episode69 錬成魔法の復習

 地下に向かうと、ルミナ、ミィナ、リーサの三人が作業をしていた。


「あら、二人揃ってどうしたのかしら?」


 こちらに気付いたルミナが声を掛けて来る。


「新しい武器をどうしようかと思ってな」

「武器の新調ね。そのことだけど、折角だし新しい武器は自分で作ってみない?」

「そうだな……分かった。折角だし自分で作らせてもらう」


 錬成魔法の技術ももっと向上させておきたいしな。ここは自分で作ってみるのが良いだろう。


「シオンもそれで良いか?」

「うん、良いよ。それじゃあエリュ、任せたよ」


 シオンはそう言って武器の作成を俺に投げて二階へと戻ろうとする。


「おい、待て」


 俺はすぐにシオンの右腕を掴んで、それを止める。


「何かな、エリュ?」

「……二階に戻ろうとしただろ」

「そうだけど? 錬成魔法はエリュの担当でしょ?」

「そんな覚えは無いのだが?」


 確かに、錬成魔法は俺しかして来なかったが、俺の担当になった覚えは無い。


「シオンも参加しなさい」


 ルミナがシオンに参加するように促す。


「えー……」


 それに対して、シオンはやりたくないのか不貞腐れ気味だ。


「あら? 文句があるのかしら?」


 ルミナはシオンの目の前にまで顔を寄せて威圧するように言う。


「むぅ……分かったよ」


 ようやく観念したらしく、渋々ながらも了承した。


「武器の作成に入る前に、まずは簡単なもので錬成魔法の復習をしてみましょうか。私が見ていてあげるから、まずはこれをやってみて」


 そう言って渡して来たのは、先程二階で俺が渡した罅の入った刀だった。


「これを修理しろということか?」

「ええ、そうよ。察しが良くて助かるわ」

「それは良いのだが、店の準備の方は大丈夫なのか?」


 見ていてくれるのは助かるのだが、ルミナは店の準備があるはずだ。


「そっちはミィナとリーサだけで間に合うから大丈夫よ」

「そうか」

「それじゃあこっちに来て」

「ああ」

「うん」


 そして、金床の置いてある場所に向かった。


「それで、どう修理すれば良いんだ?」


 修理しろとは言われたが、肝心なやり方をまだ教わっていない。


「打ち直すだけで良いわ」

「それだけか?」

「ええ、それだけよ。簡単でしょ?」


 確かに、本当にそれだけなのだとしたら簡単だな。


「それじゃあ、早速やってみて。道具はそこに置いてあるわ」

「ああ、分かった」


 早速、金床に刀を置いて術式を起動する。

 すると、刀が加熱されていき刀身が赤熱し始めた。

 それを魔力を込めながらハンマーで叩いて打ち直ししていく。


「こんなものか」


 そして、何度か返しながら刀身全体の両面を打ち終えたところで、術式を停止させた。

 そのまま刀を水に入れて完成させる。


「見せてみて」

「ああ」


 打ち直しを終えた刀をルミナに渡す。


「バッチリね。次はシオンがやってみて」

「うん」


 そして、シオンも同じようにして刀を打ち直して修理した。


「シオンもできたみたいね。次は魔鉄鉱石から魔鉄の製錬をしてみましょうか」

「ああ」

「分かったよ」


 ひとまず、錬成用の釜のある場所に移動する。

 そして、釜の前まで来たところで、魔鉄鉱石と魔法水が入った容器を渡して来た。


「エリュはこっちの釜を、シオンはあっちの釜を使うと良いわ」

「分かった」

「分かったよ」


 言われた通りに別れて、それぞれ釜の前に立つ。


「魔鉄以外の物は分けなくても良いか?」

「ええ、それで良いわ。他の物は適当に固めておいて」

「分かった」


 早速、釜に魔法水と魔鉄鉱石を入れて魔力を込めて鉱石を砕く。

 そして、魔力の流れから魔鉄を判別して集めていく。


「終わったぞ」


 魔鉄の製錬が終わったので、火ばさみで魔鉄を取り出す。


「あら、もう終わったの?」

「ああ」


 製錬した魔鉄をルミナに渡して見せる。


「ちゃんとできているわね」

「まあこのぐらいはな」


 鉱石の製錬は基本だからな。錬成魔法をするのは一か月振りだが、この程度なら問題無い。


「錬成魔法もうまくなったみたいね」

