episode73 ゴーレム
「これで最後だな」
「だね」
頼まれていた最後の品を箱に入れる。これで、ルミナに頼まれていた物は全て作製し終わった。
「そっちも終わったみたいだね」
そこに商品を持ったミィナがやって来る。
どうやら、彼女も最後の品を作り終えたところのようだ。
「意外と早く終わったのね」
一足先に終わっていたリーサが席を立ってこちらにやって来る。
「みんな終わったみたいね。確認するから少し待ってくれるかしら?」
ルミナがリストと照らし合わせながら箱の中身を確認していく。
そして、しばらくしたところで確認が終わったらしく、蓋をしてから空間魔法で箱を収納した。
「頼んでおいた物は全部作ってくれたみたいね。みんな、お疲れ様。後は私がやっておくから戻って休んでいて」
ルミナは労いの言葉を言うと、一人で後片付けを始めた。
「それじゃあ私は上で休ませてもらうわ」
「あたしも休んでおくね。二人も行こ」
「うん!」
そして、リーサ、ミィナ、シオンの三人は休憩のために二階へと向かおうとした。
「あれ? エリュは来ないの?」
だが、ここで動こうとしない俺の様子に気付いたミィナが、こちらを振り返ってからそう聞いて来た。
それを見たリーサとシオンも足を止める。
「俺はもう少しここにいる」
まだ錬成魔法でやってみたいことがあるからな。休むのはそれが終わってからだ。
「まだ何か用があるの?」
「まあそういうことだ」
「そう。分かったよ。あたし達は先に行ってるね」
「ああ」
そして、今度こそ三人は階段を上がって二階へと向かった。
「ルミナさん、手伝うぞ。何をすれば良い?」
早速、目的の錬成をしたいところだが、その前に後片付けの手伝いだ。
ひとまず、何か手伝えることが無いかを聞いてみる。
「片付けなら先に錬成が終わっていた私とリーサでほとんど片付けたから、手伝うほどのことはもう無いわ」
「そうか」
何か手伝いたいところだったが、片付けはほぼ終わっているので、俺に手伝えることはもう無いようだ。
「エリュはまだ休まなくて良いのかしら?」
「ああ。もう少し錬成魔法を練習しておこうと思ってな」
「そう。倉庫の右奥の方にある素材は自由に使って良いから、それで練習すると良いわ」
「分かった」
素材が無いことには錬成ができないので、倉庫に行って必要な素材を取って来る。
「こんなところか」
そして、適当に素材を集めたところでアトリエに戻った。
「そんな素材で何をするつもり?」
俺の持っている素材を見たルミナは首を傾げた。
それもそのはずだ。俺が持って来た素材は鉱石を製錬し終わった後の鉱物だ。とても装備品の素材に使える物ではない。
「まあ見れば分かる」
鉱物を釜に入れて、それを人型に変形させていく。
そして、変形させ終わったところで、火ばさみを使って完成品を取り出した。
「そういうことね」
その形を見たルミナは俺がこれから何をするのか分かったようだ。
そう、俺が作ろうとしているのはゴーレムだ。
ちなみに、ゴーレムというのは刻印術式によって動く人形のことだ。
もちろん、良い素材を使った方が性能の良いものを作ることができるが、今回は試しに作ってみるだけなので、素材は正直何でも良い。
「さて、例の本は……どれだ?」
早速、刻印術式を組み込みたいところだが、流石にその内容までは覚えていないので、参考となる物が必要だ。袋を探って目的の本を探す。
これらの本はヴァージェスの研究を纏めた物だ。好きにコピーして持って行って良いと言われているので、ゴーレム関連の研究を纏めた物を集めておいたのだ。
「これか」
目的の本が見付かったので袋から取り出して確認する。
そして、それを参考にしながら刻印術式を組み込んでいく。
「こんなものか」
刻印術式を組み込み終わったので、早速試してみることにした。ゴーレムに魔力を流して刻印術式を起動する。
すると、ゴーレムがゆっくりと歩き始めた。
そのままゴーレムは真っ直ぐと歩き続けて、壁に当たったところで停止する。
「問題無さそうだな」
動作することを確認したところで、ゴーレムを回収する。
「エリュはゴーレムに興味があるのかしら?」
「ああ。少し面白そうだったからな」
ヴァージェスの研究を纏めた本を見て少し興味が湧いたからな。それで、作ってみようと思ったのだ。
「どんなゴーレムを作りたいと思っているの?」
「最終的には自律思考型のものを作ろうとは思っているが、まあだいぶ先の話だな」
最終目標は自律思考型のゴーレムを作ることだ。
だが、自律思考型のゴーレムを作るのは非常に難しい。自律思考型のゴーレムを作るためには非常に高度な刻印術式が必要になるので、魔法に関しての高度な知識が必要だ。
それに加えて、適切な素材を作る必要もあるので、錬成魔法の知識も必要になる。
「でも、自律思考型のゴーレムは難しいわよ。ほぼ不可能とさえ言われている難易度よ」
「そうなのか?」
難しいことは分かっていたが、そこまでの難易度なのか……。
言われてみれば、ゴーレム関連のヴァージェスの研究成果は一通り見てみたが、完成には至っていなかったな。
「確かに、ヴァージェスにすら完成させられなかったものを作れと言われても、できる気がしないな……」
「あら、早々に諦めるなんてあなたらしくないわね」
「それは自分でもそう思うが、こればかりはな……」
初歩レベルのことですらまだ完全には理解できていないのに、ほぼ不可能とさえ言われている難易度の物を作ることなどできるはずもない。
「最初はみんな同じで知識の無い状態からのスタートよ。始めからできる人なんていないわ」
「それはそうだが、これを理解するのに何年掛かるか……」
そう言いつつ、持って来たヴァージェスの研究成果を纏めた本を取り出す。
「……かなりの量ね」
「ああ」
取り出したのはゴーレム関連の物だけだが、それでもかなりの量だ。
「ちょっと見せてもらっても良いかしら?」
「そうしたいところだが、それはエリサ達が帰って来るまで待ってくれないか?」
勝手にコピーして持って行って良いとは言われたが、他人に見せても良いのかどうかに関しては聞いていない。
なので、本人に確認を取りたいところだが、俺は連絡手段を持っていないので、エリサ達が帰って来るのを待つしかない。
「別に減る物じゃないし良いでしょう? それじゃあ見せてもらうわね」
「いや、だから……」
しかし、ルミナはこちらの言うことを気に留めることも無く本を読み始めてしまった。
「確かに、これはあなたにはまだ難しすぎるわね。とりあえず、内容を軽く見てみたけど戦闘用ゴーレムの研究かしら?」
「ああ。自律思考型の戦闘用ゴーレムの研究らしいぞ。確か、機構天使を参考にしたとか何とか言っていたが、詳しいことは聞いていないな」
一応聞こうとは思ったのだが、すぐに自分の研究に戻ってしまったので、結局詳しいことは聞けなかった。
「そうなのね。それじゃあこの本はしばらく借りるわね」
「ああ、分かった。……って、おい!」
つい流れで承諾しそうになったが、貸す以前に読む許可すら出していない。
「あら、何かしら?」
「まだ読んで良いとは言っていないのだが?」
「読んだらちゃんと返すから大丈夫よ。それじゃあ私は部屋にいるわね」
そして、空間魔法で本を収納すると、そのまま階段を上がって二階に行ってしまった。
静かになった地下に俺だけが残される。
「はぁ……仕方無いか」
この様子だと言っても返してくれそうにないので、このことは諦めることにした。
とりあえず、ここにいても仕方が無いので、片付けをしてから俺も二階に向かうことにした。
昼食を摂った後はシオンと共に冒険者ギルドの訓練所へとやって来た。
もちろん、目的はいつもの基礎訓練をするためだ。
ひとまず、練習用の大剣を取って素振りを始める。
「それでエリュ、今後はどうするの?」
シオンが大剣を振りながら今後の予定を聞いて来る。
「そうだな……とりあえず、エリサ達が帰って来るまでは錬成魔法を中心に学んでいくつもりだ」
錬成魔法に詳しいルミナがいるので、こちらにいる間は錬成魔法を中心に学ぶのが良いだろう。
「それもそうだね」
「さて、魔法の練習もするか」
「だね」
基礎訓練はもちろん魔法の練習もする。
まずは、氷魔法で一メートルほどの高さの氷塊を形成して、それを案山子に向かって飛ばす。
氷塊は案山子のちょうど真ん中付近に当たって、案山子は根元から折れて吹き飛んだ。
さらに、その氷塊に向かって火魔法で火球を飛ばす。
すると、火球は真っ直ぐと狙った位置に飛んで行き、氷塊の中心に直撃して氷塊が砕けて飛び散った。
「……こんなものか」
魔法の扱いにも少しは慣れて来た。今後は使える魔法の種類を増やしていきたいところだ。
「今日はいつまでにする?」
「そうだな……夕食前まででどうだ?」
「分かったよ」
そして、その後は夕食前まで訓練を続けてから店へと戻った。
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