episode60 半魔
「む……」
目が覚めると、石造りの天井が視界に広がった。
どうやら、今はベッドで仰向けになっている状態のようだ。
「エリュっ!」
「む?」
シオンの声がした方に視線を移すと、そこにはシオンにエリサ、ネフィアがいた。
「ああ、シオンにエリサにネフィアか。どうしたんだ?」
「そろそろ目覚める頃じゃないかと思ってね。様子を見に来ていたのよ」
俺の質問にエリサが答える。
「そうだったのか」
「傷はだいぶ癒えたみたいですね」
ネフィアが安堵した様子で言う。
ここで自分の状態を確認してみると、かなり傷は深かったはずだが、もうだいぶ癒えているようだった。斬り落とされたはずの左腕も元に戻っている。
左手を握ったり開いたりしてみるが、問題は無さそうだった。
「ああ」
完治した左腕を見ながら言う。
「……斬り飛ばされたりしても、残っていればちゃんと治せるわ」
ここでエリサが俺の気にしていたことを察してそう言った。
「そのようだな」
「それと、ネフィアも治療に参加したのよ」
「そうだったのか。礼を言う」
「いえいえ。当然のことをしたまでです」
ネフィアはそうは言いつつも、少し照れているように見える。
「それと、武器も直しておいたわ」
「そうか、助かる」
フェルメットとの模擬戦で刀が折られてしまったが、エリサが直しておいてくれたようだ。
「エリサ、そう言えば聞きたいことがあったのだが良いか?」
ネフィアを見ていて思い出したことが一つあったので、そのことをエリサに聞いてみる。
「何?」
「
聞きたいことというのは
ここに来たときに説明するとは言われたが、まだ聞いていなかったので、ここで聞いておくことにする。
「そう言えば、そのことは忘れていたわね。今から説明するわ」
「ああ、頼む。シオンもそれで良いな?」
「うん。良いよー」
そして、エリサが説明を始めた。
「
「らしいな」
そのことは以前に聞いたので知っている。
だが、知っていることはそれだけだ。他のことはまだ聞いていない。
「そして、その身体的な特徴は人によって違うわ」
言われてみれば、ネフィアもフィルレーネもドラゴンの特徴を有した
「それと、優れた身体能力を持っていることが多くて、それに伴って戦闘能力も高いことが多いわ」
「そうなのか?」
そう言いながらネフィアに視線を向ける。
「私は大したこと無いですよ」
「そう言っておきながら、実は強かったりするんじゃないの?」
「本当に大したこと無いですって!」
シオンがそんなことを聞いてみるが、彼女はすぐにそれを否定した。
「本人はそう言っているけど、彼女も戦闘能力は高い……はずよ」
「高いはずって……何故確信の無い言い方なんだ?」
「色々と測定してみた感じからすると戦闘能力は高いと思われる結果が出たけど、本人はそういうことを好まない性格だから実戦経験が無いのよ」
「なるほどな」
確かに、優しそうな性格でいかにも戦いとは無縁そうな感じはするからな。
「他のみんなは強いの?」
「まあそれなりにね。アーニャもSランク冒険者でしょう?」
「そうらしいが、それがどうかしたのか?」
アーニャはSランク冒険者らしいが、それが何か今の話と関係あるのだろうか。
「やっぱり気付いていなかったのね。アーニャはああ見えて
「そうなのか?」
「ええ。フェンリルとの
その身体的な特徴から
「でも、アーニャは
「そうね。彼女はたまたま
「
「
「何故なんだ?」
「その見た目だったり、強い力を持っていることが多いだとかそんなところね」
「……理由になっていないと思うのだが?」
「それでも理由になるのよ」
まあ差別なんてものは下らない理由で起こったりするからな。案外そんなものなのだろう。
「俺に言われてみれば重要なのは中身で、普通の人間だろうと
「だね」
「まあ差別なんてそんなものか。俺には理解できないがな」
俺には到底理解できないことなので、そんな奴らが思っていることを考えるだけ無駄だろう。シオンも同意見だ。
と、そんなことを考えていたところでネフィアの方を見ると、何故か少しだけ嬉しそうにしていた。
「どうした、ネフィア?」
ひとまず、その理由を聞いてみる。
「いえ、そんな風に言われたことは無かったので」
「……なあエリサ、ネフィアはここに来る前は……」
「ええ、察しの通りよ」
俺が言い切る前に答えが返される。
「……そうか」
とりあえず、このことにはあまり触れない方が良さそうだ。
「…………」
「……? エリュ、どうしたの?」
ここでシオンが俺が考え事をしていたのに気付いたらしく、その内容を聞いて来た。
「ちょっと考え事をな。エリサ、ちょっと良いか?」
「何?」
「そろそろ本格的に戦闘に関して色々と学んでおきたいと思ってな。それをここで学びたいと思うのだが、良いか?」
フェルメットとの模擬戦で思い知らされたが、やはりこの世界において俺達はまだまだ弱い。
フェルメットはほとんどお遊びレベルで、その力の一端すら見せていなかったにも関わらずこのざまだ。
これでは強い魔物に襲われるだけで終わりを迎えることになるだろう。
「つまり、ここで修行をしたいのね」
「ああ、そうだ」
「それは構わないけど、その理由を聞いても良いかしら?」
「別に大した理由ではない。単純に実力不足を感じたからだ。それに、ここには実力者が揃っている上に魔法に詳しい者もいるみたいだからな。色々と学ぶにはちょうど良い」
ここには実力者が揃っている上に魔法を専門に研究しているヴァージェスもいるので、戦闘に関してのことを学ぶにはちょうど良い場所だ。この機会を利用しない手は無いだろう。
「実力者が揃って、ね。中々見る目はあるのね」
「まあな。流石にそれぐらいは分かる」
どれほどの実力なのかまでは分からないが、それなりの実力者なのは分かる。
「それで強くなりたいと思ったの?」
ネフィアが理由に関して深く聞いて来る。
「まあ理由の一つではあるな。結局、いざというときに物を言うのは力だ。力が無ければ何も守れはしない」
いざというときに頼れるのは自身の力だけだ。
それに、今はそれだけではない。もう俺は一人ではないからな。
「……そちらの理由がメインじゃないの?」
エリサがシオンを横目で見ながら言う。
「……言わせるな」
「……? どうかしたの、エリュ?」
「何でも無い。気にするな」
シオンは気付いていないようなので、適当にはぐらかしておく。
「それでは、私はまだすることがあるのでもう行きますね」
そして、ネフィアはそう言い残して部屋を出て行った。
「私もそろそろ行かせてもらうわ」
「ああ」
ネフィアに続いてエリサも部屋を出て行く。
「……さて、休んでおくか」
「だね」
ひとまず、この身体では修行はできないので傷を癒すのが先決だ。
そして、体を休めて早く傷を癒すためにそのまま眠りに就いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます