第22話 報告
「できる限り尽力しよう」
必ず、絶対などの言葉を軽々しく使わないレイノスのしたたかさにユウトは好感を持った。ユウトのようなモノにも決して嘘は言わないのだろうと。
レイノスは言葉を続ける。
「それでガラルドとレナにもユウトに付いて大工房に向かってもらう。ガラルドはユウトが装着しているチョーカーの発動権を持っているため、お目付け役だ。レナは改めてチョーカーを取り付けてもらいたい。チョーカーがない状態での帰還は違法ではないが前例もない。不必要に揉めることは避けるためだ。煩わしいと思うが頼む」
「はい」
レナはあっさりと返事を返した。なぜチョーカーなんて生死を他人に預けるような首輪を女性だけがつけさせられているのかユウトには疑問だったが穏やかではない理由であることは想像がつく。黙ったまま聞き流したがそれよりも重大な問題に思いいたる。状況を把握するためユウトは口を挟んだ。
「それで・・・大工房までの移動手段と時間はどのくらいかかるんだ?」
ユウトにとってレナと一緒ということに身体的な問題を抱えていた。何かしらの対策が必要になる。
「移動には馬車を一台あてがう。時間・・・はそうだな、街道に出てしまえば4,5日といったところか。質の良い馬車を手配している。乗り心地はいいはずだ」
「そ、そうか。わかった」
最短でも4日という期間にユウトは軽いめまいがする。
「私は王都へ帰還し報告会を取り仕切る。ガラルド、ユウト、レナは事が済み次第王都のギルド本部へ来てくれ。私からは以上だ。何か報告することはあるか」
レイノスはテキパキと指示を終え、確認作業に入る。
「報告があります」
ヨーレンが手を挙げて発言の許可を求めた。レイノスはわかった、たのむと答える。
「先日、私はガラルド隊長と共にユウトがいた洞窟への調査を行いました。その結果報告です」
自身に関係する話に対策のための思考を一旦とりやめヨーレンの報告にユウトは集中する。
「あの洞窟の設備は魔術技術においてとても進んでいました。私が大工房で学んでいることと全く別の視点、思考法で設計されており完全に解読することは不可能でした。
記録と設備の一部を大工房へ持ち帰り引き続き調査を行いますが、今わかっているのはユウトの身体はゴブリンの生殖活動でできたものではなく魔術的に製造されている可能性があります」
ユウトは固唾をのんでヨーレンの報告に耳を傾ける。その傍らでなぜかはわからなかったがレナがほっとしたように気が緩むのを感じた。
「これはゴブリンが生殖活動無しに数を増やしている可能性をより高めました。そして最も危惧されるのがガラルド隊長が首をはねたゴブリンの首が見当たらなかったことです」
「なんだと。それはどういうことだ」
レイノスの声に若干の焦りが見えた気がした。
「首のない体は放置されていました。しかし首がなかったということは持ち出されているということ。さらに理解できない魔力技術を持っているとすれば生存している可能性があるということです。
体の大きさからかなり長い時間を生き延び、力や知恵を蓄えたゴブリンキング級かそれ以上だと考えられます。これが仮に復活し、女性を必要とせず増えることができるようになっているとすれば大きな問題です。早急な対策が求められます」
ヨーレンの言葉は重い。真剣さが伝わってくる。
「すでにゴブリンが増殖している可能性はあるのか」
レイノスは冷静さを取り戻しヨーレンに問う。
「私の楽観的な意見ですが、そこまで数は増えていないのではないかと予想しています。今回調査した洞窟の設備は製造にかなりの時間を要します。ゴブリンの数や質が圧倒的に高まることは今すぐはないと考えています。
ただ、ユウトのような個体が他に存在し我々に敵対する可能性はないといいきれません。今後も入念に調査を行う必要があります。私からの報告は以上です」
自身以外に似たゴブリンがいる可能性にユウトは何とも居心地が悪い気がした。それはこの場にいる者も同じようで穏やかで賑やかな野営地においてこの場だけが空気が重い。
「何でも構わん。人にあだなすゴブリンならば彼方まで探し出し殺すだけだ」
ここまで黙っていたガラルドがぽつりとつぶやいた。そのおかげかこの場の重たい空気はすっと抜けていくのがわかる。この空気を変えることができるからこそガラルドは隊長なのかもしれないとユウトは思った。
「そうだな。考えすぎても仕方がないか。
報告はわかった。この報告はこの場の秘密としてくれ。ゴブリンの殲滅間近かとわれている今だからな。慎重に調査を進め進捗も都度報告してくれ」
「わかりました。師匠にもそう伝えておきます」
レイノスもヨーレンも肩の力が抜けた様子で話す。
「今夜は野営地最後の夜だ。ささやかだがとっておきの食材だぞ」
レイノスはそういうと大きめの籠に詰められた食事を取りだす。中にはパンやハム、サラミなどの野営地でよく出された食事だったが質の高さが匂いで伝わってくる。加えて初めて見る果物もあった。
皆はしゃぐような性格ではなかったので他の集団と違い落ちついた食事となったがセブルの話題でガラルド以外は多少の盛り上がりをみせる。ユウトはいつ以来だろうかと遠い思い出になりつつあった和気あいあいとした食事に格別の懐かしさを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます