episode12 魔法適性

「二人とも朝よ」


 俺達はその声と共に目が覚める。

 見ると、そこにはルミナがいた。ベッドの横に立ってこちらを見下ろしている。


「む……おはよー」


 そう言いながらシオンは起き上がる。


「わざわざ起こしに来てくれたのか」


 続いて俺も起き上がる。


「ええ。朝食の準備ができたから呼びに来たのだけど……」


 ルミナはそう言ってこちらをじろじろと見て来る。


「お邪魔だったかしら?」

「……別に何もしてないのだが?」


 一緒に寝ただけで別に何もしていないからな?


「あら、そうなの?」


 ルミナはそう言って掛布団に手を掛けて来る。

 ……が、何もせずに手を離した。


「まあ良いわ。私は先に行っておくわね」

「だから何もして……」


 否定しようとするも言い切る前にルミナは部屋を出て行ってしまった。

 本当に何もしていないのだが……。


(後できっちり弁明しておかないとな)


 と言うか、何故弁明をしないといけないような状況になっているんだ……。


「ボク達も行こっか」

「そうだな」


 俺達は特別準備することも無いので、そのままリビングに向かうことにした。






 リビングに向かうと、食卓には朝食が用意されていた。

 どうやら、朝食はサンドイッチのようだ。


「二人ともおっはよー!」


 ミィナが元気の良い声で挨拶して来る。


「おはよう」


 続けてリーサも挨拶して来る。


「おはよー」

「おはよう」


 俺達は挨拶を返しつつ食卓に着く。


「全員揃ったわね。それじゃあ……」

「「「いただきます」」」


 そして、昨日と同じように、その一声と共に一斉に食事を開始した。


 見たところ、朝食は鶏肉と葉野菜のサンドイッチのようだった。

 胡椒で味付けされている物とウースターソースのような物で味付けされている物の二種類がある。


 まずは胡椒で味付けされた物を一口。

 シンプルながらも良い味だ。


 次にウースターソースのような物で味付けされた物をいただく。

 転生前の世界のものとは若干味は違う気がするが、ソースはウースターソースそのもののようだった。

 酸味の効いたソースがマッチしていて、こちらも美味だ。


「やっぱり、二人の料理はおいしいね。鶏肉みたいだけど、これは何のお肉?」

「デザートバードのお肉ですよ」


 シオンの質問にミィナは快く答える。

 名前からして、砂漠に生息している鳥のようだ。


「そう言えば聞いて無かったけど、二人はどうしてこの街に来たの?」


 ここで話題は俺達のことに移る。

 あまり下手に話すと面倒なことにはなりそうだが、これだけ世話になっているので、話さないわけにもいかないだろう。

 なので、ここは適当に話を合わせながら会話することにした。


「そろそろ街に出て働こうと思ってな」

「そうなんだ。何をして働こうと思ってるの?」


 何をするかと聞かれても、まだそのことは何一つ決めていない。

 なので、ここは当たり障りの無い返答をすることにする。


「そこまでは決めていなくてな。とりあえず、できることをしようと」

「……無計画過ぎない?」


 そこでリーサの鋭い横槍が突き刺さる。

 そう言われるとその通りなので、何も反論できない。


「それでも何とかなるだろうと思ってな」

「……で、その結果がこれと」


 適当すぎる返答内容に棘のある言葉で返される。


「リーサは意地悪しないの! それで、荷物も無しに街まで来て大丈夫だったの?」

「荷物はかさるので、街で買い揃えようと思ってな。街に来るまではゴブリンがいた程度で特に問題無かったな」

「そうなんだ」


 どうやら、これで納得してくれたらしい。それはそうとして、だ。


「最低限必要な物ぐらいは買い揃えたいところだったが……どうしたものか」


