episode89 盗賊団の拠点の偵察

 翌日、朝食を摂り終えたところで、作戦会議をすることにした。全員で卓を囲んで、資料を確認し合う。


「ここに盗賊団の拠点があるんですよね?」


 マイアが地図のある一点を指差しながら確認して来る。


「ああ。間違い無い」


 エリサ達に直接確認してもらったからな。場所はここで間違い無い。


「拠点は昔は砦として使われていた廃墟で、そこそこ広いみたいだね」

「ああ、問題はそこだな」


 盗賊団が拠点にしている廃墟は昔は砦として使われていたもので、そこそこの広さがある。

 なので、下手に攻めると全員を仕留め切れずに取り逃がしが発生してしまう。


「どうするの?」

「そうだな……仕掛けるなら夜だな」


 闇に紛れて気付かれないように数を減らして、折を見て一気に仕掛けるのが理想だ。


「とは言え、俺はその砦を見たことが無いからな。まずは偵察だな」

「だね」

「偵察は俺一人だけで良いな?」


 一応、全員に確認をする。


「偵察ならあたし達に任せて」


 だが、ここでアーチェが名乗りを上げた。


「大丈夫か?」

「こう見えてもこういうのは得意だから大丈夫だよ」

「そう言われてもだな……」


 今まで二人の様子を見て来たが、残念ながら彼女達の技量では二人に任せることはできない。


「大丈夫だって。このぐらいは大したこと無いし」

「……分かった。ただし、俺も同行する。それで良いな?」


 仕方が無いので、俺も同行するという条件で二人の偵察への参加を許可することにした。


「分かったよ」

「分かりました」

「では、準備をするぞ。シオンはここに残ってくれ」

「分かったよ」


 そして、方針が決まったところで、偵察の準備をすることにした。






 準備ができたところで、盗賊団の拠点の偵察に出発した。

 今は盗賊団の拠点に向けて森の中を歩いているところだ。


「盗賊団の拠点はこの先だよね?」

「ああ」


 周囲を警戒しながら森の中を進んで盗賊団の拠点に向かっているが、今のところ盗賊には遭遇していない。


「そろそろ着くはずだ。周囲を警戒しろ」

「分かりました」

「分かったよ」


 どこに盗賊が潜んでいるのか分からないので、俺は最初から警戒していたが、マイア達はそうでは無かったので、警戒するよう指示を出しておく。


「……止まれ」

「どうしたの?」

「これ以上前に出ると気付かれるぞ」


 三十メートルほど先からは森が途切れているので、これ以上前に出ると気付かれる可能性がある。

 なので、ここから望遠鏡を草木の隙間から通して拠点の様子を確認する。


「そんなに大きな砦ではないな」


 エリサからの情報にもあった通り、あまり大きな砦ではなかった。砦は石造りの三階建てで直方体の形だが、各辺が五十メートル程度しかない。

 首都であるハインゼルの近くにある建物なので、監視をメインとしたものだったのかもしれないが、情報が無いので元々の用途が何だったのかは不明だ。

 だが、今回はそのあたりの情報は必要無いので、気にしないことにする。


「元々砦だったとだけあって、防御面も考えられた構造になっているな」

「そうだね」


 砦は崩れている部分や壊れている部分もあるが、砦を囲う壁や堀などは完全ではないが残っている。

 なので、多少ではあるが防御力はあるようだ。


「まあ今回はそれはどうでも良いことだがな」


 今回は少人数で攻めるので、これらの防衛設備は効果が薄い。

 なので、このことを気にする必要は無さそうだ。


「見張りは……当然いるか」


 砦を確認すると、そこには数人の見張りがいた。


「まあ交代で見張りをして、常に見張ってるんだろうね」

「そうだな」


 人数も十分だからな。常に見張りを立てておくぐらいの余裕はある。


「見張りの目を掻い潜って侵入できれば良いが、夜は明かりを点けているようだしな。気付かれないように侵入するのは難しそうだな」


 砦の周囲には松明のような物が設置されていて、夜は砦の周囲を明かりで照らしているようだった。

 さらに、砦の周囲の木は見渡しを良くするために伐採されているので、気付かれないように侵入するのは難しそうだった。


「確かに、それは無理そうだね」

「無理ではないが、面倒ではあるな」


 侵入自体は不可能では無いが、少々面倒ではある。一手間掛かるからな。


「侵入できるの?」

「ああ、方法自体は色々と考えられるな。上空から侵入したり、見張りの気を逸らした隙に侵入したりな」


 まあ少なくとも俺単独であれば気付かれずに侵入できるな。


「それで、どうするの?」

「侵入は夜だな。一旦戻って備えるぞ」


 日中に侵入するのは難しいので決行は夜だ。

 そして、方針が決まったところで、来た道を引き返して洞穴まで戻った。






 夜になったところで、シオンを洞穴に残して盗賊達の拠点に戻って来た。

 今は午前中に偵察をしていた場所と同じ場所で拠点の様子を見ているところだ。


「それで、どうやって侵入するの?」


 砦の周りは明かりで照らされていて、見張りもいるので見付からずに侵入することは難しい。


「見張りの人数を確認してみる。少しそこで待っていてくれ」


 ここで俺は見張りの様子を確認するために、風魔法を使って真上に跳躍する。


(もう少し高さが欲しいな)


 一回の跳躍だと高さが足りないので、ここからさらに跳躍することにした。

 足元で風魔法の術式を起動して、間欠泉のような感じの一方向で爆発的な風を起こし、さらに上に跳躍する。


「っと……やはり、これは制御が難しいな」


 この魔法を使って地上から跳躍するときは姿勢を整えられるので跳ぶ方向を制御しやすいが、空中だとそうではないので制御が難しい。少し制御を誤るだけで方向がずれてしまう。

 ある程度狙った方向に跳ぶことはそこまで難しくないが、やはり正確に狙ったところに跳ぶのは難しい。


「さて、砦の様子を確認するか」


 このぐらいの高さなら十分なので、早速、砦の様子を確認してみることにした。

 確認すると、見張りは四方向に各二人ずつ、計八人だった。

 確認したところで、そのまま重力のままに落下して、風魔法で勢いを殺して着地する。


「どうだった?」

「見張りは計八人で、各方角を二人ずつで見張っているな。屋上に他に敵影は無い」

「つまり、二人の目を掻い潜れれば侵入できるんだね?」

「いや、砦内部の他の者に見られる可能性はある」


 見張りの目を掻い潜っても、内部の他の者に見られる可能性はある。

 なので、そこには注意が必要だ。


「と言うか、さっき跳んだので見られた可能性もあるんじゃない?」

「それは大丈夫だ。跳ぶ前に見張りの視線が明かりで照らされている下の方ばかりに向いていて、他のところを見ていなかったことを確認してから跳んだからな。それに、跳んでいるときもこちらに視線が向いていなかったのを確認した」


