episode142 vs悪魔、決着

 仕切り直しとなったので、陣形を組み直して悪魔と対峙する。


(さて、どう動いて来る?)


 悪魔が上空に展開した魔法陣は既に消えていて、もう上空から魔法弾は降って来ていない。

 ひとまず、このまま悪魔の様子を見る。


「手こずらせやがって……今度こそ終わらせてやるよ!」


 悪魔はそう言って自身の上に魔法陣を展開すると、そこから周囲に黒い光が放たれて周辺が黒い闇に覆われた。


(何も見えないな)


 辺りは完全に闇に覆われて何も見えない状態になった。これでは敵どころか、味方の位置すら確認できない。


「ならば、これでどうだ?」


 だが、暗いのであれば明るくすれば良いだけの話だ。すぐに光魔法を使って辺りを照らそうとする。


「……む?」


 しかし、光魔法を使っても効果が無く、明るくはならなかった。

 何と言うか、こちらの光が向こうの黒い光に上書きされてしまうといった感じだ。


「スノーホワイトはアリナ達を守ってくれ」

「分かりました」


 この状態だとアリナ達三人は攻撃を防ぐことすら難しそうなので、ここはスノーホワイトに三人を護衛させることにする。


「他は各自で対応してくれ」

「分かったよ」

「分かりました」

「分かったぜ」


 この状態で下手に連携を取ろうとしても噛み合わない可能性が高いからな。ここは各自で対応してもらうことにする。


(他のメンバーの位置は……大体分かるな)


 感じ取れる魔力や気配で周囲を探ってみると、大体の位置を把握することはできた。


(さて、どうするか……)


 こちらから仕掛けるのは難しそうなので、ひとまず向こうの出方を窺う。


「……そこか」


 ここで俺に向けて急速に何かが近付いて来たので、そこに向けて居合斬りを放つ。

 すると、それによって接近して来た何かは切断された。


(……? 何だ?)


 何かを斬ったのは間違い無いが、それが何なのかまでは分からなかった。

 もちろん、それが見えれば分かるのだが、真っ暗で何も見えないので視覚では判断できない。


(斬った物は消えたようだな)


 斬った物が残っているのであればそのまま俺の方にそれが飛んで来ているはずだ。

 だが、そのような気配はしなかったし、周囲の風の流れから見ても俺の方には何も飛んで来ていないのは確実だった。


(やはり、魔力で形成した何かのようだな)


 そして、俺の出した結論はそれだった。

 どうやら、悪魔は魔力を使って何かを飛ばして来ていたようだ。


「魔力で分身を形成して攻撃して来ています。気を付けてください」


 と、ここでレーネリアが全員に知らせるように声を上げた。

 やはり、思った通り魔力で形成した物を飛ばして来ていたようだ。


(本体は……まだ動いていないようだな)


 気配や感じ取れる魔力から本体の位置を探ってみるが、悪魔はまだ動いていないようだった。


「はっ……」


 俺は接近して来た分身を居合斬りで斬って即座に納刀する。


(動く気が無いのか?)


 そのまま様子を探ってみるが、悪魔は動く様子は無い。

 どうやら、あの位置から動かずに一方的に攻撃するつもりのようだ。


(こちらから動くべきか?)


 このままだと一方的に攻撃されるだけなので、こちらから動くことも視野に入れる必要がありそうだった。

 だが、視界の利かないこの暗闇の中で動くのは難しい。一応、気配や感じ取れる魔力などから大体の位置は分かるが、正確な位置までは分からない。


 まあその辺の魔物ならその状態でも何とかなるのだが、高い戦闘能力を持っていて通常の状態でも厳しい相手である悪魔と戦うのは難しいだろう。


「レーネリア、少し良いか?」

「何でしょう?」

「この状態でも状況を正確に把握できるのか?」

「はい、できますよ」


 どうやら、魔力領域を展開しながらでも戦えるレーネリアは視覚に頼らずとも戦えるようだ。


「分かった。では、悪魔の相手を頼めるか?」

「分かりました」


 そして、レーネリアが返答した直後、彼女のいた場所から風が吹き荒んだ。

 どうやら、風魔法を使って悪魔に素早く接近したようだ。


(俺は下手に動かない方が良いか)


