episode37 遠方での依頼の準備

 あれから二週間が経過して、この世界に来て約三週間が経過した。

 この二週間は冒険者ギルドで依頼をこなしたり、錬成魔法の練習をしたりして過ごした。


「こんなものか」


 改良した魔法銃を見て回して不備が無いかを確認する。

 まあ改良したと言っても簡単な二つ術式を追加しただけだが。


 ちなみに、追加したのは魔力の消費を抑える術式と出力を上げる術式だ。

 本当は魔力を変換する術式も改良しようとしたが、術式の改良は難易度が非常に高くどうにもならなかった。


「見せてみて」


 完成したのを見てルミナがこちらに歩み寄って来る。


「ああ」


 そして、改良した魔法銃をルミナに渡した。

 魔法銃を渡されたルミナは不備が無いかを細かく見て回す。


「バッチリね」


 どうやら、不備無くできていたようだ。


「それにしても、もうすっかり馴染んで来たよね」


 ミィナが商品の作成を切り上げて、こちらにやって来る。


「そうだな」


 ミィナの言う通り、もうこの世界での生活にはだいぶ慣れて来た。

 冒険者としての活動も順調で、現在所持金は約六万セルトある。


「その調子で早く店の手伝いぐらいはできるようになることね」


 リーサが腕を組みながら上から目線で言って来る。

 だから、何でリーサが店主であるかのような物言いをしているんだ……。

 まあこれもいつものことなので、今更気にしたりはしないが。


「それで、今日の予定は決まってる?」


 ここでルミナが今日の予定を聞いて来る。


「今日は依頼を受けてくるつもりだ」


 とりあえず、改良した魔法銃を試してみたいからな。適当に簡単な依頼を受けて試してみる予定だ。


「そう。気を付けて行ってらっしゃい」

「ああ」


 そして、二階にいるシオンを呼んで冒険者ギルドへと向かった。






「あまり人がいないね」

「そうだな」


 いつもより遅めの時間だったせいか、ギルド内は人が少なめだった。

 ひとまず、依頼を確認しに掲示板へと向かう。


「今日はどの依頼にする?」

「そうだな……」


 俺達はいつものように依頼を探す。もう何度も依頼を受けているので、依頼探しも手馴れて来た。

 そして、ささっと選んで依頼の書かれた紙を取ろうとしたが、そこで右方向から何者かに声を掛けられた。


「お二人とも良いですか?」

「む?」


 声を掛けて来たのはエルナだった。何か用があるのだろうか。

 ひとまず、エルナのいる受付に向かう。


「何か用か?」

「ええ。冒険者カードを渡して頂けますか?」

「……? 分かった」


 理由は分からないが、冒険者カードを渡すように言われた。

 とりあえず、言われた通りに冒険者カードを手渡す。


「少々お待ちください」


 そう言うと、エルナは渡された冒険者カードを持ってカウンター裏の扉の先に行ってしまった。

 そして、そのまま待っていると、少ししたところで戻って来た。


「Eランクに昇格しましたので冒険者カードを更新しておきました」


 渡された冒険者カードの冒険者ランクの書かれている欄を見ると、そこにはEランクと書かれていた。

 どうやら、正式にEランクへと昇格したらしい。


「エリュ、Eランクに昇格だよ!」


 シオンが嬉しそうに声を上げる。


「そのようだな」


 もう少し時間が掛かると思っていたが、思っていたよりも早く昇格できたな。


「Eランクに昇格しましたので、Eランクまでの依頼が受注可能になりました」


 エルナが相変わらずの事務的な言い方で言う。


「折角だし、Eランクの依頼を受けて行こうよ!」


 ここでシオンがEランクの依頼を受けて行くことを提案して来る。


「それもそうだな」


 今日は簡単な依頼で魔法銃の性能を試そうかとも思っていたが、折角の機会だ。

 いつまでもFランクの依頼だけを受け続けるわけにもいかないので、ここはEランクの依頼に挑戦してみることにした。