 その点は跳ぶ前に確認しておいたので問題無い。向こうにはバレていないはずだ。


「それで、結局どうするの?」

「予定通りに見張りの隙を突いて侵入する」


 ここは事前の計画通りに見張りの隙を突いて侵入することにする。


「では、行くぞ」

「分かりました」

「分かったよ」


 そして、ある程度、状況が分かったところで、盗賊達の拠点に接近した。






「この方角が良さそうだな」


 堀や柵などの防衛設備の配置を見て、障害物の少ない方角から侵入することにした。


「それで、どうするの?」

「それは俺に任せろ」


 ここで使うのは一枚の銅貨だ。袋から一枚取り出して、それを空高く放り投げる。

 方法は単純だ。音で気を引いてその隙に侵入する。別のことに気を向けさせてその隙を突く、単純ではあるが有効な手段だ。


 そして、投げた銅貨は屋上の中央あたりに落ちて音を立てた。


「では、行くぞ」

「えっ!?」

「うわっ!?」


 俺はマイアとアーチェを肩に担ぎ上げて、見張りが銅貨が落ちた音に気を取られた瞬間に風魔法を纏って高速で砦に接近した。


「ここまで来れば大丈夫か」


 ここまで来ればもう屋上の見張りからは見えない。

 砦の壁にまで着いたところで二人を降ろす。


「こうするのなら事前に言って欲しかったな……」

「そうだよ! いきなり担ぎ上げるなんて!」

「静かにしろ。気付かれるぞ」


 壁を一枚隔てた先には敵がいるので、あまり大きな声で話すと気付かれてしまう。


「少し中の様子を探る。そのまま待っていてくれ」


 ひとまず、聞き耳を立てて中の様子を探る。


(どうやら、宴会をしているようだな)


 盗賊達は一階中央の広い部屋に集まって宴会をしているようだった。


「多くは一階中央の広い部屋に集まって宴会をしているな。他の部屋や廊下には数人程度だな」

「分かるの?」

「ああ。話し声や足音で分かる」

「話し声や足音で分かるって……良く聞き取れるね」

「まあな」


 いつもこういうことをしていたからな。こうして音で状況を探ることには慣れている。


「とりあえず、宴会をしている奴らは放置して他の奴らを片付けて数を減らす。まずは正面から入って左の部屋にいる奴らを仕留めるぞ」

「分かりました」

「分かったよ」


 そして、方針が決まったところで、壁を伝って正面の入り口へと向かった。


「あの見張りはどうするの?」


 正面の入り口に向かうと、そこには二人の見張りがいた。見張りは入口の左右に立って周囲を警戒している。


「普通に殺れば良い」

「普通に?」

「ああ。まあここは俺に任せておけ」


 周りに他の者はいないので、音さえ立てなければ気付かれることは無い。

 こちらに注意が向いていないのを確認したところで横から近付いて、間合いに入ったところで短剣で一人目の見張りの首を刎ねる。

 さらに、その直後に音を立てないようにしながら、もう一人の見張りに素早く接近して首を刎ねた。


「邪魔者は片付いた。早く入るぞ」


 これでもう砦への侵入を邪魔する者はいない。堂々と正面から砦に入る。


「……どうした?」


 しかし、そこ光景を見たマイア達は呆然と立ち尽くしていた。


「早く行くぞ」

「う……うん」

「足音を立てないように気を付けておけ」

「分かりました」

「分かったよ」


 そして、そのまま最初の殺害対象ターゲットがいる左の部屋に向かった。






 左の部屋に向かうと、そこには二人の男がいた。


「少し部屋の中の様子を見てみる。少し待ってくれるか?」


 何か話をしているようなので、聞き耳を立てて話の内容を聞き取ってみる。


「昨日の襲撃は失敗したらしいが、状況は分かったのか?」

「いや、詳しい状況は分かんねえな。向こうからの連絡は無かったし、見に行ったら全滅してたって感じだからな」


 あのメンバーの中のリーダーと思われる男が通信用の魔法道具を持っていたが、連絡はできていなかったらしい。

 そのせいで盗賊達は詳しい状況を把握できていないようだ。


「それに、持ってた物も全部盗られてたからな。余計に何があったか分からんな」


 盗賊達が持っていた使えそうな物は全部もらっておいたからな。現場に残されたのは盗賊達の死体だけだ。


「まあ返り討ちに遭ったんだろうな。襲撃対象ターゲットの死体は無かったしな」

「そうか。それで、襲撃対象ターゲットが今どうしてるのかは分かってるのか?」

「さあな。馬車も無かったし、アインセルに向かったんじゃないか?」


 どうやら、盗賊達は俺達がアインセルに向かったと思っているようだ。

 まあ普通はここに来ているとは思わないだろうし、それは妥当な判断だろう。


「それで、様子は分かった?」


 アーチェが部屋の様子がどうだったのかを聞いて来る。


「ああ」


 盗賊達が話していたことをマイア達にも伝える。


「そうなんだ」

「つまり、盗賊達はあまり状況を把握できなかったんだね」

「みたいだね」

「やっぱり、あたしがあいつらの物を全部持って行ったのが……」


 二人はまだ話をしているが、気にせずに俺は盗賊達の観察に戻る。


(今なら行けそうだな)


