第72話 アルドウェンとのお茶会
「お茶は、バンパイアやゴブリンを外に放って、こっそり盗んできてるのじゃ」
「窃盗犯じゃないか・・・」
「まあ、気にするでない。ときどき金貨を置いていっておる」
改めて見ると、アルドウェンは耳が長く、白ひげをはやした風貌をしていました。
「もしや、アルドウェン殿はエルフ族の方か?」
「うむ、ハーフエルフじゃよ。わしが生きていた500年前は、すでにエルフは滅びようとしておってな・・・生き残っておった数少ないエルフは北の果ての島へと船で旅立った。わしは半分人間じゃったので、この地に残り、宮廷魔道士として暮らしておったのじゃよ」
お茶会は、アルドウェンの書斎兼居間で開かれていました。
「書棚に並んでいる書物の数々は、エルフの魔法が失われた現在では非常に価値のあるものだ。解読できるものはいないかもしれないが」
カイが書棚に興味を示しました。
「比較的年代の新しいものなら現代のお主らでも解読できるかもしれんの。一冊やろうか?」
「よいのか? それは数百万Gにも匹敵する土産だ」
「あんたさんは、魔法使いかね?」
「いや、魔道具屋だ」
「ほほう、あの瞬間的に鉄化する技法には驚いたわい。あれがなければ、そこの小僧はやっつけられたものを」
「こっちは一個しかない命なんだ。やっつけられてたまるか」
グレコが嫌そうな顔をします。
「まあ、魔道具屋ならこの本をあげよう。エルフ時代の魔法の術式が色々解説されているものじゃよ」
「かたじけない、アルドウェン殿」
「あと、なんじゃ、冒険者の皆々は、やはり金が目的なのかの?」
「まあ、そうだな。アルドウェンを倒せば、すごい財宝が手に入るという伝説を信じて、こうしてダンジョンを潜ってきたんだから」
「いくらぐらいいるのかの?」
「800万G」
グレコはカイに200万Gを渡すつもりでしたが、他のパーティメンバーの分も平等に分配できる額を言ってみました。
「ふむ、最近の物価はよくわからんが、これなんか、800万Gで売れないかの?」
それは、金銀に宝石が散りばめられたエルフ時代の装飾品で、頭にかぶる王冠でした。
「エルフの地方領主が身につけていたものじゃが」
「これはすごいよ! 800万Gは間違いない。こんなの現代の最高の貴族だって持ってない代物さ! 国宝級だよ」
ラシャが興奮して言いました。
「じゃあ、それを持って帰りなさい」
「あと、とある事情があって、この金をアルドウェンさんを倒して手に入れたという証拠がいるんだが・・・」
「一筆書けばよいかの?」
「紙に書いた文章で証明になるのか? あんたの筆跡を知っている人間だって、外の世界には残っていない」
「魔道具『証明のインク』・・・このインクで書かれたものを、読む者は絶対に疑うことはできない・・・もちろん、書くときに成約の魔法が書き手に対して発動するので、嘘を書くこともできないのじゃがな。エルフ時代には誓約書を書くのに用いられていた」
アルドウェンは『証明のインク』を使って、さらさらと、羊皮紙に「この者たち、グレコ、ベリアル、ザザ、ラシャ、カイの5人にて、我、アルドウェンを打倒したこと、ここに証明する」と記載しました。
「ほれ、これを持って行け」
「ありがとう、アルドウェンさん」
「なんと、そんな魔道具が・・・」
カイは驚愕の面持ちで羊皮紙を見つめました。
「これで、グレコに『私は生涯、カイのことだけを愛する。浮気をしたら死ぬ』とでも書かせれば・・・」
「あー、やばいやばい。危ない魔道具屋に、また危ない商品のアイデアを与えてしまった」
アルドウェンから土産を受け取り、ベリアル隊は帰還用の転移魔法陣の前に集まりました。
「また、遊びに来ると良いぞ」
「命がけで回廊を6個突破してな」
グレコがそう言って笑い、ベリアル隊は地上へと帰還しました。
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