episode65 一か月振りの街
あれからさらに二週間が経過して、ここに来てから約一か月になった。今はいつも通り午前中の実戦向けの訓練をしているところだ。
「はっ!」
「えいっ!」
アーミラに向かって二人同時に練習用の刀で斬り掛かり、それと同時に魔法も放つ。
だが、彼女は俺達の放った魔法を躱しつつ腕で斬撃を弾いて、俺達の懐に潜り込んで来た。
そして、そのまま腹を殴って来る。
「ぐふっ……」
「むぎゅっ……」
その一撃で吹き飛ばされて壁に叩き付けられる。
「二人ともまだまだだね」
アーミラが両手を腰に手を当てて、こちらを見下ろしながらそう言う。
「それは経験の差があるし、仕方無いだろ」
まだ俺達はこちらの世界での戦闘経験が少ないからな。魔力を用いた戦闘には慣れ切っていない。
「今日も頑張っているみたいね」
「む?」
声がした方に視線を向けると、エリサが部屋の入り口に立っていた。
「エリサか。何か用か?」
「特別何か用があるわけでは無いわ。もうすぐお昼だから呼びに来ただけよ」
時間を確認すると、もうすぐ昼食の時間になるところだった。
やはり、何かをしているときの時間の経過は早いな。
「そうか」
「少し話はあるけど、それは昼食のときにするわね」
「話?」
「ええ。それじゃあ私は先に行っておくから、シャワーを浴びたら来ると良いわ」
そして、エリサはそれだけ言い残して部屋を後にした。
「それじゃあシオン、アタシとシャワー浴びに行こっか!」
「うん!」
アーミラとシオンもそれに続く。
……ってちょっと待て。
「おい、後片付けは……」
しかし、言うのが少し遅かった。言おうとしたときには、既に二人の姿は見えなくなっていた。
「はぁ……仕方無いか」
そして、仕方が無いので俺一人で後片付けをしてからシャワーを浴びに風呂へと向かった。
シャワーを浴び終えて昼食を摂りにリビングに向かうと、食卓には既に料理が用意されていた。
食卓にはシオン、エリサ、アーミラ、アデューク、フェリエ、リュードランの計六人が座っている。
「来たわね」
「わざわざ待っていたのか?」
「……少し、ね。ちょうど集まったところだから大して待ってはいないわ。とりあえず、座ったらどう?」
「それもそうだな」
ひとまず、エリサに言われた通りに食卓に着く。
「それで、話とは何だ?」
先程は話があると言っていたが何用なのだろうか。早速、用件を聞いてみる。
「それはフェリエに聞くと良いわ」
どうやら、用があるのはフェリエらしい。
なので、彼女に用件を聞いてみる。
「フェリエ、話とは何だ?」
「ここに来てから一か月が経ちましたね」
フェリエは脈絡も無くそんなことを言い出す。
「そうだな」
「私の修行も受け続けて来ましたね」
「……そうだな」
何だか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
ここはやはり……。
「やはり、聞くのは止めておこう。……あがっ!?」
だが、ここで光魔法で形成した鞭で首を絞めて来た。
「人に話し掛けておきながら、話を聞かないつもりですか?」
「い……、そ…………う……けで……」
「何を言っているのですか? 聞こえませんよ?」
そう言われても、首を絞められると声を出せないのだが。
「フェリエ、首を絞めるのは止めなさい。流石に死ぬわよ?」
「仕方ありませんね」
フェリエがそう言うと、光の鞭が霧散するようにして消滅した。
「ごほっ、ごほっ……はあはあ……」
「エリュ、大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」
シオンとネフィアが心配そうにしながら声を掛けて来る。
「あ、ああ……何とか……な」
あのまま絞め続けられていたら危なかったが、エリサのおかげで何とか助かった。
「……落ち着きましたか?」
「ああ、もう大丈夫だ。それで、用件は何なんだ?」
落ち着いたところで改めて用件を尋ねる。
「修行を始めてから一か月になるので、軽く試験をしようかと思いまして」
「試験?」
