episode38 新緑を繋ぐ意思

 冒険者ギルドに入って席を見渡してみると、そこにはメイルーンが座って待っていた。


「来たわね。座って」


 俺達が来たことに気付いたメイルーンが椅子を引いて座るよう促して来る。


「とりあえず、座ろっか」

「そうだな」


 とりあえず、そのまま彼女のいる卓の席に座る。


「待たせたな」

「私もちょうど来たところよ。ひとまず、昼食にしましょうか」

「そうだな」


 ひとまず、昼食にするためにメニューを手に取る。


「折角だから、昼食代は私が全部出すわ。好きなものを注文して」

「いや、流石にそれは悪いし、それぐらいは自分で出すぞ」


 一度会っただけ、それも少し話しただけの関係なのに奢ってもらうというのも悪い。

 なので、自分達の分は普通に自分で出すことにする。


「それぐらいは気にしなくて良いのよ。あなた達はまだ収入も少ないでしょう?」

「それはそうだが……」

「折角の厚意ですし、素直に受け取ってみてはどうですか?」

「む?」


 メイルーンの申し出を渋っていたところでやって来たのはエルナだった。


「あなた方とは違って食費を気にしなくても良いぐらいの収入があるので、気にしなくても大丈夫ですよ」

「そういう問題では無いのだが」

「注文は決まりましたか?」


 しかし、エルナはこちらの言うことを意に介さずに注文を聞いて来た。


(これはもう何を言っても聞いてくれそうに無いな)


 何を言っても聞いてくれそうに無いので、仕方が無くそのまま注文を伝える。


「畏まりました。それでは少々お待ちください」


 そして、注文を取ったエルナはギルドの奥へと消えていった。


「昼食を摂ったら出発だったな?」

「ええ、そうよ」


「聞いているかもしれないが、俺達はデザートバードの討伐依頼を受けている。そちらの予定を聞きたいのだが、良いか?」


 何もせずに待っているのも何なので、今回の依頼のことを確認することにした。


「中々良い心掛けね」


 それを聞いたメイルーンは褒めるような物言いで言う。


「そうか? 行動を共にする以上、そういうことは知っておいた方が何かと都合が良いだろう?」

「そうね。でも、困ったことにそういうことをちゃんとしない人もいるのよね」

「そうなのか」


 それは困った奴だな。俺だったらその時点でそんな奴とは行動を共にしないな。


「それで、私の方の予定だったわね。私はレッサーワイバーンの討伐依頼を受けているわ。レッサーワイバーンの討伐が終わったら、近くで他の依頼を受けているパーティメンバーと合流してから街に戻る予定よ」

「パーティメンバーというのは、確かアーニャにレイモンだったな」


 初対面のときに聞いたがパーティメンバーとは別行動中で、他のメンバーはロクレットにいるとのことだったな。


「ええ、そうよ。よく覚えていたわね」

「まあな」


 エリサの知り合いだというアーニャという人物に少し興味があったからな。

 まあどちらかと言えばアーニャに興味があると言うより、会えば謎の多いエリサのことが少しは分かるかもしれないと思ったからだがな。


「ところでメイルーンさん、エルナさんは収入は多いみたいなことを言ってたけど、冒険者ランクはどのぐらいなの?」

「シオン、興味本位で個人的なことを聞くのは止めろ」


 シオンはあまりこういうことを考えないところがあるからな。

 あまり個人的なことを聞いたりしないように、後できっちりと言っておく必要がありそうだな。


「それぐらいは別に良いわよ。調べれば分かることだしね。私はAランクよ」


 どうやら、彼女はAランク冒険者らしい。


「他の二人はどうなの?」

「おい」


 先程、興味本位で個人的なことを聞くのはやめろと言ったはずだが、聞いていたのだろうか。


「レイモンはBランク、アーニャはSランクよ」


 だが、メイルーンはその質問に対して嫌な顔一つせずに快く答えた。


「冒険者ランクは公開情報だから、基本的には聞いても問題無いわよ」


 色々と気にしている俺に対して付け加えるように言う。

 確かに、誰でも知ることができるような公開情報であれば、聞いてしまっても問題無いのかもしれないな。


「まあそうじゃなくても、私について知りたいことがあれば答えられることであれば答えるわよ」


 どうやら、個人的なことでもある程度は答えるつもりのようだ。

 なので、気になっていることを聞いてみることにする。


「パーティはどんな感じに結成したんだ?」


 エリサのことを知りたいのだが、いきなりそのことを聞くのも何なので、まずは当たり障りのない話を振る。


「そうね……まずは私のことから話すわね。私はレイと一緒に二人で活動していたんだけど、レイが冒険者ギルドで働くことになってソロになったのよ。そのまましばらくはソロで活動していたのだけど、パーティを組んでみようと思ってね。それで、パーティを組んだのよ」

