第23話 光魔剣

 しばらくしてレイノスは他の隊員達と話をしに離れ、レナはメルの元へ向かった。この場に残ったのはユウト、ガラルド、ヨーレンの三人とセブルになる。


 レナがこの場を離れたことでユウトは危うくなっていた身体をなんとか鎮める。残った食材をようやく味わいながらセブルへも分け与えていた。


 そこにゆっくり食事を取っていたガラルドが食べ終わり、ユウトへ語り掛けた。


「修練はどうだ」


 唐突な問いにユウトは驚きかじりついていた果実を思わず吹き出しそうになる。慌てて飲み込んだ。


「ああ。剣はなくなってしまったから適当な木の枝で続けてる。帰還の準備の手伝いで丸一日というわけではないけど。魔獣との戦いで課題はなんとなくわかった気がする」

「そうか。魔剣の柄を今使ってみせろ」


 唐突な言動にヨーレンは焦りせき込む。


「ゴホッ、ゴホン!いいんですか?!」

「刃の具現化を確認しておく。使えて損はない」


 ヨーレンは何か言いかけてあきらめ、レイノスから託された刃のない魔剣をユウトへ渡す。


 ユウトは数日ぶりの魔剣の柄の感触に親近感を覚える。自身の命を懸けて窮地を乗り切った相棒のような感覚。魔剣は刃だった部位と鍔まで含めすべてなくなり宝石のような鉱石が覗いていた。


「空に向かって刃を出してみろ。ゆっくりでいい」


 ガラルドの指示に従う。ユウトは魔獣への最後の一撃を思い出し両手で握り空に向けた魔剣に力を込めた。


 すると柄の先の鉱石が小さく輝きを放ち紫の光の柱が伸びだした。ユウトは身体から何かが漏れ出しているような感覚がある。余裕はあるが長さを伸ばそうとするとその感覚は強くなった。


「止めろ」


 ガラルドが指示し、ユウトは従い柱は消えた。


 柄から伸びる光の円柱の様子はユウトが昔に見た映画の空想の武器を連想させ気持ちが高揚する。ただ伝わってくる熱が強く少し煩わしいと感じていた。


「感触はどうだ」


「うっすらとだけど何か減っていく感覚があったかな。伸ばすと感覚は強くなる」


「その感覚は体内の魔力を消費しているものだな。今ので卒倒しないなら魔力量は十分だ。

 次は素早く、細く、元あった刃の長さまで出してみろ」


 ユウトはガラルドの指示をイメージしてもう一度刃を伸ばす。できる限り細く、イメージした長さまで一瞬で刃を展開させた。


 太い糸程度に細くなった光の柱は一定の長さにとどめている。魔力が抜け出る感覚は小さくなり放たれていた熱は小さくなった。その代わり光が強くなっている。


「それを維持して振れ」


 ガラルドから次の指示が出る。ユウトは念のため振り下ろす先に誰もいないことを確認してゆっくりと振り下ろした。刃はその動きに合わせて弧を描く。


「早く、何度も」


 無機質な声色でさらに指示。振り上げ降ろす動作を可能な限り高速で繰り返す。切っ先はユウトの動作に遅れることなくついてきていた。


「戻していい。体調に変化はあるか」

「えっと、特に目立った変化は感じられない」

「なら問題ない。今後はそれで修練をしろ。刃は出したままにするな。斬り付ける瞬間だけでいい」


 なるほどとユウトは納得する。刃を出している間は身体に蓄えている魔力を消費し続けているのだろう。刃を出しっぱなしにするのは魔力を無駄に消費していることになる。刃を展開するのは斬る一瞬で十分だということに気づいた。ただ想像していた光の剣をカッコよく振り回す様子からはかけ離れてしまったことに少しがっかりした。


「すごいですね。魔剣にこんな使い方があるとは思いませんでした」


 ユウトとガラルドのやり取りを黙って見ていたヨーレンは若干呆然としながら独り言のように感想をつぶやいていた。


「魔獣との戦闘報告を聞いて思いついた。この扱い方ができるのは魔力量に余裕があるユウトくらいだがな」

「しかし、魔力使用量の調節機構を備えれば蓄積できる魔力量で使用できます。なにより戦闘以外にもいろいろな用途に使用できる可能性がありますよ!」


 ヨーレンの脳内では様々な想像が広がっているようでユウトにもそのワクワク感が伝わってくる。そこでふと何か抜け落ちていることにユウトは気づいた。


「なぁ、ヨーレン」


 空想に夢見心地だったヨーレンはユウトに引き戻される。


「あ、ごめんごめん。なにかな」

「今更なんだけど・・・魔力ってなんなのか教えて欲しい」


 気まずそうにユウトは質問した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る