「ええ、そうですよ。試験と言っても大した内容ではないので安心してください」
そう言われても、フェリエのことなので全く信用ならないのだが。
「それで、試験の内容は?」
気は進まないが、その内容を尋ねる。
「試験の内容はレッサーワイバーンの討伐です」
「レッサーワイバーンか……」
レッサーワイバーンと戦ったことはあるが、奴との戦闘では死にかけたのであまり気乗りしない。
「どうしたのですか?」
俺の反応に違和感があったのか、フェリエはそんなことを聞いて来た。
「……いや、何でも無い」
「そう言えば、あなた達はレッサーワイバーンとの戦闘で瀕死の重傷を負ったことがあったわね」
と、ここでそのことを知っているエリサが口を開く。
「あら、そうなのですか?」
「……まあな」
「まあ今のあなた達なら大丈夫なはずよ。それに、私も付いて行くから何も問題無いわ」
「そうか」
確かに、エリサが付いていてくれるなら問題は無さそうだな。
「討伐には明日行ってもらいますので、今日の修行は休みにします」
「良いのか?」
「ええ、討伐に支障が出てはいけませんので。今日は体を休めて明日に備えてください」
どうやら、今日ぐらいは休ませてくれるらしい。
「あら、どうしたのですか?」
「いや、珍しく優しいなと思っただけだ」
「……普段の私は優しくないみたいな言い方ですね?」
まあ普段は優しい要素なんて何一つ無いからな。
むしろ、その逆だ。
「もうその話はそのぐらいにしておいたらどう? 早く昼食にしましょう」
「それもそうですね。それではみなさん昼食にしましょうか」
そして、そのまま昼食を摂って、その後はのんびりと午後の時間を過ごした。
「おはようエリュ、シオン。今日は少し早いわね」
「ああ」
「おはよー」
翌朝、普段より少しだけ早めに起きて朝食を摂りに来た。
「今回向かうメンバーが朝食を摂り終わり次第出発するけど、準備はできているかしら?」
「ああ。昨日の内に終わらせている」
今日の朝に出発するということは聞いていたので、昨日の内に準備は済ませている。
「そう。それなら良いわ」
「アデュークとアーミラはどうした?」
今回向かうメンバーはシオン、エリサ、アデューク、アーミラ、そして俺だ。
レッサーワイバーンの討伐に行くのであればエリサだけで十分なのだが、その後はそのままレグレットの調査に行くのでこのメンバーだ。
調査とは言っても、実際に向かうのはエリサ、アデューク、アーミラの三人で、俺とシオンはワイバスで待機の予定だ。
「まだ来ていないわね」
「そうか」
どうやら、まだ二人は部屋にいるようだ。
「でも、ちょうど今来ているところみたいよ」
「む?」
そう言われて耳を澄ませて確認してみると、リビングに向かって来ている足音が二つあるのが確認できた。
「そのようだな」
そして、少ししたところで二人が部屋に入って来た。
「みんな、おはよー!」
「ああ、おはよう」
「おはよー」
「おはようございます」
元気良く挨拶をして来たアーミラに挨拶を返す。
……エリサ以外が。
「あれ? どうしたの、エリサ? 聞こえなかった?」
「あ、いえ、そうでは無いわ。おはよう、アーミラ」
「……? どうしたんだ、エリサ?」
エリサは何か他のことを気にしていて、若干上の空のように見える。
「……エリュ、さっきはどうやって二人のことを確認したの?」
「む?」
「魔力探知も魔力領域展開も使っていなかったけど、どうやって二人のことを確認したのかって聞いているのよ」
彼女が気にしていたのは、俺が魔力を使わずにどうやって二人のことを確認したのかということだった。
「ああ、それか。それなら音を聞いて確認した」
「音って……よく分かったわね」
「まあな」
「エリュは耳が良いんだよ」
シオンが自分のことであるかのように自慢気に言う。
「そうなの?」
「ああ。一応な」
「話し声を聞き取ったりするの得意だよね」
まあこれで情報を集めたりもしていたぐらいだからな。話し声を聞き取るのには慣れている。
「話し声を聞き取るって、どんな感じなの?」
アーミラが興味本位に聞いて来る。