 今ならこちらの方向に意識が向いていないので、気付かれずに殺れそうだ。

 素早く近付いて、両手に装備した短剣で二人の男の首を刎ねる。


「それで、どうするの? ……って、あれ?」


 先程まで俺がいたところを見ながらアーチェがどうするかを聞いて来るが、もうそこに俺はいない。


「とりあえず、仕留めたぞ」


 俺は二人の元に戻って、盗賊達を倒したことを報告する。


「「……え?」」

「いや、だからもう終わったぞ」


 仕留めた盗賊の方に視線を向けながら親指で指す。

 そして、俺にそう言われたところでマイア達は部屋を覗き込んだ。


「いつの間に……」


 二人は部屋の様子を見て呆然としている。


「いつの間に倒してたの?」

「いつの間にと言われても、先程普通に倒したぞ?」

「でも、物音が一切しなかったけど?」

「物音を立てないのは当然だろう?」


 物音を立てるとバレる可能性があるので、物音を立てないようにするのは当然だ。


「うーん……何と言うか、暗殺者みたいだね?」

「そうか? これぐらいなら慣れれば簡単にできるぞ?」


 このぐらいなら慣れれば難しいことではない。俺のように意識しなくとも自然とできるようなレベルにまではならなくとも、意識すればできるぐらいにならなれるはずだ。


「それに慣れてるから暗殺者みたいだって言ってるんだけど……まあいっか」

「聞きたいことはそれだけか? 無ければ次に行くぞ?」


 時間が経つにつれて気付かれる可能性が上がるので、できるだけ早く片付けてしまいたい。

 とりあえず、二人とも特に用は無いようなので、さっさと次に行くことにした。


「方針は分かっているな? はぐれを狩って数を減らしてから宴会会場を襲撃するぞ」

「はい」

「分かってるよ」


 そして、宴会から外れてうろついている盗賊達の暗殺を始めた。






「……終わったね」

「そうだな」


 はぐれ狩りはかなり順調に進んで、十五分も掛からずに終わった。

 これで残りは一階の中央の部屋にいる奴らと屋上の見張りだけだ。


「屋上の見張りは放っておいて良いの?」

「ああ。見張りは八人いて暗殺するは面倒だからな。それに、屋上にいる奴らは逃げづらいだろうからな。後回しで問題無い」


 屋上にいる奴らは一旦放置して、後で殺ったので問題無いはずだ。

 一応、エリサ達も待機しているので万一にも逃げられる心配は無いはずだからな。


「全部エリュが片付けちゃったし、あたし達いらなかったんじゃ……」

「そんなことは無いぞ? 本格的な戦闘はこれからだからな」


 確かに、ここまでは俺が全部片付けたが、戦闘になるのはこれからだ。

 まあその戦闘にも彼女達は別に必要無いのだが、彼女達を連れて来る理由が必要だったからな。


「それと、これを渡しておく」


 ここで俺はマイア達にハンドガン型の魔法銃をそれぞれに渡す。


「これ、魔法銃じゃん。良いの?」

「ああ。今回は貸しておく。有効に使ってくれ」


 俺は短剣の投擲に銃剣型の魔法銃、魔法に魔法弓で遠距離攻撃できるからな。これが無くても、さほど問題は無い。


「さて、奴らが呑気に宴会をしているのはこの先の部屋だな」


 ひとまず、部屋を覗いて様子を確認してみる。

 その部屋は元が何の部屋だったのかは分からないが、かなり広い部屋で集まって宴会をするには十分な広さだった。今は盗賊達が集まって宴会をしている。

 また、出入り口はここを含めて全部で三か所あった。


「それで、今度はどうするの?」

「不意打ちを仕掛けて一気に片付ける。最初の不意打ちは俺がするので、二人はそれに続いてくれ」

「分かりました」

「分かったよ」


 そして、方針が決まったところで、戦闘の準備に入った。

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