episode128 新米冒険者への総評

 街に戻ったところで、冒険者ギルドに向かって依頼の報告を済ませた。


「アリナ達はまだ戻っていないようだな」


 依頼の報告のついでに受付で確認したが、アリナ達はまだ戻って来ていないとのことだった。


「さて、ちょうど昼だな」

「そうだね」


 ここで時刻を確認すると、ちょうど昼だった。


「とりあえず、昼食にするか」

「だね」


 昼食にはちょうど良い時間なので、このままここで昼食を摂ることにした。


「お前達もどうだ?」


 折角なので、四人も昼食に誘ってみることにする。


「そうですね……折角なのでご一緒させていただきます。三人も良いですか?」

「ああ、良いぞ」

「僕もそれで構いませんよ」

「私もです」

「では、そこに座るか」


 ちょうど近くに六人で座ることができる席があったので、そこに全員で座る。


「好きな物を頼むと良い」


 そして、席に着いたところで、ミーラにメニューを渡した。


「良いのですか?」

「ああ、好きなだけ頼め。代金は俺が出す」


 見たところ、ミーラ以外はあまりお金に余裕が無さそうなので、ここは全て俺が出すことにする。


「しかし、それも悪いですし……」

「気にするな。今回は好きなだけ頼め」


 そして、そのまま半ば押し付ける形でミーラにメニューを渡した。


「……分かりました」


 ミーラはあまり納得していないようだったが、断っても無駄だと分かったのか、それ以上は何も言って来なかった。


「……全員決まったようだな」

「はい」

「職員さん、注文良いか?」

「はい、構いませんよ」


 近くにいた職員を呼んでそのまま俺が代表して全員の注文を伝える。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 そして、注文を受けた職員はそのまま厨房に向かった。