「……? そう言われても特に錬成魔法の練習はしていないのだが?」


 向こうでは錬成魔法をしていなかったので、錬成魔法をするのは一か月振りだ。当然、練習はしていない。


「最初に言わなかったかしら? 錬成魔法で重要になるのは魔力のコントロールよ。その精度が上がったことで錬成魔法の技術も向上したのよ」

「なるほどな」


 そう言えば、最初にそんなことを言っていたな。


「できたよー」


 ここでシオンも出来上がったらしく、製錬した魔鉄を火ばさみで掴んでこちらに持って来た。


「見せてみて」

「うん!」


 シオンも製錬した魔鉄をルミナに渡して確認してもらう。


「シオンもちゃんとできているわね」

「でしょ?」


 どうやら、シオンの方もちゃんと製錬できていたようだ。


「それで、そろそろ武器を作るのか?」

「そうね。それじゃあ二人にはアダマス錬成鋼を素材にした武器を作ってもらおうかしら」

「分かったよ。確か、アダマス錬成鋼はミスリルとアダマス鋼と……何かを一対八対一で混ぜた合金だったよね?」

「……エメラルだ」


 アダマス錬成鋼はミスリルとアダマス鋼とエメラルを一対八対一で混ぜた合金のことだ。

 値段の割には性能が良いので中々人気らしい。


「まずはアダマス錬成鋼を作るためにアダマス鋼を製錬してもらうわ」

「分かった」

「分かったよ」

「これがアダマス鉱石よ」


 そして、ルミナはそう言ってアダマス鉱石を渡して来た。

 アダマス鉱石は少し紫色を帯びた鉱石で、この紫色の物がアダマス鋼だ。

 何故アダマスではなくアダマス鋼と呼ばれているのかと言うと、鋼のような特徴を持っていることからそう呼ばれるようになったらしい。

 もちろん、鋼とは比べ物にならないほど硬く、こちらの方が比較対象にすらなり得ないほどに優秀な金属だが。


 と、そんなことを考えていても話は進まないので、早速アダマス鉱石を釜に入れて作業を始めた。

 まずは鉱石に魔力を込めて鉱石を砕く。


(中々砕けないな……)


 だが、魔力を込めても鉱石が砕けない。魔鉄鉱石ならこれぐらいで砕けるのだが、アダマス鉱石の場合はもっと魔力を込める必要があるようだ。

 今度はもっと魔力を集約させて一気に魔力を込める。


(やっと砕けたか)


 すると、今度は鉱石がバラバラに砕けた。

 そして、そのまま全体に魔力を流してどれがアダマス鋼なのかを判別する。


「……で、どれがアダマス鋼なんだ?」


 物質ごとに魔力の流れが違うことは分かるのだが、どれがアダマス鋼なのかが分からない。


「製錬済みのアダマス鋼を渡すから、それに魔力を流して同じ物を探してみると良いわ」


 そう言って今度は製錬済みのアダマス鋼を渡して来る。


「これに直接魔力を流して確認すれば良いのか?」

「それでできるのならそれで良いわよ」

「……?」


 言っていることが良く分からないが、やってみないことには始まらないので、ひとまず魔力を流してみることにした。


 だが、魔力を流してすぐにルミナの言ったことの意味が理解できた。


「魔力の流れが分かりにくいのだが?」


 そう、釜に魔力を流したときよりも魔力の流れが分かりにくいのだ。


「それは釜に魔力の流れを感じ取りやすくするための専用の刻印術式が組み込まれているからよ。とりあえず、これを使うと良いわ」


 そう言って渡して来たのは金属製の一枚の板だった。表面には刻印術式が刻まれている。


「これは?」

「先程言った魔力の流れを感じ取りやすくするための術式が刻まれた板よ。それに渡したアダマス鋼を乗せて板も含めて全体に魔力を流してみると良いわ」


 どうやら、釜に刻まれている刻印術式の一つである、魔力の流れを感じ取りやすくするための術式と同じものが刻まれた板のようだ。


「分かった」


 言われた通りに板の上に製錬済みのアダマス鋼を乗せて魔力を流す。


「確かに、分かりやすいな」


 魔力を流してみると、補助用の道具無しで魔力を流したときよりも容易にその流れを感じ取ることができた。


「それと同じ物がアダマス鋼だから、それを参考にして探してみると良いわ」

「分かった」


 そして、釜に魔力を流して先程の物を参考にしてアダマス鋼を探す。


(……これか)


 すると、その中に先程と同じ魔力の流れの物質があることが分かった。これがアダマス鋼と見て間違い無いだろう。

 早速、アダマス鋼を一つに纏めていく。


(中々纏まらないな……)


 しかし、中々一つに纏めることができない。

 やはり、魔鉄よりも多くの魔力が必要になるようだ。

 このままでは一つに纏めることができないので、込める魔力量を増やして作業を進める。


「……終わったぞ」


 そして、それから少ししたところで作業が終わった。

 作業が終わったところで、火ばさみでアダマス鋼を取り出して確認する。


「見せてみて」

「ああ」


 出来の確認のためにルミナにそれを見せる。


「流石はエリュ、バッチリね」


 どうやら、問題無くできていたようだ。


「シオンはもう少し時間が掛かりそうね」


 シオンはまだ作業中で、様子を見た感じだとまだ時間が掛かりそうだ。


「エリュは先にアダマス錬成鋼の作成に移りましょうか」

「そうだな」


 シオンはまだ終わりそうにないので、一足先にアダマス錬成鋼の作成に移ることにした。


「今回は普通のミスリルで作ってもらうわ」


 そう言って銀色のミスリルとエメラルを渡して来る。

 ミスリルは魔法金属に分類される物で、その名の通り魔力を含んだ金属だ。

 何故わざわざ"普通の"ミスリルと言ったのかと言うと、ミスリルは特殊な魔法金属で通常の物とは異なる各属性の魔力を含んで色の変わった特殊な物も存在しているからだ。

 例えば、火属性の魔力を含んだ赤いミスリルは赤ミスリルや火ミスリルと呼ばれ、氷属性の魔力を含んだ青いミスリルは青ミスリルや氷ミスリルと呼ばれている。

 特にあらゆる属性の魔力を含んだ七色に輝く虹ミスリルは超希少品で、その性能もとてつもないらしい。

 もちろん、その値段もとてつもないらしいが。


「釜で作れば良いのか?」

「ええ、それで良いわ」

「分かった」


 先程錬成したアダマス鋼にミスリル、エメラルを釜に入れて作成を始める。


(中々混ざらないな……)


 これらを合成しようとするが、中々混ざらない。特にミスリルがうまく混ざらない。


「基本的には魔力が多く込められた物ほど変形させるのに必要になる魔力は多くなるわ。だから、ミスリルは変形させるのが難しくて、合成するのも難しいわ。先にアダマス鋼とエメラルを混ぜて、それでミスリルを包み込んで合成してみると良いわ」