 とりあえず、これからの方針を考えなければならない。

 まずは安定した収入を得られるようにしたいところだが……。


「それぐらいなら何とかしてあげるわよ」


 と、ここでルミナが話に入って来る。


「何とかとは?」

「それぐらいは買ってあげるって言っているのよ」

「……良いのか?」


 それだと何から何まで世話になりっ放しで悪いだろう。

 まあそれも今更な気はするが。


「ええ。それとしばらくはここに泊まって良いわよ。今のあなた達には食費も宿代も馬鹿にならないでしょう?」

「それはそうだが……」

「そうと決まれば出掛ける準備をするわよ」


 そう言うと、ルミナは食卓から勢い良く立ち上がった。


「……と、その前に」


 そのまま準備に取り掛かるのかと思ったが、そうはせずに俺の座っている席の後ろに回り込んで来た。


 そして、何をするのかと思ったら、いきなり後ろから抱き付いて来た。

 それによって、後頭部に柔らかいものが押し付けられる。


「っ!? えっと……ルミナさん?」

「そんなに狼狽えてどうしたのかしら?」


 いきなり抱き付かれたら狼狽えもする。

 何がとは言わないが、ほとんど無いシオンとは違って割とあるからな。


「今は何をしているんだ?」

「昨日、魔法適性が知りたいって言っていたでしょう? だから、それを調べようと思って」

「それならそうと、先に言っておいて欲しかったのだが」

「細かいことは気にしないの。ちょっとじっとしていてね」


 こちらの言うことを気にも留めずルミナは続ける。

 すると、体の中を何かが流れるような感覚がした。街の門の詰所で魔力紋を採ったときと同じ感覚だ。


 そして、少しするとその感覚は無くなった。


「エリュの方は終わったわ。次はシオンよ」


 そう言って俺から離れてシオンの方へと向かう。

 だが、俺達は魔力紋が同じなので、改めて測定する必要も無いだろう。


「多分その必要は無いと思うぞ。俺とシオンは魔力紋が同じらしいからな」

「あら、そうなの? 珍しいわね」

「と言うことは、もしかして二人は双子なの?」


 ここでミィナも話に加わる。


「まあそんなところだ」

「ふーん……」


 そう聞いたミィナは俺とシオンに交互に視線を移す。


「確かに、二人ともどことなく似てるね」

「でしょ?」


 シオンが嬉しそうにしながら答える。

 実際は双子ではないのだが、そういうことにして通しているからな。

 今後もそれで通して行くことにする。


「そう言えば、ちゃんと名乗っていなかったな。俺はエリュ・イリオス」

「ボクはシオン・イリオスだよ」


 昨日はミーシャに紹介されただけで名乗っていなかったので、一度ここできちんと名乗っておく。


「そうだったんだ。この際だからあたしもきちんと名乗っておくね。あたしはミィナ・ルルリアだよ。ほら、リーサも名乗って」


 ミィナはそう言ってリーサに目配せする。


「……私はリーサ・マグノスよ」


 それを受けて、渋々といった感じでリーサも名乗る。


「さて、二人が双子なのは分かったけど、一応、測定してみるわね」


 そう言ってルミナはシオンの方も測定をする。

 何気にルミナの自己紹介がされなかったが、まあ別に良いか。


「あら、本当ね。魔力紋が一致するのは初めて見たわ」


 どうやら、ルミナも魔力紋が一致するのを見るのは初めてらしい。

 やはり、魔力紋が一致するのは相当珍しいことのようだ。


「それで、結果はどうだったんだ?」


 それはそうとして、魔法適性がどうだったのかを知りたい。

 なので、早速その結果を聞いてみることにした。


「結論から言うと魔法適性は高いわ。さらに、属性適性はいずれも適性があって、その水準も高いわね」

「それはかなり優秀ということか?」


 それだけ聞くとかなり優秀なように思える。


「まあそうなるわね。魔法使いの冒険者としても十分にやっていけるわ。ただ……」

「どうかしたのか?」


 何か問題があるのだろうか。そう思って問い直す。


「飛び抜けて適性が高いものは無いわね」

「何か問題でもあるのか?」

「問題というわけでは無いのだけど……」

「平均的に高いよりも何か飛び抜けて高い適性を持っている方が良いのよ」


 ルミナが言い切る前にリーサがそう言って話に入って来る。


「そうなのか?」

「適性の高い属性があればその属性の魔法を使えば良いから」

「なるほどな」


 確かに、リーサの言う通りだ。

 適性の高い属性があるのなら、適性の低い属性の魔法は使わずに適性の高い属性の魔法だけを使えば良いだけの話だ。


「と言うことは、多くの属性に適性があっても、あまりメリットは無いのか?」

「一応、状況に応じて使い分けられるというメリットはあるけど、普通はそんなに多くの属性を使うことは無いわね」


 その質問に答えたのはルミナだった。


「そうなのか?」


 複数の属性に適性があるのなら、それらを全て使っても良いように思えるのだが、違うのだろうか。


「魔法を使うときの魔力を操作する感覚が属性ごとに少し違うのよ。だから、普通は使う属性をいくつかに絞るわ」

「なるほどな」


 つまり、使う属性を絞った方が使いやすいということか。

 それは良いのだが……。


「うーん……ボク達はどの属性を使えば良いのかな?」


 俺達は多くの属性に適性があるので選択肢が多い。

 しかし、魔法に関しての知識に乏しい俺達にはどの属性を使うべきなのかの判断が付かない。


 だが、ここには魔法に関して詳しい人物がいる。

 であれば、その人物に聞いてみるのが一番良いだろう。


「ルミナさん、どの属性を使うべきかのおすすめはあるか?」

「まず、回復魔法は欲しいわね。それと何かと便利な空間魔法。まずはこの二つかしらね」


 回復魔法は傷を治すことのできる魔法だろうか。

 空間魔法はどこからともなく物を取り出していたあれのことだろう。


 確かに、どちらも習得できるのであれば習得しておきたいな。


「でも、空間魔法って難しいし、易々と習得できるものじゃないよね。あたしも未だに使えないし……」


 どうやら、空間魔法は難易度が高く簡単に習得できるものではないようだ。

 習得できるのであればかなり便利なので、是非とも習得したいところだったが、魔法に関しての知識に乏しい俺達には習得できないだろう。


「まあ確かに、ミィナぐらいの歳で習得している子はほとんどいないわね」

「そもそも、空間魔法は適性を持っている人自体が少ないしね」


 適性を持つ者が少ない上に難易度が高いとなれば、必然的に習得者は少なくなるだろう。


 と、ここであることを思い出す。


(そう言えば、市場で空間魔法を使っていた少女がいたな)


 ミィナよりも年下のようだったが、彼女は普通に空間魔法を使っていた。

 ああ見えて実はかなりの実力者だったりするのだろうか。

 気になるので、少しその話を振ってみることにする。


「そう言えば、市場で空間魔法を使っている十四歳前後の少女がいたな」

「もしかして、レーネリアのことかな? どんな子だったの?」


 レーネリアという名前には聞き覚えは無いが、多分その少女なのだろう。

 とりあえず、その少女の特徴を伝える。


「フード付きの黒い外套を纏った赤髪の少女だったな。あと右目は赤、左目は黒のオッドアイだった」

「と言うことは、レーネリアじゃないみたいだね」


 適性を持つ者が少ない上に、難易度の高い空間魔法を使える十五にも満たない少女となればかなり限定されるので、そのレーネリアという人物なのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「では、誰なんだ? かなり限定されると思うが?」