「さて、少し話でもするか」


 料理が来るまでの間は暇なので、少し今回のことについての話をすることにした。


「お前達はパーティで戦うのは初めてだったのか?」

「ああ」

「そうですね」

「私も初めてです」

「はい、初めてでした」


 思った通り、パーティで戦うのは全員初めてだったようだ。


「そうか。では、まずはミーラについてを話すか」

「はい、お願いします」

「とりあえず、初めてにしては悪く無かったと思うぞ。動き出しも早かったしな」


 色々と未熟な部分はあったが、初めてにしては上出来だった。リーダーとしての素質は十分にあるように思える。


「ありがとうございます」

「だが、問題もあった。まず最初に戦闘の方針を示していなかったのは問題だな」


 すぐに動いたまでは良かったが、その際に特に指示を出していなかった。

 なので、途中でノートスが戦闘の方針を聞くことになっていた。


「それと、状況の把握も遅かったな。敵の数ぐらいは正確に把握した方が良いぞ」


 問題のあったところをもう一点挙げるとすると、状況の把握が遅かったことだ。

 状況の把握を早くしないと、どう動くのかを決められないからな。素早く状況の把握をすることは重要だ。


「後は魔力のコントロールの精度を上げることだな。あの程度の魔物に対しては確実に当てられるぐらいにはなった方が良いぞ」

「……精進します」

「まあリーダーの資質は十分にあると思うぞ」

「そうでしょうか?」

「ああ。初めてでこれなら十分だ」


 初めてでこれなら経験を積めば十分にリーダーとしてやっていけるはずだ。


「ミオもミーラと同様に魔力のコントロールの精度を上げた方が良いな」

「分かりました」


 魔法使いなので、魔力のコントロールの精度がそのまま戦闘能力に反映されると言っても過言では無いからな。

 彼女は魔力のコントロールの精度を上げるのが一番良いだろう。


「ノートスは冷静に状況を見て、慎重に動けていて良かったな。その調子で行けば問題無いぞ」


 ノートスは冷静に動けていて、特に問題点は見られなかった。

 まあ単純に技量が低いというのはあるが、それは実戦で学んで行けば問題無いだろう。


「はい、この調子で頑張ります!」

「ジオは色々と言いたいことはあるが、まずリーダーの言うことは必ず聞け。言うことを聞いてくれないと、リーダーも戦術を決められないからな」


 当然のことではあるがリーダーは指示通りに動いてくれることを前提に指示を出している。

 なので、それを無視されると戦術が成り立たなくなる。


「それと、敢えて言うがお前は弱い。まずはそれを認めることだな」


 まず彼がすべきことは自分が弱いことを認めることだ。少なくとも強いと思い込んでいる内は成長しないからな。

 別に弱いことは悪いことでは無い。重要なのは弱いことを認めた上でどうするのかだ。

 実力者と呼ばれている者達も最初から強かった者は少ない。そう呼ばれているのは実戦を通して実力を付けて少しずつ強くなった結果だ。


「…………」


 ジオは無言のままだが、どうやら反省はしているようだ。


「さて、ざっくりとした総評はこんなところだが、どうだ? 相性は悪く無さそうだったし、パーティを組むのも悪くないと思うぞ」


 見たところ、彼らの相性は悪く無さそうだった。

 なので、このまま正式なパーティを組むという選択肢もある。


「そうですね……確かに、それも良さそうですね」

「まあ今すぐには決めなくて良い。相談してよく考えてから決めろ。パーティは信頼できる者と組むべきだからな」


 当然のことではあるが、パーティは信頼できる者と組む必要がある。

 特にリーダーは命を預けることになるのはもちろんのこと、様々なパーティについてのことの管理を任せることになるので、信頼のおける者に任せなければならない。


「できれば回復魔法を使える者もいた方が良いが、パーティとしてのバランスは悪くないからな。前向きに考えてみて良いと思うぞ」


 回復魔法が使える者はいないが、パーティのバランス自体は良いからな。この四人でパーティを組むのは悪くない。


「お待たせしました」


 と、そんな話をしていたところで、注文していた料理が届いた。


「とりあえず、昼食にするか」

「だね」


 そして、その後は昼食を摂ってから四人と別れた。






 その夜、俺達は飲食店で『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーと共に夕食を摂っていた。


「それで、どうだった?」


 夕食を摂りながらアリナがそんなことを聞いて来る。


「新米冒険者のことか?」

「うん、そうだよ。新米冒険者を指導してみてどうだった?」

「そうだな……まあたまにはこういうのも悪くは無いと言ったところだな」


 こういうことは初めてだったが、まあ悪くは無かったな。


「そう。あの四人はうまく行きそうだった?」

「それはあいつら次第だな」


 それに関しては彼らが決めることで、これ以上は俺にできることは無いからな。今後どうなるのかは彼ら次第だ。


「だが、まあ相性は悪く無さそうだったな」


 ただ、相性は悪く無さそうだったので、うまくやって行けそうではあった。


「そうだったんだ」

「そちらはどうだったんだ?」


 アリナ達の方はどうだったのかが少し気になるので、質問を返してみる。


「こっちは正式なパーティだったから、戦闘についてのアドバイスをしたぐらいで終わったよ」

「そうか」


 どうやら、アリナ達の方は担当したのが正式なパーティだったらしく、そんなに手間は掛からなかったようだ。


「……聞くが、メンバーを確認した上で楽な方を選んだのか?」

「……さて、どうだろうね?」

「……面倒な方を押し付けただろ」


 アリナは知らない振りをしているが、これは明らかに分かった上でやったな。


「まあ私がリーダーだからね。選ぶ権利は私にあるよ」

「おい」


 やっぱり、分かった上で俺達に押し付けていたか……。


「まあそれぐらいは良いじゃん。良い経験になったでしょ?」

「そちら側から言われても説得力が無いのだが?」


 ステアはそう言うものの、その言葉には全く説得力が無い。


「えっと……喧嘩しないでください!」


 それを見たミリアが少し慌てた様子でそれを止めに入って来る。


「いや、別に喧嘩はしていないし、そのぐらいのことで怒ったりはしない」


 別に怒っているわけではないからな。特に問題は無い。


「そうですか。安心しました」

「ところでアリナ、予定の変更はあるか?」


 大規模討伐戦までは依頼を受けて過ごす予定にはなっているが、今回のように予定の変更が無いのかどうかを尋ねてみる。


「いや、予定自体に変更は無いよ。今回みたいに急遽予定を変えることはあるかもしれないけどね」

「そうか、分かった」


 とりあえず、予定通りに依頼を受けて過ごすつもりでいれば問題無さそうだな。


「さて、夕食も済んだし、そろそろ宿に帰るか?」

「夕食はまだ済んでないよ」

「いや、どう見ても終わっているのだが?」


 ステアはそう言うが、夕食の料理は全員既に食べ終えている。


「まだこれからデザートを頼むからね。まだ帰らないよ」


 どうやら、ステアはデザートも頼むつもりのようだ。


「……良いのか、アリナ?」

「それぐらいなら別に良いよ。どうせこの後は特に予定は無いからね」

「そうか」


 まあ確かにこの後はどうせ宿に帰って休むだけだからな。時間は余っているので特に問題は無いか。


「それじゃあ私もデザートを頼もっかな。ステア、一緒にメニューを見せて」

「うん、良いよー」


 メニューを見ていたステアはアリナにもメニューを見せる。


「私にも見せてください」

「私もお願いします」


 ミリアとレーネリアもそれに加わってメニューを確認する。


「エリュも何か頼む?」


 ここでシオンがそう言って自分が見ていたメニューを見せて来る。


「そうだな……折角なら何か頼むか」


 このまま何もせずに待っているのも何なので、俺も適当に何かを注文することにした。

 そして、その後はデザートを食べてから宿に戻った。

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