 できれば俺はサポートに回りたいところだが、この状態ではそれも難しいので、この場で分身を迎撃していくことにする。


「明らかにこちらへの攻撃が緩くなったな」


 レーネリアの相手をしているからなのか、こちらへの攻撃が明らかに緩くなっていた。

 なので、余裕を持って対応することができている。


「シオン、スノーホワイトのサポートに回るぞ」

「分かったよ」


 俺達ではレーネリアのサポートはできそうにないので、スノーホワイトのサポートに回ることにした。

 すぐに彼女の元に移動して、アリナ達を囲うように陣形を組む。


「ええっと……そこにいるのはエリュ?」


 そして、陣形を組んだところで、アリナがそんなことを聞いてきた。

 どうやら、真っ暗で何も見えていないので、誰なのかの判別も付いていないようだ。


「ああ、そうだ。そちらは大丈夫か?」

「うん、スノーホワイトが守ってくれてるから大丈夫だよ」

「そうか」


 姿が見えないので直接確認はできないが、彼女達の方はそんなに攻撃されていなかったので、とりあえず『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーは大丈夫そうだ。


「それで、このまま攻撃を防いでいれば良いのですか?」

「そうだな……スノーホワイト、こちらの守りは任せてレーネリア達の援護に向かってくれるか?」


 全員で戦ってやっとの相手なのに加えて、先程よりも不利な状況なので、レーネリアとフードレッドだけに相手をさせても厳しいだろう。

 なので、ここは『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーの護衛を俺達が担当して、スノーホワイトにはレーネリア達の方に加勢してもらうことにした。


「分かりました。あまり役に立たないかもしれませんが、これを残しておきますね」


 そして、スノーホワイトはそう言って俺達を囲むように氷壁を張ると、レーネリア達の援護に向かった。


「三人とも固まってミリアが魔力障壁を張っているな?」

「はい」

「接近して来る分身は俺達が何とかする。ミリアはそのまま魔力障壁を張っていてくれ」

「分かりました」

「では、俺達は氷壁の外で攻撃を防ぐ。シオンはそちら側を頼む」

「分かったよ」


 氷壁の内側にいては攻撃を防げないので、俺達は外側に向かうことにする。


「……エリュ」


 だが、氷壁の外側に向かおうとしたところで、アリナが呼び止めて来た。


「何だ?」

「……ごめんね。足を引っ張って」

「……それは終わってからにしろ」


 そして、俺はそれだけ伝えて氷壁の外側に向かった。


「はっ……」

「せいっ!」


 氷壁の外に出た俺達は接近して来る分身を斬っていく。


(氷壁のおかげで余裕があるのは助かるな)


 倒し損ねても氷壁が守ってくれるので、先程よりも余裕がある。


(だが、このままでは埒が明かないな)


 だが、このまま襲って来る分身を斬り続けていても埒が明かない。

 なので、何かしらの手を打つ必要がありそうだった。


「……! そちらに行きました! 気を付けてください!」


 だが、手立てを考えていたそのとき、レーネリアが声を上げてそう注意して来た。


「シオン、気を付けろ!」

「分かったよ」


 すぐに刀に手を据えて構えて悪魔の接近に備える。


「……そこか」


 そして、気配で接近を察知してそこに向けて居合斬りを放った。


「そんなもん効くかよ!」


 しかし、その攻撃は受け止められて防がれてしまった。


(これは……魔力で形成した爪か)


 接触した際に伝わって来た感覚から察するに、悪魔は魔力で形成した爪で俺の攻撃を受け止めたようだった。


「はっ……」


 ここで素早く一歩下がると同時に納刀して、直後に再び素早く接近して居合斬りを放った。

 そして、そのまま連撃を繰り出して悪魔と打ち合う。


「っ……」


 だが、その打ち合いの中で悪魔の攻撃を何度も掠めてしまう。


(やはり、この状況ではかなり不利だな)


 この暗闇では魔力や攻撃の意思を感じ取るなどして動かなければならないので、かなり不利な状況だ。

 なので、このままだと押し切られるのは時間の問題だ。


「大丈夫ですか?」

「加勢します」


 だが、ここでレーネリアとスノーホワイトが加勢しに来てくれた。

 俺はすぐに後ろに下がって彼女達に前衛を任せる。


「お前らの相手は後だ」


 しかし、すぐに空間魔法で『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーがいる氷壁の前に転移して、魔力で形成した爪でその氷壁を破壊してしまった。


「シオン!」

「分かってるよ!」


 『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーの近くにいるシオンに指示を飛ばしながら、俺もすぐに援護に向かう。

 だが、悪魔が何もして来ないはずは無く、闇魔法だと思われる魔法で攻撃して来た。

 見えてはいないが、感じ取れる魔力で属性ぐらいは分かる。


「っ!」


 俺は右足で地面を蹴ってそれを左方向に移動して躱して、そのままシオンの援護に向かう。


「……私に任せてください」


 その直後、俺の隣をレーネリアが超速で通り過ぎて行った。


「悪いな。任せる」


 そして、レーネリアに悪魔の相手を任せて、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーの元へと向かう。


「離れるぞ」

「うわっ!?」

「おわっと!?」

「わっ!?」


 『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』の三人は力不足なので、この場から離脱させることにした。

 俺はそのまま三人を担ぎ上げて暗闇空間の外へと向かう。


「何とか出られたな」


 レーネリア達が悪魔を抑えていてくれたのと悪魔は空間魔法を使った直後だったので、何とか三人を暗闇空間から脱出させることができた。


(こうなるのだったら、初めから戦闘に参加させない方が良かったかもしれないな)


 これであれば初めから戦闘に参加させない方が良かったかもしれないが、それはあくまで結果論なので気にしないことにする。


「三人はここから離れていてくれ」

「分かったよ。エリュはどうするの?」

「俺は戻って加勢しに行く」


 このまま彼女達だけに任せていても戦況は変わらないので、俺も戻って加勢することにする。


「大丈夫なの?」

「まあ何とかする。安心しろ。無理はしない」

「……分かったよ。ミリア、エリュを治療してあげて」

「分かりました」


 ここでミリアがアリナの指示を受けて回復魔法で治療をしてくれた。先程攻撃を掠めてできた傷が塞がっていく。


「それじゃあ気を付けてね」

「ああ」


 そして、治療が終わって三人と別れたところで、悪魔と戦闘しているメンバーの元に戻った。


(戦況は……変わっていなさそうだな)


 暗闇空間の外から様子を見てみるが、戦況は変わらず、こちらが押され気味のようだった。


「ふぅ……」


 ここで一度息を整えて深く集中する。

 そして、視覚に頼らずとも状況を正確に把握できるように魔力領域を展開した。


(後はこれを維持したまま戦えるかどうかだが……やるしかないか)


 魔力領域の展開はできても、それを維持しながら戦ったことは無い。

 なので、っ付け本番にはなるが、悪魔を相手に魔力や気配を感じ取って戦うのには限界があるので、この戦い方を身に付けるしかない。


(時間はある。集中しろ)


 こちらに注意は向いていないようなのでまだ時間はある。

 なので、ここは焦らずに深く集中して感覚を研ぎ澄ます。


「……行くぞ」


 そして、魔力領域を展開した状態のまま暗闇空間の中に突っ込んだ。


「加勢するぞ」

「お願いします」


 そして、悪魔を居合斬りで攻撃してそのまま通過して、風魔法を使って空中で跳んで何度も攻撃を仕掛ける。


(これなら行けるな)


 今のこの状態であればこの暗闇でも正確に状況を把握することができる。

 悪魔の放つ魔法を躱しながら他のメンバーの邪魔にならないように攻撃を仕掛ける。


「ボクも行くよ!」


 さらに、シオンも同じようにして攻撃を仕掛ける。


「はっ……」

「ていっ!」


 互いの動きを阻害しないように高速で跳び回って一撃離脱の攻撃を繰り返す。


「こいつら……互いの動きを分かってやがるのか!?」


 その動きを見た悪魔は完璧とも言って良い連携を見て少々驚いた様子だ。

 まあ俺達は元々一つの存在だったからな。シオンの動きは手に取るように分かる。


「私のことを忘れていませんか?」

「私もいますよ」

「あたしもいるぜ!」


 それを見たレーネリア、スノーホワイト、フードレッドの三人はここぞと言わんばかりに攻勢に出る。


「ここが攻め時か」


 戦況は一転して、今度は俺達が押している状態だ。俺達は刀に込める魔力を増やして攻撃の威力を高める。


「調子に乗るなよ!」


 悪魔は何とか形勢を逆転しようとさらに速度を上げるが、それでも俺達五人の連携には対応できていない。


(左腕が潰されているのも大きいな)


