episode104 レジスタンスの決起準備

 翌日、決起に向けてバラバラになって潜伏しているレジスタンスのメンバーを集めるために、早速動き出した。

 今は飛空船に乗ってレジスタンスのメンバーを迎えに行っているところだ。


「いやー……まさか、飛空船に乗れることになるなんてね」

「そうですね」

「そうだな」


 アーチェ、マイア、リメットの三人がくつろぎながら窓から外の景色を眺める。

 飛空船に乗っているのはその三人と俺とエリサの計五人だ。他のレジスタンスのメンバーはアインセルの街で待機していて、シオンとアーミラがエリサに代わって訓練に付き合っている。


「それで、さっきから釜に向かって何かしてるけど、それが錬成魔法?」


 アーチェが錬成魔法で装備品を作製している俺にそんなことを聞いて来る。


「ああ、そうだ」


 現在、俺は飛空船の中で注文された装備品の作製をしている。

 何もせずに到着を待っていては時間が勿体無いし、そもそも俺がこちら側に付いたのは錬成魔法で装備品を作製する時間を確保するためだ。

 ここなら敵のことを気にする必要が無くて安全だからな。


「見せてもらっても良い?」


 錬成魔法に興味があるらしいアーチェが見学の許可を求めて来る。


「ああ、構わないぞ」


 もちろん、錬成魔法に興味を持っての見学は大歓迎だ。迷うこと無く快諾する。


「私も良いですか?」

「あたしも良いか?」

「ああ、良いぞ」


 そして、マイアとリメットも見学に加わった。


「それで、今は何してるの?」

「今は剣を作っているところだ。アーチェもやってみるか?」

「うん! やらせて!」


 どうやら、アーチェは余程錬成魔法をやってみたかったらしく、俺のその質問に対して声を上げて嬉しそうに答えた。


「分かった。では、まずは基礎から行くか」


 と言うことで、今回は説明しながら作ることにした。


「まずは魔法水を入れて、その術式を起動して加熱する」


 そして、説明しながら錬成魔法の作業を進めていく。

 それを三人は興味深そうにしながらその様子を見る。特にアーチェは見たことの無い物を見た子供であるかのように目を輝かせて見ている。


(俺も最初はこんな感じだったのだろうか)


 俺がルミナから錬成魔法を教えてもらっていたときもこんな感じだったのだろうか。今の彼女達のように初めて見る錬成魔法を前に目を輝かせて見ていたのだろうか。


(何と言うか、弟子ができたかのような気分だな)


