episode20 錬成魔法

 後片付けを『緑風の紡ぐ空ブリズドアイビー』のメンバーに任せて、俺達は地下へとやって来た。


「ミィナとリーサは商品を作っておいてくれるかしら? これがリストね」


 ルミナはそう言ってミィナに一枚の紙を渡す。


「分かりました。作っておきますね」

「材料は私が取って来るから、二人は錬成の方の準備をしておいてくれるかしら?」

「分かりました」

「分かったわ」


 そう言うと、二人は色々な器具が置かれている場所へと向かって、準備を始めた。


「私は材料を取って来るから、二人はここで待っていてね」

「分かった」

「分かったよ」


 そして、ルミナは素材を取りに倉庫へと向かった。


「やること無いけど、どうする?」

「どうすると言われても、待つしかないだろう」


 俺達は特にすることも無いので、近くにあった椅子に座ってルミナを待つことにした。







 しばらくすると倉庫からルミナが戻って来た。

 特に何も持っていないが、恐らく必要な物は空間魔法で収納しているのだろう。


「待たせたわね。早速、錬成を始めましょうか」

「ああ」

「だけど、その前にミィナとリーサに素材を渡すわね」

「分かった」

「分かったよ」


 ルミナは必要な素材を渡すために、まずはミィナとリーサの元へと向かう。


「素材はここに置いておくわ。作った商品はこっちの箱に入れておいてね」


 そう言うと、空間魔法でいくつかの箱を取り出してその場に置いた。


「分かりました。ぱぱっと作っちゃいますね」

「ええ、お願いね」


 そして、二人は箱から素材を取り出して錬成の作業へと入った。


「二人はこっちよ」


 そう言って案内したのは、近くにあった直径、深さ共に一メートルほどの釜が置かれている場所だった。

 釜は魔法陣の中心に置かれていて、その左右に先端に水晶球のようなものが付いた高さ一メートルほどの柱が設置されている。


「これは何なんだ?」

「錬成で使う釜よ。周りにある柱と魔法陣は補助用の物ね」


 昨日も見た柱や魔法陣は補助用の物のようだ。

 昨日、説明を受けた装置よりも簡単な物のようで、柱の数が少なく、魔法陣も小さい。


「この釜に素材を入れるのか?」

「そうよ。でも、今回はこの釜は使わないわね。今回使うのはこれよ」


 ルミナはそう言うと、空間魔法でその釜を片付けてしまった。

 そして、三脚と先程よりも小さい直径、深さ共に五十センチメートルほどの釜を取り出した。


「今回は簡単な錬成だからこの魔法陣と装置でやるわ」


 そう言いながら三脚を魔法陣の中心に置き、その上に釜を置いた。


「まずは魔鉄鉱石の製錬をしてもらうわ」


 そう言うと、一つの鉱石を取り出して俺達に渡して来た。


「これが魔鉄鉱石か?」

「そうよ」


 見たところ、至って普通の鉱石のようだが、大きさの割に少々重い。


「そもそも、魔鉄って何なの?」

「ほんの少しだけ魔力を帯びた金属よ。ありふれた金属だから安価で良く使われるわ」

「そうなんだ」


 どうやら、この世界では広く知られた金属のようだ。


「ねえ、ボクにも見せてよ」

「ああ」


 シオンも見てみたいようなので、鉱石を手渡して見せる。


「この金属で武器を作るのか?」

「ええ、そうよ。駆け出し冒険者レベルならこれでも十分ね」


 つまり、性能はあまり良くないということか。


「性能としてはどのぐらいなんだ?」


 予想は付くが、一応どの程度の性能なのかを聞いておく。


「魔力許容量も少ないし、無いよりはマシと言ったところかしらね」


 やはり、性能としては最低クラスの物のようだ。

 それはそうと、ここで気になったことが一つ。


「魔力許容量とは何なんだ?」


 先程のティータイム中にもその単語は出て来たが、その詳細はまだ聞いていない。


「魔力許容量というのはその物質に込められることのできる魔力量よ。今回の場合は物質と言うより武器ね。魔力許容量を超えて魔力を込めようとしても込められなかったり、魔力に耐えられなくなって壊れたりするわ」

「なるほどな」


 魔力をそれ以上込められないのはともかく、壊れることがあるというのは困るな。

 壊さないように気を付けておく必要がありそうだ。


「さて、そろそろ錬成の方に移りましょうか」

「ああ、頼む」

「シオン、鉱石を渡してくれる?」

「うん」


 そして、渡されていた鉱石をルミナに返した。


「まずは私がやって見せるわね」

「ああ、頼んだ」

「まず、釜の中に魔法水を入れて、そこにこの鉱石を入れて加熱するわ」


 空間魔法で水の入った大きな容器を取り出すと、釜に七割ほどの魔法水を入れてから魔鉄鉱石をゆっくりと入れる。

 そして、立てた人差し指を魔法陣に向けると火が点いた。


「ここに魔力を込めて製錬していくわ」

「そう言われても、どうすれば良いんだ?」


 魔力を込めて製錬すると言われても、どうすれば良いのかはさっぱりだ。


「補助用の装置の力もあって、魔力を流すと成分ごとの違いが分かるはずよ。魔力を込めて鉱石を砕いたら魔力をコントロールして成分ごとに分けていくわ。実際にやってみるわね」


 そう言ってルミナが魔力を込めると、釜の中が光り出して鉱石が砕けた。

 そして、そのまま魔力を込め続けて、それから少しすると光は収まった。


「終わったわよ」

「もう終わったのか?」

「ええ。釜の中を見てみて」


 言われた通りに釜の中を覗いてみると、そこには二つの塊があった。

 一つは鉱石のような物で、もう一つは銀色の金属の塊だ。


「今回は魔鉄とそれ以外の二つに分けたわ。全て分離することもできるけど、時間が掛かるし今回はその必要も無いからそれだけにしているわ」

「ということは、この銀色の金属が魔鉄か?」

「そうよ」

「これがそうなんだ」


 そして、シオンが魔鉄を手に取ろうとして釜の中に右手を伸ばした。


「待ちなさい!」


 それをルミナが止めようとしたが遅かった。


「あっつーーー!?」


 先程まで加熱していたので釜の中は高温になっている。

 なので、そこに手を突っ込めば当然こうなる。


「大丈夫?」

「このぐらいなら大丈夫だよ」

「一応、冷やしておくわね」


 そう言ってルミナはシオンの右手を取る。

 すると、そこから煙のような物が発生した。


 その煙のような物に少し触れてみるとひんやりとして冷たかった。

 恐らく、氷魔法による冷気で冷やしているのだろう。


「おー! ひんやりするー!」

「そろそろ良いかしら?」

「うん」


 そして、十分に冷やしたところでシオンから手を離した。


「加熱した直後で熱いのだから気を付けなさい」

「はーい……」


 注意されたシオンが気落ち気味に答える。


「これを使うと良いわ」


 そう言って空間魔法で取り出したのは火ばさみだった。それをそのままシオンに渡す。

 そして、シオンは渡された火ばさみを使って釜の中から魔鉄を取り出した。


「これが魔鉄か」


 見たところ、普通の鉄と変わらないように見える。

 ルミナによると、ほんの少しだけ魔力を帯びているらしいが、俺達にはそれがよく分からない。


「これを加工していくんだね」

「そうよ。そのまま加工するから釜の中に戻しておいて」

「分かったよ」


 そして、言われた通りに魔鉄をそっと釜の中に戻した。


「続けるわね。火ばさみを返してもらえるかしら?」

「うん」


 火ばさみを受け取ったルミナは魔鉄を取り除いた鉱石を釜の中から拾い上げ、そのまま火ばさみと共に空間魔法で収納する。


「次は魔力を流して変形させていくわ。釜の中を見ていてね」

「ああ」

「うん」


 ルミナが魔力を込めると、釜の中が光り出して魔鉄が輝き始めた。

 すると、みるみる内にその形が変わっていき、短剣の柄の形に変わった。


「できたわよ」


 空間魔法で再び火ばさみを取り出して、完成した短剣の柄を拾い上げる。


「意外と早いんだな」

「慣れればこのぐらいはできるようになるわ。刀身の方もぱぱっと作っちゃうわね」


 そう言うと、今度はインゴットを取り出して釜の中へと入れた。

 そして、先程と同じように魔力を込めて今度は三十センチメートルほどの長さの短剣の刀身を作り上げた。


「刀身もできたね」

「だが、ほとんど切れそうに無いな」


 刀身が完成したのは良いが、どう見ても切れ味は悪そうだ。これでは武器としてあまり機能しないだろう。


「そうね。だから、次は金床で鍛造をするわ」


 どうやら、この後に鍛造をして武器として完成させるようだ。

 そう言えば、ここには金床があったな。


「金床はこっちにあるわ。付いて来て」

「分かった」

「分かったよ」


 そして、金床のある場所へと案内された。


「魔法陣が描かれているようだが、これも魔法を使うのか?」


 金床の形自体は普通の物と変わらないが、金床は魔法陣の中心に置かれていて、金床自体にも魔法陣が描かれていた。


「そうよ。魔力を込めながら鍛造ができるわ。早速、やってみせるわね」


 そう言うと、先程作った短剣の刀身を金床の上に置いた。

 そして、手をかざすと魔法陣が起動して、短剣の刀身が赤熱し始めた。


「この状態で鍛造をするわ。分かっているとは思うけど、熱いから気を付けてね」

「分かった」

「分かったよ」


 ルミナは短剣が赤熱し始めたところで、ハンマーで叩いて鍛造を始めた。


 まずは、十数回叩いたところで火ばさみに持ち替えて、短剣の刀身を裏返す。

 そして、先程と同様に十数回ほど叩いたところで、再び短剣の刀身を裏返した。


 すると、今度は数回叩いところで裏返し、再び数回叩いたところで水に入れて冷やした。

 どうやら、これで終わりのようだ。


「できたわよ」


 完成した刀身を見ると刃は鋭くなっていて、武器として機能するような状態になっていた。


「これならちゃんと武器として機能しそうだな」

「だね」

「後はこれをさっき作った柄の部分と合わせれば完成よ。さっきの場所に戻るわよ」

「ああ」

「うん」


 刀身が完成したところで、先程の釜を置いてあった場所に戻る。


「ここまで来たら後は簡単ね。柄と刀身を釜に入れて錬成魔法で繋ぎ合わせて完成よ」


 そう言うと、柄と刀身を釜の中に入れて魔力を込めて錬成を始めた。

 そして、釜の中が光り始めたと思うと、すぐに光は収まった。


「これで完成ね」

「もう終わったのか?」

「ええ。繋ぎ合わせるだけだからすぐに終わったわ」


 かなりの短時間だったが、あれだけで繋ぎ合わせるのは終わったらしい。

 釜の中を見てみると、柄と刀身が繋ぎ合わされて、完成した短剣が沈んでいた。


「ほんとだ。完成してるね」

「みたいだな」


 俺は火ばさみを借りて、沈んでいる短剣を拾い上げる。


「見た目はあれだが、武器としての性能に問題は無いか」


 魔鉄のみで作ったので無骨な見た目だが、武器としては使えるだろう。


「これでやり方は分かったかしら?」

「ああ」

「うん!」

「それじゃあ早速やってみましょうか」


 そして、やり方が分かったところで、早速初めての錬成魔法に挑戦することにした。

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