魔道具屋の娘 バトル、ラブコメ、新製品

前木

第1話 魔道具屋の娘

「グレコ、今月も赤字だ。狩りに行くぞ」


 冒険者風の青年に声をかけたのは、肩から箱をぶらさげた少女。年の頃は18歳ぐらいでしょうか。小柄でぶっきらぼう、少し眠そうな表情が顔に貼り付いています。赤みがかった瞳をもち、肩ほどまでの青い髪が申し訳程度に結わえられています。


 一方のグレコは、同じく18から20歳ぐらいで、快活そうな金色の短髪にブラウンの瞳、ブロードソードに小型の円盾、胸当てやすね当てなど、駆け出しの戦士職に一般的な装備に身を包んで、冒険者に仕事を紹介するギルドの食堂で腰掛けていたのでした。


「また赤字なのか? 商品が売れないのか?」


「いや、売上はぼちぼちなのだが、新しい魔道具の開発で、魔法を封入する水晶を想定以上にだめにしてしまってな。支払いに余裕がないのだ」


「カイはいつも変な魔道具を作ろうとしすぎなんだよ。コンスタントに売れるものをもっと作ればいいのに」


「魔道具の探求は私の生きがいなのだ。これだけは金を積まれてもやめられん」


「はぁ~、で、今月はどれぐらい必要なんだ」


「まあ、それほどの赤字幅ではないから、ちょうど討伐依頼が出ているオークを20匹ほど倒せば報酬額としては足りるぞ。報酬は折半でだ」


 カイは女の子なのに、少し変わった喋り方をします。小さな頃から魔道具の研究で、難しい本を読んだり、老齢の師匠につきっきりだったりしたせいかもしれません。


「あ~、わかったよ。ちょうど俺も暇だったところだ。行くか・・・」


 そして、カイとグレコは連れ立って、オークが出没しているという森に向かいました。


「さて、作戦は・・・いつもの通りか?」


「うむ、グレコが囮になって敵を食い止める、私がそのすきに魔道具で攻撃して倒す」


 そうして、カイが肩から下げていた箱を開けると、箱の中はきれいに区切られていて、それぞれに1本ずつ、魔法の杖が差し込まれ、整頓されて収められていました。


「まずは、いつもどおり補助魔法でグレコの回避力と防御力を上げておこう」


「攻撃力もあげてほしいよ。囮がメインとはいえ、一応戦士なんだ。俺も剣で敵をやっつけたいよ」


「わかった、おまけしておいてやる」


 そして、カイは魔道具の箱から、杖を一本ずつ取り出し、順番に魔法をかけていきました。


「素早さの杖 +5」

「守りの杖 +5」

「力の杖 +1」


 そうつぶやくと、魔法の杖についている水晶がそれぞれ発光し、グレコに魔法がかかりました。素早さの杖は動きを素早くして敵の攻撃を避けやすくし、守りの杖は体の表面に見えない魔法の障壁を張って敵の攻撃の刃をはじくのです。

 力の杖は、グレコの力を強くして、攻撃力を高めるものでした。


「なんで、力の杖だけ+1なんだよ」


「おまけだと言っただろう。オークぐらい実力で倒してみせよ」


「しかし、不思議だよな。カイが自分が作った魔道具を使うときは、普通の人と違って効果を倍増させたり、連射できたり、パワーアップするなんて。守りの杖だって、1回普通にかけるだけなら、オークの振り回す剣の攻撃でダメージがあるけど、+5でかけると効果は約5倍、なまくらのオークの剣の刃は通りもしない。せいぜい、木の棒で軽く殴られたぐらいで済んじまう。神様の加護でも持っているのかね?」


「さあな。魔道具や魔法の原理にはまだまだ未知の部分も多い。他人が作った魔道具では発動しなかったり、制限もあるし、神様の加護ではないだろうさ。そのうち解明したいものだがね」


 そうして補助魔法の準備を整えると、カイは好んで使っている雷撃の杖を箱から取り出しました。


「オークだし、これで一撃で倒せるだろう。オークがいそうな場所への案内と囮は頼んだぞ」


 こうして、カイとグレコは、森の奥へと歩き出しました。

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