 レーネリアが悪魔の左腕を突き刺して潰しておいてくれたので、やはりその点も大きい。


「そろそろ終わらせるぞ!」

「そうですね。私もそう思っていたところでした」

「スノーホワイト、フードレッド、五秒で十分だ。抑えておいてくれ」

「分かりました」

「任せとけ!」


 そして、スノーホワイトとフードレッドに時間稼ぎを任せて、俺、シオン、レーネリアの三人は準備に取り掛かる。


「凍らせます」

「燃え上がれ!」


 時間稼ぎを任された二体は全力で悪魔に攻撃を仕掛ける。

 スノーホワイトの氷魔法で強烈な冷気が発生すると共に大量の氷塊が悪魔を襲い、フードレッドの火魔法によって大爆発が発生する。


「さて、行くぞ」


 そして、全員の準備が整ったところで、悪魔に攻撃を仕掛けることにした。

 三人でタイミングを合わせて同時に接近して、それぞれの武器で攻撃を仕掛ける。


「させるかよ!」


 悪魔はそう言って魔力を吸収する魔力空間を展開して来るが今更遅い。それを避けてそのまま攻撃を仕掛ける。


「チッ……これでどうだ?」


 しかし、それらの攻撃は魔力障壁によって防がれてしまった。

 だが、この攻撃で魔力障壁には大きく罅が入り、もう少しで壊せそうな状態になっていた。


「……爆ぜろ」


 ここで俺は火属性と光属性の複合属性の魔法を起動する。

 この魔法は魔力を圧縮して目の前に大爆発を発生させる魔法で、射程が短く範囲も狭いがその分威力が高い魔法だ。


「効くかよ!」


 流石にこの魔法は受けられないと判断したのか、悪魔はそれを空間魔法で転移して回避しようとして来た。


(……ここだな)