「なるほどな」


 元々は二人で活動していたというのはあるが、ソロで活動していたところからパーティを組むという、よくある結成パターンで結成されたようだ。


「それで、レイというのは?」


 とりあえず、彼女がパーティを結成するまでの経緯は分かったが、レイという人物が何者なのかを知らないので、そのことについて聞いてみることにする。


「私の姉のレイルーンのことよ。今はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターをやっているわ」


 どうやら、彼女には姉がいたらしい。

 それはそうとして、だ。


「ギルドマスターと言えば冒険者ギルドのトップだろう? かなり凄くないか?」


 ギルドマスターというのは組織のトップなので、簡単になれるものではないはずだ。


「そうね。まあ冒険者としての実績もあったし、そもそも初めからギルドマスターになるということで話を進めていたから、すぐにギルドマスターになったわね」


 冒険者としての実績があったとは言え、初めからギルドマスターというのは相当なことだ。そんなに凄い冒険者だったのだろうか。


「冒険者としての実績もあったってことは凄い冒険者だったの?」


 俺が聞こうと思っていたことをシオンが興味津々な様子で尋ねる。


「ええ。レイは元Sランク冒険者よ」


 いきなりギルドマスターになるぐらいなのでかなりの実力者だとは思っていたが、まさかSランクだとは思っていなかったな。


「だが、冒険者を辞めてしまっても良かったのか?」


 最高位であるSランクになんてそう簡単になれるものではないが、辞めてしまっても良かったのだろうか。


「ええ。確かに、トップクラスの実力はあったけど、性格的にそっちの方が向いていたから」

「そうなのか」


 少々勿体無いという気もするが、本人が決めたことなので、俺が口を出すようなことではないだろう。


「それで、他のメンバーはどうなんだ?」


 レイルーンのことで話が逸れていたが、今は『新緑を繋ぐ意思オリジンガーディア』を結成したときの話をしているところだ。


「レイモンは普通にソロで活動していたところからパーティを結成した感じね」


 レイモンは割と普通な感じだったんだな。


「アーニャはどうなんだ?」


 ここで一番気になっているアーニャのことを聞いてみる。


「アーニャはそうね……ある日普段通りに依頼を受けていたときに見付けたのよ」

「……見付けた?」


 言っている意味がよく分からないので、聞き返してみる。


「ええ。岩の上で丸くなって日向ぼっこしていたのを見付けたのよ」

「一応聞くが、街の外だよな?」

「ええ、そうよ」


 街の外なのに、そんな目立つ場所で呑気に日向ぼっこって……魔物もいるのに危なくないか?


「魔物に襲われたりはしてなかったのか?」

「襲われていたわね」


 幸いにも魔物に襲われたりはしなか……って。


「襲われていたのかよ!」


 つい声を上げて突っ込んでしまう。


「ええ。デザートバードに嘴でつつかれまくっていたわね。でも、気に留めることも無く気持ち良さそうに日向ぼっこをしていたわ」

「気に留めることもなくって……大丈夫だったのか?」


 デザートバードの嘴はそこそこ鋭いので、つつかれたらただでは済まないはずだが、大丈夫だったのだろうか。


「無傷だったから大丈夫よ」


 それで無傷って、どんな身体をしているんだよ……。


「それで、アーニャをパーティに加えたのか?」

「いえ、パーティに加えたのはもう少し後の話よ。そもそも、そのときは彼女はまだ冒険者じゃなかったから」


 どうやら、そのときにパーティに加えたわけではないらしい。


「それで、さっきの続きになるけど、懐いちゃってそのまま街まで付いて来ちゃったのよね」


 懐いたって……動物かよ。


「それで、どうしたんだ?」

「まずは彼女が何者なのかを調べたわ」


 まあそうするのは当然か。


「それで、何者なのか分かったのか?」

「いえ、結局調べても何者なのかは分からなかったわ。それで、仕方が無いからしばらく冒険者ギルドの方で預かっていたんだけど、ある日エリサが訪ねて来てね。そのときに色々と相談して冒険者になってもらってパーティを組んだのよ」

「なるほどな」


 エリサに紹介されて知り合ったものだとでも思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。


(エリサも出て来たし、ここがちょうど良さそうだな)


 エリサの話も出て来てちょうど良さそうなので、ここで本題に入ることにした。


「そのエリサというのは何者なんだ?」


 ここまで色々と聞いて来たが、結局のところ一番聞きたかったことはこれだ。


「それは知らないわ。時々様子を見に来るぐらいで、自分のことについては語らないから。一応調べたけど、結局、何者なのかは分からなかったわ」

「そうか」


 残念ながらメイルーンも彼女のことについては知らないらしい。


「お待たせしました」


 と、話が一段落したところで料理を持ったギルド職員がやって来た。

 どうやら、注文した料理ができたようだ。

 そのまま職員が持って来た料理を並べていく。


「それじゃあ早く食べちゃいましょうか」

「そうだな」

「だね」


 聞きたいことはもう聞けたので話の方はもう良いだろう。

 そして、その後は適当な話をしながら、のんびりと昼食を食べ進めた。

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