第36話 ダンジョンでの戦い

 窒息のダガーを手に入れたグレコのパーティ、「ベリアル隊」は、ダンジョンに探索に来ていました。


 グレコはカイと二人のときは、ダンジョンに潜りません。魔法を使う危険なモンスターや、ダンジョン自体のトラップなどがあり、一般人のカイには危険すぎるからです。


 今日はそんな危険なダンジョンに挑む、グレコたちの様子をご覧にいれましょう。


「扉を蹴破るぞ」


 グレコがパーティメンバーに小声で声をかけます。


 ベリアルがメンバーの顔を見回して小さくうなずき、準備完了を合図しました。


 ダンジョンの扉をドアノブを押して入っていく冒険者はいません。たいていは、部屋の中にはモンスターが待ち構えていて、すぐに襲いかかってくるからです。ドアを蹴破って一気に突入すれば、不意打ちができる可能性もあります。


「悪鬼の類、そして、小型の獣人ですね! 数は各3体と4体!」


 ザザが状況を確認します。敵の種類の視認は主に魔獣等の知識量に富んだ僧侶のザザが行っています。


「魔法を使うタイプではない。獣人は魔法で殲滅。悪鬼は足止めしつつ、肉弾戦で食い止めろ!」


 ベリアルが指示を出します。


 グレコは悪鬼にミスリルソードを構えて躍りかかります。


「悪鬼はオーガだ。迎撃する!」


 その間にもベリアルは魔法の詠唱に入っています。


 同じくザザも魔法の詠唱に入りました。


 ラシャは盗賊特有の素早さで優先的に『窒息のダガー』を起動し、オーガの群れを狙います。

 3体のオーガは口や喉を押さえて苦しみましたが、そのまま倒れたのは2体だけで、1体は耐えきりました。


 そこにザザの『彫像』の魔法が放たれます。オーガはその場で直立したまま動かなくなりました。彫像の魔法は、敵の体を硬直させ動きを止める援護魔法で、魔法としてのレベルは低いですが、僧侶が使う足止め用の援護魔法としては唯一のものです。


 続いて、ベリアルが詠唱を終え『猛炎』の魔法が発動しました。前衛のグレコやラシャに襲いかかろうと爪を立てていた獣人を焼き尽くしていきます。


 最後に残った硬直したオーガに、グレコがミスリルソードで切りかかりました。片手での2連突きで腹部を損傷させ、3撃目で喉を貫きました。最初に腹部を狙ったのは、彫像の魔法の効果が切れた場合の追撃を鈍らせるためで、本命は喉への一撃です。


 こうして、戦闘は10秒ほどで片付きました。


「獣人はワーラットだったようですね」


 ザザが遺体を確認して言いました。


「このあたりの階層では出現率が高いからな。予想はしていた」


 ベリアルが、ふうと緊張を解きました。


 グレコは剣を拭って鞘に収めます。


「宝箱、あったよ」


 ラシャがメンバーに声をかけました。


「罠の鑑別に入ってくれ」


 ベリアルが指示をしました。パーティのダメージが大きいときは、万が一の罠の起動による追加ダメージで窮地に陥ることもあるため、宝箱を見過ごして立ち去ることもあるのです。


「透視」


 ラシャは、カイの店で購入した罠透視の首飾りを握り、宝箱に反対の手をかざして呪文を唱え、魔道具を起動しました。その上で、鍵穴から内部を覗き込みます。


「毒針みたい。単発タイプで解除をミスっても食らうのは私だけだと思う」


「解毒魔法の使用回数はまだ残っているな?」


「はい、十分です」


「よし、解除作業に入ってくれ」


 ピッキングの道具を取り出したラシャは、宝箱の鍵穴や蓋の隙間にそれらをさしこんで、内部の毒針発射用の弩(いしゆみ)の弦を切断しました。そして、蓋をあけても、なにも起こりませんでした。罠の解除は成功です。


 宝箱の中身は、金貨や武具でした。


「8000Gってところか。あと、兜かな」


「グレコ、かぶってみる?」


「とんでもない、呪われてたらどうする。それに、俺は兜はかぶらない派なの」


「持ち帰って売却するか」


 ベリアルが背嚢に兜と金貨を収納します。


 ダンジョン内のモンスターは基本ダンジョンから出てこず、一般市民に危険はないため、討伐報酬はありません。そのため、転送印でギルドに送らず、遺体はその場で放置です。


「ダンジョンの食物連鎖で、明日には食い尽くされていることでしょう」


 ザザが、モンスターの遺体に向けて、小さく十字を切りました。


 と、このような戦いが、冒険者の日常であります。グレコとカイのモンスター狩りは、わりとほのぼのしていますが、本職は命がけですね。特にダンジョンは怖いものです。

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