「それは周囲の環境や声の大きさによって変わって来るが、街中で普通の話し声だとしても二、三十メートル近く離れていても問題無く聞き取れるな」
「それって普通に凄くない!?」
「ほう?」
それを聞いてアデュークも興味を示す。
「エリサ、エリュも連れて行くか?」
そして、アデュークが俺を調査に連れて行くことを提案する。
「そうね……確かに、その能力は役に立つでしょうけど、今は止めておきましょう」
「良いのか? 連れて行けば確実に役に立つと思うぞ?」
「まだ実戦経験が少ないし、それに二人はルミナから預かっているだけよ。こちらの都合で勝手に連れ回すわけにはいかないわ」
「そうか」
結局、俺は調査には連れて行かれないらしい。
「さて、早く朝食を済ませて行きましょうか」
「そうだな」
そして、手短に朝食を済ませてワイバスへと向かった。
「着いたな」
「だね」
ミストグリフォンのキーラに乗ってここまで来たが、ほとんど魔物とは遭遇しなかったので、問題無く街まで来ることができた。
「ここに来るのも一か月振りか」
一か月振りに見る街の景色を眺める。石造りの街並み、晴れ渡る空、行き交う人々……見慣れていたはずの光景だが、少し懐かしさを覚える。
「それで、とりあえず予定通りで良いのか?」
アデュークがこの後の予定をエリサに尋ねる。
予定ではまずはレッサーワイバーンの討伐を終わらせて、その後はこの街でレグレットの情報を集められるだけ集め、明日レグレットに向かうとのことだったはずだ。
「ええ、それで良いわ。それじゃあエリュ、冒険者ギルドに行ってレッサーワイバーンの討伐依頼を受けてくると良いわ」
「分かった」
そして、当初の予定通りにレッサーワイバーンの討伐に向かうために冒険者ギルドに入った。
「ここに来るのも一か月振りになるな」
「だね」
当然ではあるが、ここに来るのも一か月振りだ。
朝のラッシュは終わった後のようでギルド内は人が少なく、だいぶ静かになっている。
「それじゃあレッサーワイバーンの討伐依頼を探そっか」
「そうだな」
早速、掲示板に向かいレッサーワイバーンの討伐依頼を探す。
「レッサーワイバーンの討伐依頼は……あったな」
この国には生息数が多いとだけあって、レッサーワイバーンの討伐依頼はすぐに見付かった。
「でも、受注条件がDランク以上だよ?」
「まあそこはエリサに何とかしてもらうしかないな」
俺達はEランクで受注条件を満たしていないので、盗賊の討伐依頼を受けたときのようにエリサに何とかしてもらうしかない。
ひとまず、入り口にいるエリサの元へと向かう。
「あら、どうしたの? 早く受注してきたらどう?」
「俺達がEランクで受注条件を満たしていないことは知っているだろう?」
「ええ、知っているわ」
「だったら何とかしてくれないか?」
「今のあなた達の実力なら大丈夫よ」
「そう言われてもだな……」
それで依頼を受注させてくれるかどうかは話が別だ。
「奥にエルナがいるみたいだから、ミーシャに呼んで来てもらったらどう?」
「エルナを呼んでどうするんだ?」
「適当に斬り掛かってみると良いわ。それで実力は証明されるはずよ」
「いや、意味が分からないのだが!?」
そんなことをしたら実力を証明して依頼を受注するどころか、冒険者ライセンスを取り上げられた上で牢屋行きなのだが。
「大丈夫よ。彼女なら簡単に防げるはずだから、怪我をさせてしまう心配は無いわ」
「そういう問題では無いのだが……」
「仕方無いわね……私が付いて行ってあげるわ。早く来なさい」
エリサはそう言って俺の右手を掴むと、そのままミーシャがいる受付へと向かって行く。
「おい、人の話を聞け! そんなに強く引っ張るな!」
「良いから早く来なさい」
それを止めようとするが、エリサは聞く耳を持たない。
「あ! 待ってよ、エリュ!」
それにシオンが付いて来る。
「アタシも行こっと。アデュークはどうする?」
「俺はここで待っておく。早く行って来い」
「分かった。じゃあ行ってくるね」
加えてアーミラも付いて来る。
「ミーシャ、ちょっと良いかしら?」