「間違い無くエリサでしょうね」


 特徴を聞いたルミナが迷うこと無く答える。


「知り合いか?」

「知り合いというか、何度かうちに来たことのあるお客さんね」


 どうやら、ただの客のようだ。

 だが、気になるのはその点ではない。


「そうなのか。あの歳で難易度の高い魔法を使うとは只者ではなさそうだが何者なんだ?」

「そこまではよく知らないわ」

「そうか」


 まあ普通は一人の客のことを詳しく知ることも無いか。


「確かに、あの子のことはだいぶ謎だよね。何度か魔物素材の直接持ち込みでの買い取りをしたけど……」


 そこまで言ったところでミィナはそこで言葉を切らす。


「けど?」

「問題はその持ち込んだ素材よね」


 ミィナの言葉の続きをリーサが言う。


「何か問題があったのか?」

「どれもそう簡単には倒せないような強力な魔物の素材ばかりだったのよ」


 強力な魔物と言われても魔物についてはほとんど知らないので、それがどんなものなのかは分からない。

 だが、それでも一応聞いてみることにする。


「例えば、どんな素材があったんだ?」

「ワイバーンの各種素材にミストグリフォンの羽根、リトルバハムートの鱗とかまあ色々ね」


 確かに、どれも簡単に倒せるような魔物では無さそうだ。

 特にリトルバハムートは名前の時点でヤバそうな感じしかしない。


 と、ここでシオンが何か気になったことがあるらしく、ルミナに一つの質問を投げ掛けた。


「ねえ、ルミナさん。ワイバーンってレッサーワイバーンとは何が違うの?」


 確かに、それは少し気になるところだ。

 名前からすると通常のワイバーンより弱い種類のものがレッサーワイバーンなのだろうか。


「レッサーワイバーンとワイバーンは全然違うわ。レッサーワイバーンはワイバーンに似ているだけの亜竜種だけど、それに対してワイバーンはれっきとした竜種よ。竜もどきの亜竜種とは格が違うわ」


 どうやら、全くの別物らしい。

 話を聞く限りだと、レッサーワイバーンはワイバーンに似ていたのでそう名付けられただけのように思える。


 それにしても、レッサーワイバーンですら危険な魔物なのにワイバーンはそれとは別格か。

 どれだけ危険な魔物なのか想像も付かない。


「ところで、先程話に出ていたレーネリアというのは何者なんだ?」


 エリサについての話で流れてしまっていたが、彼女についてはまだ何も聞いていない。

 彼女について聞くつもりで話を振ったわけではないが、名前が挙がったともなれば少々気になるところだ。

 ここまでの話からすると空間魔法を扱えるほどなので、それなりの人物だと思われるが……。


「レーネリアは三年ほど前からうちで面倒を見ていた子よ。今は冒険者として活動しているわ」

「と言うことは、今はもうここにはいないのか」

「そうね。でも、この街に滞在しているときはたまにパーティメンバーと一緒にうちに泊まりに来ることもあるわね。この街に滞在しているときぐらいはいつも来てくれても良いのに、いつまでも世話になるわけにはいかないからって言って、たまにしか来てくれないのよ」

「別に迷惑だなんて思ってないのにね」


 ミィナが一言付け加えるように言う。

 どうやら、そのパーティメンバーとは仲が良いようだ。


「そう言えば、冒険者というのはどんな感じのものなんだ?」


 冒険者について少しは聞いているものの、詳しいことまではよく知らない。

 先程話に挙がったレーネリアも冒険者のようだが、少し気になるところだ。


「そうね……私が話しても良いのだけど、それは冒険者ギルドの職員から聞いた方が良いと思うわ」

「まあそれもそうか」


 確かに、冒険者のことはそれを管理している冒険者ギルドで聞くのが一番良いだろうからな。

 今度、冒険者ギルドに行ったときにでも聞いてみることにした。


「それに、だいぶ話し込んじゃったしね。そろそろ出掛ける準備をしないと」


 話が弾んですっかり忘れていたが、そう言えば出掛ける準備をするところだったな。


「あたしたちも準備しないとね。……と、その前に食器を片付けないと」


 ミィナはそう言うとリーサと共に食器を片付ける。

 そして、食器を片付け終わったところで、それぞれ自分の部屋へと向かって行った。


「私も準備して来るわね。二人はここで待っていてね」


 そう言い残すと、ルミナも二人に続くように自分の部屋へと向かった。


「……することもないし、とりあえず待とっか」

「そうだな」


 俺達は特別準備することも無いので、片付けられた食卓に座ったまま三人の準備が終わるのを待つことにした。

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