 そんな彼女達を見ていると、何だかそんな気分になって来る。ルミナが俺達に世話を焼いて、自分の子供であるかのように優しく見てくれていたのも今なら分かる気がする。


「……? どうしたの?」

「いや、何でも無い」


 つい手を止めてしまったが、錬成はまだ途中だ。すぐに再開して説明しながら錬成を続ける。

 そして、それから少ししたところで、無事に剣が完成した。


「これで完成だ」


 完成品をアーチェに渡して見せる。


「これが錬成魔法か……ねえ、あたしもやってみて良い?」

「ああ。錬成魔法用のセットはもう一つあるので、そちらを使ってくれ」


 そして、もう一つある錬成魔法用のセットを用意する。


「……最初にそのセットを取り出したときも思ったけど、それってどういう仕組みなの?」


 と、ここでアーチェがワンタッチで簡単に錬成魔法に必要な物が展開されるこの道具のことが気になったらしく、その詳しい仕組みを聞いて来た。


「俺が作ったわけではないので詳しい仕組みは知らないな。だが、仕組みは以前俺が使ったテントと同じ仕組みで、空間魔法を使った物らしいぞ」


 だが、その詳しい仕組みは俺も知らない。これはルミナが作った物だからな。


「そうなんだ。誰が作った物なの?」

「ルミナさんだ」

「ルミナさんって誰?」


 アーチェはルミナのことを知らないらしく、それが何者であるかを聞いて来た。


「知らないのか? ルミナ・フォン・エンドラース、この名に聞き覚えは無いか?」


 その質問に答えたのはリメットだった。


「うーん……無いかな。マイアはどう?」

「私は聞いたことがありますよ。確か、ワイバートの国にいる錬成魔法の使い手で、元凄腕の冒険者らしいですよ」


 どうやら、マイアはルミナのことを知っているようだ。


「マイアは詳しいんだね」

「……アーチェが知らなすぎるだけだ」


 リメットが軽くため息をつきながら呟くように言う。


「えーっと……それで、まずは魔法水を入れて加熱するんだったよね?」


 だが、アーチェは追及を避けるように話を切って、錬成魔法を始めた。


「アーチェ、人の話を聞いているのか?」

「まあそれぐらいは良いのではないか? 誰しも知らないこともあるだろう」


 俺が二人の間に入って、突っ掛かって行きそうな勢いのリメットをなだめて止める。


「あたしが言いたいのはそこではない。人の話を聞こうとしなかったことだ」

「それは分かったので、話は後にしてやってくれないか?」

「何故だ?」

「今は邪魔をしない方が良さそうだからな」


 そう言いつつアーチェに横目で視線を向ける。


「……楽しそうにしているな」


 そこには楽しそうに錬成魔法をしている彼女の姿があった。彼女のその姿を見ると、中断しろとは言いづらい。


「ああ。今は邪魔をしないでやってくれるか?」

「……分かった」


 リメットもその姿を見て話を後回しにすることに決めたようだ。


「エリュ、これで良い?」


 と、ここで鉱石の製錬が終わったらしく、延べ棒にした金属を見せて来た。


「ふむ……上出来だな」


 そして、渡された延べ棒の状態を確認してから返した。


「では、そのまま錬成の作業を続けてくれ。俺は隣で注文品を作りながら見ておく」

「分かったよ」

「二人も見て行くか?」

「ああ」

「はい」


 俺は注文品を作りつつ、アーチェの錬成の様子も見守る。


「できたよ!」


 それからしばらくしたところで、アーチェの作っていた剣が完成した。


「見せてみろ」


 早速、完成品を確認してみる。


「初めてにしては上出来だな」


 初めての錬成魔法にしては中々の出来で、正直に言うと俺が初めて作った物よりも出来が良い。


(やはり、魔力のコントロールの基礎ができているのが大きいな)


 錬成魔法は魔力のコントロールが重要になるので、その基礎ができているというのは大きいようだ。

 俺が初めて錬成魔法をしたときはまだ魔力のコントロールも学んでいなかったからな。明らかにその差が出ている。


「そう? もしかして、あたし才能ある?」

「それは……分からないな。俺は他の錬成魔法の使い手を見たことが無いからな。基準が分からないな」


 そう聞かれても、俺はルミナの店以外で錬成魔法の使い手を見たことが無いので、基準が分からない。


「そうなんだ」

「悪いな、答えられなくて」

「いや、別に気にしなくて良いよ」

「そう言ってくれると助かる」


 アーチェはあまり気にしていないようなので、こちらも気にする必要は無さそうだ。


(他の錬成魔法の使い手も見てみた方が良いのかもしれないな)


 言われて気付いたことではあるが、他の錬成魔法の使い手を全く見たことが無い。井の中の蛙にならないためにも、機会があれば他の錬成魔法の使い手を見ておくのが良さそうだ。