エリサが受付で事務作業をしているミーシャに話し掛ける。
「はい、何でしょうか」
話し掛けられたミーシャはすぐに書類を片付けて対応する。
「ご用件は何でしょうか……ってエリュさんにシオンさんにエリサさん!?」
ミーシャはぴんと耳と尻尾を立てて驚いた様子で声を上げる。
「帰って来ていたんですね」
「ああ、ちょうどさっきな。……そんなに俺達が帰って来ていたことが意外か?」
「いえ、一か月間連絡が無かったので少し不安で……」
どうやら、俺達のことを心配していてくれたらしい。
「見ての通り、俺達は無事だ。安心しろ」
右手をミーシャの頭に乗せて優しく頭を撫でる。
「えへへ……」
頭を撫でられたミーシャはだらりとした様子で気持ち良さそうにしている。このまま溶けて行ってしまいそうなほどだ。
さらに、ここで耳を包み込んで軽く握るようにしてモフモフする。
「わっ……えっと……」
「……? どうした?」
ここでミーシャが何かを言いたそうにしながらこちらを見ていた。
「あ! ずるいよ、エリュ! ボクにもモフらせてよ!」
だが、ミーシャが何かを言う前にシオンがそう言ってそこに加わった。
「ねえねえ、アタシも触って良い?」
さらに、そこにアーミラも加わろうとする。
「えっと、えっと……耳を触るのは止めていただけませんか? と言うか、あなた誰ですか!?」
尻尾を左右にぶんぶんと振って、若干パニックになった様子で声を上げる。
「アタシ? アタシはアーミラ。アーミラ・ヴァサレスだよ」
「ええっと……そういうことではなくてですね……」
若干パニック気味になったかと思うと、今度は困惑気味だ。
「女性に気安く触るのはどうかと思いますよ?」
と、そのとき右の方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
すぐに声がした方を見てみると、そこにはエルナがいた。見てはいなかったが、ドアが開閉される音が聞こえていたので、ちょうど奥の部屋から出て来たところのようだ。
「誰かと思えばエルナさんか。一か月振りだな」
「そうですね。それで、何故ミーシャの耳を許可も無く触っていたのですか?」
こちらに鋭い視線を向けながら聞いて来る。
「別に大した理由ではない。安心させてやろうと思っただけだ」
「それで、嫌がるミーシャの耳を無理矢理触っていたのですか?」
別に無理矢理触っていたつもりは無いのだが。
それに、頭を撫でていたときは気持ち良さそうにしていて、嫌がっているようには見えなかった。
それとも、頭と耳とでは話が別なのだろうか。
ひとまず、本人に聞いてみることにする。
「嫌がるって……ミーシャ、耳を触られるのは嫌だったか?」
「正直、耳や尻尾を触られるのはちょっと……」
どうやら、耳を触られるのは嫌だったらしい。
「む、そうか。悪かったな」
「いえ、お気になさらず。今後は気を付けてくださいね」
「ああ」
良い感じのモフモフ具合で気持ち良かっただけに、それは残念だ。
「ボクもモフったらダメ?」
「ダメで……って、モフるって何ですか!?」
「さっきみたいにモフモフすることだけど?」
「ダメです!」
「えー……」
それを聞いたシオンが落胆気味に肩を落とす。
「普通、
エリサが説明するように言う。
「そうなの?」
「ええ。かなり親しい者にしか触らせたりはしないわ。相変わらず常識が無いのね」
「む……ボクだって常識ぐらいはあるよ!」
「無いな」
「無いね」
「無いですね」
シオンが主張するように言うが、俺とアーミラとエルナがそれを一斉に否定する。
「何でー!?」
何でも何も、それは普段の行いのせいだろう。
「それで、ご用件は何でしょうか?」
騒ぐシオンを無視してエルナが用件を聞いて来る。
とりあえず、これでようやく本題に入れるな。
「この依頼を受けようと思ってな」
先程取ってきた依頼の書かれた紙をエルナに渡す。
「レッサーワイバーンの討伐ですか」
「ああ」
「ええっと……お二人は受注条件を満たしていないので、この依頼を受注することはできません」
