておりません。ひとまず、こちらへどうぞ」


 そして、そのままオールドイスは食堂に案内された。


(いるのは王族とその関係者だけか)


 食堂には豪華な料理が用意されていて、王族の者や関係者が席に着いていた。


「それでは失礼します」


 兵士は案内を終えたところで、持ち場に戻って行く。


「とりあえず、座ると良い」

「失礼します」


 オールドイスは促されたところで、一つだけ空いていた席に着く。


「それで、本日はどのようなご用件で?」

「其方は何やらエンドラース家とハイスヴェイン家の二家と争っているそうだな」


 用件というのは三家の勢力争いに関してのことだった。


「そうですが、それがどうか致しましたか?」

「困るのだよ。一言で言うとな」

「と言いますと?」

「ルートライア家、エンドラース家、ハイスヴェイン家の三家が提供する戦力は我が国の戦力の中心になっている。そんな三家の力が削られるのは困るということだよ」


 この三家の提供する戦力はレグレットの戦力の中心となっているので、国としてはこの三家が争うということは避けたかった。


「……そうですか。それで、私だけを呼んだ理由はどういったもので?」


 話し合いをするのであれば他の二家の代表も呼んでいるはずだが、ここにはエンドラース家の者もハイスヴェイン家の者もいなかった。


「其方を呼んだ理由は国に大きく貢献してもらっているルートライア家により強い権限を与えようと思ったからだ」

「なるほど。そういうことでしたか」


 王の案はルートライア家に強い権限を与えて、勢力争いに終止符を打つというものだった。


「しかし、それだけだと勢力争いの決定打にはならないかと。ハイスヴェイン家はそれだけでも問題無いかもしれませんが、エンドラース家にはルミナがいますので」


 だが、それだけでは圧倒的な戦闘能力とそれなりに高い指揮能力を持つルミナがいるエンドラース家に対しては、決定打にはならなそうだった。


「ルミナに関してはこちらで処分する。それで問題無いであろう?」

「処分ですか……如何様にしてなさるつもりで?」

「少し話は変わるが、其方の娘のレーネリアが三年半ほど前から行方不明になっているそうだな?」

「そうですが、それがどうかしましたか?」

「そして、そのレーネリアはルミナの店にいた。つまり、彼女はルミナに誘拐された。それで間違い無いな?」


 王の考えていることはルミナに誘拐の容疑を掛けて、それを理由に捕らえるというものだった。


「はい。それで間違いありません」

「そうか。……おい」

「はっ!」


 王が呼ぶと、すぐに一人の兵士が駆け寄って来る。


「ルミナに関しての件のことを進めておけ。明日の朝には動けるように手筈を整えろ」

「はっ!」


 そして、指示を受けた兵士はすぐに各所に連絡しに向かった。


「それで、用件は以上ですか?」

「そうだ。では、私はもう行かせてもらう。其方はこのまま食事を楽しむがい」


 話が終わったところで、王は護衛の兵士を引き連れながら退席した。


(予想外の吉報だったな)


 勢力争いはまだ続くと思われたが、これによって勢力争いが終わることがほぼ確定した。


(まあこれでうまく行くとは思えんがな)


 だが、ルミナをそう簡単に捕らえることができるとは思えないので、王の計画通りに行かないことは明らかだった。


(それでも勢力争いに終止符が打たれることに変わりは無いし、問題は無いがな)


 とは言っても、ルートライア家に強い権限が与えられることに変わりは無いので、オールドイスとしてはそれでも問題は無かった。


「オールドイス殿、どうかしたのですかな?」

「いや、何でもない。気にするな」


 そして、その後は適当に料理を食してから本家の戻ったのだった。

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