「リメットとマイアはどうする? 二人もやってみるか?」

「そうだな。折角の機会だし、あたしもやらせてもらおう」

「私も後でお願いします」

「分かった」


 アーチェが終わった後はマイアとリメットも錬成魔法で剣を作ることとなった。

 そして、その後は二人が錬成魔法で剣を作る様子を見ながら注文品の作製を進めた。






 航空は順調に進んで、翌日に目的地に到着した。


「ここが目的地か?」

「ええ、そのはずよ。この辺りの森で待っているらしいわ」

「そうか」


 ひとまず、下の方を見てみるが、そこにはただただ森が広がっているだけだった。


「……ああ、あれか」


 だが、その中にいくつかの人影があるのが確認できた。

 恐らく、俺達の迎えを待って待機しているというレジスタンス達だろう。


「どこだ?」

「どこですか?」

「え? どれ?」

「どこかしら?」


 どうやら、俺以外の四人はその場所を見付けられていないらしい。


「……あそこだ」


 四人に分かるようにその場所を指差す。


「ああ、あれか。……よく分かったな」

「まあこういうのは得意だからな」


 まあ全体を見て探したりするのは俺の得意分野だからな。このぐらいであれば問題無く探し出せる。


「それじゃあ降りるわよ」

「ああ」


 そして、人影のあった場所に向けてゆっくりと飛空船を降下させた。






 地上付近にまで降下したところで、エリサ以外の全員で甲板から飛び降りた。


「……いるな」


 人影のあった方向に意識を向けてみると、そこから何十人もの人の気配がした。


「来たな」


 その直後、木々の間からぞろぞろとレジスタンスのメンバーと思われる者達が現れた。


「お前達、元気だったか?」


 そこにリメットが近付いて声を掛ける。


「はい、おかげさまで」


 その質問には先頭にいた男が答えた。


「全員揃っているな?」

「はい、もちろんです」

「分かった。では、早速出発するぞ。全員乗ってくれ」

「分かりました」


 そして、そのまま全員で飛空船に乗り込んだ。






 全員が乗り込んだところで、すぐにアインセルに向けて出発した。


「一気に賑やかになったな」

「そうね」


 先程までは五人だけだったのが、一気に五十人近くが乗り込んだので、かなり賑やかになった。


「それで、彼らが協力者ですか?」

「ああ、そうだ」


 リメットはそう言って俺に目配せして来る。

 どうやら、自己紹介をしろとのことのようだ。


「俺はエリュだ。少しの間になるとは思うがよろしくな」

「私はエリサよ。一応リーダー的な存在になるわね」


 その意図を察して、軽く自己紹介をする。


「他のメンバーはアインセルにいる。到着は明日なのでのんびりしていてくれ」

「分かりました」


 そして、レジスタンスのメンバーの男は他のメンバーの元へと戻って行った。


「今後もこんな感じでメンバーを集めて行くのか?」

「ああ、そのつもりだ」

「そうか。俺は必要な物を作り終わったら別行動になるので、そうなったらエリサとメンバーを集めてくれ」


 俺がこちら側に付いているのは錬成魔法で注文品を作るためで、それが終わったらレジスタンスの訓練に加わるか、敵の動向の調査に向かう予定だ。

 なので、その後のメンバー集めはエリサと行ってもらうことになる。


「分かった」

「では、俺は作業に戻らせてもらう」


 そして、話が済んだところで、錬成魔法で注文品を作る作業に戻った。






 それから二週間ほどが経過したある日、俺はローハイトの街にいた。

 何故この街にいるのかと言うと、レジスタンスが決起するのは約一週間後に決まったので、その下見をしにに来たのだ。


 ちなみに、レジスタンスのメンバーは順調に集まっていて、もう既にほとんどのメンバーがアインセルに集まっている。


「まずは領主の動きを探るか」


 何にせよ、まずは領主の動きを探ることが先決だ。それを基に襲撃計画を立てることになるからな。


「予定通り、俺はで少し情報を探ってみることにするか」


 裏の方はアデュークが探るので、俺は表の方から情報を探ることにする。


「さて、まずは中央広場に行ってみるか」


 そして、その後はのんびりと街を歩いて情報収集をした。






 それからしばらくしてある程度情報が集まったので、一度アデュークがいる宿に向かった。


「さて、集まった情報を整理するか」

「そうだな」


 ここで一度集まっている情報を整理しておくことにした。


「まず分かっているのは、計画の実行予定日には領主は屋敷にいるということだな」


 現在、領主はこの街にはいない。

 と言うのも、国王に呼ばれてハインゼルに行っていたからだ。

 呼ばれた理由はもちろんレジスタンスの件だ。これはアデュークが裏で得た情報で、ほぼ間違い無いとのことだ。


 だが、正直呼び出された理由は割とどうでも良い。重要なのは奴自身の動きだからな。