「それでエリュ、どの依頼にする?」


 シオンが掲示板の前に行って依頼を探し始める。


「エルナさん、良い感じのEランクの依頼は無いか?」


 俺達はまだEランクの依頼を受けたことが無いので、ここはエルナに良い感じの依頼が無いか聞いてみるのが良いだろう。


「そうですね……それではデザートバードの討伐依頼はどうでしょう?」


 エルナが提案して来たのはデザートバードの討伐依頼だった。

 デザートバードは砂漠や荒野に生息している体長一・五メートルほどの鳥の魔物で、Eランク推奨の魔物だったはずだ。


「これかな?」


 シオンがデザートバードの討伐依頼の書かれた紙を見付けたのか、掲示板から一枚の紙を取ってこちらにやって来た。

 そして、取って来た紙を俺に渡して来る。


 渡された紙を確認すると、やはりデザートバードの討伐依頼だった。

 それは良いのだが……。


「少し場所が遠くないか?」


 そう、場所が少し遠いのだ。少なくとも歩いて行けるような距離では無い。


「そうですね。馬車で一日ぐらいは掛かる距離ですね」


 馬車で一日ということは、確実に一回は野宿をする必要があるな。


「できれば近場の依頼が良いのだが、他に良さげな依頼は無いか?」

「そろそろ遠方の依頼にも慣れておいた方が良いかと思ったのですが……他の依頼にしますか?」

「む……」


 確かに、今の内に遠方の依頼に慣れておくということも必要そうだ。

 しかし、魔物がいるような環境での野宿は当然したことが無いので不安要素が多い。


「どうするのエリュ?」


 俺が何かを考えているのを察したのか、どうするのかを聞いて来る。


「確かに、遠方の依頼に慣れておいた方が良いというのも一理あるが、やはり不安要素が多いからな……」

「ふむ……」


 それを聞いたエルナは何かを考えるような素振りを見せる。

 そして、少ししたところで考えが纏まったのか、口を開いた。


「少々お待ちください」


 そう言い残すとカウンター裏の扉の先に行ってしまった。

 そして、三分ほどが経過したところで、ようやくエルナが戻って来た。


「先程の依頼の件ですが、他のベテランの冒険者と同行するというのはどうでしょうか?」


 エルナの提案は他の冒険者に同行してみてはどうかということだった。


「と言うと?」


 ひとまず、その詳細を聞いてみる。


「すぐ近くで他の依頼を受けている冒険者がいるので、その方の馬車に一緒に乗せてもらうということです」

「それで野宿も共にするということか?」

「ええ、そうです」


 確かに、それなら安心かもしれないが……。


「見知らぬ人物と一緒に行動するのもな……」


 あくまでそれは信頼できる人物の場合だ。そうでないなら余計に不安だ。


「あなた方は一度会ったことのある人物ですよ」

「そう言われてもだな……」


 面識があるのと信頼できるかどうかというのは別の話だ。


「『新緑を繋ぐ意思オリジンガーディア』のメイルーンに頼むつもりです。信頼できる人物なので大丈夫ですよ」


 俺の考えを先読みしたかのように信頼できる人物であることを伝えて来る。

 メイルーンは初めての依頼を終えて冒険者ギルドに戻って来たときに会った人物だ。

 ルミナとも親しげだったし、エルナが推薦するぐらいなので、信頼度は高いと言えるだろう。

 そう言えば、あのときはパーティ名を聞いていなかったが、『新緑を繋ぐ意思オリジンガーディア』というのがパーティ名だったようだ。


「分かった。そうさせてもらう」


 信頼できる人物も限られて来るので、行けるときに行ってしまった方が良いだろう。

 折角の機会なので、遠方の依頼を受けてみることにした。


「分かりました。そのように手配しておきます。出発は昼食後なので、それまでに準備を終わらせておいて下さい」

「分かった。シオン、一度店に戻るぞ」

「分かったよ」


 そして、依頼の準備をすべく一度店へと戻った。






 それからしばらく歩いて店へと戻って来た。

