episode141 悪魔との決戦
ファントムオウルが片付いたところで、最後に残った悪魔の相手をすることにした。
「お待たせしました」
「こちらは片付いた。援護する」
そして、他のメンバーと合流したところで、それぞれの配置に着く。
「そちらは……大丈夫なようだな」
ここで全員の様子を確認してみるが、大きな怪我は無いので大丈夫なようだった。
「そっちこそ大丈夫だったの? こっちにまですごい衝撃波が来たけど」
「ああ。俺は問題無いし、レーネリアの方も確認したが、支障は無いようだったぞ」
ステアがこちらのことを心配して来るが、そこはちゃんと確認したので問題無い。
「とりあえず、スノーホワイトとレーネリアがメインの前衛を務めてくれ。俺とフードレッドが後衛として攻撃をする」
「ボクは?」
「シオンは基本は前衛だが、状況をに応じて補助や後衛にも回ってもらう」
「分かったよ」
「あたし達は?」
「アリナとステアは後衛の補助に回ってくれ。ミリアは回復魔法での回復に務めてくれ」
「分かったよ」
アリナとステアは本来は前衛なのだが、悪魔の相手をするには力不足なので、ここは後衛の補助に回ってもらうことにする。
「まさかファントムオウルまでやられるとはな」
ここでここまで無言だった悪魔が口を開く。
「想定外だったか?」
「…………」
そう聞いてみるが、悪魔はそれに答えることは無かった。
「……まあ良い。また集めれば良いだけの話だ。とりあえず、お前達をさっさと片付けてやる」
そして、そう言って切り換えると、俺とレーネリアに明確な敵意を向けて来た。
「……俺とレーネリア以外には興味が無いのか?」
「先にお前達を片付けようと思っただけだ」
「そうか」
どうやら、ファントムオウルを倒した俺達にヘイトが向いているようだ。
まあ倒したのはレーネリアなのだが、俺も協力したからな。俺達二人で倒したも同然だ。
「まあそう簡単に倒せるとは思わないことだな」
俺はそう言いながら魔法弓で光属性の魔力を込めて矢を放つ。
しかし、その矢は悪魔が展開した黒い空間に吸収されてしまった。
「あれは……魔力を吸収する闇魔法ですね」
「ああ、そうだ。触れると魔力強化も無効化されるので気を付けろ」
あの空間の最も厄介な点は魔力強化を無効化されてしまうという点だ。
魔力強化を無効化されてしまうと無防備になるからな。その状態は非常に危険だ。
「分かっています。問題は空間当たりの魔力の保存量がどの程度なのかですね」
「空間当たりの魔力の保存量?」
「はい、あの魔法は魔力を吸収して魔力空間内に保存して、それを自身の魔力に変換する魔法です。空間当たりの魔力の保存量には上限があるのと、変換には時間を要するので、吸収量には限界があります」
「なるほどな」
どうやら、レーネリアはあの魔法のことを知っていたようだ。
(それなら調べる必要は無かったな)
これなら危険を冒してまで調べる必要は無かったが、得られた情報は時間稼ぎの際に役に立っただろうし、無駄ではないか。
「……? どうかしたのですか?」
「いや、何でも無い。気にするな」
「そうですか」
「さて、さっさと片付けるぞ」
残った敵は悪魔一体だけなので、後は全員で相手して倒せば良いだけだ。
なので、これまでの戦いよりかは少しは楽になるはずだ。
「そう簡単に倒せるとは思わないこと、か。さっきお前はそう言ったな?」
と、そんな話をしていたところで、悪魔が脈絡も無くそんなことを聞いて来た。
「ああ、そうだが?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」
そして、悪魔はそう言って足元に魔法陣を展開して全身に魔力を込めると、一気に魔力を解放した。
「……かなりの魔力量だな」
悪魔からはかなりの量の魔力が感じられ、先程とは比べ物にならないほどだった。
「そろそろ本気を出させてもらう」
「……そうか」
どうやら、まだ力を隠していたようで、今まで本気を出していなかったようだ。
「どうしますか?」
「……誓約解放か。恐らく、奴が使ったのは魔力解放で、その効果時間は長くは無いが方針は変わらない。仕留めるつもりで動いてくれ」
誓約解放というのは悪魔が持っていることがある契約の能力を応用した技で、自身に誓約を掛けて強化する技だ。
契約というのは対象に誓約を掛けることで限定的に能力を引き上げる技で、引き上げられる能力は誓約内容などによって変わる。
そして、見たところ悪魔が使ったのは魔力解放と呼ばれるもので、これは魔力を強制的にブーストすることで一時的に全ての能力を上げるというものだ。
ただし、効果が切れるとその反動で一定時間の間魔力の出力が大きく低下してしまうので、それに伴って戦闘能力も大きく低下する。