 それで、肝心な奴の動きがどうなのかと言うと、今は帰路についているところで、三日後にこの街に帰って来る予定だ。


 さらにその三日後にはレジスタンスに関しての貴族達への説明会が開かれる予定で、ちょうどこの日が計画の実行予定日だ。

 そして、その説明会は領主の屋敷で行われるので、計画の実行予定日には領主は確実に屋敷にいる。


「だが、問題はそれが貴族達が集まる会合で、警備が厳重になるという点だな」


 そう、問題は確実に警備が厳重になるということだ。貴族達が集まるので、領主が用意した警備兵に加えて私兵の警備兵もいるはずだ。


「となると、暗殺はやはり厳しいか?」

「それは警備の状況によるな。俺ならば多少の警備ならすり抜けられる自信はある」


 俺が単独で潜入するのであれば、余程警備が厳しくない限りは十分可能だ。


「だが、確実ではないのだろう?」

「まあな」


 しかし、それは警備状況によっても変わって来るので、確実とは言えない。


「となると、やはり見付かることが前提の計画を組んだ方が良いな」

「そうだな。……派手に行くか?」

「まあ街の制圧をする必要がある以上、最終的には派手に動くことになるしな。それもありだな」


 初動がどうであろうが最終的に大騒動になることに変わりは無い。

 なので、気付かれないように暗殺しても正直あまり意味が無い。


「では、その方向で計画を立てるということで良いな?」

「ああ」


 と言うことで、襲撃は派手に行うという方向に決定した。


「では、参加する貴族を調べてその戦力を調べるぞ」

「分かった」


 そして、方針が決まったところで、調査のために裏酒場へと向かった。






「……何だか賑わっているように見えるな」


 裏酒場に向かうと心しか酒場は賑わっているように見えた。


「レジスタンスに対して高い懸賞金が懸けられたからな。懸賞金目当てにレジスタンスの居場所を探ろうと、情報を集めに来ている奴らが多い」

「そうだったのか」


 どうやら、賑わっているような気がしたのは気のせいでは無かったらしい。


「とりあえず、情報を探ってみるか」

「そうだな」


 このまま突っ立っていても仕方が無いので、ひとまず席に着く。


「……今日は何用で?」


 そして、席に着いたところでバーテンダーの男が用件を尋ねて来た。


「一週間後に領主が主要な貴族達を集めてレジスタンスに関しての説明会を行うだろう? 俺達はその情報が欲しい」

「……そうですか」

「……レジスタンスに関しての情報を探りに来たのかとでも思ったか?」

「そういう方が多いですからな」


 やはり、レジスタンスに関しての情報を探りに来ている者が多いようだ。


「まあ七千万も懸賞金を懸けられれば必死に探す者も多いか」


 先程、表で情報を集めているときに知ったが、レジスタンスには七千万セルトもの懸賞金が懸けられているらしいからな。これだけの懸賞金が懸けられれば労力を掛けて探すのにも納得できる。


「まあそういうことですな」

「……で、皆必死になっているがまだ見つけられていないと」

「そうですな。……あなた方は探さないのですかな?」

「ああ。この街で探すだけ無駄だろうしな」

「ほう? まるでこの街にレジスタンスがいないことを知っているかのような物言いですな」


 俺のその発言を不審に思ったのか、そう言って俺に疑いの目を向けて来る。


「……俺がレジスタンスのことを知っているとでも?」

「その可能性も無きにしもあらずと言うことです」

「残念ながらレジスタンスのことは知らないな。知っているのならとっくに情報を渡して懸賞金を貰っている」


 本当は知っているのだが、当然、彼女達を売るようなことはしない。俺達の目的は金ではないしな。


「そんなに俺の言ったことが気になるのか? 別に誰にでも思い付くようなしがない推測をしただけだろう? それがそんなにおかしかったか?」

「しがない推測とは?」


 そして、その"推測"の内容を聞いて来る。


(どうやら、説明した方が良さそうだな)


 説明は不要かと思っていたが、この様子だときちんと説明をした方が良さそうだ。

 ……まあ分かった上で敢えて聞いて来ているのかもしれないがな。


「政府が捜査を行った上に裏で情報を集めても見付からないということは、既にこの街にはいないと考えるのが妥当だ。それに、レジスタンスの立場になって考えてもみろ。これだけ政府の手が伸びて来ているこの街に長居すると思うか? 俺ならとっくに活動拠点を移している」


 普通に考えてこの街にはレジスタンスがいないと考えるのが妥当だ。

 実際、活動拠点は既に移されていて、この街にレジスタンスはいないしな。


「それで、アインセルに行って探っていたのですかな?」


 どうやら、俺がアインセルに行っていたことは知っていたらしい。

 まあ街の門からの出入りの情報があればすぐに分かることだし、俺の暗殺依頼を見て俺の動向を探っていた奴もいるだろうからな。それが知られていることは別に不思議なことではない。