 休日であればルミナが出迎えてくれることが多いのだが、珍しく出迎えて来なかった。


「さて、ルミナさんはどこだ?」


 ルミナを探すために集中して周りの様子を音で探る。

 すると、ミィナとリーサの部屋とキッチンと一階の倉庫の三か所から物音がしているのが分かった。

 ミィナとリーサの部屋にルミナが一人でいるとは考えにくいし、キッチンでの作業は片腕の無いルミナに代わってミィナとリーサの担当だ。

 なので、消去法で考えて、ルミナがいるのは一階の倉庫だろう。


「分かった?」

「ああ。多分一階の倉庫だな。行くぞ」

「うん」


 ひとまず、ルミナがいると思われる一階の倉庫へと向かう。

 そして、倉庫の扉を開けると、思った通りそこにはルミナがいた。


「来たわね」


 ルミナが俺達のことを待っていたかのように言う。


「エルナから話は聞いているわ。遠方の依頼に行くのよね?」

「ああ」


 どうやら、エルナから話を聞いていたらしい。

 恐らく、それで準備をしていてくれたのだろう。


「準備ならできているわよ。これをあげるから持って行くと良いわ」


 ルミナはそう言うと、三十センチメートルほどの大きさの白色の袋を渡して来た。


「これは……物を収納できる魔法道具だったよな?」


 初めての依頼でゴブリンを討伐した後に水浴びをしていたときに見せてもらったので知っている。

 これは物を収納することができる魔法道具だ。


「ええ、そうよ」

「……良いのか?」


 確か、二十万セルトすると言っていたはずだが、貰ってしまっても良いのだろうか。確認のために聞き返してみる。


「細かいことは気にしなくて良いの! 早く行ってらっしゃい。メイルーンが待っているわよ」


 そう言って俺の肩に手を掛けて百八十度回して反対側に向けた後、背中を叩いて押して来る。

 それは良いのだが思ったよりも力が強く、軽く吹き飛ばされて壁に激突してしまった。


「痛っ……そんなに強く叩かなくても良いだろ」

「あら、ごめんなさいね。そんなに強く叩いたつもりじゃなかったんだけど、悪かったわね」

「……結構強く叩かれたのだが」


 本人はそう言っているが、軽く吹き飛ばされるほどの結構な力だったぞ。


「いつもエルナにしているような感じでやっちゃったから」


 エルナに対してはいつもこんなに強くやっているのか……。


「エリュー、早く行こうよー」


 痺れを切らしたシオンが催促して来る。


「それもそうだな。それではそろそろ行かせてもらう」

「ええ。気を付けて行ってらっしゃい」


 そして、ルミナに見送られながら店を後にした。






 店を出た後はのんびりと歩いて冒険者ギルドへと向かっている。

 まだ時間には余裕があるからな。のんびりと歩くぐらいでちょうど良い。


「そう言えば、袋の中身は何なの?」


 シオンが渡された袋の中身を気にして聞いて来る。


「そう言えば、中身を確認していなかったな。確認してみるか」


 袋を渡されたのは良いが、中身はまだ確認していなかったので、歩きながら袋の中身を確認してみることにした。

 袋の中には大きな干し肉に缶詰、パンといった食料に飲料水、ポーション類に包帯などの医療品に二人分の寝袋が入っていた。


「色々入ってるね」

「ああ、そうだな」


 とりあえず、遠方の依頼に行くのに必要な物は揃っているな。


「まあ医療品類が少々多い気もするがな」


 確かに、必要な物は揃っているのだが、医療品類が多めに用意されていた。

 まあそれだけ心配してくれているということなのだろう。


「多い分には良いんじゃないの?」


 荷物がかさるほど多いと問題だが、そこまで荷物にはならないので問題無いだろう。


「それもそうだな。それじゃあ行くか」

「うん」


 そして、袋の中身に問題が無いことを確認したところで、そのまま歩いて冒険者ギルドへと向かった。

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