第5章 レグレットでの勢力争い

episode144 大規模討伐戦の打ち上げ

 ワイバスの街に戻った俺達は寄り道すること無くルミナの店に向かっていた。


「何かそんなに期間が開いたわけじゃないのに、久々って感じがするよね」

「そうだな」


 スノーファの街にいたのは二週間ほどだったので、久々と言うほどのことは無いなずなのだが、シオンが言う通りに何だか久々な感じがする。

 何と言うか、エリサ達からの修行を受けて帰って来たあのときの感覚に似ている。


「さて、店に着いたな」


 と、そんな話をしながら歩いていると、目的地であるルミナの店の前にまで来ていた。


「そろそろ帰って来る頃だと思っていたわ」

「む?」


 ここで声がした方を振り向いて確認すると、そこにはエリサがいた。


「エリサか。戻っていたのか」

「ええ。無事に用事が済んで数日前に戻ったわ」

「そうか」


 どうやら、レジスタンス達を無事に送り届けることができたようだ。


「それで、何故ここに?」

「少し散歩をしていただけよ。店でルミナが待っているわ。早く戻りましょう」

「そうだな」


 そして、エリサも加わったところで、そのままルミナの店に向かった。






 ルミナの店に戻ったところで、俺達はそのまま二階に向かった。

 二階に向かうと、リビングにはルミナ、ミィナ、リーサのいつもの三人に加えて、アーミラとアデュークもいた。


「お帰りなさい。大丈夫だった?」


 そして、二階に上がったところで、リビングにいたルミナが心配そうにしながらそんなことを聞いて来た。


「ああ。見ての通り無事だ」


 強敵だった割には大した怪我は無かったからな。怪我は回復魔法ですぐに完治させられる程度のものだったので、俺達は無事だ。


「そのようね」

「……抱いて確認するのは止めてくれないか?」


 大切に思って心配してくれるのはありがたいことなのだが、すぐに抱いて来るのは止めて欲しいところだ。


「あら? 嫌なのかしら?」

「別にそういうわけではないのだが……」

「それだったら問題無いわよね?」

「……そうだな」


 もう何を言っても無駄そうなので、これ以上このことには言及しないことにした。


「ねえねえルミナさん、無事に大規模討伐戦を終えたということで打ち上げをしたいんだけど良いかな?」


 ステアはそんな俺とルミナのやり取りを気に留めること無く、打ち上げの相談をする。


「ええ、もちろん良いわよ。それじゃあ私とエリサで買い出しに行って来るわね」

「俺も手伝うぞ」


 打ち上げともなれば普段よりも多くの食材が必要になるだろうからな。

 俺は料理の担当でも無いので、買い出しに向かうことにする。


「その気持ちはありがたいのだけど、あなた達は下準備をしておいてくれるかしら?」

「そう言われても、こちら側にはそんなに人数は必要無いのだが?」


 下準備をしておけと言われても、物理的にキッチンに入れる人数は限られるので、こちら側にこんなに手は必要無い。

 なので、どう考えても何人かは買い出しに回した方が良い。


「買い出しなら二人で十分よ。だから、こっちにはこれ以上の人数は必要無いわ」

「……何を隠している?」


 ルミナが何かを隠していることは明らかだった。ここで遠回しに聞いてもはぐらかされるだけなので、単刀直入に尋ねることにする。


「……どうせ近い内に話すことになるし、黙っていても仕方が無いわね。分かったわ。話すからそこに座って」


 俺に言われて素直に話す気になったらしく、席に着くように促された。

 ひとまず、言われた通りに席に着く。


 そして、全員が席に着いたところで、ルミナは話を始めた。


「話っていうのはレグレットの情勢についてよ」

「……つまり、レーネリアのことについての話か?」

「ええ、そうよ。よく分かったわね」


 まあレグレットのことで俺達に関係することと言えばそれぐらいだからな。このぐらいのことは簡単に分かる。


「となると、エンドラース家とハイスヴェイン家の者が本格的に動き出したといったところか?」

「……私の口から言うことはあまり無さそうね」


 ルミナは出番を取られたせいなのか少し残念そうにしている。

 まあレグレットの話が上がった時点で内容も大体分かるので、それは仕方の無いことだとは思うけどな。


「でも、一応、説明はしておくわね。本格的に動き始めたと言うほどじゃないけど、レーネリアを狙う刺客は増えているわね。今の状況を軽く説明しておくと、レグレットではルートライア家が本格的に動き始めようとしているのに伴って、エンドラース家とハイスヴェイン家も動こうとしているわ」

「つまり、これからは懸賞金目当ての仕様も無い連中だけでなく、三家の直属の奴らも仕掛けて来るということか。面倒なことになりそうだな」


 懸賞金目当ての仕様も無い連中であれば簡単に撃退できるので何の問題も無いのだが、三家の直属の連中だとある程度鍛えられているだろうし少々面倒だ。


「確かにそうなる可能性もあるけど、自国でない以上派手には動けないからそこまで警戒する必要は無いと思うわ」

「そうか? 覇権争いに直結するとなれば少々強引な手を打って来る可能性もあると思うぞ」


 レーネリアの存在は覇権争いの鍵を握っていると言っても過言では無い。彼女が一人加わるだけでも大きく力関係が傾くからな。


 たった一人でそこまで変わるのかと言いたくなるかもしれないが、彼女はファントムオウルとはソロで打ち合い、悪魔が相手でも前線で戦えるほどの戦闘能力を持っているので、たった一人でも大きな影響が出る。


「流石にそれは無いと思うわよ」


 それに対して口を出して来たのはエリサだった。


「何故そう思う?」


 ひとまず、その理由を聞いてみる。


「あまりやりすぎると、戦争に発展する可能性があるからよ」

「戦争か……確かに、内部でごたついているときにそんなことをしている場合では無いか」


 確かに、国内がごたついている状況では他国と戦争をするのは厳しいだろうからな。

 そうなる前に覇権争いの片が付けば良いが、これだけ争っている状況を見るとそうなるとは思えない。


「それもあるけど、そもそもレグレットは戦力的にワイバートと戦争をするのは厳しいわ」

「そうなのか?」

「ええ。ワイバートは小国だけど実力者揃いだからかなりの戦力があるわ」

「言われてみれば、確かにそうだな」


 確かに、そう言われてみればワイバートには実力者が多いな。

 『新緑を繋ぐ意思オリジンガーディア』のSランク冒険者のアーニャに冒険者ギルドのギルドマスターで元Sランク冒険者のレイルーン、さらに一世代前の最強とも言われている『月夜の双璧ルナティアレゾナンス』のエルナとルミナもいる。


「そもそも、レーネリアがそう簡単にやられると思う? 大規模討伐戦で彼女の実力を見たのでしょう?」

「……それもそうだな」


 まあ一人で勢力図を書き変えてしまうほどの実力を持っている彼女がそう簡単にやられるはずがないからな。狙われていることを留意していれば大丈夫だろう。


「まあそういうことよ。だから、そこまで警戒しなくても大丈夫よ」

「そうだな」

「それじゃあ納得したみたいだし、私達は買い出しに行って来るわね」

「ああ、頼んだ」


 そして、話が済んだところで、ルミナとエリサは買い出しに向かった。


「さて、俺達は下準備に取り掛かるか」

「そうだね。……っていうか、ホントに買い出しは二人だけで良かったの?」


 二人が外に出て行って下準備に取り掛かろうとしたそのとき、シオンがそんなことを聞いて来た。


「と言うと?」

「レーネリアさえ店で待たせとけば問題無いんじゃない? 狙われてるのはレーネリアなんだし」


 シオンの言う通りに狙われているのはレーネリアだ。

 なので、彼女以外のメンバーの誰かを買い出しに行かせれば良いように思える。


「いや、そういう問題では無いな。一番面倒なのは人質を取られることだからな。それを考えると、戦闘能力の低い者を下手に外に行かせるわけにはいかない」


 刺客が打ち得る手の中で、最も取って来る可能性が高い手は人質を取ることだ。

 高い戦闘能力を持つレーネリアを直接狙うこと困難だからな。何かしらの間接的な方法を取って来ることは間違い無い。


「なるほどね」

「まあそういうことだ。では、下準備に取り掛かるぞ」

「分かったよ」


 そして、シオンも納得したところで、下準備に取り掛かった。






 その夜は大規模討伐戦を無事に終えたということで、打ち上げをすることとなった。

 テーブルには普段よりも豪華な料理が並んでいる。


「やっぱり、二人の料理はおいしいね」

「でしょー? 今日は特に頑張ったからね。存分に味わってよ」


 俺達も手伝ったとは言え、メインの調理をしたのはミィナとリーサだからな。彼女達が頑張ってくれたと言っても過言ではない。


「盛り上がっているところで悪いんだけど、少し話を聞いてくれるかしら?」


 ここでルミナが皆の閑談を遮って全員に向けて話をして来る。


「知っているとは思うけど、レグレットでの覇権争いが本格化しそうになっているわ。それで、レーネリアを狙う刺客がいるかもしれないから、できるだけ外出は控えてくれるかしら?」

「分かった」

「分かりました」


 話の内容は思った通りレーネリアに関しての話だった。

 その内容も概ね予想通りのもので、外出を控えてくれという内容だった。


「とりあえず、無断で外出しないようにしてくれるかしら? 外出の際には護衛を付けるわ」

「護衛というのはエリサ達のことか?」

「ええ、そうよ。彼女達には外出の際の護衛や夜の警備をしてもらうわ」

「そうか」


 エリサ達が護衛や警備をしてくれるのであれば安心だな。


「夜の警備は主にアーミラにしてもらう予定よ」

「そうか。アーミラは早めに休むか?」

「いや、今日はこのまま警備するよ」

「そうか。あまり無理はするなよ?」


 休憩はしっかり取らないと集中力が落ちるからな。

 そのせいで肝心なときに力を発揮できないとなると困るので、体調の管理は怠らないようにしてもらわないとな。


「アタシは元々夜型だし大丈夫だよ」

「そうなのか?」

「ハーフの魔物が夜行性だから、その影響よ」


 ここでエリサが一言付け加えるようにして説明して来る。

 確かに、アーミラの背中の翼は蝙蝠の物で、何の魔物なのかは知らないが、蝙蝠系の魔物なのは間違い無いからな。それにも納得だ。


「そうか。では、頼んだぞ」

「うん。任せといて」

「それじゃあこのまま楽しみましょうか」

「そうだな」


 そして、その後は集まったメンバーで打ち上げを楽しんだ。






 打ち上げを終えて片付けも終わったところで、俺は自分の部屋に戻った。


「ようやくゆっくりとできるな」


 女性メンバーは入浴中なので、部屋にいるのは俺だけだ。荷物を置いたところで、ベッドに寝そべって体を伸ばす。


「……む?」


 だが、ベッドに寝そべったところで、部屋のドアがノックされた。


「入るわよ」


 そして、そのまま扉を開けて部屋に入って来る。


「エリサか。もう出たのか。早いな」


 部屋に入って来たのはエリサだった。いつもの黒い外套を着ておらず、寝巻姿なのでもう入浴を終えたようだ。


「私に長風呂の趣味は無いわ」

「そうか。それで、何の用だ?」


 エリサが用も無く部屋を訪ねたりはしないはずだからな。

 ひとまず、何用なのかを尋ねてみる。


「これを渡しておこうと思っただけよ」


 エリサはそう言うと、空間魔法で四つの袋を取り出した。


「これは……金か?」

「ええ、そうよ。一袋当たり一千万セルト入っているわ」


 中身を確認すると、そこには大金貨が入っていた。一袋に一千万セルト入っているらしいので、一袋当たり百枚入っているようだ。


「こんな大金どうしたんだ?」

「これはガーグノットでの件で稼いだ分で、これはあなた達の分よ」


 どうやら、これはガーグノットで手に入れた物を売って稼いだお金のようだ。


「こんなに貰って良いのか?」

「ええ、遠慮無く受け取ると良いわ。ちなみに、店の修理代は渡しておいてあげたから、それはその残りよ。残りをどうするのかはあなたの自由だから、考えて使うと良いわ」

「分かった」


 どうやら、店の修理代は渡しておいてくれたらしく、それを差し引いてこの金額のようだ。


(未払いになっている装備品の代金にどれだけ回すのかを考える必要がありそうだな)


 とりあえず、店の修理代は払い終わったが、装備品の代金はまだ丸々残っているからな。手元にいくら残しておくのかを考えておく必要がありそうだ。


「それじゃあ私はもう行くわ」

「ああ」


 そして、用が済んだところで、エリサは自分の部屋に戻って行った。


「思わぬ臨時収入だな」


 稼いだお金は分配するということにはなっていたが、まさか四千万も手に入るとは思っていなかったな。


(まあ高価な物が多かったし、こんなものか)


 手に入れた物は貴族達が持っていた高価な物が多かったからな。

 俺達に分配された分だけでこの金額なので、全部でどのぐらいの金額だったのかが少々気になるところだが、考えても仕方が無いことなので気にしないことにする。


「まあこれでも装備品の代金には全然足りないがな」


 だが、これでも未払いになっている装備品の代金には全然足りない。


「少しずつ払っていくしかないか」


 とは言え、少しずつでも払っていかないことにはいつになっても払い終わらないので、金額を決めて払っておくことにする。


「さて、今日はもうすることは無いし、のんびりとするか」


 そして、女性メンバーが入浴を終えたところで俺も入浴を済ませて、その後は部屋に戻ったところで眠りに就いた。

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