 俺の錬成の様子を見たルミナがアドバイスをして来る。


「分かった」


 アドバイス通りにまずはアダマス鋼とエメラルを合成する。

 そして、そのアダマス鋼とエメラルを合成した物でミスリルを包み込み、そのままそこに魔力を集約させて合成していく。

 ミスリルを包み込んだおかげでそこに魔力を集約させるだけで良いので、普通に合成するよりも楽だ。


「こんなものか?」


 出来上がったところで、釜から取り出してルミナに見せる。


「まだ均一には混ざり切っていないみたいね」

「分かるのか?」

「ええ、魔力の流れで分かるわ。と言うことで、均一になるまで続けてくれるかしら?」

「ああ」


 まだ均一には混ざり切ってはいないようなので、釜に戻して錬成の作業を続ける。

 その作業をしばらく続けていると、合金に魔力を流したときの魔力の流れが段々均一になっていった。


 そして、さらに続けていると、ついにその魔力の流れが完全に均一になった。


「これでどうだ?」


 釜から取り出してルミナに見せる。


「バッチリよ。それじゃあ次の工程に移りましょうか」


 そう言うと、今度は魔物素材と思われる白く細長い角を取り出した。


「これは?」

「ホーンラビットの角よ。この角には魔力が込められていて、素材として混ぜ合わせれば魔力許容量を上げることができるわ」


 ホーンラビットはDランク推奨の魔物で、その名の通り角を持った兎の魔物だ。

 すばしっこく角に魔力を込めた突進は威力が高いので注意が必要だが、本体の耐久力は低いので攻撃さえ当てられれば簡単に倒すことが可能だ。

 また、肉は食用になり角には魔力が込められているので装備品の素材になる。


 ……と図鑑には書かれていた。


「さらにこれを合成したら良いんだな?」

「そうよ。それじゃあ早速作業に入って」

「ああ」


 アダマス錬成鋼とホーンラビットの角を釜に入れて同じように合成していく。


「できたぞ」


 ミスリルの合成と比べるとかなり簡単だったので、合成はすぐに終わった。ルミナに完成品を確認してもらう。


「あら、もう終わったのね。……バッチリよ。それじゃあ最後の工程に移りましょうか」

「ああ」


 そして、最後の工程に移るために金床のある場所に向かった。


「後はこれを刀身の形にすれば良いんだな」

「ええ、そうよ。それじゃあ早速作ってみましょうか」

「ああ」


 合金を金床に乗せたところで魔法陣を起動する。

 そして、赤熱したところで魔力を込めてハンマーで叩いていく。


「……硬いな」


 だが、合金は非常に硬く、叩いても中々変形しない。


「魔鉄とは比べ物にならないほどに硬いから、しっかりと魔力と力を込める必要があるわよ」

「そのようだな」


 魔鉄と同じ感覚で叩いても進まないので、先程よりも強く魔力と力を込めて叩く。

 すると、少しずつではあるが合金が変形し始めた。


「私はシオンの様子を見て来るから、完成したら言って」

「分かった」


 それだけ言い残すと、ルミナはシオンの様子を見に行った。


「シオンは……時間が掛かりそうだな」

 シオンの様子をちらっと見てみたが、向こうはまだ時間が掛かりそうだった。


(それよりも、まずはこちらを終わらせないとな)


 そんなシオンはひとまず置いておいて、自分の方の作業を進めることにした。合金を叩いて刀の刀身の形に整えていく。


「……ひとまず、形は整ったな」


 そして、それからしばらくしたところで、刀身が完成した。


「ルミナさん、見てもらっても良いか?」


 早速、完成品をルミナのところに持って行って見てもらう。


「ええ、良いわよ」


 ルミナは渡された刀身を細かく見て回して、不備が無いかを確認していく。


「流石はエリュ、完璧ね」


 どうやら、不備無くできていたようだ。


「後は柄と合わせてから刻印術式の付与と魔力付与をするだけど、柄と合わせたところで持って来てくれるかしら?」

「分かった」

「これが柄を作る分の素材よ」


 そう言ってアダマス錬成鋼の素材を渡して来る。

 そして、素材を受け取ったところで柄の作成に移った。






「できたぞ」


 柄を作って刀を完成させたところで、ルミナに見せる。


「刀はできたみたいね」

「ああ」

「刻印術式の付与と魔力付与は私がするから見ていると良いわ」

「刻印術式の付与や魔力付与ぐらいなら俺でもできるぞ?」


 刻印術式の付与や魔力付与は以前にもしたことがあるので、見せてもらわずともそれぐらいならできる。


「それだけなら問題無いかもしれないけど、魔法の知識は少ないから高度な術式を用いた刻印術式は作れないでしょう?」

「それは確かにそうだが良いのか?」


 ルミナがやってしまうと練習にならないのだが、それは良いのだろうか。


「ええ。今回はあなた達がメインで使う武器になるから妥協はしないわ」


 どうやら、俺達を思ってのことのようだ。


「そうか。分かった」

「それじゃあこっちに来て」

「ああ」


 言われた通りにそのままルミナに付いて行く。


「刻印術式の付与はしたことがあるから、別に見せなくても良いかしら?」

「ああ」


 付与する術式の内容が違うだけだろうからな。特別見る必要は無いだろう。


「と言うことで、今回は魔力付与を見せるわね」

「それもしたことがあるのだが」

「今回行うのは魔力圧縮付与と呼ばれる、より多くの魔力を付与する方法よ」

「魔力圧縮付与?」


 聞いたことの無い単語だな。

 ……と言いたいところだが、以前ルミナから超越魔力圧縮付与という単語なら聞いたことがある。

 その詳細までは聞いていないが、恐らく魔力圧縮付与の上位の魔力付与の方法だろう。


「それは今から見せるわ」


 そう言って取り出したのは、正六角柱の各底面に六角錐が付いた形状の高さ二十センチメートルほどの大きさのクリスタルだった。


「それは?」

「これは魔力圧縮付与をするのに必要な専用の魔法道具よ。まあこれが無くてもできなくはないけど、難しいしわざわざ使わない理由も無いわね」


 どうやら、魔力圧縮付与を補助するための魔法道具のようだ。


「それで、そもそも魔力圧縮付与とは何なんだ?」


 それは分かったが、肝心な魔力圧縮付与のことを聞いていない。


「その名の通り魔力を圧縮して付与することでより多くも魔力を付与する方法よ。今からやって見せるわね」

「ああ、頼む」


 そして、クリスタルを俺に見せるように前に出して説明を始めた。


「このクリスタルに魔力を込めて圧縮して、それを装備品に付与するわ」

「それだけか?」

「ええ、そうよ」

「何と言うか、そんなに難しくは無さそうだな」


 これだけ聞くと難しい工程には思えない。


「まあそれ専用に作った道具だから、できるだけ簡単にできるようにはしているわ。ただ、注意点があって装備品には当然、魔力許容量があるから、それを超える魔力を付与しようとすると壊れるわ」

「つまり、その魔力許容量を見極める必要があると」

「そういうことよ。それと、魔力の圧縮は技量にかかっているから、それに関しての知識や技術が必要になるわ」


 つまり、それに関しての知識や技術を持っていない俺にはまだ早いということか。


「なるほどな。それで、魔力許容量はどうやって見極めるんだ?」

「魔力を流して確認するわ。これに関しては感覚頼りだから口で説明するのは難しいわね」

「そうか」


 これに関しては実践練習で学んでいくしかないようだ。


「練習はまた今度すれば良いわ。今は私がやっているのを見ていて」

「分かった」

「まずはこのクリスタルに魔力を込めて圧縮していくわ。このクリスタルは魔力を圧縮した状態で保持するための物だから、自分で圧縮した状態を維持する必要は無いわ」


 ルミナは説明しながらクリスタルに魔力を込めて圧縮していく。

 すると、少しずつクリスタルの内部の輝きが増していった。


「こんなところかしらね」


 そして、それから少ししたところで魔力を込めるのを止めた。

 どうやら、必要な量の魔力を込め終わったようだ。


「意外と早いな」

「これでも学院時代は錬成魔法の専門だったし、今は魔法道具店の店主よ。このぐらいは大したことは無いわ」


 別に大したことは無いわよ、と謙遜するように言う。


「次にクリスタルに込めた魔力を装備品に付与していくわ」


 今度はクリスタルを宙に浮かべて手をかざし、そのまま込めた魔力を装備品に移していく。

 すると、少しずつクリスタルの輝きが失われていって、最後は魔力を込める前の状態に戻った。


「終わったわ」


 そして、終わったところで刀を手渡して来た。


「確かに、魔力が込められているな」


 確認すると、俺でも良く分かるぐらいにしっかりと魔力が込められていた。俺が以前に作った物とは大違いだ。


「後はこれに刻印術式を組み込むだけよ」

「そうだな」

「それで聞いておきたいのだけど、あなたの戦闘スタイルはどんな感じ?」


 と、ここでルミナからそんな質問をされる。


「戦闘スタイル?」

「ええ。それによって付与すべき刻印術式を変える必要があるから、聞かせてくれる?」

「そうだな……」


 そう言われても、まだ定まり切ってはいないので、明確に答えるのは難しい。


「近接戦闘がメインだが、そこに魔法による攻撃も組み込むといった感じにするつもりだ」

「つまり、魔法剣士タイプね」

「まあそんなところだな」


 あくまで予定だがな。


「そうね……決めたわ」


 どうやら、組み込む刻印術式が決まったようだ。

 そう思ったのだが……。


「ちょっと模擬戦をしてみましょうか」

「模擬戦?」

「ええ。やっぱり直接確認するのが一番かと思って」


 組み込む刻印術式はまだ決まっていなかったようだ。


「それは構わないが、いつにする?」

「シオンの武器の作成と明日の店の準備が終わってからだから夕食後ね。それまではそれに備えて休んでおくと良いわ」

「そうか。分かった」


 そして、その後は二階で夕食の時間になるまで待ったのだった。

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