「そういうことだ。まあとんだ無駄足だったがな」

「そうですか。ところで、何故アインセルに目星を付けたのですかな?」

「単純にこの街から一番近いからだ。物資を運ぶのにはそれなりに労力が掛かるからな。移動するにしても、できるだけ労力を少なくしたいはずだ」

「それが理由ですかな?」


 それを聞いたバーテンダーの男は確認するように聞き直して来る。


「ああ。まあ言いたいことは分かる。理由としては薄いかもしれないが、手掛かりがあまり無かったからな。あまり行き先の検討を付けられなかったと言うのが本音だな」

「そうですか」

「では、そろそろ本題に入るか」


 レジスタンスに関しての話はここまでにして、本題に入ることにした。


「とりあえず、参加する貴族が誰なのかを知りたいのだが、その情報は無いか?」

「ありますぞ」

「……このぐらいで良いか?」


 懐から取り出した大金貨一枚をそっとカウンターの上に置く。

 すると、バーテンダーの男はそれを取ってカウンターの下にしまった。


「……こちらが名簿になります」


 そして、カウンターの下から取り出した一枚の紙を渡して来た。

 早速その内容を確認してみると、そこには例の説明会に参加する貴族の名前が一覧となって書かれていた。


「確かに受け取った。では、俺達はもう行かせてもらう」


 そして、目的の情報を入手したところで、裏酒場を後にした。






 裏酒場を出た後はそのまま宿に戻った。

 部屋に戻ったところで名簿を確認して、それぞれの住居の位置を調べてメモしていく。


「さて、こんなところか」


 そして、ようやく名簿に書かれている全ての貴族の住居の位置を調べ終わった。


「早速、調査に行くか?」

「そうだな。では、アデュークはこの区画を調べてくれるか? 俺はこちらの区画を調べる」


 二人で同じところを調べても仕方が無いので、ここは二手に別れて調査を行うことにする。


「分かった」

「では、行くか」

「その前に一つ聞いても良いか?」


 ここでアデュークは何か聞きたいことがあるらしく、部屋を出ようとした俺を呼び止めて来た。


「何だ?」


 真面目な感じで話をして来るアデュークを前に軽く身構える。


「裏酒場では何故レジスタンスの話題をわざわざこちらから振った?」


 そして、裏酒場でのやり取りのことを聞いて来た。


(どんな質問をして来るのかと思ったら、そんなことか)


 何と言うか、これは明らかに分かった上で聞いて来ているといった感じだ。


「それで試しているつもりか? あそこでレジスタンスの話題を出したのは怪しまれないようにするためだ」


 レジスタンスの話題をこちらから振ったのはわざとだ。

 隠しておきたいのならそもそも話自体を出さないようにするのが良い思うかもしれないが、あの状況でその選択は悪手でしかない。


 と言うのも、あれだけレジスタンスのことが話題になっているのに、わざわざその話を避けようとすると怪しまれるからだ。

 なので、怪しまれないように自然な形でレジスタンスの話題を出したのだ。


「そうか。分かってやっていたなら良い」

「質問はそれだけか?」

「ああ。では、行くぞ」


 そして、二人揃って部屋を後にする。


(これが最後の調査になりそうだな)


 恐らく、これがこの国での最後の調査になるはずだ。

 作戦が成功すればこの国の、暴政を続けた国家とそれに抗ったレジスタンス達のそれぞれの「結末」を見届けて、俺達はこの国を去って日常に戻る。


(調査を始めてから一か月、長いようで短かったな)


 この国に来てから一か月しか経っていないが、色々なことがあった。


(いや、今は良いか)


 振り返るのは全てが終わってからだ。

 そう思い直した俺はそこで思考を切り上げて調査へと向かった。






 暴政を続けたとある国、それに抗ったレジスタンス達、利己的な制度を作って甘い汁を吸い続けた上流階級の者達、国を傀儡にして私利私欲を満たそうとしたとある男、大切な者を取り戻そうと立ち上がったとある少女、そこには様々な思惑があったが、いやが応でもそれぞれの「結末」は訪れる。


 一人の少女が起こした小さな旋風は少しずつ大きくなっていき、今それは嵐となって国を飲み込もうとしていた。

 その「結末」がどのようなものになるのかは誰にも分からないが、一つ確実に言えることはこの国に大きなうねりが来ているということだった。


 ――そして、その六日後、この国の命運を決する戦いの火蓋が切られた。

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