第37話 野牛狩り
「カイが作ってくれた窒息のダガーのおかげで、てきめんに戦力アップしたよ。下手したら、俺よりラシャの方が殲滅力が高いときがあるぐらいだ。まあ、運次第なところはあるけどな。もう少しダンジョンを潜ったら、もしかしたらドラゴンも出るかもしれない。そしたら、パーティ全員でドラゴンスレイヤーだ。冒険者ランクもアップするなぁ」
「うむ、魔道具が活躍するのは喜ばしいが、ダンジョンに深く潜れば危険は増す。くれぐれも慎重にな。ベリアル殿を信用してはいるが」
「ああ、肝に命じるよ」
カイとグレコの今日の狩りの獲物は、ワイルドホーンという、大型の野牛のモンスターです。といっても、人に害をなすために狩られるというより、冬場の食料源としてその肉が狙われているのです。
そのため、食肉用としてだめにしないために、倒し方に制限がついていました。
「炎、雷撃による攻撃は禁止。肉が焼けてしまう。吹雪による攻撃は効果薄。分厚い毛皮で防がれる。かまいたちは使ってもいいが、あまり切り刻むとこれも肉の値段が下がる・・・魔法封じのような案件だな」
「普通は、弓矢で仕留めるらしいからなぁ。単風刃はどうなんだ?」
「ワイルドホーンを倒すには、風の刃の刃渡りが足りずに、何発も打ち込まないといけないだろう。やはり肉の値段が下がりそうだ」
「どうしようかな?」
「案ずるな、新しい杖を用意してきた」
「おっ、来ましたか! 期待してるぜ」
雪の積もった高原を歩いていくと、ワイルドホーンが3匹ほど見つかりました。地面が雪に埋もれていても、その下の低木の皮などを食べたりしているようです。
「とりあえず、逃げられないように眠りの杖の射程を伸ばして、眠らせてしまうか」
「今回は襲いかかってこないから、俺の囮作戦も意味がないな」
「眠りの杖 +3 射程3倍」
150mほど離れたところにいたワイルドホーンが、どさりどさりと雪の中に倒れて眠ってしまいました。
カイとグレコはさくさくと雪を踏んでワイルドホーンに近づきます。一応、ワイルドホーンが目を覚ましたときにそなえて、グレコは剣を抜いて、カイをかばっています。
さて、眠りこけるワイルドホーン3匹を見下ろす形になった二人でしたが、そこで、カイが魔導具箱から別の杖を取り出しました。
「窒息の杖だ」
「あっ! 作ったのか? やったらいいなとは思っていたんだよ」
「うむ、窒息のダガーと術式はまったく一緒だからな。ついでにもう一個作ったのだ。在庫の上級魔法石を使ってしまったのでまた赤字だが、その赤字をこの野牛狩りで取り返そうと思っていたのだ」
そう言うと、カイは杖を構えました。
「窒息の杖 +5」
眠っていたワイルドホーンはそのまま呼吸を止め、静かに息を引き取りました。
「完全な安楽死じゃないか・・・」
「うむ、酪農家にも家畜の屠殺において、人道的見地から、この魔導安楽死セットを活用してもらいたいものだが、いかんせん、窒息の杖の値段が高いからな。なかなか導入してはもらえないだろうな。また、サラを通じて教会から圧力でもかけてもらわないと」
「うーむ、しかし、カイの威力倍増でパワーアップした窒息の杖も恐ろしいな。これ、ほんと、ドラゴンでも確実に倒せるんじゃないか?」
「確率が100%ではない限り、魔道具屋の私は、わざわざ危険なドラゴン退治などせんぞ」
「なんかもったいないなぁ」
こうして、まったく無傷で仕留めた極上のワイルドホーンを冒険者ギルドに転送し、受付のお姉さんに驚かれたカイたちなのでした。
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