 ここで『帰属する刻限オリジンコード』を発動させて周囲の魔力の動きに注意を向けて、転移先の特定を試みる。

 そんなことで転移先が特定できるのかと思うかもしれないが、転移先には魔力が発生するはずなので、それで空間魔法の転移先を特定することができるのだ。


「……そこだ」


 周囲の魔力を探ってみると、少し離れた場所からそれらしき魔力を感じ取ることができた。

 すぐに詠唱待機状態にして準備しておいた風魔法を使ってそこに接近して、刀に手を据えて居合斬りの構えを取る。


 先程魔法を使ったばかりだが、刀に込めた魔力はそのままだ。

 なので、攻撃準備は整っている。


「ボクも行くよ」

「終わらせます」


 それにシオンとレーネリアも付いて来る。


「……斬る」

「斬るよ!」

「穿ちます」


 そして、転移した瞬間に悪魔の喉を狙って俺とシオンは刀での居合斬りを、レーネリアは槍での突きを叩き込んだ。


「ぐ……ああぁぁーー!」


 そして、俺達三人の攻撃で悪魔の首は刎ね飛ばされた。

 そのまま悪魔の残った体が落下して、魔法の効果が切れて辺りを覆っていた暗闇が消え去る。


「……終わったな」

「……そうだね」

「……そうですね」


 ここまで高い集中力を保ち続けていたが、悪魔を倒し終わったことでその緊張が解けた。大きく息を吐いてその場に座り込む。


「……対象の討伐を確認」

「やっと片付いたな」


 そこにスノーホワイトとフードレッドが歩み寄って来る。


「ああ。お前達は大丈夫か?」

「はい、特に異常はありません」

「あたしも大丈夫だぜ」


 二体ともまた服がボロボロになっていて、ほとんど裸の状態にはなっていたが、身体の方は大丈夫そうだった。


「一応、確認してくださいますか?」

「分かった」


 一応よく確認した方が良さそうなので、詳しく状態を見てみることにした。


「それではお願いします」

「あたしも頼むぜ」

「ああ。……って、何をしているんだ?」


 だが、ここで二体は想定外の行動を取った。

 何をしたのかと言うと、服を破いてその場に捨てて裸になったのだ。


「もうこの服は使い物になりませんし、詳しく見てもらうにはこうした方が早いかと思いまして」

「……そうか」


 まあそれはそうなのだが、だからと言っていきなり破り捨てて裸になるのはどうかと思うのだが。


「…………」

「何、堂々と裸を見ているのですか?」


 そして、そのまま二体を見ていると、レーネリアが卑しむかような視線を向けて来た。


「いや、そこまで精巧に作られているとは思っていなかっただけだ」


 裸と言うか素体の状態は見たことが無かったが、そこまで作り込まれているとは思っていなかった。

 どう考えてもそこまで作る必要は無いのだが、可能な限り人間に近付けたかったのだろう。


「生殖機能はありませんよ?」

「分かっている」


 そんなことは言われなくても分かっているし、わざわざ言わなくても良い。

 と言うか、言うな。


「エリュは向こうを向いていてください。私が確認します」

「……分かった」


 必要最低限の服を着せてから状態を確認しても良かったのだが、面倒なのでこのままレーネリアに状態を確認してもらうことにした。


「おーい! 大丈夫ー?」

「……む?」


 と、そんな話をしていると、後方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 すぐに振り向いて声がした方を見てみると、戦闘が終わったことに気付いたアリナ達が駆け寄って来ていた。


「ああ。何とか片付いたぞ」

「みたいだね」

「俺は冒険者ギルドに連絡をしておく。その間に後処理をしておいてくれるか?」

「分かったよ」


 ひとまず、冒険者ギルドに終わったことを連絡する必要があるので、後処理は他のメンバーに任せて俺は冒険者ギルドの方に連絡をしておくことにした。

 早速、通信用の魔法道具を取り出して連絡を取る。


「……聞こえるか?」

「はい、聞こえていますよ。悪魔が色々な魔物を引き連れていたとのことでしたが、大丈夫でしたか!?」

「ああ。全て片付いたぞ」

「本当ですか!?」


 それを聞いた職員の女性は驚いた様子で声を上げる。


「ああ。後処理が終わり次第そちらに戻る」

「分かりました。お話は街に戻ってから伺いますので、そのまま街に戻っていただいて構いませんよ」

「分かった。そちらは大丈夫なのか?」

「はい、全員に集合を掛けて、『強者と集いし者ストロングアーミー』以外の参加者はもう全員集まっています」

「『強者と集いし者ストロングアーミー』か……」


 『強者と集いし者ストロングアーミー』と言うと、あの迷惑な冒険者パーティのことだな。


「集合は掛けたのか?」

「はい。ですが、戦果を上げると言って奥へと向かってしまって、それ以降、連絡が取れていません」


 どうやら、冒険者ギルド側の指示を無視して勝手な行動を取っていたようだ。こんなときも迷惑を掛けるとは、本当にどうしようもない奴らだな。


「『強者と集いし者ストロングアーミー』のメンバーなら死んだっぽいよ」


 ここでその話を聞いていたシオンがそう言って話に入って来る。


「そうなのか?」

「うん。ワイバーンに潰されたっぽいよ。これ落ちてたし」


 そして、シオンはそう言って一枚のカードを渡して来た。


「これは……冒険者カードか」


 確認するとそれは冒険者カードだった。そこには『強者と集いし者ストロングアーミー』というパーティ名とルガーという名前が書かれていることが確認できたが、他の欄は血が付いていて確認できなかった。


「その声は……シオンさんですか?」

「そだよー」

「それは間違いありませんか?」

「うん。ワイバーンがいた場所の近くにあった潰れた死体が持ってたから間違い無いと思うよ」


 どうやら、これはワイバーンの討伐に向かった際に見付けた物だったようだ。


「確かに、他の冒険者が既に全員集まっているのであれば間違い無さそうだな」


 これまでの話を聞いた感じだと、森の奥に向かったのは『強者と集いし者ストロングアーミー』のメンバーだけなので、シオンが見付けたのは彼らの死体と見て間違い無いだろう。


「そうですね。それでは安全に留意しながら帰還してください」

「分かった」


 そして、話が済んだところで、通信を切った。


「話は済んだようですね」

「ああ。話は街に戻ってからだそうだ。帰還の準備はできたか?」

「はい。話をしている間に準備は済ませておきました」

「分かった。では、もう帰るぞ。キーラ!」

「キィッ!」


 準備ができていることを確認したところで、早速、空間魔法でキーラを呼び出す。


「では、帰るぞ」


 そして、そのまま全員でキーラに乗ってスノーファの街まで戻った。

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