第62話 かまどの魔道具
「魔道具の家庭への普及について、今回おおがかりなアイデアを考えているんだ」
「へぇ、どんなのを」
「薪を使わない、完全な魔道具だけのかまどだ」
「魔法で火起こしはお手の物だものな」
「うむ、火炎の魔法を封入した魔法石をかまどのなかに設置して、火炎魔法で煮炊きやパン焼きをするのだ。魔法の炎のメリットは、薪と違ってすすがでないこと、そのため煙突も不要で、室内でも使いやすいことだ」
「中世では、薪を使ったかまどで、パン焼きかまどは村の共同使用だったりするんだよな」
「中世とはなんのことかわからないが、ここは魔法がある異世界だからな。魔法で色々解決できるのだ」
「異世界という言葉の意味もわからないが、生活が便利になるのはよいことさ」
「結構火力がいるので、戦闘用の初級火炎球の2分の1に相当する魔法を封入した魔法石を2連装で配置した。2個が交互に火炎を吹いて、途切れなくかまどに火力を提供するのだ。かまどの大きさの要望に合わせて、火炎魔法の強さは調整する。火力も、6段階で切り替え可能だ」
「名付けて『魔導かまど』か」
「うむ、それで実は、その使い勝手を試してもらおうと、料理上手の人にモニターになってほしいのだが・・・」
「料理上手と言えば、ベリアルさんの奥さんのフランさんだな」
「そうなのだ、ひとつ、グレコからもお願いしてもらえないだろうか?」
そうして、グレコがベリアルに『メッセージの水晶板』で連絡を取り、要件を伝えると、二つ返事で了承が得られました。
カイとグレコは、二人そろってベリアル宅を訪れました。
「いらっしゃい、カイさん、グレコさん。魔導かまどはどうやって作るのかしら?」
「とりあえず、お庭にあるかまどに合わせて、魔法石を用意してきたので、それを取り付けしてよいでしょうか? 本来はすすが出ないメリットを考えて屋内向けではありますが」
「ええ、わかりました。お願いします」
1時間ほど調整作業をして、庭のかまどの魔法化が完了しました。
「なにか料理を作ってみましょうか。カイさんも手伝ってくださる?」
「えっ、私は料理は苦手なのですが」
「大丈夫よ。野菜と肉を切って煮込むだけのポトフにしましょう」
そうして、フランさんによるカイへの料理レッスンが始まったのでした。
慣れない手付きで包丁を握るカイを、グレコはガッシュくんとガディくんの二人の子供と遊んでやりながら眺めていました。
「グレコ兄ちゃん、カイお姉ちゃんとちゅーしたんだって?」
「な、どこでそれを?!」
「お父さんが言ってた」
(隊長・・・! 子供の教育的にいいんですか?)
そうこうしているうちに、ポトフが出来上がったようです。
「魔導かまどの動作は上々だとのことだ。このまま設置しておいて、しばらくの間、モニターを続けてもらうことになった」
「グレコさん、今日のポトフは実質カイさんが一人で作ったんですよ。食べたいでしょう?」
「えっ、はい。もちろん」
カイが皿にポトフをよそって、グレコに手渡します。グレコは緊張のおももちでそれを受け取り、スープを口に運びました。
「うまい! うまいよ、カイ」
「そ、そうか? 失敗していないかと焦っていたのだがな」
「毎日、朝飯、これでいいぐらいだよ」
「な、なんだと・・・私に毎朝おまえのためにスープを作れと言うのか・・・まあ、考えてやらなくもないが・・・」
「あらあら、それなら、毎朝一緒にお目覚めしないといけないわね」
フランさんが微笑んでいます。どうやら、計算づくだったようです。
それから、カイは自宅のキッチンにも魔導かまどを設置し、今までより頻繁に料理をするようになったそうです。
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