隣から依頼の内容を見たミーシャが事務的に答えを返す。
「今回は三人が同行するのだが、この前みたいに何とかならないか?」
「三人ですか?」
「ああ。ここにいるエリサとアーミラと入り口にいるアデュークの三人だ」
分かるように入り口にいるアデュークに横目で目線を向ける。
「ふむ、そうですね……」
そう言うと俺達を見てそのまま考え込むような素振りを見せる。
そして、少ししたところで再び口を開いた。
「それではこうしましょうか」
「……? 何をするつもり……っ!?」
そして、何をして来るのかと思ったら、突然俺達に殺気を向けて来た。
どうやら、腰に装備している剣でこちらに斬り掛かろうとしているようだ。
俺はすぐに全身に魔力を込めると共に短剣に手を据えて構える。
だが、エルナはその頃には既に万全の状態で構えていた。剣に手を据えた上で魔力強化で全身を強化していて、いつでも攻撃を仕掛けられる状態だ。
(……早いな)
剣を構えるまでの動きはもちろんのこと、魔力を纏って魔力強化を完成させるまでの時間も早い。俺達とは比べ物にならないレベルだ。
「……随分と成長したようですね」
そう言うと、エルナは剣に据えた手を離して、それと同時に魔力強化を解いた。
(……そういうことか)
どうやら、俺達を試していたらしい。
「シオン、もう良いぞ」
「うん」
エルナが殺気を放たなくなったところで、こちらも魔力強化を解く。
「動きはまだまだ遅いですが、反応は早いですね。こちらが動く前に予見していたように見えます。それに、魔力のコントロールの精度も以前とは比べ物にならないほど上がっていますね」
「……まあな」
相手の
銃も撃って来るタイミングさえ分かれば簡単に避けられるからな。この程度は大したことは無い。
そして、魔力のコントロールの精度はフェリエの修行のおかげでかなり向上した。
それだけでなく、魔力のコントロールをより自然とできるようにもなった。
今は普通に魔力強化をする程度であれば、ほとんど意識を割かずともできるようになっている。
「ただ、魔力の感知に関してはまだまだのようですね」
「魔力の感知?」
そう言われても、何のことなのか分からないので聞き返してみる。
「彼女が魔法を使おうとしていたことには気付かなかったようね」
ここで隣にいたエリサが口を開く。
「どういうことだ? 分かるように言ってくれ」
「剣に手を据えて構えると同時に防御魔法を展開して、さらに風魔法を三つ同時に詠唱待機状態にしていたわ」
「……は? いや、ちょっと待ってくれ」
エリサの言う通りだとすると、エルナはあの速度で構えると同時に四つの魔法を使ったということになる。
「……理解したかしら?」
「あ、ああ」
戦闘態勢に移るまでの時間も彼女の方が早かった上に、俺は魔法を使われたことにも気付けなかった。
フェリエの修行で少しは成長できたと思ったが、それでもまだとてつもないほどの実力差があるらしい。
「さて、依頼の方ですが、受注を許可します」
「良いのか?」
「ええ。依頼をこなせるだけの実力があることは分かりましたので」
「そうか」
どうやら、試験の方は合格らしい。
あれだけで分かるのかと聞きたいところだが、元冒険者でそれなりの実力者である彼女が言うことなので問題無いのだろう。
「でも、大丈夫なんですか? 以前は瀕死の状態で運び込まれましたが……」
エルナは受注を許可したが、ミーシャは不安なようだ。
「大丈夫ですよ、ミーシャ。今の彼らの実力なら何も問題はありません。それに、万一の際には同行する三人もいます」
エルナはそう言ってミーシャの頭を撫でて、さらに優しく耳を包み込んでモフった。ミーシャは耳を触られているが、嫌な顔一つせずに気持ち良さそうにしている。
どうやら、エルナに対しては心を許しているようだ。
「それでは、気を付けて行って来てください」
「ああ。行くぞ、シオン」
「うん」
そして、依頼の受注が完了したところで、早速レッサーワイバーンの討伐へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます