第2話 オークとの戦い

「いたいた、5匹でグループを作っているな」


 森の木の陰から、数十メートル先でうごめいているオークのグループを、グレコが発見していました。オークは、森の中を抜ける街道で人を襲うので、街道の周辺に目を凝らしていれば、襲われる前に見つけられるというわけです。これはグレコの冒険者としての経験のなせる技と言えましょう。


「じゃあ、突っ込むから、後ろから来て、雷撃の杖の射程距離に入ったら、ずばっと一発で頼む」


「あいわかった」


 そういうと、グレコはオークの群れに向かって駆け出しました。木の枝をかき分ける音にオークが気づき、手に剣や棍棒を持って、応戦を開始します。

 グレコは、武器で殴りかかるオークに対して、盾や剣でそれをはじき、防御に徹します。


 そして、数秒後。


「雷撃の杖 +3」


 オークの周辺で、にわかにバリバリと稲光が走り、オークたちの体を焼き焦がしました。それだけで、全身をやけどによって痛めつけられたオークたちは動きを止め、倒れて息を引き取りました。


「一丁あがりっと」


「グレコ、傷はないか?」


「ああ、無傷だ」


 楽勝のように見えますが、実際には後衛のカイは冒険者ではなく一般人。もし、グレコの囮としての防御線を突破されて、モンスターに襲われたらひとたまりもありません。グレコが食い止めている間に、カイが魔法の杖で一気に倒す・・・実際はこれ以外に有効な作戦をとれないのが、カイとグレコの2人パーティの弱点でした。


「では、回収作業だな」


 そう言うと、カイは、箱の横につけられたポケットから、水晶でできたはんこのようなもの、あるいは、チェスの駒のようなものを取り出しました。

 そして、絶命したオークの体に、そのはんこで軽く触れると、一瞬でオークの体はそこから消えてしまいました。


 実は、これはカイがオリジナルで開発した魔道具で、転送印というものなのです。冒険者がモンスターを討伐した場合、その証拠として体の一部を持ち帰ったり、モンスターの体から素材を取るために体を運んだりと、事後処理が大変だというのがそれまでの常識でした。


 カイは自分がモンスター狩りをして赤字補てんを始めるにあたり、この事後処理が嫌だったために、モンスターの遺体をそのまま冒険者ギルドの回収倉庫に転送できる魔道具を開発したのでした。


 転送印を遺体に接触させると、生死確認、転送、回収倉庫内の空きスペースを検索して出現、さらに誰が転送したかがわかるように遺体に魔法の認識番号が記録され、帰還後に転送印と照合することで、どの冒険者が倒したのかがわかるようになっているのです。これで事後処理の手間いらずで、討伐報酬だけ受け取れるようになりました。


「相変わらず、それ、便利だよな」


 グレコが言いました。


「うむ、最近では、噂を聞きつけたベテラン冒険者で欲しがるものもいてな。何十個か冒険者ギルドに納品した。安価なものではないので、ギルドが転送印を所有して、冒険者のパーティが狩りに出かける前に預け金を払って借りていくのだよ。仕事が終わって転送印を返せば預け金は返してもらえる」


「預け金って、いくらぐらいなんだ?」


「2万Gほどらしいが」


「そりゃ、俺の一ヶ月の稼ぎぐらいだよ。貯金のないやつは手が出せないな」


「これでも冒険者ギルドには、転送印を薄利で提供しているのだ。ちょっとは貯金をすることを考えよ」


「開発費に金をつっこみすぎて、万年赤字の魔道具屋に言われたくねぇな・・・」


 そうこうして、ふたたびオーク退治を続ける、カイとグレコだったのでした。

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