第3章 ガーグノットとレジスタンス

episode84 ガーグノットの調査

「いやー、今日も助かったよ」


 アリナが冒険者ギルドで依頼達成の報告をしながら、俺達に礼を言って来る。


「でしょー?」


 シオンが両手を腰に当てて自慢気にしながら言う。


「あたし達、何もしなくても良かったんじゃない?」

「ステア、それはダメだよ。依頼を受けたからにはちゃんとしないと」


 あれから二週間が経過したが、冒険者としての活動は順調で、今日は軽くレッサーワイバーンを狩って来た。

 今は『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーと共に依頼をこなして帰って来たところだ。


「こちらが今回の報酬です」


 受付嬢から今回の依頼の報酬がアリナに渡される。


「報酬の分配は戻ってからで良い?」

「ああ」


 アリナは報酬をちょろまかすようなことはしないだろうし、報酬の分配はゆっくりできる店に戻ってからで良いだろう。

 なので、報酬の分配は後回しにして、このまま店に戻ることにする。


「それじゃあルミナさんの店に戻ろっか」

「だね」


 そして、報酬を受け取ったところでルミナの店に戻った。






 店に戻ったところで、いつものように二階に向かった。


「帰ったわね」

「お帰りー」


 すると、そこにはルミナだけでなくエリサとアーミラもいた。


「あれ? 二人とも、どうかしたの?」

「ちょっとあなた達に用があったから来たのよ」

「用?」


 エリサ達の方から用があるとは珍しいな。

 ひとまず、その内容を聞いてみることにする。


「それは今から話すわ。『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のみんなは席を外しておいてくれるかしら?」

「分かったよ。みんな行くよ」

「おっけー」

「はい」

「分かりました」


 そして、『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーは自分達の部屋に向かった。


「とりあえず、座ったらどう?」

「そうだな」


 ひとまず、話を聞くために席に着く。


「それで、用とは何なんだ?」


 席に着いたところで早速、用件を聞いてみる。


「用件はガーグノットの調査への同行よ」

「ガーグノットの?」

「ええ。あなた達はそういうのが得意そうだから」

「なるほどな」


 確かに、隠密行動は得意だからな。それで俺達を呼びに来たというわけか。


「それで、どうするの?」

「そうだな……俺は構わないが、シオンはどうだ?」

「ボクもそれで良いよ」


 エリサ達にはかなり世話になったからな。協力できるならしたいところだ。


「分かったわ。明日ここを出て一旦基地まで行くから、今晩中に準備を終わらせておいてくれるかしら?」

「分かった」

「分かったよ」

「と言うことで、二人をしばらく借りるわね」

「ええ、どうぞ」


 そして、ルミナが許可を出して、ガーグノットの調査への同行が決定した。


「それと、一つエリサに聞きたいのだけど、あなたのところにエリュとシオン以外の人を預けられるかしら?」

「それは人によるわね。こちらが信用できると判断した人物なら大丈夫よ」

「分かったわ」

「それで、誰か預けたい人がいるのかしら?」

「いえ、今はいないわ」

「そう、分かったわ。ところで、エリュとシオンは新しい武器の方はどうかしら? 調整は必要無さそう?」


 ルミナが俺達に新しい武器について聞いて来る。

 先程の話が少々気になるところだが、聞いてもはぐらかされそうなので、ひとまずそれは置いておくことにする。


「ボクの方は特に問題無いよ」

「性能面では特に問題は無いな」


 ルミナが作った武器とだけあってかなり使いやすかった。性能に関しては特に問題は無い。


「性能面ではってことは、何か他に問題があるの?」

「問題と言うほどでは無いが、投擲用としては使いづらいと言うか、投擲用に別に短剣を用意した方が良い気がするな」


 結局、短剣は一千万セルトの物を選んだが、値段が値段なだけに投擲用として使いにくい。

 投げた後はもちろん回収するが、回収できない場合もあるだろうからな。

 なので、別に投擲用の安い短剣を用意しておきたい。


 まあ用意したところでメインの短剣が投げにくいことに変わりは無いので、短剣の利点の一つである近接戦に対応しながらも、いつでも投擲による遠隔攻撃もできるという利点が無くなるという問題は解決しないが。


「確かに、投擲して使うことは想定していなかったわね。でも、一つ良い案があるわ」

「何だ?」

「これを見てくれるかしら?」


 そう言うと、ルミナは空間魔法で鞘に入った短剣を取り出した。

 見たところ、特に変哲が無いように見える。


「これがどうしたんだ?」

「これにはある刻印術式を組み込んでいるわ」

「それは何なんだ?」

「まあ見ていると良いわ」


 そして、何をするのかと思ったら、鞘から短剣を抜いて、それを床に放り投げた。

 投げられた短剣は回転しながら床を滑って、食卓の下で止まる。


「それで、どうするの?」

「この状態で鞘に魔力を流して術式を起動してみて」

「分かったよ」


 そして、シオンが鞘を手に取って魔力を流して術式を起動すると、突然短剣が鞘に収まった状態で出現した。


「うわっ!? 何か短剣が出て来たよ!」

「出て来たのではなく、戻って来たのよ。さっき私が投げた短剣を見てみて」


 そう言われて食卓の下を見てみると、ルミナが先程投げた短剣が無くなっていた。


「シオン、その短剣を渡してくれるか?」

「うん、良いよ」


 シオンから受け取った短剣を鞘から抜いて確認すると、ルミナが放り投げた短剣と全く同じデザインだった。

 どうやら、これはあの短剣と同じ物のようだ。


「それで、これは何なんだ?」

「これは空間魔法を使った物で、鞘の術式を起動すると短剣が空間転移して直接戻ってくるわ」

「なるほどな」


 確かに、これならば遠慮無く投擲することができるな。


「それで、この短剣はどのぐらいするんだ?」

「そうね……この刻印術式を組み込まないといけない関係で、魔法を使う武器並みに素材を使わないといけないから高くなるわよ?」

「そうか」


 そうなると、かなりの高額になるので、俺達には手が出そうにないな。


「それで、どうするの?」

「是非とも欲しいところだが、手が出そうにないからな。今回は止めておこう」

「あら、後払いでも良いのよ?」

「……これ以上ツケを増やすわけにはいかないからな。せめて、それを払い終えてからだな」


 ルミナからは装備品を後払いで買っていてツケがたまっているからな。新たに武器を買うのはそれを払い終えてからにしたい。


「さて、私達はまだ少しだけ準備が残っているから行ってくるわね」


 そして、エリサ達はそのまま席を立って店を出て行った。

 リビングに俺達とルミナだけが残される。


「ボク達も準備する?」

「そうは言っても特別準備することも無いしな……」


 準備と言われても、俺達はそこまで準備することも無い。食料品などの消耗品はエリサ達が全員分を用意するだろうしな。


「だが、まあ準備することが無いわけではないからな。いつでも行ける状態にはしておくか」

「だね」


 そして、自分達の部屋に行って準備をすることにした。






「さて、準備もできてるし、そろそろ行こっか」

「そうだな」


 翌日、朝食を摂り終えたところで、出発することにした。


「少し待ってくれるかしら?」


 だが、そこでルミナに止められてしまった。


「何だ?」

「これを渡しておくわ」


 ルミナがそう言って渡して来た物は短剣だった。全部で四本あるので、俺とシオンで各二本ずつのようだ。


「これはもしかして、昨日見せてくれた物と同じ物か?」

「ええ、そうよ。あなた達に合わせて作った物だから、昨日の物よりも遥かに高性能よ」

「良いのか?」


 昨日見せてもらった物ですら高価な物なので、これはかなり高価な物のはずだ。

 俺達にどうにかできる金額でないことは分かり切っている。


「ええ。代金はエリサから受け取ったから大丈夫よ」

「エリサが?」


 エリサに視線を移しながら尋ねる。


「ええ、そうよ。私が代金を払ったわ」

「……何故だ?」

「あなた達の戦闘スタイル的にそれがあるかどうかでかなり違うでしょう?」

「それはそうだが、良いのか?」


 彼女の言うことに間違いは無いが、対費用効果を考えると釣り合いが取れていないように感じる。


「今回はあなた達には色々と頼むことになりそうだから、それぐらいは良いわよ。まあDランクの昇格祝いだと思って受け取ると良いわ」

「……分かった」


 断っても押し付けられそうなので、ここは素直に受け取っておくことにした。


「それじゃあ今まで使っていた短剣は買い取っておくわね」

「ああ」


 ルミナに先々週に買った短剣を渡して、空いたところに新しい短剣を装備する。


「さて、それじゃあそろそろ行きましょうか」

「そうだな」


 そして、準備が終わったところで、キーラを回収しにレイルーンの家へと向かった。






「相変わらずあまり大きくは無いけど、高級そうな感じだね」


 レイルーンの家の前に来たところで、それを見たアーミラが呟くように言った。

 相変わらず、と言うことは以前にも見たことがあるようだ。