なので、効果時間が切れるまで耐えるという選択肢もあるように思えるが、悪魔の魔力量を考えると効果時間は短くは無いので、ここは普通に倒しに行くことにする。
「……随分と詳しいのですね」
「まあ少し知る機会があってな」
何故そんなに悪魔の使う技について詳しいのかと言うと、フェルメットからそのことを聞いていたからだ。
「では、前衛は頼んだぞ」
「分かりました」
そして、話が済んだところで、レーネリアは真っ先に突っ込んで行って攻撃を仕掛けた。
「遅えな」
「っ!」
しかし、その攻撃は魔力で形成した爪であっさりと受け止められてしまった。
(明らかに反応速度が上がっているな)
魔力の出力が上がって魔力で形成した爪の強度が上がっているのはもちろんのことだが、それだけでは無く反応速度も上がっていた。
残りは悪魔一体だけではあるが、元々高い戦闘能力がさらに強化されているので油断ならない。
だが、向こうは切り札を切ってこれ以上手札は無いはずなので、これを乗り切れば終わりだ。
「正面は俺とレーネリアが担当する。他のメンバーは周囲から仕掛けてくれ」
「分かったよ」
「分かりました」
「分かったぜ」
とりあえず、正面は危険なので、戦闘能力が一番高いレーネリアと俺が担当することにする。
「はっ……」
「……撃つ」
レーネリアは魔力空間に触れないように気を付けながら連撃を放ち、俺は魔法弓でそれを援護してサポートする。
「そんなものか!」
しかし、レーネリアの攻撃は魔力で形成した爪で、俺の攻撃は魔力空間に吸収されて防がれてしまっている。
他のメンバーは隙を伺っているが、全く隙が見当たらない。
(さて、どうするか)
何とか策を弄したいところだが、小細工が通用するような相手では無い。半端な火力では全て無効化されてしまう。
(やはり、数の優位を活かした純粋なごり押しが一番なのか?)
半ば無策にはなってしまうが、小細工が通用しないことは分かり切っているので、その選択しか無いようにも思える。
(まあフェルメットよりも遥かに弱いことは確実なので、絶望的と言うほどでは無いな)
フェルメット並みの強さがあったとしたら絶望的だったが、この悪魔は今の状態でも彼女よりも遥かに弱く、十分に討伐可能な相手だ。
まあこの悪魔が弱いと言うよりフェルメットの強さが異常なだけなのだが、絶対的に見て強いことに変わりは無いので、簡単にどうにかできる相手では無い。
「纏めて消し飛ばしてやる!」
と、そんなことを考えていたところで、悪魔が大きく動いた。
右手を上げて人差し指を上空に向けると、そこから黒いビームが放たれて、上空に巨大な魔法陣が展開された。
(……何が来る?)
それを見てどんな魔法が来るのかを推測する。
まず、これだけの高さの上空に展開した時点で、あの魔法陣から直接魔法が放たれることは確実だ。
と言うのも、魔力をブーストするなどの補助系の魔法陣であればすぐ近くに魔法陣を展開する必要があるからだ。
なので、魔法を使って離れた位置に魔法陣を展開している時点でこの線は切れる。
そして、これだけ大きな魔法陣から放たれる攻撃は超火力の単発の魔法か一定時間続く広範囲攻撃の二択だが、状況から察するに後者と見て間違い無さそうだった。
と言うのも、魔法陣は悪魔を中心に地面と水平な角度で展開されているからだ。
前者だとすると自分ごと攻撃することになってしまうからな。後者の一定時間続く広範囲攻撃であると見て間違い無いだろう。
「範囲攻撃だ。全員注意しろ」
そして、俺が全員に注意をしたところで、悪魔が展開した魔法陣が起動して、辺りに闇魔法による魔法弾が降り注いだ。
「……っと、危ないな。……む?」
ここで近くを飛んでいたアイスウィングが魔法弾に当たって撃ち落とされたのが見えた。
まあ撃ち落とされたこと自体は別にどうでも良いのだが、ここで一つ気になったことがあった。
気になったこととは魔法弾の軌道だ。魔法弾は真っ直ぐ飛んでいる物が多いが、アイスウィングを撃ち落とした魔法弾は追尾するかのような不自然な動きをしていた。
と、そんなことを考えているとこちらにも魔法弾が飛んで来た。
「よっと……って、危なっ!?」
それを素早く横に跳んで躱そうとしたが、跳んだ直後に魔法弾が急に弾道を変えて来た。
だが、俺はそれを見て素早く後方に下がったので、その魔法弾に当たることは無かった。
「っと……そういうことか」
それを見て、アイスウィングを撃ち落とした魔法弾の正体が分かった。
どうやら、魔法弾は真っ直ぐと飛んで来る物と近くにいる者を追尾する物との二種類が混じっているようだった。
「魔法弾には追尾する物も混じっている。気を付けろ」