 まあ見たことがあるも何も、街の入口から近いところにあるので、見たことがあるのは当然かもしれないが。


「まあ暮らしているのは自身とエルナの二人だけだし、広くする必要も無いでしょうしね」


 エリサの言う通り、暮らしているのは二人だけなので、広くする必要も無い。

 まあそれに加えてメイドが一人いるらしいので実際は三人なのだが、エリサ達はそのことを知らないらしい。

 お金を余らせた富豪は大きな豪邸を持っているが、俺に言わせてみれば無駄以外の何物でも無い。無駄に維持費が掛かるだけだしな。


「そうだな」

「それで、キーラは……地下にいるみたいね」


 エリサが魔力領域を展開して確認する。

 彼女の言う通りキーラは地下にいる。家の中では狭くて飼えないので、専用の地下室で飼っているのだ。


「ああ、そうだ。地下には庭にある扉から行ける。では、行くか」


 そして、庭にある扉の鍵を開けて地下に向かった。






「キィッ♪」

「おわっ!?」


 地下に入ったところでキーラに飛び付かれた。


「だいぶ懐いているわね」

「まあな」


 依頼に行くときは毎回キーラに乗って行っていたせいか、この二週間でだいぶ懐かれた。


「そうね。魔物が懐くなんて珍しいのにね」

「む?」


 声がした方を見るとそこにはレイルーンがいた。

 容姿は姉妹とだけあって妹であるメイルーンと酷似している。

 緑色の瞳をしていて、髪は金髪のロングヘアだ。見た目は三十代だが、エルフは長寿な分身体の成長が遅いので、正確な年齢は分からない。


「レイルーンさんか。悪いな、場所を借りて」

「いえいえ。どうせスペースは余っているから気にしなくて良いわ」

「そうですね。私も暇を持て余すことが多かったですからちょうど良かったです」


 そう言ったのは体長が四メートルほどの薄緑色の体皮をしたドラゴンだった。

 そのドラゴンはフェアリードラゴンという種類のドラゴンで、存在そのものが幻なレベルの超稀少種だ。

 彼女はレイルーンの騎乗用の魔物で、名はフィリアーチェだ。見ての通り高い知能を持っていて、普通に人の言葉を話すことができる。


「フィリアーチェか。悪いな、キーラの面倒を見てもらって」

「ルホークとアルクスのついでなので大丈夫ですよ」


 ルホークはエルナの騎乗用の魔物で、テオファルコンという体長が三メートルほどの鳥の魔物だ。


 また、アルクスはルミナの騎乗用の魔物で、フロストワイバーンという魔物だ。その名の通り、氷属性の魔力を持ったワイバーンで、青い体皮をしている。


「それじゃあキーラを連れて行くわね」


 そして、エリサが空間魔法でキーラを別次元の空間に入れた。


「では、行くか」

「うん」


 そして、キーラを回収したところで、街の外へと向かった。






 街を出たところで、そのままキーラに乗って霧の領域にある基地へと向かった。


「お帰りなさい」


 基地に入ったところでフェリエに出迎えられる。


「ええ」

「帰ったよー」

「ああ」

「久し振りー。ここに来るのは二か月振りだね」

「そうだな」


 シオンの言う通り、ここに来るのは二か月振りだ。ここでの修行を終えて街に戻って以来だからな。


「準備はできているので、こちらにどうぞ」

「ああ」


 そして、そのままリビングに案内される。


「来たか」


 リビングに向かうと、そこにはアデュークがいた。他のメンバーは見当たらない。


「ええ。それじゃあ早速、始めましょうか。みんな座って」

「ああ」

「分かったよ」


 ひとまず、エリサに言われた通りに席に着く。


「さて、ガーグノットに向かうのは私、アーミラ、アデューク、エリュ、シオンの五人よ」


 どうやら、ガーグノットに向かうのは五人だけで、他のメンバーは基地で待機のようだ。


「それで、何を調査するんだ?」

「情勢の調査だけど、特別何か目的があるわけでは無いわね」

「そうか。予定はどんな感じなんだ?」

「まずは首都であるハインゼルに行く予定よ。その後は状況を見てどうするかを決めるわ」

「分かった」


 軽く調査をするぐらいで、本格的に何かを調査をするというわけでは無いようだ。


「出発は明日の早朝よ。ガーグノットの今の情勢を纏めた資料を渡すから、それを読んでおくと良いわ」

「分かった」

「分かったよ」


 ここでエリサからいくつかの資料を手渡される。


「それじゃあこれで解散で良いかしら?」

「ああ」

「うん」

「そうだな」

「それで良いよー」


 そして、資料を手渡されたところで、そのまま話し合いは解散となった。


「とりあえず、読んでみるか」

「だね」


 そして、その後はエリサから受け取った資料を読んで、一通り読み終えた後はのんびりと残りの時間を過ごしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る