とりあえず、分かったことを伝えておく。
(さて、どうするのかを考えないとな)
悪魔が魔法を放って来たので中断してしまったが、どう動くのかを考えなければならない。
降り注ぐ魔法弾を避けながら状況を確認して、どうするのかを考える。
「フードレッド、広範囲に遠距離攻撃を仕掛けてくれ。俺は前衛に回る」
「分かった」
そして、方針が定まったところで、早速、指示を飛ばした。フードレッドに広範囲を攻撃するように指示をして、俺も前衛に回る。
「シオンとスノーホワイトは俺と同時に仕掛けてくれ」
「分かったよ」
「分かりました」
「フードレッド、頼む」
「任せとけ!」
俺の指示を受けて、フードレッドは魔法銃での攻撃と魔法での攻撃で俺達に当たらないように弾幕を張る。
「効かないことが分からないのか?」
しかし、その攻撃は悪魔の展開している黒い魔力空間に吸収されてしまった。
「あの空間は避けろ」
「分かったよ」
「分かりました」
だが、あの魔力空間を使って攻撃を防いで来ることは想定内、いや、狙った通りの動きだ。
そう、フードレッドに攻撃をさせたのはあの魔力空間を防御に使わせるためだ。
魔力障壁を張ったり、そのまま魔力強化による身体能力の強化だけで攻撃を受ける可能性もあったが、安易に魔力空間を使ってくれたのは助かったな。
「……斬る」
「斬るよ」
「行きます」
そして、シオンとスノーホワイトと同時に接近して攻撃を仕掛ける。
「甘えな!」
だが、ここで悪魔は全身に魔力を込めると、足元に魔法陣を展開した。
「っ! 離れろ!」
その魔力から危険を察知して、すぐに離れるよう指示する。
「おらよ!」
すると、悪魔を中心にして火属性と闇属性の複合属性と思われる黒い炎による爆炎が広がった。
「火力の高い魔法を準備しろ!」
「分かったよ」
「分かりました」
「任せろ!」
そして、すぐにシオンとレーネリアとフードレッドの三人に魔法を準備するよう指示を飛ばす。
「俺も行くか」
それと同時に俺も魔法弓に魔力を込めて準備する。
「今だ、撃て!」
今なら魔力を吸収する魔力空間を展開していないので、それに邪魔されずに攻撃を通せるはずだ。
爆炎が消えたところで、その隙を逃さず魔法を放つように指示を出す。
「えいっ!」
「行きます」
「おらよ!」
そして、俺の指示に合わせて三人が一斉に魔法を放った。
「それで隙を突いたつもりか?」
しかし、その攻撃は空間魔法で転移することで躱されてしまった。
「……そこだ」
だが、それは想定通りの動きだ。すぐさま転移先に向けて火属性と光属性の複合属性の矢による一撃を放つ。
「チッ……」
悪魔は左腕に魔力を集約させてそれを受けるが、着弾点で発生した爆発で吹き飛ばされて行った。
「私も行きます」
さらに、レーネリアが空間魔法で吹き飛んだ先に転移して、槍での一突きを放つ。
「こいつ……」
その一撃は俺が先程攻撃した左腕の部分を正確に捉えて貫いた。
「まだ行きますよ」
レーネリアはすぐに槍を引き抜くと、今度は頭部を狙って突きを放つ。
「調子に乗るなよ!」
だが、その突きは槍の柄を掴まれて止められてしまった。
さらに、悪魔はそのまま足に魔力の爪を形成して反撃する。
「仕方ありませんね」
レーネリアはそう言って槍を手放すと、右足に魔力を込めて蹴り上げてそれを受けた。
そして、そこから流れるような動きで跳ぶと、そのまま頭部を狙って蹴りを放つ。
「……斬る」
そこに俺も接近して、後ろから攻撃を仕掛けて合わせる。
「分かっているぞ!」
悪魔は尻尾でレーネリアを攻撃しながら俺の方を向くと、レーネリアから奪った槍で突き刺そうとして来た。
「……そこだ」
それを肩を掠めるぐらいのギリギリで躱して、右手を狙って居合斬りを放つ。
「チッ……」
すると、その一撃で悪魔の持っていた槍が弾き飛ばされた。
「レーネリア!」
そして、風魔法を使ってその槍を上の方に飛ばす。
「ありがとうございます」
ちょうどその先には尻尾での攻撃を上に跳んで躱したレーネリアがいた。
その槍を受け取った彼女はそのまま悪魔の方に穂先を向けて攻撃を仕掛ける。
「あたしも行くぜ!」
さらに、フードレッドがそれに合わせて魔法で攻撃を仕掛ける。
「全く……面倒だな!」
だが、ここで悪魔は攻撃を掠めながらも、素早く上に飛んでその場を離脱した。
「……仕切り直しだな」
距離を取られてしまったので、これで仕切り直しだ。
ひとまず、それぞれの配置に着いて、陣形を組み直す。
「さて、そろそろ終わらせたいところだな」
そして、武器を構え直して、改めて悪魔と対峙した。
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